GDP構成比と労働人口比

日本の経済において製造業は依然として重要な位置を占めている。最新データでは、製造業がGDP全体に占める比率は約20%に達し、就業者数ベースでも総労働人口の約15%を製造業が担っている​。これらの数値は、日本が高度にサービス経済化した先進国であるにもかかわらず、製造業が他の主要国(韓国やタイ、マレーシア等)と比較しても遜色ない規模で労働力を吸収していることを示す​。つまり、日本の国内総生産の約5分の1、就業者の約7人に1人は製造業によって生み出されているのである。

 

 輸出依存度と外貨獲得力

日本の輸出収入は製造業に大きく依存している。日本からの財貨輸出の大半(約8割)は製造業製品が占めており、例えば2023年には機械類、電気機器、自動車などの工業製品だけで輸出額全体の約6割を占めた​。主要な輸出品目は自動車を中心とする輸送用機器(輸出全体の23%)、一般機械(18%)、電気機器(17%)などであり​、原材料や燃料といった非製造業品目の占める割合はごくわずかに過ぎない。こうした製造業輸出は日本にとって主要な外貨獲得源であり、長年にわたり貿易黒字を通じて日本の経常収支を支えてきた。ただし近年では、製造業の相対的地位低下や燃料輸入の増加により、かつてほど大きな貿易黒字を計上できない傾向もみられる​。それでもなお、自動車・機械・電子部品といった製造業製品の輸出による外貨獲得力は日本経済の屋台骨なのだ。

 

出典:財務省貿易統計より作成

 

 

 

主要産業・代表企業(自動車・機械・電子部品)

日本の製造業の中でも、自動車産業、機械産業、電子部品産業はその中心を成す分野である。それぞれの業種において世界的に有力な企業が多数存在し、高い競争力と市場シェアを保持している。以下に各産業の概要と代表的企業(各業種5〜8社程度)を挙げる。

 

自動車産業

日本の自動車産業は世界有数の規模を誇り、日本製自動車は国際市場で高い評価を得ている。特にトヨタ自動車は世界最大の自動車メーカーとして知られ、2022年の世界販売台数は約1050万台に達し3年連続で世界首位である​。他の国内メーカーもグローバル展開を進め、自動車産業全体が日本の製造業を牽引している。代表的企業には以下のようなものがある。

  • トヨタ自動車: 日本最大手にして世界トップクラスの自動車メーカー。ハイブリッド車「プリウス」や高級車「レクサス」ブランドなどで知られ、独自の生産方式であるトヨタ生産方式は世界中の製造業のお手本となっている。2022年には世界で約1050万台の車両を販売し、世界シェア首位を維持した。
  • 本田技研工業(ホンダ): トヨタに次ぐ国内第2位の自動車メーカー。四輪車だけでなく二輪車でも世界最大手であり、汎用エンジンやジェット機事業も手掛けるなど多角化が進んでいる。グローバル市場で「シビック」「CR-V」などの主力車種を展開し、高い信頼性と燃費性能で評価されている。
  • 日産自動車: ルノー・三菱自動車とのアライアンスに属する大手自動車メーカー。電気自動車「リーフ」をいち早く量産化したパイオニアであり、SUV「エクストレイル」なども含め世界市場に幅広い車種を供給する。近年は業績再建に取り組みつつ、新型EVや自動運転技術の開発に注力している。
  • スズキ: 小型車(スモールカー)と二輪車を得意とするメーカー。インド市場で圧倒的トップシェアを持つなど海外新興国で存在感が大きい。軽自動車「ワゴンR」や小型SUV「ジムニー」など独自色の強い製品開発で知られ、コンパクトカー分野の世界的企業である。
  • マツダ: 独創的な技術で知られる中堅自動車メーカー。ロータリーエンジンの開発で名を馳せ、近年は「スカイアクティブ」技術によるエンジン効率向上やデザイン性の高い車種(「ロードスター」「CX-5」等)で国際的評価を獲得している。生産規模はトヨタやホンダに比べ小さいものの、走行性能へのこだわりから熱烈なブランドファンを持つ。
  • スバル: 独自路線を貫く自動車メーカー。全車種に水平対向エンジンとシンメトリカルAWD(全輪駆動)を採用する技術的特徴があり、SUV「フォレスター」やスポーツカー「BRZ」などで国際市場、とりわけ北米市場で人気が高い。航空機メーカーに源流を持ち、安全性能を重視した「アイサイト」技術にも定評がある。
  • 三菱自動車: 三菱グループに属する自動車メーカー。かつては乗用車から商用車まで幅広く手掛けていたが、現在はSUVやピックアップトラック、「デリカ」シリーズなど個性的な車種に注力する。日産・ルノーとの資本提携により開発面で協業しつつ、プラグインハイブリッド車「アウトランダーPHEV」など環境技術でも存在感を示している。
     
 

機械・産業機器産業

日本の機械産業は、産業用機械、重工業製品、建設機械、ロボットなど多岐にわたり、製造業の中核を成す分野である。これらの製品は日本の輸出品目としても重要であり、一般機械(工作機械や産業機械など)は輸出全体の約2割を占める主要輸出品目である。日本企業は高い精度と信頼性を持つ機械製品で世界市場をリードしており、特に産業用ロボットや工作機械、自動化装置の分野で強みを発揮している。代表的企業は以下のとおり。

  • コマツ: 建設機械メーカーとして世界有数の規模を持つ企業。油圧ショベルやブルドーザーなど建設・鉱山機械で国内首位、世界でも米キャタピラー社に次ぐ第2位のシェアを有する。近年はICTを活用したスマートコンストラクション(建設現場の自動化)に注力し、建機の自動運転や遠隔操作など先進技術でリードしている。
  • 三菱重工業: 総合重工メーカーであり、航空宇宙、船舶、発電プラント、防衛装備など幅広い領域の大型機械・装置を手掛ける。国産旅客機やロケット開発にも参画し、日本の重工業技術を牽引する存在である。近年はエネルギー転換に対応したガスタービン発電やCO₂回収装置など、環境対応型の重工業製品開発にも力を入れている。
  • 日立製作所: 元々は重電(重電機)メーカーとして創業し、現在はインフラシステム、情報通信、産業機器まで多角化した大手企業。鉄道車両(英国高速鉄道への車両供給など)や発電システム、建設機械(かつて子会社の日立建機を擁する)などの分野で世界展開する一方、近年はIT・デジタルソリューションとの融合を図って「ソーシャルイノベーション企業」への転換を進めている。
  • ファナック: 工作機械用数値制御装置(CNC)や産業用ロボットで世界トップクラスのメーカー。特にロボットアームなどの産業用ロボット分野ではグローバル市場を席巻し、自動車工場や電子部品工場で同社のロボットが広く使われている。山梨県を拠点に「工場の無人化工場」を自社で実践するなど、生産現場の自動化技術におけるリーディングカンパニーである。
  • キーエンス: 工場の自動化設備向けセンサや測定器、制御装置で知られる企業。直接製造現場を持たないファブレス経営ながら、高性能な光学センサ、画像処理システム、レーザーマーカー等で圧倒的シェアを持つ。営業利益率が5割前後と極めて高く、市場価値も日本有数であることから、その経営手法と製品力は国内外で注目されている。
  • オムロン: センサ、スイッチ、制御機器といったFA(ファクトリーオートメーション)機器の大手メーカー。産業用コントローラ(PLC)やリレー機器などで世界的シェアを持ち、製造ラインの自動化に不可欠な存在である。同時に血圧計などヘルスケア機器でも有名で、技術基盤を活かした多角経営を展開する。「センシング&コントロール」の技術コンセプトのもと、幅広い分野で自動化ソリューションを提供している。
  • 川崎重工業: 輸送用機械・重工業メーカー。新幹線など鉄道車両や航空機、オートバイ(「Ninja」シリーズで有名)、船舶・海洋構造物、産業用ロボットまで、多彩な製品ラインナップを持つ。二輪車メーカーとしてのブランド力に加え、航空宇宙や鉄道で培った精密機械技術を有し、近年は水素エネルギー関連の大型プロジェクト(液化水素運搬船など)にも取り組んでいる。
     

電子部品産業

電子部品産業は、日本の製造業が国際競争力を発揮する分野の一つである。日本企業の多くは特定の電子部品で世界トップクラスの市場シェアを握っており、電子部品・デバイスなしには自動車やエレクトロニクス製品の製造は成り立たない。実際、電子部品や自動車部品など計220品目で日本企業は世界市場の6割以上のシェアを有しており、これは米欧中を大きく引き離す突出した強みである。このような高付加価値部品の輸出は日本の外貨獲得に直結し、製造業の中でも電子部品各社はグローバル・サプライチェーンで存在感が非常に高い。代表企業として以下が挙げられる。

  • 村田製作所: 積層セラミックコンデンサ(MLCC)など電子部品分野で世界首位級のメーカー。スマートフォンや車載機器の回路に欠かせないコンデンサ、圧電デバイス、通信モジュールなどを供給し、数多くの分野で高シェア製品を持つ。京都発祥の企業であり、「電子部品の村田」の名はグローバル市場でも品質の代名詞となっている。
  • TDK: 磁性材料技術に強みを持つ電子部品メーカー。フェライトコアや磁気ヘッドで創業し、現在ではコンデンサやセンサ、電子部品用材料から二次電池部材まで事業領域を広げる。ハードディスク駆動装置用ヘッドの分野ではかつて世界シェアトップを握り、近年も電子部品各種やストレージ機器用部品で世界市場をリードしている。
  • 京セラ: セラミック技術を基盤に、多様な電子部品・デバイスを展開する大手企業。セラミックパッケージ、電子部品用基板、コネクタなどで高シェアを持つほか、通信機器やプリンタなど完成品も手掛ける総合電子メーカーである。創業者の稲盛和夫氏の経営哲学でも知られ、複合材料技術と加工力で競合他社との差別化を図っている。
  • ローム: 半導体デバイスを中心とした電子部品メーカー。アナログ半導体やパワー半導体、LEDなどで知られ、自動車や産業機器向けの電子部品で強みを持つ。京都に本社を置き、「質実剛健」な経営で安定的な成長を遂げてきた。特に省電力性能が要求される車載用半導体などで国際競争力が高い。
  • アルプスアルパイン: スイッチ、センサ、コネクタなど電子部品の大手。近年アルパイン(車載情報機器メーカー)と経営統合し、部品から車載機器までシステム提案できる体制を整えた。スマートフォン用部品から自動車向け電子部品まで幅広く手掛け、特に車載用の各種センサや操作デバイスで世界市場をリードしている。
  • ルネサスエレクトロニクス: 日立製作所や三菱電機の半導体部門を前身とする、日本を代表する半導体チップメーカー。マイコン(マイクロコントローラ)やSoC、パワー半導体に強く、車載用半導体では世界トップクラスのシェアを持つ。近年は海外企業の買収も通じて製品ポートフォリオを拡充し、IoTや産業機器向け半導体ソリューションで存在感を高めている。

 

以上のように、日本の製造業はGDP・雇用への貢献度のみならず、輸出による外貨獲得や世界市場でのシェア獲得において重要な地位を占めている。その中心となる自動車・機械・電子部品産業には数多くの世界的企業が存在し、高度な技術力と国際競争力で日本経済を支えているのです。

 

製造業2040 -変化の渦中で進むべき日本の針路-