1. オルカン(投資信託オールカントリー)とは何か

1-1. 基本的な概要

  • **「オルカン」という通称でよく言及されるのは、たとえば日本国内で人気のある「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」**など、世界中の株式市場に幅広く投資するタイプの投資信託を指すことが多いです。

  • 一般にはMSCI ACWI(オール・カントリー・ワールド・インデックス)やFTSE Global All Capなど、全世界株式を対象とするベンチマークに連動するよう運用されています。

1-2. 投資対象と特徴

  • 投資対象: 米国・欧州・日本・新興国を含む世界各国の株式

  • 分散効果: 一国への集中投資ではなく、国際分散投資の効果が期待できる

  • 運用形態: インデックス運用が中心で、信託報酬が比較的低めに設定されることが多い

  • 組入比率: 時価総額比で見ると米国株の比率が比較的大きい(約50〜60%前後になるケースが多い)

1-3. 米国の影響が大きい理由

  • 世界の株式時価総額に占める米国の割合が非常に大きいため、米国市場の動向や、米国発の政策・金利・為替などの影響を大きく受けやすい。

  • そのため、米国内の政治的動向(例:関税政策)によって米国株式全体が下落・上昇した際には、オルカンのパフォーマンスにも無視できない影響が及ぶ。


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2. 2025年4月に発表された米国トランプ関税とは

2-1. 仮定される政策概要

  • 再登板、または強い影響力を持つトランプ前大統領が、2025年4月に米国の保護貿易主義を強化する追加関税を発表した想定。

  • 関税率対象製品が大きく広範囲に及ぶ(例えば鉄鋼・自動車・ハイテク部品・農産品など)。

  • これにより、米国内での生産・調達を優遇し、輸入品には高い関税を課す方針が打ち出される。

2-2. なぜ投資信託に影響が生じるのか

  • 関税強化 → 貿易コスト・企業収益への圧迫 → 関連企業の業績が落ち込む → 株価下落の懸念

  • 特に米国市場での売上比率が高い外国企業、あるいは製造拠点が海外にあり米国へ輸出している米国企業にも影響が及ぶ。

  • 関税対象業種や米国以外の対抗関税などの動向次第では、世界的な貿易摩擦拡大 → 世界経済全体の成長鈍化 → 世界株式市場への下押し圧力となり得る。


3. オルカン(全世界株式ファンド)への影響シナリオ

ここでは、米国トランプ関税の程度や継続性、世界的な対抗措置などを踏まえ、複数シナリオで考察します。


シナリオA:大幅かつ長期的な関税強化 → 世界経済への下振れ圧力が顕著

  1. 内容と影響のイメージ

    • 米国が広範かつ高率(例:関税率15〜25%超)の輸入関税を急激に導入、継続的に維持

    • 米国企業への部品供給・米国内への輸出を行う欧州・アジアの大企業の収益が落ち込み、世界株式市場全体に波及する大きな下落要因となる。

    • 他国も対抗措置として報復関税を導入し、世界的な貿易戦争の様相を呈する。

  2. オルカンのパフォーマンスへの影響

    • オルカンの投資先は米国以外にも分散されているが、世界経済が総じて減速するため、全体的な株価下落につながりやすい

    • 特に米国企業の比率が高い分、米国景気が大きく悪化すればファンド全体の価額も下押しされる可能性が高い。

  3. 投資家の対応

    • 世界株式ファンド自体を持ち続けるかどうかの判断で悩む局面が増える。

    • ただし、長期分散投資の理念に基づくと、短期的な貿易政策リスクを踏まえても保有を継続する選択が多いかもしれない。

    • 新規追加投資については、世界経済への不透明感から慎重姿勢が強まる可能性。


シナリオB:限定的またはセクター限定の関税導入 → 米国内・一部産業中心の影響

  1. 内容と影響のイメージ

    • 例えば、特定セクター(自動車・鉄鋼・半導体など)にだけ関税が強化される。

    • 米国企業でも海外生産比率が高い企業は打撃を受けるが、逆に国内製造に特化している企業は恩恵を受ける可能性がある。

    • 世界全体で見れば、影響は限定的かつ一部セクターに偏在

  2. オルカンのパフォーマンスへの影響

    • 全世界株式のうち、一部の対象セクターの株価が大きく揺れる一方、他セクターやサービス産業等は比較的堅調を維持する場合も。

    • 企業によってはサプライチェーンの再編を余儀なくされるため、短期的な調整が株価に影響。

    • しかし、ファンド全体から見ると、全世界・多セクター分散で大きなダメージをある程度吸収できる可能性がある。

  3. 投資家の対応

    • 大きく影響を受けるセクター株比率がファンド内でどの程度か把握し、セクターウェイトの状況を確認する。

    • 中長期的な視点では、世界分散で一部の業種・地域への集中を回避できるメリットが活きる。

    • 結果として、ファンド自体の下落はある程度限定的にとどまるケースも考えられる。


シナリオC:関税発表後、世界的な協調・交渉が進み早期に撤回・緩和

  1. 内容と影響のイメージ

    • 2025年4月に高関税を宣言するも、米国国内企業からの反発やWTO・国際社会の圧力で、短期間で修正・撤回される。

    • 市場は一時的に動揺するが、政策リスクが後退すると株式市場はリバウンドしやすい。

  2. オルカンのパフォーマンスへの影響

    • 短期的には「関税強化の発表」による株価下落があるかもしれないが、その後「撤回・緩和」報道で市場が回復し、トータルでは比較的安定した推移となる可能性。

    • 投資家心理としては、米国政治リスクを織り込む動きはあるものの、全世界分散の効果で大きな上下動は限定的なケースも考えられる。

  3. 投資家の対応

    • 短期的ニュースに振り回されず、長期・積立投資を継続するスタンスが功を奏す可能性が高い。

    • 一方、短期トレーダーやヘッジファンドの動きによっては、ボラティリティ(変動幅)が一時的に上昇する場面も想定される。


シナリオD:世界他地域の成長が相殺・吸収する → 緩やかな影響に留まる

  1. 内容と影響のイメージ

    • 米国の保護貿易強化で米企業の一部が打撃を受ける一方、欧州や新興国の内需拡大など別のプラス要因が生じる。

    • たとえば、インドや東南アジアなど、新興国の経済成長が高まり、世界全体の景気後退を部分的に緩和する展開。

  2. オルカンのパフォーマンスへの影響

    • 米国株の調整があっても、他地域の好調がファンド全体でバランスを取り、下落をある程度相殺

    • 全世界分散投資の強みが働き、トータルリターンの大幅な毀損は回避される可能性。

  3. 投資家の対応

    • オルカンを通じて複数地域に分散しているメリットが発揮されるため、ホールドまたは積立継続という選択が多くなる。

    • もしも米国株の比率を調整したい場合は、同ファンドとは別の地域特化型ファンドなども併用してポートフォリオをカスタマイズする方法が考えられる。


4. まとめと展望

  1. 短期的ショックは不可避だが、分散の効果に注目

    • 米国の追加関税が大きくなればなるほど、世界の企業業績や投資家心理にネガティブな影響を与えるため、オルカンの基準価額も短期的には下落する可能性が高い。

    • ただし、全世界の様々な企業に分散投資しているため、一部セクター・地域への影響が大きくてもファンド全体への打撃は軽減される

  2. 米国比率が高い点と、そのメリット・デメリット

    • オールカントリー型は米国比率が高いため、米国市場の影響を強く受ける

    • 一方で、過去数年は米国市場が世界株式のリターンを牽引してきた事実もあり、長期的には米国の成長恩恵を享受しやすい面がある。

    • 関税問題などの政治リスクによる一時的調整と、米国のイノベーション力・経済成長力というプラス要因のバランスをどう見るかが重要。

  3. 長期投資家にとってのスタンス

    • 関税政策などによる短期的な株価変動は、長期投資の視点では一時的ノイズとして捉えられるケースも多い。

    • 世界経済が成長する限り、時間をかけて株式市場は回復・上昇する可能性が高いと考える投資家は、積立投資やホールドを継続する。

    • 逆に、政治リスクが高まると判断する投資家は、米国依存度を下げるため他の地域特化型ファンドとの組み合わせでリスクを調整する選択肢もある。

  4. 今後の注視点

    • もし米国が高関税路線を長期的に維持する場合、企業のサプライチェーン再編や、世界的な貿易構造の変化が進む可能性がある。

    • そうした構造変化による業績の明暗が企業間で大きく分かれ、株価パフォーマンスの地域・業種間格差が拡大することが予想される。

    • 結果として、オールカントリー型ファンド内でも、組入比率に応じてパフォーマンスが変化する点に留意が必要。


結論

「オルカン(投資信託オールカントリー)」は、世界中の株式市場に時価総額比率で広く投資するインデックスファンドです。米国の比率が高く、保護主義的な追加関税が大きく発表されれば、米国企業や世界的な貿易摩擦の拡大を通じてファンドの基準価額に下押し圧力がかかることは避けられません。

ただし、長期的・国際分散的に投資をしているため、シナリオAのような大規模な貿易戦争が長期化すれば大きく下落する可能性がある一方、シナリオB・C・Dのように影響が限定的または一時的に終わる場合、世界分散のメリットによりダメージは抑えられる可能性があります。最終的には、世界経済の成長性や米国の政策動向、各国の対抗措置などを見極めながら、長期投資家は継続保有のスタンスを崩さず、市場動向を注視していくことが基本的な対応となるでしょう。

 

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