年表:主な事業戦略・構造改革・失敗事例(1990–2025年)
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1990年 – 米エンタメ大手MCA(ユニバーサル・スタジオ)を買収し子会社化。ハリウッド進出で事業多角化を図るが、文化の違いやシナジー不足で苦戦。世界では日本製品が全盛だが米国との貿易摩擦も生じ、日本経済はバブル崩壊へ向かう。
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1995年 – MCA事業の失敗を認め、出資の80%を米シーグラム社に売却(約71億ドル)。5年足らずでハリウッドから撤退し、買収による損失計上。この頃、韓国サムスンやLGが低価格路線で台頭し始め、日本勢にとって脅威となる。
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2001年 – 創業以来初の最終赤字を計上。中村邦夫社長(当時)が「破壊と創造」の名の下、大規模リストラと事業再構築を断行t。1万3千人の人員削減や企業年金見直しを実施j。「聖域なき改革」を掲げ、長年の系列子会社を統合。例えば、松下通信工業・九州松下電器など主要子会社を完全子会社化し、肥大化した組織の簡素化を図った。※同時期、ITバブル崩壊で電子業界全体が低迷し、ソニーはVAIO事業立ち上げなど模索、米GEは金融部門拡大など戦略転換期。
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2003年 – グローバルブランドを「National」から統一「Panasonic」に変更(社名も松下電器からパナソニックに改称)。世界市場でブランド力強化狙う。同年以降、日本経済はデフレ下の「失われた10年」が続く中、デジタル家電(DVDレコーダー、デジタルカメラ等)への移行期に。パナソニックも「VIERA」「DIGA」ブランドで液晶テレビ・録画機器に参入。
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2006年頃 – 次世代テレビへの過大投資。世界的薄型TVブームを見込み、液晶・プラズマパネルの生産設備に巨額投資。しかし直後にリーマン危機予兆や供給過剰の兆し。結果として「2006年のテレビ投資は過剰だった」と後に経営トップが認める事態に。一方、サムスンはLCDに集中投資し規模拡大、ソニーは有機ELに研究投資開始。
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2008年 – リーマン・ショック直撃。世界需要が急減し円高も進行(1ドル=75円台)。同年10月、松下電器産業は社名を「パナソニック株式会社」に変更。国内向け「ナショナル」ブランドも順次廃止し、ブランド戦略を一本化。だが金融危機下で業績悪化し、2008–09年度に約1万5千人の人員削減を実施l。主要競合のソニー・日立も同時期にリストラを断行。米GEは家電部門売却を検討し始めるなど、世界的大企業が守りに入る局面。
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2009年 – 三洋電機を買収。約4600億円で株式の過半取得。加えてグループ会社で住宅設備の松下電工も買収し、総額8000億円超規模の投資。狙いは三洋の充電池・太陽電池技術の獲得と環境・エネルギー事業強化。しかし三洋は当時経営不振で統合コストも重く、後に減損処理を迫られる。世界ではこの頃、スマートフォン元年(iPhone発売は2007年)を迎え、エレクトロニクス業界の勢力図が変わり始める。
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2010年 – 大坪文雄社長の下、「AV家電の低収益体質からの脱却」を宣言。グリーンエネルギー分野へ注力し、太陽光パネル・車載電池など環境事業を成長の柱に据える。三洋・松下電工を完全子会社化し、2011年までにグループ事業を「コンシューマー」「デバイス」「ソリューション」の3分野に再編すると発表。狙いは重複事業の整理と意思決定の迅速化。同時に三洋ブランドを2012年までに消滅させ、世界中で「Panasonic」に統一すると発表。競合のサムスンは既にテレビや家電で世界シェア首位となり、日本勢を凌駕。サムスンは同年、太陽電池や電池にも巨額投資を開始。ソニーはテレビ事業不振に苦しみつつも、PlayStationやイメージセンサーへの集中を模索。
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2011年 – 東日本大震災とタイ洪水が発生。パナソニックは国内工場停止やサプライチェーン寸断の打撃を受ける。さらに急激な円高で輸出採算悪化。同年、三洋の白物家電事業を中国ハイアールへ売却(独禁法対応)など、買収後処理も進める。結果として構造改革費用が嵩み、この年度も巨額赤字に。約4万人規模の人員削減(早期退職募集を含む)を実施l。世界情勢では欧州債務危機が進行し、グローバル需要が不透明に。
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2012年 – 7722億円の過去最大赤字(2012年3月期)を計上。液晶・プラズマテレビ事業の不振が深刻で、テレビ・カメラ・レコーダー売上が前年比21%減。株価は32年ぶり安値まで下落。5月、尾上社長が引責辞任し、津賀一宏が新社長に就任。「事業の選択と集中」を掲げ大胆な改革に乗り出す。同年、プラズマパネル生産からの撤退を決定(2013年までに全工場閉鎖)。17,000人の追加削減や工場閉鎖を実施し、テレビ事業の黒字化を目指す。赤字の一因となった三洋電機についても減損処理を実施r。津賀社長は「もはや家電一本では成長は望めない」と判断し、車載・住宅・B2Bソリューション領域への転換を宣言。
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業界動向: シャープも同時期に巨額赤字で経営危機、ソニーも4年連続赤字(~2014年)でテレビやPC事業の切り離しに着手。海外ではAppleやサムスンがスマホ市場で巨利を上げ、エレクトロニクス産業の主役が移行。パナソニックは依然従業員数約35万人と肥大化しており、サムスンの3倍・ソニーの2倍という非効率体質。
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2013年 – 津賀体制の下で事業ポートフォリオ見直しを加速。医療機器子会社をKKRに1,650億円で売却(パナソニック ヘルスケアの株式80%を譲渡)。創業以来続けてきた白熱電球事業から撤退g。テレビ用プラズマパネル工場を閉鎖完了(高画質で評価の高かった「VIERA」プラズマも幕引き)。これら構造改革が奏功し、2013年度以降は連続黒字化に復帰。
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2014年 – 100%減資や優先株処理など財務リストラも実施(累積損失を一掃し財務基盤を再構築)。経営資源を成長分野に振り向け、具体的には車載事業・住宅設備・B2Bソリューションへの投資強化。米テスラ社と提携強化し、EV(電気自動車)向けリチウムイオン電池の大型供給契約を締結。米ネバダ州に建設するテスラ「ギガファクトリー」への共同投資を決定し、車載電池で世界トップを狙う戦略。ただし当時テスラの生産遅延もあり、投資回収リスクが指摘され始める。一方、ソニーはテレビ・PC事業を分離または売却し、イメージセンサーやエンタメ事業に集中。日立はインフラ・IT分野へシフトし、据え置き型家電から撤退を決断するなど、各社が生き残りを懸けた転換を図る。
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2015年 – パナソニックは北米でのB2B拡大のため、米冷凍ショーケース大手ハスマンを約1,500億円で買収。コンビニやスーパー向け冷蔵機器でシェア拡大を狙う。一方、自前の半導体開発は限界と判断し、システムLSI事業を富士通と統合して合弁会社「ソシオネクスト」設立(後にパナソニックは撤退)。この年、創業100周年を迎えブランドキャンペーンを展開するも、業績は停滞気味。世界では中国経済減速や新興国通貨不安があり、国内電機も伸び悩む。ソニーはPlayStation4が好調、日立は米国で鉄道・発電分野の大型買収を敢行。GEは家電部門を中国海爾(ハイアール)に売却しコングロマリット戦略を転換する。
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2016–2017年 – パナソニックは黒字維持するも成長鈍化。車載・住設・B2Bの新規事業で一部収益拡大がある一方、円高やスマホ需要減速で電子部品事業が苦戦。社内では「次の柱」が見えないことへの不安が募る。世界情勢としては、米国トランプ政権誕生(2017年)で貿易摩擦が激化し、米中貿易戦争が勃発。パナソニックも中国生産品への関税リスクや、取引先の投資減速に直面する。例えばFA(工場自動化)機器や車載機器の受注が伸び悩み、B2B転換の戦略にも影が差し始めた。競合ではサムスンが半導体メモリ・OLEDで空前の利益を上げ、ソニーもイメージセンサー世界首位となる。
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2018年 – 世界的に景気拡大局面だが、パナソニックは伸びを享受できず。テレビ等AV機器は縮小均衡、白物家電は国内シェア健守もグローバルでは中国・韓国勢に押され利幅小。車載電池事業はテスラ向け生産を増強するも、供給不足によりテスラから苦言を呈される場面も。同年、社内カンパニー制を廃し事業部直轄体制へ移行し、組織簡素化を図る。社長の津賀氏は「2021年度に売上高10兆円・営業利益率5%以上」を目標に掲げるも、市場からは成長ストーリーの不透明さを指摘される。米中摩擦や欧州景気減速など地政学リスクが高まり、先行き不透明感が増大。
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2019年 – 構造改革をさらに推進。半導体事業から完全撤退を決断し、設計・製造子会社(パナソニック半導体ソリューションズ)を台湾ノヴァトン社へわずか2.5億ドルで売却r。「韓国・台湾勢との競争に敗れた」ための撤退であり、既にイスラエルTowerとの合弁で工場を切り離していた経緯もある。この売却は固定費削減(2022年までに年1000億円圧縮)計画の一環。また同年、車載電池強化のためトヨタ自動車と合弁会社契約を締結(角形EV電池のPrime Planet Energy設立、2020年稼働予定)。さらに住宅分野でもトヨタとの**スマートタウン事業合弁(Prime Life Technologies)**設立で合意。一方、米中対立激化による設備投資抑制で、FAや電子部品の受注が低迷。「収益ドライバー不在」が鮮明に。競合の日立製作所はIoTやAI企業を買収しデジタルシフト、ソニーは画像センサー増産投資を敢行。パナソニックの成長余力の乏しさが市場で懸念され始める。
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2020年 – 新型コロナウイルスの世界的流行。自動車・航空業界が打撃を受け、パナソニックの車載機器・航空機向けエンターテインメント(パナソニック・アビオニクス)事業が急減速。他方、巣ごもり需要で調理家電やウェブカメラ等が売れる現象も。業績面では売上高は減少するも、コスト削減効果で何とか黒字維持。4月、予定通りトヨタとのEV電池合弁「プライムプラネットエナジー&ソリューションズ」始動。さらにデジタルトランスフォーメーション対応として、米サプライチェーンAI企業Blue Yonderに出資(20%取得)。コロナ禍でサプライチェーンの重要性が増す中、新分野開拓を図る。世界では同年、GEが経営難から組織解体(航空・医療・発電の3社に分割へ)を決定し、巨大コングロマリット崩壊の象徴となる。パナソニック自身も多角化の弊害と向き合うことになる。
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2021年 – 持株会社体制への移行を発表。4月に社名を「パナソニック ホールディングス」に変更し、社内カンパニー8社を独立採算の子会社に改組。これにより事業ごとの機動力向上と責任明確化を狙う。同時に津賀一宏CEOが退任し、後任に楠見雄規(技術畑出身)が社長就任。楠見氏は若返り・スピード経営を掲げ、中期計画で「事業別のROIC経営」と収益性重視を強調。7月、Blue Yonder社を約7200億円で完全買収し、ソフトウェア領域に本格参入(創業以来最大級の買収)。だが巨額買収に市場は懐疑的で、「シナジー創出は未知数」との声も。コロナ後の半導体不足や原材料高騰により、家電・車載事業はコスト圧迫。売上は回復基調だが利益伸び悩み、競合に見劣りする状況が続く。
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2022年 – 新体制2年目。グループ8事業会社(エナジー、エンターテインメント&コミュニケーション、コネクト、インダストリー、オートモーティブ、ライフソリューションズ、住宅、そしてブルーヨンダー系)それぞれが戦略策定。だが依然として収益の柱は住宅設備・家電などの成熟分野に偏り、新規のBlue Yonder事業の利益貢献は限定的。世界ではウクライナ危機に伴う資源高・インフレが深刻化し、パナソニックも調達コスト増に直面。ライバルの日立は営業利益率が過去最高水準に達し、ソニーもエレクトロニクスよりエンタメで高収益を上げる中、パナソニックは利益率の低さが課題に。
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2023年 – パナソニックHDの業績は停滞感を露わに。売上高は約8.5兆円だが営業利益率は4%台後半にとどまり、稼ぐ力でソニーや日立に大きく後れを取る。円安メリットで一時増益も、人件費や材料費の高止まりで構造的な利益体質改善には至らず。市場では「旧来事業の重さが成長を阻害」との見方が強まる。経営トップは抜本改革を模索し始め、社内では組織再編の噂が流れる。世界情勢ではポストコロナの需要変動や米中デカップリングが進み、不確実性が増大。
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2025年 – 再び大型リストラを決断。楠見CEOは2月、パナソニック株式会社(持株会社配下で家電・空調を担う中核事業会社)の「発展的解消」を表明し、事業ポートフォリオを再再編すると宣言。さらに5月9日、国内外で1万人の人員削減(全従業員の約4%)を発表。この規模は2001年以来20年ぶりであり、黒字確保中にも関わらず将来の収益改善を優先した大胆策となった。対象は国内5千人・海外5千人で、主に重複する営業・管理部門を中心に早期退職募集等で削減予定。「利益を生まないところにはもう人を置けない」として、不採算事業からの撤退・拠点統廃合も併せて実施するとした。社内ベテラン社員からは「歴代社長がリストラや構造改革を繰り返してきたが成長できていない。ソニーや日立が大胆改革で急成長しているのと比べて…」との嘆きも聞かれる。パナソニックは今、「大きいだけで弱い企業」から脱する最後の正念場を迎えている。
2015年以降(直近10年)の詳細分析:戦略不在とポートフォリオ失敗
近年の10年間(2015~2025年)は、パナソニックの競争力低下が一層鮮明となった期間です。この間の事業ポートフォリオ・戦略を分析すると、成長分野を育てられず構造改革に終始した失敗が浮かび上がります。
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EV電池事業の機会と失速 – 津賀体制で注力した車載電池は、テスラとの協業で市場をリードする好機を得ました。実際、2010年代初頭には世界の車載電池シェアトップでした。しかしその後の展開で投資や拡大に慎重すぎた面が否めません。他社が攻勢を強める中、パナソニックはテスラ依存から脱却できず、生産能力の立ち上げもテスラ任せでした。結果、2020年代には世界シェア5位にまで低下し、中国・韓国勢(CATLやLGなど)に追い抜かれたのです。EVシフトという100年に一度の産業転換期に、先行者利益をフルに活かせず主導権を明け渡したことは戦略上の大きな痛手でした。この背景には、巨額投資に対する経営判断の遅さやリスク回避志向が指摘されます。「Model 3量産遅延時にパナソニックの電池生産もボトルネックとなった」「テスラが自社生産や他社調達に動き出した」等の報道もあり、パートナー戦略の難しさが露呈しました。総じて、有望分野で大胆に攻めきれない姿勢が成長機会喪失を招いたといえます。
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家電・AVの収益力低下 – 主力だったAV家電(テレビ・カメラ等)は市場成熟と共に収益源からコモディティへ転落しました。パナソニックは2010年代半ばにテレビ事業を大幅縮小し、高付加価値モデルに絞り込む戦略を採りました。しかしテレビ市場自体の縮小と価格競争で、もはや柱事業にはなり得ません。デジタルカメラもスマートフォン台頭で市場激減し、高級機「LUMIX」を細々続けるのみです。白物家電は国内シェアこそ高いものの、海外展開ではハイアールやLGに及ばず規模メリットを活かせない状況です。結果として、近年の家電部門は売上の割に利益貢献が小さく、グループ全体の足を引っ張りました。楠見CEOが「利益を生まないところには人を置けない」と述べたように、成熟事業への人員配分過多が収益力を弱めた構造的問題があります。本来であれば、家電の効率化と並行して新規事業への人材シフトが必要でしたが、社内調整の難しさから抜本的な転換が進まなかったと考えられます。
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新規事業への遅れ – 世界の産業構造がAI・デジタルサービス重視に移る中、パナソニックの動きは後手に回りました。例えば競合のソニーがエンタメ・金融・イメージセンサーで新たな収益モデルを築き、日立がITサービスや海外インフラ事業を拡大したのに対し、パナソニックは有望な新産業への直接参入が乏しかったのです。社内イノベーションも伸び悩み、「次の製品」が見えませんでした。AIやIoT領域への本格投資が遅れ、Blue Yonder買収(2021年)でようやくデジタル転換に着手したものの、競争環境は既に激化していました。またスマートホームやロボティクスなど、家電とITを融合させる分野でも抜本的な戦略は示せず、各プロダクトの小幅改良に留まってきました。証券アナリストからも「将来の成長が描けるワクワクする新製品が必要だ。リストラばかりでは魅力がない」との指摘が以前からありreuters.com、その課題を十分解決できなかったと言えます。
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ポートフォリオマネジメントの迷走 – 以上のように、稼げる事業が育たない一方で既存事業の撤退・縮小が続き、事業ポートフォリオ全体が縮小均衡に陥りました。半導体やプラズマなど撤退判断自体は正しかったものの、「次の柱」を明確に示せなかったことが市場の失望を招きました。買収・提携戦略も散発的で、三洋買収(2009年)→ヘルスケア売却(2013年)→ハスマン買収(2015年)→半導体売却(2019年)→Blue Yonder買収(2021年)と方針転換が続き、長期一貫した戦略に欠けた印象を与えました。いずれも個別には合理的判断でしたが、結果として「何の会社か」が見えにくくなり、投資家評価も低迷しました。事実、過去25年でパナソニックの時価総額成長率はソニー・日立に大きく水をあけられておりdiamond.jp、企業価値向上の点で戦略失敗が浮き彫りです。
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経営意思決定の遅滞 – 日本的大企業に共通する課題ではありますが、パナソニックも例に漏れず合議制・現場主義が強く、大胆な意思決定に時間を要しました。例えばプラズマTV撤退は赤字累積から数年遅れ、スマートフォン事業撤退(2013年国内向け終了)もシェア喪失から手遅れ感がありました。「しがらみの多さ」や「聖域」が改革スピードを鈍化させ、津賀前社長という社内生え抜き改革派のリーダーを得てようやく2010年代前半に変革できた経緯がありますforbesindia.comforbesindia.com。しかし津賀氏退任後は再び旧来路線に戻ったとの指摘もあり、持株会社化も含め抜本策は常に一歩遅れだった印象です。内部では「構造改革は恒例行事のようになってしまった」との自嘲も聞こえtoyokeizai.net、スピード感ある経営転換が欠如していました。
以上より、直近10年のパナソニックは戦略不在のまま守りの施策に追われ、競争力を徐々に摩耗させてきたと評価できます。外部環境(技術革新や地政学リスク)の変化に十分適応できず、将来への布石が打てないまま、規模だけ大きいが利益は薄いという状況に陥りました。
強い企業に求められる条件と、パナソニックが失ったもの
最後に、「大きいだけで弱い企業」と評されるに至ったパナソニックが失ったもの・持ち得なかったものを、強い企業の条件と対比して明確にします。
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俊敏で果断な戦略転換 – 強い企業は事業環境の変化に即応し、タイミングを逃さず舵を切ります。例えば、ソニーは2014年前後にPC撤退・テレビ分社化など大胆に収益構造を改革し、その後ゲームやエンタメに集中しました。日立もリーマン後に家電・映像から撤退し、成長分野に資源を集中しています。サムスンは将来有望なメモリ・スマホに巨額投資し市場を席巻しました。これらに比し、パナソニックの戦略転換は一拍遅れ、かつ小出しでした。儲からない事業を抱えすぎ、手放す決断に時間がかかりました(プラズマTVや半導体からの撤退は決断自体は正しかったものの、損失が膨らんでからの後追いでしたreuters.com)。また新規事業への参入も機を逃し、EV電池のように先行しながら追い抜かれるケースもありました。medium.com強い企業に不可欠な「俊敏さ」をパナソニックは徐々に失い、大艦巨砲主義的な鈍重さが目立つようになったと言えます。
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技術革新へのコミットメント – 技術主導で市場を創造する力も、強い企業の条件です。AppleやTESLAのように、自社のイノベーションで新たな需要を喚起できる企業は強固です。日本電機ではソニーがCMOSセンサーでスマホカメラ需要を牽引し、東芝(→キオクシア)がNANDフラッシュを先導しました。パナソニックにもかつて技術革新のDNAがあり、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池や高効率家電など先端技術を持っていました。しかしそれらを事業優位性に結び付け続ける仕組みが足りなかったように見えます。例えば、リチウム電池技術は三洋由来で世界トップ水準だったにも関わらず、量産投資や市場拡大の点で後手に回り、今や中国勢に大差を付けられていますmedium.commedium.com。また、社内技術がイノベーティブな製品・サービスに昇華しにくい土壌も課題でした。研究開発費自体は相当額投入していますが、「未来の成長を描けるワクワクする新製品」が生まれにくくreuters.com、技術が宝の持ち腐れとなった面があります。強い企業は技術を大胆に製品化・事業化し市場を動かしますが、パナソニックには技術をブレークスルーに繋ぐ推進力が欠けていたのです。
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明確なビジョンを示すトップの意思決定力 – 強い企業のリーダーは明確なビジョンとそれを実現する断固たる決断力を持ちます。IBMのガースナー、日産のゴーン(※スキャンダル前の業績面)、マイクロソフトのナデラ等、停滞企業を蘇らせたトップは皆、方向性を示し組織を鼓舞しました。パナソニックの場合、長らく創業者・松下幸之助の経営理念が指針でしたが、急激な外部環境変化の中で新たなビジョンが必要でした。津賀一宏氏は社内改革を進め一定の成果を上げましたがforbesindia.com、在任中に次の成長軌道を描き切れたとは言い難い部分があります。後任の楠見氏も聖域なき改革を掲げていますが、社員からは**「またリストラか」という冷めた声**diamond.jpも出ています。強い企業にはトップ自らが将来像を示し社員の意識を変える力が求められますが、パナソニックは代々の経営陣が「まずはコスト削減・現状打破」という守勢に追われ、攻めのビジョン発信が不足していました。その結果、社員の士気や一体感も高まらず、大企業病の温床となった可能性があります。
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スリムで効率的な組織 – 現代のグローバル競争では、事業ポートフォリオを絞り効率を追求することが重要です。強い企業は選択と集中で身軽な組織を作り、環境変化に迅速に対応します。対してパナソニックは、前述の通り近年まで35万人規模の巨大組織を抱え、サムスン(約10万人)やソニー(約11万人)を大きく上回っていましたreuters.com。規模の非効率は意思疎通の遅れや固定費負担増として跳ね返り、競争力を損ないました。津賀体制以降、人員削減である程度スリム化したものの、それでも2025年時点で25万人規模です。強い企業の多くがスリム化・自律分散型組織への転換に成功している中、パナソニックは組織改編が後手に回り、旧来の部門縦割り・官僚体質を完全には打破できませんでした。
以上のように、強靭な企業に共通する機動力・革新力・決断力・効率性の面で、パナソニックは徐々に弱さを露呈していったと言えます。逆に言えば、かつて松下幸之助が率いた「小が大を食う」ベンチャー精神や、顧客を驚かせる商品開発力を取り戻すことができれば、再生の余地はあります。しかし現状は**「リストラ頼みの延命策」**との厳しい評価もありreuters.com、真の意味で強い企業へ脱皮するには相当の覚悟と変革が必要でしょう。
製造業2040 -変化の渦中で進むべき日本の針路-
日本の製造業で進む”リストラ・構造改革”という名の急速な事業縮小。
世界の情勢から見た日本の製造業が抱える本質課題と取るべき打ち手を詳説。
2030/2040年に向けて日本の製造業が今覚悟を持って変えないといけないこととは?
過去の成功体験、つまらないプライド、忖度にこだわっていたら日本は終わります。
製造業の経営陣・管理職・従業員、そして全てのステークホルダーに読んで欲しい一冊。
参考文献・出典: パナソニック公式ニュースリリース、各種報道ja.wikipedia.orgja.wikipedia.orgreuters.comreuters.comreuters.comdiamond.jpdiamond.jpほか.