2025年4月 トランプ関税ショック後の株価シナリオ分析
2025年4月2日夕方(米国時間)のトランプ米大統領による大規模関税発表をきっかけに、世界の株式市場は急落しました。日本株の日経平均株価は3月末の高値3万8220円からわずか9営業日で約7428円(19.4%)も下落し、4月7日には終値3万1136.58円(前週末比-2644円、-7.8%)まで急落しています。取引中には約1年半ぶりに心理的節目の3万1000円を割り込み、歴代3番目の下げ幅となる一時約3000円安(安値3万0792.74円)を記録しました。米国株も同様に急落し、4月3日(米国市場)にはダウ平均が1679ドルもの暴落、S&P500指数は一日で**-4.8%という大幅下落となり、シカゴ市場の恐怖指数(VIX)も昨年8月以来の高水準となる30超えまで急騰しました。しかしその後4月8日には、日本株は一時2000円超高と急反発し、大幅なリバウンドを見せています。この急落と反発を受け、今後の株価推移が「二番底」に向かうのか、それともこのまま順調に回復に向かうのか**、非常に注目されています。以下では、過去の大幅下落局面の類似点・相違点に触れつつ、複数のシナリオを想定した上で、テクニカル・ファンダメンタル・地政学・市場心理の観点から今後の株価動向を分析します。
『トランプ関税ショック』 市場を揺るがす通貨戦争と投資家の分析:株式・暗号資産の急落から読み解く、保護主義の代償と資産防衛戦略
過去の急落局面との比較:二番底かV字回復か
大幅下落後の株価推移は歴史的に見てもケースバイケースですが、過去30年の主要な急落局面を振り返ると、大きく「二番底(ダブルボトム)型」と「V字回復型」に分けられます。また、その中間として底這い・揉み合い後に徐々に回復するケースもありました。
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リーマンショック(2008年): 米証券大手リーマン破綻を契機に世界的な金融危機となり、株価は長期低迷しました。当初の急落後に一旦反発する局面もありましたが、その後金融システム不安や景気悪化で複数回の安値更新(二番底・三番底)を経て、最終的な大底は半年後の2009年3月でした。パニック的売りが一巡した後も実体経済の悪化が鮮明となり、追加の下落を招いた典型例です。二番底が形成される背景には、最初の急落による信用収縮や企業業績の悪化などファンダメンタルズの悪化が追い打ちをかけるメカニズムがあります。
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コロナショック(2020年): 新型コロナウイルスの世界的流行で株式市場は2020年2~3月に約30%もの急落となりました。しかし各国の前例のない金融・財政支援策により、市場は短期間でV字回復しました。初動の急落(一番底)からほとんど下値を試すことなく上昇に転じ、その後はコロナ前の高値を更新しています。大規模な流動性供給で景気悪化をカバーし、投資家心理も急速に改善したことで二番底を形成しなかった稀なケースと言えます。一方で当時も「景気悪化で遅れて二番底が来る」との見方は根強くあり、実際に一部では二番底を警戒する局面も続きました。
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米中貿易戦争(2018年): トランプ前大統領が中国に対する関税措置を次々と発表し、2018年は貿易摩擦が市場の大きな波乱要因となりました。2月初旬と10月~12月にかけて米国株は二度の大幅調整を経験し、特に後者ではピーク比20%近い下落となっています。最初の関税発表後、市場は一時的に反発したものの(いわゆる「ツイッター発言→株安→その後交渉観測で反発」の繰り返し)、最終的には年末にかけ二番底的な安値を更新しました。その後、2019年にはFRB(米連邦準備制度理事会)の金融緩和スタンス転換や米中協議進展(部分合意)もあって株価は持ち直しましたが、貿易交渉の不透明感が続く間は何度か中間的な反落を挟みつつの段階的な回復となりました。
以上のように、急落後の展開はその下落要因の継続性や政策対応、経済への波及によって異なります。今回のケース(2025年4月の関税ショック)は、性質的には2018年の貿易戦争に近く、政策発表による人為的ショックである点が特徴です。金融システム不安が主因だった2008年とは異なりますが、急激な景気減速懸念という点では共通部分もあります。また2020年のような直ちに巨額支援策が打たれる状況ではなく、むしろ各国金融政策はインフレ対応で金利水準が高めに維持されている局面です。このため、「コロナショック時のような即座のV字回復」はやや期待しにくい一方、政策発動次第では事態打開が比較的早期に進む可能性もあります。以下では、今後考えられる複数のシナリオについて詳細に見ていきます。
シナリオ1: 二番底を模索する弱気シナリオ
〈概要〉
急落後の自律反発(テクニカルリバウンド)が一巡すると、再び下落圧力が強まって二番底(ダブルボトム)形成に向かうシナリオです。すなわち4月7日の安値水準(約3万1000円)を割り込むか、その近辺までもう一段の下落が起こり、日経平均・米国株ともにもう一つ底値を付けに行く展開です。その後、遅れて景気・業績の悪化が数字で確認され、投資家の悲観が極まった段階でようやく底入れとなる可能性があります。
〈主な条件・要因〉
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関税交渉の難航・摩擦激化: 最大の下振れ要因は、米国の関税強硬姿勢が続き、各国(特に中国や欧州)が対抗措置を発動して貿易戦争が激化することです。トランプ大統領は「他国から驚くべき提案があれば関税引き下げに応じる」とも発言していますが、裏を返せば提案がなければ追加関税も辞さない構えです。交渉が難航し4月9日以降に予定された高関税が予定通り発動されると、企業収益への懸念と報復合戦の不透明感から追加の売り圧力がかかりやすくなります。特に日本や欧州への関税率(最大24%など)が引き下げられない場合、輸出産業中心に業績悪化懸念が深まり株価を押し下げるでしょう。
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企業業績の下方修正・景気後退懸念: 急激な関税コスト増やサプライチェーン混乱によって企業マインドが冷え込み、4~6月期以降の業績見通しが慎重化するリスクがあります。例えば為替市場ではリスクオフで円高ドル安が一気に進行しましたが、急激な円高は日本企業の輸出採算を悪化させ、今後の決算発表で業績予想の下方修正が相次ぐ懸念があります。実際、現在の日経平均株価の予想PERは急落で適正水準まで低下したものの、もし利益予想が引き下げられれば見かけの割安感は幻となり、更なる株価下落要因となり得ます。また米国でも関税の波及でインフレ高進→実質購買力低下→景気減速という連鎖が警戒され、リセッション懸念から株価が追加で売られる可能性があります。
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テクニカルな戻り売り局面: テクニカル分析上も、日経平均は今回の反発で依然下落トレンドの範囲内に留まるとみられます。急落前のサポートだった3万4000円台後半~3万5000円付近が目先レジスタンスとなり、この水準を明確に上抜けないままリバウンドが息切れすると、失望感から再度売り直される展開が想定されます。移動平均線も短期・中期線が急角度で下向きに転じており、戻り局面では25日線や50日線近辺で上値が重くなる可能性があります。RSIなどオシレーター系指標は4月初旬に極端な売られ過ぎシグナルを出しましたが、反発によっていったん中立圏に戻れば、新規材料次第で再び下向きに振れるリスクもあります。
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投資家センチメントの悪化継続: 恐怖指数(VIX)は一時30超まで急伸し高止まりしています。市場心理は依然不安定で、「今回の反発は一時的なブルトラップ(弱気相場の罠)ではないか」との見方も出ています。実際、昨年8月の急落後にも一度大きなリバウンドがありましたが、その後弱材料で失速し二番底を付けました。今回も同様に楽観は続かないとの懸念が強まれば、リバウンド局面での戻り待ち売り・ショート構築が増え、下落再開に拍車をかけるでしょう。「二番底は必ず来る」というマーケットのアノマリーを信じる向きも多く、投資家が慎重姿勢を崩さない限り上値は重くなりがちです。
〈株価・経済への影響〉
このシナリオでは、株価指数はもう一段の安値更新を試すと予想されます。日経平均は前回安値の3万0792円(4月7日安値)を下回り、過去の大底である2024年8月安値3万1156円を視野に3万円前後まで下落する可能性があります(場合によっては一時的に3万円割れも想定される)。米国株もS&P500指数で年初来安値圏まで売り込まれ、具体的には直近高値比で20%超安となる水準(※仮に直近高値4600とすると約3600~3700ポイント台)まで下落し、技術的に弱気相場入りする局面があり得ます。実体経済面でも、株安による資産効果の縮小や企業マインド悪化から設備投資・消費が鈍り、景気後退リスクが高まるでしょう。各国当局も株安放置はしないものの、実際に政策効果(例えば米FRBの利下げや日本政府の景気対策など)が現れるまでタイムラグがあるため、底打ち時期は夏場~秋口にずれ込む可能性があります。その間、相場は悲観ムードに支配されやすく、出来高増加を伴う**セリングクライマックス(投げ売りのピーク)**が訪れてからようやく本格的な反転につながる展開が考えられます。
一方で、仮にこの弱気シナリオが進行した場合、二番底形成は長期的には絶好の買い場にもなりえます。ダブルボトムが確認されればチャート的には底入れサインとなり、その後のリバウンドは力強い可能性があります。従って下振れリスクに備えつつ、中長期投資家にとっては安値圏での有望株の仕込みチャンスとも位置付けられます。ただし、実際に二番底で反転するか、更なる連鎖安(三番底以降)に陥るかは、政策対応や地政学リスク次第でもあり注意が必要です。
シナリオ2: 順調に回復へ向かう強気シナリオ
〈概要〉
4月初旬の急落で悪材料を織り込み終え、株式市場が底打ちしてここからV字型とはいかないまでも着実な回復トレンドに入るシナリオです。日経平均は4月7日を一番底として下値を切り上げ始め、今後は高値圏への戻り基調が継続すると想定します。米国株も主要指数が200日移動平均線など長期トレンド支持線を維持し、調整終了から再度上昇軌道に乗る展開です。過度な悲観が後退し、市場センチメントが改善することで二番底を付けに行くことなく徐々に高値を更新していくパターンです。
〈主な条件・要因〉
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関税問題の早期沈静化: このシナリオの前提条件は、関税を巡る米国と各国の対立が市場の想定より早く和らぐことです。例えば、日本やEUが米国との協議で一定の譲歩策を提示し、トランプ政権が段階的に関税引き下げや発動延期に応じるような進展があれば、貿易摩擦リスクが大幅後退します。実際、トランプ大統領は4月3日に「驚くべき提案があれば関税引き下げにオープンだ」と発言しており、裏では交渉余地を示唆しています。仮に早期に米中や米欧間で妥協点が見いだされれば、市場は「最悪期脱出」と受け止めて安心感から買い戻しが進むでしょう。また4月5日・9日に予定されていた関税発動が一部見送り・減額となれば、それ自体がポジティブサプライズとなり株価押上げ要因となります。
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政策支援・金融環境の好転: 急落を受けた各国中銀・政府の機敏な対応も、強気シナリオを後押しする重要な要因です。例えば米FRBが金融引き締め姿勢を緩和し、「必要なら利下げも辞さない」とのハト派スタンスを示せば、将来の企業収益や株式価値の押し上げ要因となります。日本でも日銀が機動的なETF買い入れや金融緩和姿勢を維持し、政府も緊急経済対策で企業支援や減税策を打ち出せば、政策の下支えが意識されるでしょう。金利面では、株安に伴う債券買いで米長期金利が低下(利回り低下)すれば株式の相対的魅力が再評価されますし、企業の資金調達環境も改善します。総じて流動性供給と政策協調により「株価下支え発言」が相次げば、市場心理の落ち着きとともに自律反発が本格的な上昇基調に繋がりやすくなります。
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堅調なファンダメンタルズ: 現時点では世界経済は底堅く推移しており、今回の株安要因は主に政策発表によるセンチメント悪化でした。もし実体経済への波及が限定的で、企業業績も一時的な影響に留まるなら、株式市場は急落前の上昇トレンドに復帰しやすくなります。たとえば米国では内需系企業を中心に業績上方修正が相次ぎ、全体としてEPS(1株利益)成長が維持されています。日本企業も為替や資源高の逆風はあるものの、価格転嫁の進展や内需の底堅さで利益を確保できれば、急落によるPER低下が「割安」と判断され買いが入りやすいでしょう。つまり、ファンダメンタルズに大きな崩れがないとの確信が持てれば、今回の急落がいわば「行き過ぎ」であったとして投資家が押し目買いを加速させる可能性があります。
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テクニカル好転シグナルの出現: テクニカル面でも、急落の反動で強いリバウンドサインが点灯しつつあります。日経平均は4月7日時点でボリンジャーバンドの-3σを大きく下回る異常値に達し、「売られ過ぎ」が意識されやすい水準でした。そこからの反発で急落前のギャップダウンを埋めるような上昇が続けば、アイランドリバーサルやダブルボトム完成など底入れを示唆するチャートパターンが形成される可能性があります。例えば日経平均が3万5000円台を明確に回復し、米S&P500が50日・200日移動平均線を再度上抜いて定着すれば、テクニカル的に上昇トレンド復帰が確認されるでしょう。出来高も急落局面で膨らんだ後、反発局面で減少に転じており、これは悲観売りが峠を越えた兆候と読むこともできます(売りたい人が売り終えた可能性)。
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改善する市場心理: 4月8日の急反発劇を見る限り、一部では押し目買い意欲も健在であることが示唆されました。実際8日の日経平均は一時2000円超高となり、大きなリバウンドを演出しています。このような動きは投資家心理の過度な悲観からの揺り戻しを表します。昨年8月の急落時には素早いV字回復が実現しましたが、今回それを期待する声は少数派ながらゼロではありません。関税問題さえ峠を越えれば、需給的にも年初から売り越していた海外投資家が買い戻しに転じる可能性があります。またVIX指数もピークアウトし低下に向かえば、リスク許容度の回復とともに強気マインドが戻ってくるでしょう。市場には「二番底は来ないのではないか」という見方も一定数あり、そのような楽観派の買いと悲観派の買戻しが合わさることで自律反発が本格上昇に転じる展開が描けます。
〈株価・経済への影響〉
このシナリオでは、株価指数は急落前の水準を比較的早期に回復すると予想します。日経平均は4月中にも3万5000円台を回復し、夏場にかけて3万7000~3万8000円近辺まで戻す可能性があります。米国のS&P500指数も急落前の水準(4500ポイント前後と仮定)を取り戻し、年後半には過去最高値圏への挑戦も視野に入るでしょう。実際、2020年のコロナ禍以降、市場は下落局面ごとにFRBや政府の手厚い支援で早期立ち直りを遂げてきました。今回もショックが一時的と判断されれば、大胆な金融緩和や財政出動がなくとも民間の投資マネーが押し目を拾い、結果的にV字型に近い回復が実現するかもしれません。
景気面でも、株価が持ち直せば資産効果の改善を通じて消費マインドが維持され、企業も設備投資計画を据え置くでしょう。金利低下が進めば住宅や自動車販売など金利感応部門にも追い風です。総じて実体経済へのショック波及は軽微で、むしろ関税交渉の進展によって不確実性が後退すれば企業・消費者マインドは上向き、2025年後半にかけて景気拡大が続く可能性もあります。ただし、強気シナリオの場合でも株価が一直線に上がり続けるわけではなく、途中では利食い売りや材料出尽くしによる調整局面も挟む点には注意が必要です。その調整が浅く、一段高の展開が維持できるかがこのシナリオ成就のカギとなります。
シナリオ3: 神経質な相場を経て緩やかな回復(中間シナリオ)
〈概要〉
弱気・強気の中間に位置するシナリオで、目先は不安定な値動き(ボラティリティ高止まり)が続くものの、結果的には徐々に下値を切り上げながら回復基調に向かう展開です。二番底シナリオほどの深い安値更新は避けつつも、強気シナリオのような一直線の上昇にはならず、レンジ相場やW字回復を経てゆっくりと高値圏を目指す形です。市場参加者の強弱感が対立し、ヘッドラインニュース(関税交渉の進展報道や追加関税の発動観測など)に振り回されながらも、時間の経過とともに悪材料への耐性がつき、基調としては底堅さを取り戻していくシナリオです。
〈主な条件・要因〉
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関税問題の部分解決と長期化: 米国と各国の関税交渉は一定の進展を見せるものの完全妥結には至らず、追加関税の一部は実行されてしまうような状況です。この場合、最悪の事態(全面貿易戦争)は回避されつつも、関税措置自体は一部残るため不透明感がくすぶります。市場は好材料(「○○関税適用除外」等)に反応して上昇するものの、合意遅れの報道や各国要人の強硬発言が出る度に下落するといった神経質な展開が予想されます。言い換えれば、「悪材料出尽くし」とまでは言えないが決定打となる悪材料もない、という状態です。例えば米中間ではハイレベル協議が継続しているが部分的な合意に留まり、市場は交渉の一進一退を横目に方向感の定まらない値動きをするかもしれません。
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景気・業績は底堅いが楽観できず: 実体経済は減速するもののリセッションには陥らず、企業業績も多少の下振れはあっても致命的ではない、という前提です。例えば日本企業では外需悪化分を内需や新興国需要でカバーし、減益決算はあるものの想定内と受け止められるケースです。米国でも金利高止まりや関税の悪影響は一部産業に出るものの、労働市場の堅調やサービス消費の強さで景気全体は持ちこたえる、といったシナリオです。結果として企業EPS成長率は鈍化するがプラスは維持、PERも中立的水準(米国で16~18倍、日本で13~15倍程度)で安定し、株価の下支え要因となります。ただし強気シナリオほどの上方修正期待は持てず、慎重スタンスが残るため急騰もしにくい状況です。
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テクニカルなレンジ相場: チャート上は4月初旬の急落で明確な下値支持線が形成された一方、上値も直近高値圏で抑えられ、しばらくはレンジ内で推移する可能性があります。日経平均でいえば3万1000円~3万6000円程度のレンジ幅で上下動し、方向感に乏しい展開が数週間から数ヶ月続くかもしれません。この間、移動平均線は水平に近くなり、出来高も平常レベルに戻っていくでしょう。投資家も積極的な買い上がりは控える反面、大崩れすれば押し目買いが入るため、大きく崩れもせず上がりもしないボックス相場的な動きとなります。テクニカル指標ではMACDや一目均衡表の基準線がフラットになる一方、ボリンジャーバンドもエクスパンション後に収束し始め、保ち合い局面を示唆するでしょう。
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市場心理の揺らぎと安定化: 投資家心理は悲観と楽観の間で揺れ動きます。VIX指数は急騰後に徐々に低下するものの、平時よりやや高め(たとえば20前後)で推移し、完全には安心しきれない水準が続くかもしれません。ニュースヘッドラインに一喜一憂しやすい地合いですが、時間の経過とともじわじわと「最悪期は脱したのでは」という見方が増えてきます。先行きへの不安は残りつつも、「この価格なら割安」と感じる投資家や機関投資家が少しずつ買い下支えするため、結果的に下値切り上げの形になっていきます。市場には強気派・弱気派双方の見方が混在し、売買高も低調ですが、そうしたエネルギーの蓄積期を経て、やがて明確な好材料(例えば本格的な関税合意や追加緩和策)が出た際に一気に上放れする土台が築かれることになります。
〈株価・経済への影響〉
この中間シナリオでは、株価の本格的な戻りには時間がかかるものの、下値不安は徐々に後退していくとみられます。日経平均は当面3万1000円台を底値圏として維持しつつ、上値は3万5000円前後で抑えられるレンジ推移が想定されます(少なくとも四半期ベースで見るとその範囲に収まる)。その後、秋口や年末にかけて関税問題の解決や景気の持ち直しが確認できれば、改めて3万6000円超へのトレンド転換が生じ、最終的には高値圏を目指す展開に移行するでしょう。米国株についても、S&P500は一時的に**調整局面の安値圏(例えば4000±200ポイント)**でもみ合うものの、企業収益の底堅さが確認されるにつれて徐々に押し目での買いが優勢となり、年末頃には最高値更新に向けた上昇基調に回帰すると予想されます。
経済への影響は一進一退です。関税自体は一部発動するためインフレ率がやや上振れし、各国中銀はすぐには利下げに動けません。このため成長率は一時的に減速しますが、金融システム不安や需要崩壊といった極端な事態には至りません。企業もコスト増を価格転嫁や費用削減で吸収し、雇用も大幅カットは避けられるでしょう。家計も株価の低迷で資産効果は弱まりますが、雇用所得環境が大きく崩れないため消費は底堅さを保つと見られます。つまり、経済は停滞感はあるが崩壊的ではない「踊り場」のような状態が続き、その間に将来の好転材料を待つことになります。投資家も無理なリスクテイクは控えますが、逆に言えばポジションは軽く、悪材料にもある程度耐性がついている状態です。やがて訪れる次の方向感(上か下か)に備えてエネルギーを蓄積する期間とも言え、政策当局にとっても腰を据えて対策を講じる時間的余裕が生まれるでしょう。
以上、3つのシナリオを整理すると以下のようになります。
『トランプ関税ショック』 市場を揺るがす通貨戦争と投資家の分析:株式・暗号資産の急落から読み解く、保護主義の代償と資産防衛戦略
まとめ:不確実性高い局面では柔軟な戦略を
足元では「二番底を警戒すべきか、それとも今回の反発で底打ちとみるべきか」市場の見方は割れています。昨年8月の急落時は結果的にV字回復しましたが、同じパターンになるとの見立ては現時点では少数派であり、多くの投資家が慎重姿勢を崩していません。一方で、関税ショックという政策要因の株安は当事者(各国政府)の裁量で比較的コントロールしやすい面もあり、電撃的な妥協や撤回が実現すればサプライズ的な急騰も起こり得ます。まさに「楽観もできないが悲観一辺倒も危うい」局面であり、シナリオ分析に基づく柔軟な対応が求められるでしょう。
投資戦略としては、**悲観シナリオ(下落再燃)**に備えてリスク管理を徹底しつつも、楽観シナリオ(早期反騰)に置き去りにされないよう、ポジションを完全にゼロにしないといったバランス感が重要です。二番底懸念が残る間は、防御的セクターやボラティリティ指数連動商品でのヘッジ、あるいは逆張りの買いを狙うにしても段階的な資金投入(時間分散)などが有効でしょう。一方で、下落局面では歴史的に見ていずれ好転局面が訪れているのも事実です。今回もグローバル経済のファンダメンタルズが大きく崩れない限り、時間の問題で回復基調に移行すると考えられます。従って腰を据えた長期投資家は、二番底が来るにせよ来ないにせよ、割安・優良な銘柄を慎重に選別し仕込んでいく好機とも言えます。
最後に、今後注意すべきポイントとして、地政学リスク(米中以外の国際情勢や安全保障上の突発事案)、金融政策の転換点(インフレ指標や中央銀行の姿勢変化)、そして市場テクニカル指標(出来高推移やオプション市場動向)などがあります。こうした要因にもアンテナを張りつつ、上記シナリオのどの方向に現実が近づいているかをモニタリングすることが肝要です。株式市場は常に不確実性を孕むものですが、十分な分析と準備により、どのシナリオに転んでも慌てず適切に対応できるでしょう。今回の関税ショックという試練を乗り越えた先には、また新たな相場の潮流が見えてくるはずです。それまでは防御と攻めのバランスを取りながら、冷静に市場と向き合っていきたいところです。