以下の順に分けて、それぞれのステップが体内でどう働き、結果的に“普段ではありえないトランス状態”をもたらすのかを明らかにします。


バスタオルを被せる:視覚遮断と感覚統制

🧠 科学的・心理的影響:

  • 視覚情報の遮断により、脳は外部刺激(主に視覚)をカットオフします。これにより感覚処理の負荷が減少し、**内面感覚(呼吸、体感、感情)**に意識が集中しやすくなります。

  • 脳内では視覚野活動が低下し、代わりに体性感覚野・聴覚野の感度が上がるとされ、暗示の受容性が高まる傾向があります。

  • バスタオルによる“カプセル感”が安心感と集中の両方を強化し、心理的には「ここは安全な異空間」「施術者のコントロール下にある」という没入状態を促進します(軽度の感覚遮断:sensory deprivation)。


速い吐く呼吸(過呼吸)×20〜30回(約1分)

🫁 生理的・神経的変化:

  • これは意図的な軽度の過換気です。呼吸によって二酸化炭素(CO₂)が急速に排出され、血中CO₂濃度が低下 → 呼吸性アルカローシスを一時的に引き起こします。

  • この状態になると:

    • 脳血管が一時的に収縮脳内酸素供給が減少(脳虚血気味)

    • めまいや手足のしびれ(テタニー)を伴うこともあり

    • 非常に軽度な意識の薄れ・非現実感・浮遊感を引き起こしやすくなる

脳内酸素供給が軽度に揺らぐと、意識の解離感や空白感が生まれやすく、暗示を受け入れやすい状態になる。これは変性意識状態への“ブリッジ”となる。

🧠 神経伝達物質の活性:

  • 過呼吸は一時的に交感神経を刺激アドレナリン、ノルアドレナリンが上昇

  • 直後の反動で**副交感神経の揺り戻し(リバウンド)**が起きやすくなり、急激に脱力・恍惚感が広がることがある

  • さらに、エンドルフィンやドーパミンが誘発されれば、恍惚・陶酔感へと移行


首付近に手を当てる:神経心理的タッチと頸動脈刺激

🧠 神経生理的要素:

  • 頸部には自律神経のセンターといえる迷走神経の枝が密集しています。また、頸動脈洞(Carotid Sinus)と**頸動脈小体(Carotid Body)**があり、それぞれ:

    • 血圧(圧受容器)と

    • 血液中の酸素・二酸化炭素濃度、pH(化学受容器)
      …を感知して自律神経バランスを瞬時に調整する反射機構を持ちます。

🩺 この部位への軽い接触・圧迫が誘発する可能性のある反応:

  1. 一時的な頸動脈の血流変化(軽い減少)→ 脳血流量が微弱に変動 → わずかな意識の変性・軽度の虚血感

  2. 頸動脈洞反射により、副交感神経(迷走神経)反射の活性化 → 心拍数減少、血圧低下 → 「ふわっ」とする

  3. 一種の**神経性迷走反応(vasovagal reaction)**として、脳内に一時的な“シャットダウン”に近い状態が生まれることも

✅ つまり、「首への手当て」は物理的接触を通じて、自律神経系に強い入力信号を与え、意識変容スイッチを押す役割を果たしている可能性が高い。

🧠 心理的・暗示的要素:

  • 首に手を当てられるという行為は、原始的には「無防備」「委ねる」体勢に入る行為 → 支配と安心のアンビバレントな感情が喚起されやすい

  • この心理状態は、暗示の入りやすさ・自我境界の融解に繋がるため、トランス深化を促進する


背中をのけ反らせる(後屈)

🧠 身体的・神経反射的効果:

  • 背中を反らされる動作は自律的防衛反応を引き出す姿勢であり、通常の生活では“身を守る”ために避ける動き。

  • にもかかわらず、その体勢を**「自分の意志ではなく他者に促されて」**行うことにより、筋肉の抵抗が崩れ、急激な脱力反応が起こることがある。

  • 同時に体幹が開かれ、胸郭・腹腔内圧が変化 → 自律神経系が反応し、**瞬間的なトランス移行現象(hypnagogic jolt)**を引き起こす。

🩺 脳血流・循環への影響:

  • のけ反る体勢によって頸動脈の走行・角度がわずかに変化し、血流が軽く滞るまたは一時的に変動する可能性があります。

  • 同時に静脈還流が変化することで、脳圧や脳の酸素分布に**微小なムラ(=非日常的な感覚)**が発生しやすくなります。

✅ 結果として、「今、身体が自分のコントロール下から離れた」という解離的体験や、「浮遊感・陶酔感」など、変性意識状態の定番的な感覚が出現しやすくなります。


⑤ 総合メカニズム:なぜこれで一気に“トランス状態”に入れるのか?

以下のような**一連のトリガー(神経的・心理的ショック)が短時間で起きることで、脳は通常の意識制御を手放し、変性意識状態へ“切り替わる”**と推定されます。

 

 


🔍 補足:頸動脈の血流とトランス状態の関連性

☑️ 頸動脈圧受容体刺激(Carotid Sinus Reflex)

  • 頸動脈洞を刺激すると、副交感神経が活性化され、急激な血圧低下・心拍数減少が起きることがある(→失神を誘発する例も)

  • 催眠やトランスでは、この反応を「意図的に軽く」利用して、意識を落とすことも可能

  • 岩波式では「軽い接触」にとどめているため、安全域でこの反応を起こし、“脳への酸素供給が変化した”という非日常感を生むと考えられる


✅ 結論:この一連の流れは「脳のOSを一時停止→再起動」させる誘導ルート

岩波氏の手法は、脳を“揺らがせる”刺激(生理的+心理的)を短時間に連続で与えることで、脳のデフォルトモードネットワーク(DMN)や前頭前野機能を一時的に抑制し、自己意識・自己検閲を解除していると推測されます。

  • 「視覚を遮る」→ 外界との遮断

  • 「呼吸でCO₂変化」→ 内部生理の乱れと恍惚の種まき

  • 「頸部刺激」→ 脳血流・神経反射による急激な揺らぎ

  • 「姿勢操作」→ 身体支配の喪失と一気の解放

この結果、通常ではありえないような超集中・陶酔・浮遊・退行・覚醒感が一体となったトランス状態が生まれます。