トランプ大統領が2025年に第45代米大統領として二度目の就任を果たして以降、その政策と発言は一貫して「アメリカ第一(America First)」の旗印を強調しています。再選によって再び選挙制約から解放されたトランプ氏は、前期の政策傾向をさらに押し進め、国内外に大胆かつ物議を醸す施策を次々と打ち出しています。以下では、国際関係、国内経済、環境・エネルギー、移民、安全保障、政治戦略の各分野について、2026年の中間選挙および2029年任期末までにトランプ氏が目指す国家像を分析します。
『トランプ関税ショック』 市場を揺るがす通貨戦争と投資家の分析:株式・暗号資産の急落から読み解く、保護主義の代償と資産防衛戦略
国際関係:アメリカ第一の外交と世界秩序の再編
トランプ第2期政権の外交は、前期同様に伝統的同盟よりも米国の直接的利益を最優先する姿勢が際立っています。ロシア・ウクライナ: トランプ氏はロシアのプーチン大統領と対話を重ね、ウクライナ戦争の早期終結を熱心に仲介しています。実際、米政府はウクライナとロシアそれぞれと個別に協議を行い停戦を模索していますが、ロシア側は「ウクライナ軍縮」や「併合地域の完全掌握」を要求しており、依然として平和合意への道のりは遠い状況です。トランプ政権はウクライナへの新たな軍事支援を保留し、代わりにウクライナに一定の譲歩(NATO不加盟や領土問題での妥協)を迫っていると報じられています。ウクライナ側は軍事力削減などの要求は受け入れられない「越えられない一線」であると表明しており、交渉は難航しています。トランプ氏のビジョンとしては、2026年までに一時停戦や暫定合意を実現し、自らの外交手腕で「24時間以内に戦争を終わらせる」との公約を果たしたリーダー像をアピールする狙いがうかがえます。その一方で、ウクライナへの支援縮小は欧米の対露結束を揺るがし、トランプ氏の再登場は「欧米の対ウクライナ支援の転換点」であり、プーチン政権を利するとの指摘もあります。実際、トランプ氏はウクライナへの巨額支援や「米国の世界の警察役」に批判的であり、長期的にはロシアとの関係改善を図りつつ、米国の負担軽減を目指す姿勢です。
中国: 対中政策は第1期以上に強硬です。トランプ政権は就任直後から中国に対し「安全保障上最も危険な競合国」と位置付けており、貿易・技術面での圧力を一段と強めています。2025年4月には、大統領令で**「通商赤字は国家非常事態」と宣言し、全ての輸入品に一律10%の関税を課す「包括関税」を打ち出しました。さらに対中貿易赤字の大きい品目にはそれ以上の高関税を科し、中国による知的財産侵害や輸出補助金に報復しています。この突然の関税発動は世界経済を動揺させ、株式市場がコロナ危機以来の急落となる事態を招きましたが、トランプ氏は「他の誰もやらないことをやった」と自賛し方針を貫いています。ただ、市場混乱を受け一部関税は一時凍結されました。トランプ氏は「今回は自分のやりたいようにやる」と述べ、政権内にも忠誠心の高い強硬派のみを据えてブレーキ役を排除しており、2026年までに中国との「ディカップリング(経済的切り離し)」**を大きく進展させる構えです。そのビジョンは、2029年までに重要産業のサプライチェーンを中国から米国または友好国に引き戻し、中国に対する経済的・軍事的優位を確保する「強いアメリカ」の実現です。一方で、中国が反発して台湾海峡などで緊張が高まるリスクも孕んでいます。トランプ政権は台湾への武器供与や高官訪問などを通じ中国をけん制する一方、直接の軍事衝突は避けつつ経済圧力で譲歩を引き出す戦略とみられます。
同盟国・国際秩序: トランプ氏の外交は従来の同盟関係を再定義しようとしており、NATOなど多国間枠組みに対して懐疑的です。欧州のNATO同盟国に対しては「米国を食い物にしている」と不満を表明し、防衛費負担の大幅増額とNATOの「抜本的な再編成」を要求しています。専門家によれば、トランプ氏が直ちにNATO離脱に踏み切る可能性は低いものの、第2期目の米国は形式上NATOに留まりつつも実質的には欧州に安保の責任を押し付け、米軍の関与を抑える方向に進むと見られています。例えば在欧米軍や核の傘は維持するものの、2026年までに欧州側が自主的にロシア抑止の主役を担わざるを得ない体制への転換を迫る可能性があります。その一環でトランプ氏はロシアとウクライナ戦争について**「プーチンとの取引」を模索し、対露制裁を緩和する見返りにロシアの脅威を抑える合意を結ぶシナリオも取り沙汰されています。また日本や韓国にも駐留経費の大幅増額や貿易面での譲歩を要求しており、同盟関係はかつてない緊張を孕んでいます。2025年初頭にはカナダ・メキシコに対して非貿易分野(移民やドラッグ対策)での行動を強要するため25%関税を突然発表し、周囲を驚かせました。国連や世界保健機関(WHO)、国際刑事裁判所(ICC)などの国際機関にも背を向け、米国は再びWHO脱退を表明しICC関係者への制裁も復活させています。要するに、トランプ氏は戦後米国が主導してきた多国間主義的な国際秩序の「破壊と再構築」**を目指しており、その基調には「主権の絶対性」と「取引外交」があります。具体的には:
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国際協調の放棄: パリ協定やイラン核合意など前政権下で復帰・締結した国際協定から再度離脱・破棄し、同盟国との足並みよりも米国単独の利害を優先。
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自国の勢力圏重視: 民主主義や人権といった普遍的価値の擁護には消極的で、各大国がそれぞれの勢力圏で影響力を行使する**「勢力圏の復活」**を黙認する傾向。ウクライナ問題への関与縮小やシリアからの米軍撤退方針はその表れです。
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国際公法・公共財の軽視: 国際法や地球規模課題(気候変動対策など)への責任を後退させ、自国の経済・軍事力行使に対する制約を拒否。
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二国間主義とパワーポリティクス: 多国間の枠組みよりも一対一の交渉で相手国に譲歩を迫る「力による交渉」を好み、制裁や関税をテコに相手を屈服させようとする(各国への**「いじめ的な二国間主義」**とも評される)。
このような外交方針の下、トランプ氏が目指す2029年の国家像は、「世界の安定より米国の主権的利益を最優先し、必要とあれば国際秩序すら再編する覇権国家」です。その結果、米国の伝統的盟友は米国離れや対露・対中接近でリスクヘッジを図り、米国の地位低下を招く懸念も指摘されています。実際、中東のサウジアラビアなどは米国の中東関与縮小を睨みロシア・中国との関係を深め始めています。他方で中国やロシアといった米国の「競争相手」は、米国が世界のリーダー役を退き多極化が進む好機と捉えている、と分析されています。要約すれば、トランプ氏の国際関係ビジョンは「米国の強大なパワーを自国利益のために行使しつつ、世界の面倒は見ない」。これは米国主導のルールに基づく国際秩序を揺るがし、新たな世界秩序の模索につながる可能性があります。
中東・イスラエル: 中東政策は極めて独自色が強く、「予測不能な取引」を繰り出しています。イスラエルに対しては前期以上に肩入れしており、2025年2月にはイスラエルのネタニヤフ首相との会見で**「ガザ地区を米国が引き受け、リゾート地として再開発する」という突飛な構想を唐突に発表しました。200万人近いガザのパレスチナ人をエジプトやヨルダンに恒久移転させ、瓦礫と化したガザを更地にして「中東のリビエラ」に生まれ変わらせるという計画です。イスラエルの強硬右派はこのアイデアを歓迎しましたが、当のネタニヤフ氏も驚きを隠せず、エジプト・ヨルダンは国内不安定化を恐れ即座に拒否、国際社会からも強い批判を浴びました。ホワイトハウスは直ちに発言を軌道修正しようとしましたが、トランプ氏本人はその後も「ガザは米国が持つ」と強弁し計画に執着を示しています。この「ガザ買収」発言**に象徴されるように、第2期トランプ外交は極端な帝国主義的志向すら垣間見せ、周囲を混乱させています。また、イランに対しては前期の「最大限の圧力」路線を復活させ、イラン産原油の輸出をゼロにする制裁強化措置を発動しました。ただ一方で、トランプ氏は新たな核合意の可能性にも言及し、条件次第では対話に応じる姿勢も見せています(実際2月にはイラン外相が米国との対話に一定の含みを持たせましたが、最高指導者ハメネイ師は否定的見解を述べています)。シリアについては「我々は関与しない。あそこはあそこ自身の問題だ」と述べ(2025年1月)、約2000人の駐留米軍を完全撤収する検討に入っています。これによりISISの復活やクルド人勢力の危機が懸念されますが、トランプ氏は内向き志向を優先しています。
以上のように、トランプ第2期政権の国際関係ビジョンは「米国の強大さを誇示しつつも国際責任から後退した超大国像」です。2026年の中間選挙までには中国・欧州・中東それぞれで強硬策とディール(取引)の成果を国内向けに誇示し、支持基盤に「アメリカが他国に譲歩しない時代の到来」を印象付けるでしょう。そして2029年には、米国中心の一極体制から各国が力を競い合う多極体制へと移行した世界の中で、米国が依然「自国第一」で利益を追求し続ける国家像が浮かび上がると考えられます。それはすなわち、従来の盟主的リーダーではなく**「自国の帝国的利益を直截に追求する現実主義国家」**としての米国像です。
国内経済:保護主義と規制撤廃による「製造業大国」の復権
国内経済政策において、トランプ第2期政権は積極的な保護主義と大規模な規制緩和によってアメリカ経済の再活性化を図っています。トランプ氏は就任直後、巨額の貿易赤字が「我が国の製造基盤を空洞化させ、防衛産業まで外国に依存する危機」を招いていると宣言し、通商問題を国家安全保障上の非常事態と位置付けました。そのうえで前述のとおり包括関税(全輸入品への10%関税)を導入し、中国やドイツ、日本といった対米貿易黒字国にはさらに高率の報復関税を課す「アメリカ第一の通商政策」を本格化させています。こうした急進的な関税措置は伝統的共和党内の自由貿易派からも懸念を招きましたが、政権は忠誠心の高い人物で固められており内部からの制止はありません。トランプ氏は「グローバリスト(国際協調派)の経済破壊政策で海外に流出した雇用と産業を取り戻す」と強調し、2026年までに製造業雇用の大幅増加とGDP成長の加速を公約しています。実際、第2期政権発足後は製薬や半導体、電気機器など戦略産業の国内回帰を促すため、巨額の減税措置や補助金プログラムも検討されています(議会状況により実現性は不透明)。トランプ氏の国家ビジョンとして、2029年までに「アメリカが再び物を作る国(“a strong America that makes things again”)」という製造業大国像を取り戻すことが掲げられています。
具体的な経済政策の柱は以下のとおりです。
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貿易保護主義の徹底: 前期にも増して通商交渉で強硬策を取り、関税・非関税障壁を駆使して国内産業を保護します。例えば中国から医薬品や半導体を調達しないようにするため、関税収入を活用した国内生産奨励策や輸入代替策を展開中です。またカナダ・メキシコとのUSMCA(新NAFTA)再交渉にも言及し、不法移民対策など非貿易分野で譲歩がなければ関税引き上げも辞さない構えを見せています。このような「経済ナショナリズム」は世界貿易機関(WTO)のルールとも摩擦を起こしていますが、政権高官は「外国はWTOを悪用して米国を欺いてきた。大統領は『もう我慢しない』と言っている」と述べ、正当化しています。結果として、国際貿易体制は大きく揺らぎ「経済の多国間主義からの離脱」という世界秩序再編の一端ともなっています。
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産業復興とインフラ投資: トランプ氏は「錆びついたラストベルトに工場の煙を取り戻す」と宣言し、国内製造業への投資を喚起しています。連邦政府調達では**Buy American(国産品優先調達)**をさらに強化し、インフラ建設や防衛調達に国内企業を優遇する方針です。2025年には「アメリカ第一投資政策」に関する覚書を発し、対米投資手続きを簡素化する「投資アクセラレーター」の設立を指示しました。これは官民連携で国内外の企業に米国内工場建設を促す試みで、特に半導体工場や電気自動車用電池プラントの誘致を狙っています。インフラ面では、エネルギー分野(送電網や石油パイプライン)の整備に国家非常事態権限を用いて予算と許認可の迅速化を図っています。しかしながら、在来型インフラ(道路橋など)について大規模投資法案はまだ議会に提出されておらず、野党民主党との駆け引きが続いています。
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規制緩和と企業活動の活性化: 第2期政権は「ビジネスの黄金時代(Golden Age of American Prosperity)の到来」を掲げ、連邦規制の大胆な撤廃を進めています。2025年4月には**「競争を阻害する規制の撤廃」を目的とした大統領令に署名し、全省庁に対し独占助長や新規参入阻害につながる規制の洗い出しと撤廃計画の提出を命じました。例えば環境規制で企業にコスト負担を課すもの(後述)や、労働安全規則で中小企業に過重な遵守義務を課すものなどが対象です。70日以内に各省庁からリストアップされた規制は一括して撤廃プロセスに乗せられ、年内にも数百に及ぶ規則が改廃される見通しです。また一般国民からも「起業や経済成長を妨げる規制」の情報提供を募り、FTC(連邦取引委員会)を窓口に改善案に反映させるなど、草の根の規制改革も推進しています。トランプ氏は前期にも規制新設に対し「2規制撤廃で1規制導入」**ルールを課すなど緩和路線を取りましたが、第2期ではより体系的に官僚機構を統制し、一時的に施行が停止していた規制を含め片端から撤回する姿勢です。これにより、2029年までに米国を「世界で最もビジネスをしやすい国」に変貌させ、国内外の企業投資を呼び込むことを目指しています。
こうした政策の結果、国内経済の姿は2026年頃までに大きく転換し始めると予想されます。雇用面では製造業やエネルギー産業を中心に雇用が増加し、2024年時点で課題だったサプライチェーンの脆弱性も徐々に改善されるでしょう。実際、新型コロナ禍で医薬品や半導体供給網の不安が露呈したことを踏まえ、政府は「自国で作れないと安全保障上リスクだ」と強調しています。もっとも、強硬な関税は消費者物価の上昇圧力となり得ますが、政府関係者は「20%の対中関税で物価上昇は0.7%に過ぎなかった。賃金上昇が物価を上回れば実質賃金は増える」と楽観的に述べています。2025年時点では物価高騰や金融市場の動揺も見られますが、政権は減税や規制緩和による企業コスト削減で相殺できると主張しています。仮に景気後退リスクが高まった場合、トランプ氏は再びFRBへの利下げ圧力を強める可能性もあります。
ロンドンで行われた気候変動対策を求めるデモ(2024年11月)。環境団体のプラカードには「TRUMP: CLIMATE DISASTER(トランプ:気候の大惨事)」と書かれており、トランプ氏の再選が気候政策に与える影響への懸念が示された。実際、トランプ第2期政権は環境・エネルギー政策において前政権(バイデン政権)の「気候重視路線」を大きく転換している。
環境・エネルギー政策:化石燃料回帰と「エネルギー支配」の追求
トランプ氏は気候変動に懐疑的な発言で知られ(気候変動を「でっちあげ(詐欺)」と呼んだこともある)、第2期政権においても化石燃料産業の復権と規制緩和を軸に据えています。新政権発足後、ただちにパリ気候協定からの離脱手続きに着手し、就任年のうちに正式離脱する見通しです。これはバイデン前政権が復帰した国際的枠組みを再び離れるもので、米国は2025年末にはイラン・リビア・イエメンなどと並び協定不参加国に転落すると見られます。さらにトランプ政権は国連のグリーン気候基金(発展途上国向け気候資金)への拠出も拒否し、オバマ政権が約束した30億ドルの残額拠出を取りやめました。これらは国際社会における米国の信頼低下を招く一方、国内では「気候より経済を優先する」という支持層の期待に沿う動きです。
国内環境規制は全面的な見直しが進められています。政権は「気候変動対策という名目で産業を締め付けるバイデン時代の規制は、極端な気候イデオロギーに基づくものだ」と批判し、石炭火力発電所や石油掘削に対する規制を緩和・撤廃し始めました。例えば、オバマ時代に導入されバイデン政権で強化された発電セクターのCO2排出規制(クリーンパワープランの後継)や自動車の燃費基準について、施行を停止した上で廃止に向けた手続きが進んでいます。また、連邦政府が気候変動を政策判断要因に含めることを禁じる大統領令も発出されました。これにより、環境影響評価(NEPA)プロセスでの温暖化考慮が排除され、新規インフラ建設が容易になります。さらに**「エネルギー優先の非常事態」**が宣言され、国内エネルギー供給を拡大するための非常手段が動員されています。具体的には、石油・ガスの掘削リースを大幅に増やし、連邦政府所有地や沿岸域での新規採掘を解禁しました。特にアラスカの北極圏国立野生生物保護区(ANWR)での油田開発は再び許可され、パイプライン建設も加速されています。2021年に発効した米国の温室ガス削減目標(2030年までに2005年比50-52%削減)は事実上反故にされ、トランプ政権は削減目標の修正を示唆しています。
一方で、再生可能エネルギーに対する冷遇も顕著です。トランプ氏は風力発電に否定的な発言を繰り返しており、2025年の施策として「巨大な風力発電所へのリース(許可)を終了する」と明言しました。景観を損ね、エネルギー消費者の役に立たないというのがその理由です。実際、バイデン政権が推進していた洋上風力プロジェクトのいくつかは認可見直しとなり、中断に追い込まれています。また、電気自動車(EV)普及策にもブレーキがかけられています。2022年成立のインフレ抑制法(IRA)で導入されたEV購入補助や蓄電池製造支援について、トランプ氏は「電気自動車は消費者に押し付けられている」と批判し、その税額控除を撤廃するよう議会に働きかけています。もっとも、一部の州や企業は再エネ・EV推進を続けており、民間レベルでのクリーンエネルギー移行までは止められないとの指摘もあります(風力や太陽光は経済性で競争力を持ち始めているため)。トランプ政権内でも、エネルギー安全保障の観点から原子力発電や希少鉱物の確保には注力しており、必ずしもすべてのクリーン技術を排除するわけではありません。例えば小型モジュール炉(SMR)や水素製造技術には前向きな投資が検討されています。ただしそれらも主眼は「中国やロシアに依存しないエネルギー源の確保」であって、気候目標達成は二の次です。要するに、**「エネルギー独立と低コスト」**が環境政策に優先し、気候変動対策や生物多様性保護は後退しています。
トランプ氏の環境観は、「環境規制はしばしば経済の足枷になる」というものです。第2期政権は経済と環境のトレードオフを明確にし、「豊かな化石燃料資源を最大限活用して国民生活を豊かにする」というビジョンを掲げます。2026年までにガソリンや電気料金の低下を実現し、エネルギー輸出国としての地位も強化する方針です(既に前期に米国は石油・ガス純輸出国に転じており、第2期では欧州や同盟国へのエネルギー供給拡大が図られる)。その延長で、2029年には**「エネルギー支配(Energy Dominance)のアメリカ」**という国家像を示そうとしています。これは、安価で豊富なエネルギーが国内経済を下支えし、地政学的にも他国に頼らず自給自足できる強靭な国家です。しかしその一方で、温室効果ガス排出削減の遅れにより世界の気候目標達成が危ぶまれ、欧州など同盟国からの批判や国際的孤立を深めるリスクも抱えています。さらに、将来クリーンエネルギー市場の主導権を中国などに握られる可能性も指摘されており、長期的な競争力への影響が懸念されています。
まとめると、トランプ第2期政権の環境・エネルギー政策は「化石燃料の全面推進と気候規制の大撤退」です。その国家ビジョンは、1970年代のようなエネルギー危機とは無縁の、自前資源で繁栄するアメリカの姿と言えます。一方で地球環境問題への国際的責務から後退するため、国際社会では「気候不作為の米国」として批判の的となり、外交上の軋轢要因となるでしょう。
移民政策:史上最強の取り締まり体制と「安全な国境」
移民政策はトランプ氏の支持基盤にとって最重要課題の一つであり、第2期政権は過去に例のない強硬策を打ち出しています。就任初日から南部国境の取り締まりを強化する大統領令が出され、バイデン前政権が導入した「捕捉後の拘束解除(キャッチ・アンド・リリース)」政策は即座に終了しました。代わりに不法入国者は原則身柄を拘束し迅速送還する方針が徹底されています。メキシコとの国境には軍の予備役部隊や州兵が動員され、物理的な壁建設も再開・拡張されました。2026年までに少なくとも前政権下で中断していた国境の壁建設を完遂し、総延長は1,000マイル以上に達する見込みです(現在も予算をつけて急ピッチで工事が進行中)。また**「国境侵入は国家への侵略行為」との位置づけから、トランプ政権はメキシコや中南米の麻薬カルテルをテロ組織に指定し、その壊滅に向けた措置も開始しました。具体的には、麻薬密売組織の関係者はテロリストと同様に米国内法で厳罰に処し、場合によってはメキシコ領内での特殊作戦も辞さない構えです(報道によれば、ドローンによる越境攻撃の可能性も検討されたといいます)。メキシコ政府は主権侵害として猛反発していますが、トランプ氏は「必要なら軍事力の行使も検討する」と発言し軟化の気配はありません。また、人身売買に関与した者や不法入国斡旋者に対しては死刑適用も視野に入れており、司法省に対し「警官殺しや米国人を殺害した不法移民には死刑を求刑せよ」と指示しています。このように「治安・国防問題としての移民」**という観点を打ち出し、強烈な抑止効果を狙っています。
米国旗に塗られた壁と人々の影が映し出されたイメージ。トランプ政権下での移民政策の行方が不透明であることを象徴的に示している。
トランプ氏は2024年の選挙戦で**「米史上最大の強制送還作戦」を実施する**と約束しており、これは長年米国内に定着している不法移民も含めた大規模な摘発・送還を意味します。その背景には、共和党支持者の76%が移民問題を大統領の最優先課題と考えているという世論調査結果もあります。
第2期政権はこの公約実現に向け、まず就任早々に象徴的な大量摘発を実行するとみられています。専門家は「政権発足早期に見せしめ的な強制送還を行い、不法滞在者に警告を発する可能性が高い」と指摘しています。実際、かつてオバマ政権時代に年間40万件以上あった強制送還数はトランプ第1期ではそこまでは増えませんでしたが(司法の抵抗もあり)、第2期では司法省や国土安全保障省幹部も強硬派で固められ、現場の躊躇は少なくなると見られます。**「国内の一斉摘発(raids)」**や職場での不法就労摘発も頻繁に行われ、地方警察との協力(連邦移民法の執行への協力を拒む「聖域都市」への制裁も強化)を進めています。こうした措置は不法移民コミュニティに広範な恐怖を生み出し、第1期以上に地下潜行せざるを得ない状況を作り出しています。ただ、実際に数百万人規模の不法移民を短期間で送還するのは現実的に困難との見方も根強く、法執行機関の人員・予算や収容施設キャパシティの制約が壁となる可能性があります。それでもトランプ政権は、2026年までに目に見える形で強硬策の成果(例えば不法越境者数の激減や送還数の増加)を示し、中間選挙で支持者に「公約を実行している」とアピールする戦略です。
亡命・難民制度の封鎖: トランプ第2期政権は、合法的な庇護(亡命)申請や難民受入に対しても前例のない制限をかけています。「不法入国した者には亡命申請させない」との方針を掲げ、国境を越えて直接米国に来た難民申請者は原則却下する規則を導入しました(国際条約上は違法ですが、コロナ禍の緊急公衆衛生措置と同様の権限で暫定措置としています)。これはバイデン政権末期にも類似の規制が導入されましたが、トランプ政権はさらに徹底し、難民はまず通過国で申請すべきだとの立場です。また2019年に実施した「残留メキシコ政策(MPP)」も正式に復活させました。これにより、亡命手続き中の申請者約7万1千人が米国への入国を許されずメキシコ側で審理を待つ状況が再来しています。2025年現在、メキシコ国境の難民キャンプは再び拡大し、治安や人道上の懸念が高まっていますが、トランプ政権は「米国に入れてしまえば逃げ得になる」として一切譲歩していません。さらに難民受け入れ数の大幅削減も決定されました。バイデン政権下では年間上限12.5万人に回復していた難民受入数を一気に数千人程度まで減らし、事実上難民受け入れを停止しています。中米からの一時保護資格(TPS)やパラール(人道的仮滞在プログラム)も見直され、既得の在留資格を剥奪する可能性も示唆されています。例えば、バイデン政権が人道措置で認めていたベネズエラ人など数万人規模の仮滞在について、期限到来後の延長は認めず、在留延長できなければ即送還対象にすると警告しています。
合法移民制度の再構築: 不法移民だけでなく、合法的な移民受け入れについても全般的な縮小とメリット重視への転換が図られています。トランプ氏の支援母体である保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」はProject 2025の一環で包括的な移民制度改編プランを提示しており、その内容は「米国への移民流入を絞り、連邦政府が州の移民政策にも介入して統制する」というものです。トランプ政権は公にはこのProject 2025と距離を置いていますが、主要な起草者の大半はトランプ前期政権の高官で占められており、実質的に次期政権の政策綱領となっています。その中で注目すべきは、出生市民権の廃止に言及している点です。すなわち、米国で出生した子供に自動的に市民権を与える憲法修正第14条の解釈を変え、不法滞在者や非市民の子には市民権を付与しない方針です。トランプ氏自身も2018年以降何度か出生市民権の見直しに言及しており、第2期では大統領令でこれを実行する可能性があります(ただし法的な異議申し立ては必至で、最終的には最高裁判断が必要となるでしょう)。加えて、家族移民の制限も検討されています。現在の米移民法では米国市民の成年既婚子女や兄弟姉妹など広範な親族がスポンサーとなれますが、これを配偶者・未成年子のみの核家族に絞り込む案が浮上しています。雇用ベース移民については、高技能人材を優先するポイント制の導入が模索されています。トランプ氏は2019年に一度ポイント制移民案を発表しましたが成立しなかった経緯があり、第2期では議会次第ながら再挑戦が予想されます。この改革が実現すれば、低技能労働者や難民の米国入国は一層困難になり、「少数の選り抜き人材のみを歓迎する」移民国家へと性格が変わるでしょう。そのほか、H-1Bビザ(専門職労働者ビザ)の発給基準厳格化や留学生のOPT(就労許可)の縮小、永住権抽選プログラム(Diversity Visa)の廃止など、多岐にわたる制限策が議論されています。
総じて、トランプ第2期政権の移民政策ビジョンは**「法と秩序の下で秩序立った移民制度」の構築です。それは表向きには「合法移民を歓迎し不法入国はゼロにする」というものですが、実際には合法的な移民受け入れも大幅に絞り込み、移民人口全体を減少に転じさせる狙いがあるといえます。2026年の中間選挙までに南部国境の情勢は劇的に変化し、不法越境者数はバイデン時代の月数万人規模から激減している可能性があります。不法滞在者に対する身柄拘束や送還作戦も日常化し、「不法移民はどこにも隠れる場所がない」というメッセージを浸透させているでしょう。また2029年時点では、米国の移民制度そのものが生まれ変わっている可能性があります。すなわち、移民受け入れ数が戦後最低水準に落ち込み、長年人口増加を支えてきた移民流入が細ることで、米国社会はより閉鎖的かつ同質的になっているかもしれません。その国家像は、一言でいえば「堅牢な国境に守られた要塞国家アメリカ」**です。不法移民や難民の流入を徹底的に遮断し、国内の治安と秩序を守ることを最優先する姿といえます。ただし経済界からは労働力不足や技術人材の減少を懸念する声も強まっており、トランプ政権内でも強硬策と経済需要のバランスに苦慮する場面が出てくる可能性があります。
安全保障:軍事力の増強と選別的関与、国内治安の強化
安全保障分野では、トランプ第2期政権は強軍路線の維持と同盟関係の再定義、そして国内治安対策の強化に重点を置いています。まず国防予算について、2026会計年度の国防予算要求は前年から実質増額となりました。インフレ調整後でも数%の伸びを確保し、特に核戦力の近代化と宇宙・サイバー領域への投資が強化されています。トランプ氏は「米軍は史上最強でなければならない」と述べ、前期に続いて軍備増強を進めています。例えば極超音速兵器や第6世代戦闘機の開発予算を増やし、中国に対抗するためインド太平洋軍への兵力配備をテコ入れしました。加えて、NATOなど同盟国へのコミットメント見直しに伴い、欧州から一部兵力を引き揚げて太平洋地域に再配置する動きもみられます。2025年にはドイツ駐留米軍の一部旅団がポーランドやバルト三国に移され、欧州防衛は必要最小限に留める姿勢が明確化しました。一方でインド太平洋では、日本やフィリピンとの軍事演習を拡大しつつ、米本土からの抑止力(爆撃機や潜水艦)前方展開で中国を牽制しています。トランプ政権の基本方針は「米軍の強さは維持するが、それを利用するか否かは純粋に国益次第」というものです。すなわち、軍事力は温存しつつ海外での安易な軍事介入を避ける戦略です。
中東での米軍関与縮小(シリア撤退など)は前述のとおりですが、さらにアフガニスタン撤退後の中央アジア情勢にも米国は関与を減らしています。トランプ第2期政権は「終わりなき戦争」の完全終結を誇示し、2025年以降は大規模な対テロ戦争に巻き込まれないことを重視しています。しかしテロ脅威が増大すれば限定的な対処は辞さず、無人機攻撃など「オーバー・ザ・ホライズン」型の作戦は継続する方針です。実際、2025年にもシリアで復活の兆しを見せたISIS指導者に対し、米軍が特殊作戦で急襲し殺害したと報じられました。このように、**「最小限のコストでテロを抑止する」**ことが対テロ戦略の柱となっています。
同盟政策については、国際関係の項で述べたように負担の再分担がキーワードです。トランプ氏は就任早々NATO諸国に防衛費GDP比2%以上の遵守を強く迫り、2026年までに達成しなければ「根本的な対応」を取ると警告しました。これに応じてドイツやイタリアも防衛予算を増額し始め、NATO内では米国依存を減らす動きが加速しています。また日本・韓国にも思いやり予算(駐留経費)の大幅増額を要求し、両国とも2025年には分担金引き上げで合意しました。ただ、在韓米軍の規模見直し(縮小含み)も取り沙汰されており、2029年までに在韓兵力を現在の2万8千人から半減させる可能性が報じられています。これは北朝鮮との関係改善を図る思惑も一部にはあり、トランプ氏は2026年までに金正恩委員長との首脳会談再開を模索しているとも言われます。北朝鮮の核開発が続く中、外交的打開策として米軍縮小と引き換えに核・ミサイル凍結を目指すシナリオです(もっとも実現性は不透明です)。総じてトランプ政権の同盟政策ビジョンは、「米国が前面に立たずともやっていける同盟関係」への再編です。2029年には、欧州やアジアの同盟国が以前より自律性を増し、米国は必要な時だけ支援するという緩やかな同盟ネットワークが形成されているかもしれません。その姿は米国主導のヒエラルキー型同盟から**「各国が自力で強く、米国は一歩引いた後見人的立場」**への移行です。これは米国の負担軽減に資する一方、同盟国側には不安と不信を残し、長期的には中国やロシアに付け入る隙を与えるリスクがあります。
国内の安全保障・治安についても、トランプ第2期政権は強硬姿勢を鮮明にしています。連邦政府は**「法と秩序の回復」をスローガンに、暴動や犯罪への厳格対処を打ち出しました。例えば2020年の人種正義抗議で焦点となった警察改革策は撤回され、代わりに警察への資金増強とデモ鎮圧権限の拡大が進められています。トランプ氏は国内左翼過激派(Antifaなど)を「テロリスト」と非難し、FBIに対しこれら団体の徹底監視を指示しました。2025年にはポートランドやシアトルでの無政府主義グループ摘発が行われ、複数の逮捕者が出ています。また、トランプ氏の支持者が関与した2021年1月6日の連邦議会襲撃事件で服役中の人物について恩赦を検討しているとの報道もあります。実際、連邦政府内では「政治的対立による訴追」を見直す動きがあり、一部の極右活動家への捜査が縮小しているとの指摘があります(これには批判も強い)。しかしトランプ氏は「政府による政治的迫害の終焉だ」と主張し、自身の支持層を守る姿勢を示しています。さらに第2期政権は「政府の武器化の終結(End the weaponization of government)」**を掲げ、連邦捜査当局が政敵(前政権や民主党支持者)を狙い撃ちにしてきたと非難しました。これを受け司法省やFBI内で人事刷新が行われ、トランプ氏に批判的だった幹部が更迭されています。反対にトランプ氏と近い立場の治安当局者が登用されており、2026年には司法省・連邦捜査当局ともに政権の意向に沿う形で運営されていると予想されます。
国内テロ対策に関しては、イスラム過激派による攻撃は近年減少傾向にありますが、引き続き警戒が続けられています。FBIはいわゆる「ローンウルフ」テロリスト摘発に重点を置き、SNS監視や秘密捜査を強化しています。ただ、トランプ政権はイスラム系住民団体から「信教に基づくプロファイリング」と批判される政策もとっています。たとえば前期にも物議を醸したイスラム圏国籍者の入国禁止措置(通称「ムスリム・バン」)は、新たにアフリカやアジアの数カ国を加えて復活しました。これによりシリアやイランだけでなく、パキスタンやナイジェリアの市民もビザ取得が極めて困難になっています。政府は「テロの温床国からの入国を防ぐ安全保障上の措置」と主張しますが、イスラム教徒差別との批判は国内外から出ています。
以上を総合すると、トランプ第2期政権の安全保障ビジョンは**「選択的に関与する世界最強国家と、内部の秩序を徹底して維持する法治国家」**です。対外的には圧倒的軍事力を背景に必要な時だけ素早く行動し、無用な負担は背負わない現実的な安全保障戦略を目指します。対内的には国境管理から治安維持まで強権的手法も辞さず、「安全で秩序だったアメリカ」を実現しようとしています。2026年の中間選挙では、こうした路線が成果を上げているとアピールするため、例えば移民流入の激減や犯罪率の低下などの統計が強調されるでしょう。2029年には、米国は軍事的には他国を圧倒しつつ国内は厳格な法執行で安定が保たれた国家となっているかもしれません。しかし、その裏側では伝統的同盟網の揺らぎや社会の抑圧的傾向といった副作用も顕在化しつつあります。
政治的戦略:党内支配とメディア活用、強権統治への傾斜
トランプ大統領は再選を果たしたことで、共和党内に絶対的な影響力を持つ存在となりました。第2期政権の政治戦略は、一言で言えば**「トランプ流の支配体制の確立」です。政権運営では忠誠を最重視し、第1期でトランプ氏に異を唱えた官僚や共和党エスタブリッシュメント人脈は徹底的に排除されました。ホワイトハウスや内閣の主要ポストにはトランプ氏に忠実な人物が据えられ、その「イエスマン内閣」は議会共和党にも影響を及ぼしています。具体的には、前期にブレーキ役だった閣僚(例: マティス国防長官やケリー補佐官のような人物)は存在せず、政策決定はほぼ大統領本人の意向で進められています。例えば第2期国務長官には上院議員だったマルコ・ルビオ氏が指名されましたが、彼は上院承認公聴会で「トランプ大統領の意向に従う」と明言し、NATOより台湾やイスラエルを優先すると証言しました。国防長官にもFOXニュースの元コメンテーターという異例の人選(ピート・ヘグセス氏)がなされ、政権の意思決定は極めて個人化・中央集権化しています。このような体制は「トランプ氏自身が国家政策を独断で決める」という統治スタイルを促進し、一部からは「ルイ14世の『朕は国家なり(L’État, c’est moi)』**のようだ」と揶揄されています。しかしトランプ氏はこれを「戦略的な予測不能性」と称し、敵対者を混乱させる狙いだとしています。実際にはその場の思いつきや気分で政策が動き、周囲が後追いで整合性を取るケースも少なくありません。それでも政権内から異論は出ず、内部凝集力は極めて強い状態です。
共和党内でのトランプ氏の地位も盤石です。2025年時点で共和党全国委員会(RNC)から地方党組織に至るまでトランプ派が主導権を握り、「党の顔」としての地位を確立しています。前政権で距離を置いた一部の議員も今やトランプ氏に忠誠を誓っており、連邦議会の共和党議員の多くはトランプ氏の方針に公然と反旗を翻すことはなくなりました。わずかに残る反トランプ系の共和党議員(上院の◯◯氏など)は党内で孤立し、2026年の予備選挙での公認も危うい状況です。トランプ氏は自身に批判的な共和党議員を標的に予備選での対抗馬擁立をちらつかせており、これが強力な圧力となっています。また、トランプ氏は2026年中間選挙に向けた共和党候補者の選別にも深く関与しています。**「トランプの指名」とも言える支持表明は各選挙区で重みを増し、特に予備選では勝敗を左右するほどです。2024年の再選勝利の余勢を駆って、トランプ氏は各州の知事選や上院選にも自らのお墨付き候補を送り込んでいます。そのため共和党候補者はよりトランプ色の濃い人選となり、党の公約や政策綱領も彼のビジョンに沿った内容に刷新されました。共和党は事実上「トランプ党」**と化し、トランプ氏個人の人気と動員力が党勢の鍵を握る構図です。
中間選挙戦略としては、トランプ氏は自ら全国遊説に乗り出し支持者を鼓舞しています。2026年に向けてトランプ氏は各地で大規模集会(ラリー)を開催し、移民問題や文化戦争的トピックで保守層の結束を図っています。例えば、「急進左派は我々の国を壊そうとしている」といった扇動的な言辞で支持者の危機感を煽り、投票行動につなげる戦術です。前期にも見られた手法ですが、再選後はより洗練され、保守系メディアとの連携も強固です。FOXニュースやニューズマックスといった保守系メディアは政権の広報役的存在となり、政権幹部が日曜討論番組などで一斉にトランプ政策を擁護・宣伝する様子が見られます。ホワイトハウスは毎週末「サンデートーク番組」に閣僚らを送り込み、経済成果や移民対策の進捗をアピールしています。実際、財務長官や商務長官がテレビ出演し「世界が米国を搾取してきたのを止める時だ」「貿易不均衡は国家安全保障の問題だ」などとメッセージを発信しました。また政権高官がSNS(旧TwitterことXやTruth Social)を駆使してリアルタイムに情報発信・反論する体制も整えられています。これらメディア戦略によって、野党や批判的報道への対抗が効果的に行われています。トランプ氏自身もTwitterアカウントの使用を再開し、フォロワー数千万に直接語りかける手法で世論を動員しています(2023年にイーロン・マスク氏により凍結解除された後も沈黙していましたが、再選後に本格復帰した形です)。さらにトランプ氏の独自SNS「トゥルース・ソーシャル」も保守層の情報共有基盤として機能しており、主流メディアを介さず支持者と直結するメディア・エコシステムが完成しています。
トランプ政権は対立陣営への攻撃にも余念がありません。バイデン前大統領やオバマ元大統領に関する調査委員会が下院で設置され、いわゆる「不正疑惑」や「汚職」の追及が行われています。これは民主党を牽制するとともに、自身に向けられた数々の法的訴追への報復の意味合いもあります。実際、トランプ氏は自身への多くの訴訟(2020年選挙結果に絡む訴追など)を「魔女狩り」「政治的法制度の悪用」だと主張し、第2期政権では司法省にこれらを**「憲政の危機」として扱わせています。政権発足後、1月20日以降に170件以上の訴訟が政権に対して提起され、そのうち50件もの差止め命令が出されたと述べ「それ自体が憲法危機だ」とトランプ側近の司法長官が反論しました。現在、行政当局はこれら訴訟への対応に全力を挙げる一方、反転攻勢として野党側のスキャンダル摘発に躍起です。要は、「攻防型の政治戦略」であり、常に敵を設定し支持層の団結を維持する手法です。この敵は民主党に限らず、「フェイクニュースメディア」や「ディープステート(闇の政府)」ともされます。トランプ氏は自らを「腐敗した既得権と闘う人民の代弁者」**と位置付け、官僚機構や大手メディアを批判し続けています。これは2016年の当選以来一貫したレトリックですが、2029年に任期終了が近づくにつれ一層過激になる可能性があります。なぜなら2期目が終われば再選はできず、権力掌握が難しくなるため、最後の年次にはなんらかの形で自身の影響力を維持する策を講じると推測されるからです。その一つとして、2028年の大統領選で自らの後継者を指名し当選させることが挙げられます。現職副大統領(今回はJ.D.ヴァンス氏)の擁立や、トランプ氏の長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏を推す動きも噂されています。トランプ氏が引退後も「キングメーカー」として党を支配する体制を残すべく、2026年以降は党内基盤固めと後継構想にも力が注がれるでしょう。
最後に、トランプ第2期政権の国家ビジョンの総括を行います。以上見てきた各分野の政策はいずれも、トランプ氏が思い描く「強く偉大なアメリカ」を実現するためのピースです。それは国際的には独善的ともいえる振る舞いで他国に譲歩を強いる超大国であり、国内的には異質な要素を排除し伝統的価値と治安が守られた統一国家です。トランプ氏の過去の発言や性格傾向(強烈な自己顕示欲、勝者への固執、敵味方を明確に分ける二元論)を考慮すれば、2029年時点で彼が目指す国家像はまさに**「アメリカ第一で世界を再編し、国内は忠誠で固められた国家」**と表現できるでしょう。それは戦後秩序を揺さぶり、国内統治のあり方も変質させる可能性を孕んでいます。支持者にとっては痛快な米国復活の物語ですが、批判者にとっては民主主義や法の支配の危機でもあります。2026年の中間選挙はこの路線への中間評価となり、結果次第でトランプ氏の残り任期の自由度が決まるでしょう。そして2029年、8年間のトランプ統治の総決算として、米国がどのような姿になっているのか――それは米国のみならず世界にとって大きな注目点となるに違いありません。
『トランプ関税ショック』 市場を揺るがす通貨戦争と投資家の分析:株式・暗号資産の急落から読み解く、保護主義の代償と資産防衛戦略
補足
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2025年現在 は大きな政策を打ち出し始めたばかりで、市場や国際社会に混乱や抵抗が生じているものの、政権内部はトランプ大統領に忠実な布陣で固められています。
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2027年の中間選挙 では、打ち出した強硬策や大胆な外交・経済戦略が「目に見える成果」として取りまとめられ、トランプ政権は支持者向けに大々的に宣伝を行うと予想されます。
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2029年の任期終了時点 には、外交面では対中デカップリングや同盟国の自立化、内政では移民排除・規制緩和・エネルギー支配など、「トランプ流のアメリカ第一政策が完成された」という形を演出することを目指していると考えられます。
なお、これらはあくまで「トランプ氏が目指す(と推測される)理想像」であり、実際には国内外の反発・世界的な経済影響・政権内外の対立・法的制約などの要因により、計画どおりに進む保証はありません。
参考資料:
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Carnegie Endowment. Ten Themes in Trumpian Foreign Policy (2025年3月)russiamatters.orgrussiamatters.org
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その他、各種報道・論評arabcenterdc.orgarabcenterdc.orgなど