■登場人物紹介

山田 創(やまだ・そう)
28歳。東京都中野区のワンルームで一人暮らし。大学を中退後、定職に就かずニート生活を続けながら、近所のカフェで週4日アルバイトをして月20万円前後を稼ぐ。生活はカツカツで貯金も少ないが、バイト先の知人に勧められて投資を始める。情報収集は主にYouTubeやSNSから。将来への不安と、「このままでいいのか?」という漠然とした焦燥感を抱えている。

 

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■運命のベアと、気づきの夜明け

春のある日、創はふとしたきっかけで「日経ベア2倍」を少額買っていた。バイト先の先輩が「最近、米国が荒れそうだから、ヘッジ的に持っとくのもアリだよ」と言ったのを真に受けて、よくわからないまま買ったのが始まりだった。

その数日後——2025年4月2日。
突然、ニュース速報がスマホを駆け巡った。

「トランプ大統領、米国輸入品への高関税を発表。日経平均が急落」

たまたま昼休みにスマホを見ていた創は、楽天証券アプリの画面を何度も見直した。
赤字ばかりだったポートフォリオの中で、唯一、日経ベアが爆発的に上がっていた。

「……え?これ、こんなに儲かるの?」

まさかの評価益30万円超。今の彼にとっては“年単位”の貯金と同じ金額だった。
一瞬、世界が変わった気がした。高揚感、現実感のなさ、戸惑い。
だが「これはチャンスだ」と思い、利益確定せずにさらに買い増した。

 

 

 

 

しかし——4月10日、再び速報が届く。

「トランプ政権、一部関税撤回を発表。株価急反発」

日経平均は大幅に戻し、日経ベアは急落
創の評価益はみるみるうちに消え、最終的には元本を切るまでになった。

「……マジかよ……なんだったんだ、あの一週間……」

放心した創は、その夜、一人で近所の銭湯に行った。湯船の中でぼんやりと天井を見ながら、初めて深く考えた。
「なんであんなに舞い上がったんだろう。俺、金が欲しかったんじゃない。自分を変えられる気がしてただけなんだ」

振り返れば、自分の生活には「目標」がなかった。
金が入ったら何がしたかったのかも、うまく答えられない。
ただ、得た瞬間だけは、自分が価値ある人間になれた気がした——。


 

 

■そして創が選んだ新たな道

その後、創は一冊の本を手に取る。
『経済的自由を目指すのではなく、意味ある挑戦をする人生を』という副題に惹かれて。

彼は、投資という手段そのものではなく、**「自分の力で世界を理解し、意思決定する力」**にこそ価値を感じ始めた。
そして、「自分で分析して、考えて、未来にベットする」力を磨きたいと強く思った。

こうして彼は、カフェバイトの傍らで、YouTubeや書籍を通じて経済・社会・心理学の勉強を始めた。
やがて、自分と同じように悩む若者に向けた初心者向け投資やマインドセットの発信チャンネルを開設することを決意。
名前は——「NITO投資ラボ」。

今のところ収益はゼロ。それでも彼は笑って言う。

「まだ何者でもないけど、少なくとも“誰かの真似”じゃない自分を始めた気がする」

 

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