2024年後半のポートフォリオ主要変化

大規模な売却・現金比率の増加: バークシャー・ハサウェイは2024年後半にポートフォリオの大幅な見直しを行い、過去数年にわたり保有してきた一部の大型株を大きく削減しました。特に注目すべきは、同社最大の保有銘柄であるアップル(Apple)株の売却です。バークシャーは2024年夏までにApple株の約25%に相当する約4.9億株を売却し、同年9月末時点で約3億~4億株程度まで保有を減らしました​

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。これにより得た資金も含め、バークシャーの手元現金は2024年9月末時点で過去最高の3,252億ドルに達しています​

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。同社は2022年末以降、8四半期連続で株式を純売却しており、2024年7-9月期(第3四半期)も「361億ドルの株式を売却し、新規購入はわずか15億ドル」に留まりました​

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。バークシャーの現金準備の増加は、市場に対する慎重姿勢の表れと見られており、専門家からは「豊富な現金保有はリスク回避(リスクオフ)の姿勢を示唆する」との指摘もあります​

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主要持株の削減・売却: Apple以外にも、銀行株など金融セクターの持株を縮小しています。バークシャーは長年第二位の保有銘柄だったバンク・オブ・アメリカ(BofA)株を2024年後半に大きく削減しました。2024年7月時点で約103億株保有していたBofA株は、同年末には15%減の約68億株となり、7月以降の半年で全体の約1/3を売却した計算になります​

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。またシティグループ(Citigroup)株も2024年10-12月期に約74%を売却し、残り保有はわずか1460万株となりました​

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。さらに、中堅銀行のキャピタルワン(Capital One)や南米のフィンテック企業Nu Holdingsなども保有比率を引き下げています​

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。一連の銀行株売却により、BofAは依然としてバークシャーの上位保有銘柄の一つではあるものの、その評価額は低下し順位も変動しています。

新規・追加投資: 一方で、バークシャーは全面撤退したわけではなく、厳選した銘柄には新規投資や買い増しを行っています。2024年後半に新規取得・増額が顕著だった銘柄は以下の通りです。

  • コンステレーション・ブランズ(Constellation Brands): 2024年10-12月期に新規取得された銘柄の一つです。同社はビール「コロナ」や「モデルナ(Modelo)」、ワイン・スピリッツを手掛ける大手飲料企業で、バークシャーは約5.62百万株(評価額約12.4億ドル)を取得しました​

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    。取得公表後、同社株価は時間外取引で約6.7%上昇しており、市場は「オマハの賢人」によるお墨付きと捉えています​

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    。モデルナ・エスペシャルが2023年に米国ビール販売首位となるなど堅調なブランド力を背景に、消費者 staples(生活必需品的な飲料)セクターへの長期的な魅力を見出した可能性があります。
  • ドミノ・ピザ(Domino’s Pizza): 2024年7-9月期に新規取得された銘柄です。9月末時点で128万株(約5.49億ドル相当)を保有していたことが開示され​

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    、その後10-12月期にはさらに86%もの大幅買い増しを実施しました​

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    。結果として年末時点の評価額はおよそ10億ドル規模に達したとみられます。世界的ピザチェーンであるドミノ・ピザへの投資は、インフレ環境下でも比較的安価で需要の落ちにくい外食産業への着目とも考えられ、株価下落局面での割安感を捉えた動きと推察されます。
  • オキシデンタル・ペトロリウム(Occidental Petroleum): エネルギーセクターでは、バークシャーは引き続きオイルメジャーへの強気姿勢を示しています。2022年以降持株比率を高めてきたオキシデンタル株は、2024年末にかけても追加購入されました。例えば2024年12月中旬には、株価が年初来安値付近まで調整したタイミングで約890万株(約4億ドル規模)を45~47ドルの価格帯で買い増しし、同社の普通株保有は合計2億6420万株に達しています​

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    (この他に優先株も保有)。バークシャーは当局からオキシデンタル株を最大50%まで取得する許可を得ており、原油市況の低迷を「押し目買い」の好機と捉えて継続的に買い増していることが示唆されます​

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    。この動きはエネルギー・資源セクターへの引き続き強い信頼を反映しています。
  • その他の追加投資: 上記以外にも、小規模ながら注目すべき買い増しがありました。衛星ラジオ放送の**シリウスXM(Sirius XM Holdings)株は、2024年末に約500万株を20~22ドル(株式併合の影響で高い価格帯に見えますが併合考慮後)で購入し、保有は1億1750万株に増加しました​

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    。また2024年7-9月期には航空宇宙部品メーカーのヘイコ(Heico)**株を買い増ししています​

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    。ヘイコは航空機の補修部品などニッチ分野で高収益を上げる企業で、航空・防衛産業の需要回復を見越した動きと考えられます。さらに、**プール(Pool Corp)**株も7-9月期に新規取得(40.4万株・1.52億ドル相当)され​

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    、シリウスXM同様に事業環境悪化で株価が低迷した銘柄への押し目買い戦略が伺えます。
  • 日本株への投資: 米国以外では、引き続き日本市場への投資が注目されます。バークシャーは2020年8月に日本の主要商社5社(伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事)にそれぞれ約5%ずつ出資したことを公表し、その後2023年までに持株比率を各社約9%前後まで引き上げました​

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    。2024年2月の年次報告書でも「日本の5大商社に約9%の持分を保有」とされています​

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    。これら商社株は低PER・高配当利回りで知られ、コモディティから消費財まで幅広い事業ポートフォリオを持つ点で“小さなバークシャー”とも言える存在です。バークシャーは定期的に円建て社債を起債しており(直近では2024年10月に約2,818億円の起債​

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    )、調達資金は「一般企業目的」に用いるとしつつも、日本株投資の継続的な拡充に充てられるとの見方があります​

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    。実際、バークシャーの日本株志向は海外投資家の日本市場再評価を促し、2023~2024年の日本株式相場(日経平均)の上昇要因の一つともなりました​

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    。なお、中国市場に関しては、電気自動車メーカーのBYD株を2008年から長年保有してきましたが、株価高騰後の2022年以降段階的に利食い売りを進め、2024年中頃までに出資比率を5%未満にまで低下させています​

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    。こうした動きから、バークシャーは米国以外では日本を中心に成熟・割安な市場に注目し、一方で中国など新興市場でのリスクは縮小傾向にあると言えます。

特定銘柄の完全売却: 上記のような大型売買に加え、2024年後半には一部銘柄からの完全撤退も行われました。バークシャーは2024年7-9月期にフロア&デコ(Floor & Decor)株を全て売却し、同社から撤退しています​

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。フロア&デコは住宅リフォーム用の床材小売チェーンで、住宅市場の先行き不透明感などから投資判断が変化した可能性があります。またウルタ・ビューティ(Ulta Beauty)株についても、2024年に入って新規取得していたものの、わずか数ヶ月で約96%を売却し​

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、最終的に10-12月期に全株を売却しました​

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。ウルタは米国のコスメ専門店チェーンで、高インフレ下での消費動向に不安があったのか、バークシャーとしては異例の短期売買となりました。このほか、前述のCitigroupやFloor & Decorのように戦略に合致しなくなった銘柄からは果断に撤退しており、結果としてバークシャーの公開ポートフォリオ銘柄数は2024年末時点で39銘柄と、前年から減少しています​

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ポートフォリオ変更の背景・意図の分析

バークシャー・ハサウェイが2024年後半にかけて示した一連の動きから、その背景にある意図を読み解くことができます。

  • バリュエーションへの警戒: 最大の要因は株式市場の高バリュエーション(割高感)への警戒だと考えられます。米国株式市場は2023年から2024年前半にかけて大型ハイテク株を中心に上昇し、S&P500指数は2024年年初来で+20%近い上昇を記録しました​

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    。バークシャーはこうした状況下で「多くの銘柄が割高になり過ぎている」と判断した可能性があります。実際、同社の2024年7-9月期の売買動向について、アナリストからは「株式の高騰に対し、バフェット氏は株価が割高、もしくは経済減速を懸念しているのではないか」との指摘が出ています​

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    。バークシャーがAppleや銀行株といった主力持株をあえて売却したのは、評価益が十分に乗った段階で利益確定し、将来的な株価調整に備える意図と考えられます。
  • 税務上の判断: Apple株売却に関しては、バフェット氏自身が将来の税率上昇を見越した売却である可能性を示唆しています。彼は2024年5月の株主総会で、連邦法人税の税率(21%)が将来引き上げられる可能性に言及し、「今の低い税率のうちに利益確定するのも理にかなう」と述べています​

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    。Apple株はバークシャーにとって莫大な含み益を抱えるポジションであり、長期保有前提とはいえ税制動向も考慮した機動的な売却を行ったとみられます​

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    。もっとも、バフェット氏は「Appleは今後も当社最大の株式投資先であり続けるだろう」とも発言しており​

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    、あくまで部分利確であって、同社の優良性への信頼は揺らいでいない点に注意が必要です。
  • ポートフォリオの集中リスク低減: Apple株や一部銀行株の売却は、ポートフォリオの偏り是正という目的も考えられます。Apple株は一時バークシャーの株式ポートフォリオの時価総額の約半分近くを占めるほど巨大化していました​

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    。株価上昇により比率が上がり過ぎた銘柄を適度に削減することで、集中投資によるリスク(個別企業リスクや業種リスク)を低減させる狙いがあったと言えます。同様に、金融セクターではバンク・オブ・アメリカ株がポートフォリオの第二位を占めていましたが、昨今の金利上昇による銀行収益への逆風や預金流出懸念などもあり、持ち高を圧縮しています​

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    。結果として2024年末時点のポートフォリオ上位構成は、Apple(約751億ドル)​

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    、アメリカン・エキスプレス(American Express)、コカ・コーラ、シェブロン(Chevron)など、比較的分散されたトップ5となりました​

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    。依然として上位10銘柄で約90%を占める高集中ポートフォリオではありますが​

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    、以前に比べれば特定銘柄偏重は和らいでいます。
  • 守りの姿勢と攻めの姿勢の両立: バークシャーは**「守り」と「攻め」を巧みに両立**させています。守りの面では、株式売却で得た資金を手元に残し、自社株買いも2024年後半は控えることで現金を積み増しています​

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    。これは経済や市場の先行き不透明感が増す局面での典型的な防御戦略です。一方で、攻めの面では、市場全体の調整局面で個別に割安と判断した銘柄には積極的に投資しています。例えば、ドミノ・ピザやシリウスXM、ヘイコのように2022~2023年に株価が下落した銘柄を狙って買い増し​

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    、オキシデンタルのように市況敏感株でも長期見通しに自信があれば安値を拾っています​

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    。これらの動きから、「市場全体には慎重だが、自信のあるテーマや銘柄には資金を配分する」というバークシャー流のメリハリある運用姿勢が浮かび上がります。
  • セクター配分の再調整: 2024年後半の売買から、バークシャーが今後注力しようとしている(あるいは重視している)セクターの傾向も見えてきます。売却が目立ったのはテクノロジー(Appleの部分売却)金融(銀行株の削減)でした。一方、買い増し・新規投資が目立ったのは消費関連(食品・飲料・小売)エネルギー、産業(航空宇宙)です。コンステレーション・ブランズへの新規投資やコカ・コーラ株の堅持は、ブランド力のある飲料ビジネスへの長期的信頼を示します。ドミノ・ピザや製薬・小売ではなくピザチェーンを選好した点も、消費者の嗜好変化や外食産業の耐久力を評価している可能性があります。また、オイルメジャー(シェブロン)および石油探鉱・生産(オキシデンタル)への継続投資は、エネルギー安全保障や化石燃料需要の底堅さを重視している表れでしょう。さらにヘイコへの投資拡大は、防衛予算拡大や旅行回復などをにらみ航空宇宙・防衛分野にも目配りしていることを示唆します。逆に、小売業(フロア&デコ、ウルタなど)や一部の地域金融への投資縮小は、景気敏感な消費・金融分野への慎重さとも取れます。こうしたセクター配分の変化から、バークシャーはよりディフェンシブで実需に強いセクターに軸足を移しつつ、将来性のある分野(エネルギーや特定の消費サービス)には攻めの投資をしていると分析できます。

  • 国際分散とドル依存リスクの低減: バークシャーの日本株投資拡大は、地理的分散による機会追求とリスク低減の意図も考えられます。同社は「主な投資対象は米国株」としつつも、近年は日本をはじめ海外への投資比率を高めています​

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    。特に日本の商社株は、資源価格に左右される面もありますが、それぞれが多角経営を行い安定したキャッシュフローと高配当をもたらしています。米国市場が高値圏にある中で、割安かつ株主還元の厚い海外銘柄に資金を振り向けることで、ポートフォリオ全体のリスク調整後リターンを向上させようとしているように見受けられます。また、円建て社債の発行増加は為替面での分散効果もあり、ドル資産に偏ったリスクを抑える意図もあるでしょう​

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    。さらにBYD株の利益確定は、地政学リスクや政策リスクが高まりつつある中国市場から一部撤退し、より予見性の高い市場に注力する戦略とも言えます。総じて、バークシャーは米国中心の投資姿勢を維持しつつも、「良い機会があれば国境を問わず投資する」柔軟性を2024年後半に改めて示したと言えるでしょう​

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今後注力が見込まれる投資先・戦略

以上の変化から、バークシャー・ハサウェイが今後注力していくと見られる投資先や戦略を推測できます。

  • 潤沢な現金による“大型投資機会”への備え: まず特筆すべきは、過去最高水準に積み上がった現金の存在です。3,000億ドルを超える手元資金は、今後訪れるかもしれない大型投資機会への備えと考えられます。バフェット氏は2016年以降、大型買収を実施していません​

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    が、機会があれば「会社全体の買収(企業買収)」も視野に入れていることが示唆されています​

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    。市場全体の調整(例えば景気後退に伴う株価急落)や、規制環境の変化による割安な売り案件などが出現した際、キャッシュ・リッチなバークシャーは俊敏に動ける体制を整えています。したがって、今後は景気サイクルの転換点で一気にポートフォリオを攻勢に転じさせる可能性があります。「いつでも象を仕留められる銃(資金)は装填済み」という姿勢と言えるでしょう。
  • 消費関連・ブランドビジネスへの継続フォーカス: コンステレーション・ブランズやドミノ・ピザへの投資から、バークシャーが強力なブランド力を持つ消費関連ビジネスに今後も注力することが伺えます。バークシャーは従来からコカ・コーラやクラフト・ハインツなど、ブランド価値の高い消費財企業を長期保有してきました。近年の追加投資も同様の文脈上にあります。特にコンステレーションは北米ビール市場でシェアを伸ばしており、景気に左右されにくいアルコール飲料需要も手伝って安定成長が見込めます。ピザチェーンのドミノも、デジタル注文や宅配ネットワークに強みがあり競争優位性が高い企業です。これらへの資金配分強化は、インフレ下でも価格転嫁力があり、中長期でキャッシュを生む事業モデルへの評価が高いことを示しています。したがって今後も、ブランド力と価格決定力のある企業(飲料・食品・外食など)にはバークシャーの注目が集まり続けるでしょう。

  • エネルギー・インフラ分野への自信: エネルギー分野は依然としてバークシャーの重点セクターです。同社は公益事業(Berkshire Hathaway Energy)や石油精製・輸送(パイプライン等)にも多額の投資をしていますが、公開株ポートフォリオでもシェブロンやオキシデンタルを主要保有としています。バフェット氏は石油需要は今後何十年も堅調に推移するとの見方を以前から示唆しており、電気自動車の普及や再生可能エネルギーの拡大があっても、石油・ガス産業がすぐになくならないと考えています。実際、バークシャーは原油価格が低迷する局面でも粘り強くオキシデンタル株を買い増し、同社の発行株式の約25%以上を握るに至っています​

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    。このことから、同社は今後もエネルギー(特に石油・ガス)セクターに厚くコミットし、価格変動を味方につけながら持続的に収益を得る戦略を継続すると見られます。また、再生エネルギーや電力インフラへの間接的な投資(商社株経由で資源権益を持つ、あるいは自社エネルギー部門での再エネ投資など)も含め、エネルギー全般への長期的な視野が感じられます。
  • 引き続き米国中心、しかしグローバルにも目配り: バークシャーは基本的に米国市場中心の投資を公言していますが​

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    、近年の日本株投資の成功もあり、今後も慎重に海外機会を模索するでしょう。特に日本については追加の円建て社債調達も行っており​

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    、既存の商社5社以外にも有望な割安株があれば投資する下地があります。市場では「バークシャーの次のターゲットは日本の銀行株や保険株ではないか」との観測もあり​

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    、日本企業の資本効率改善や株主還元強化の流れが続けば、同社が10%未満の範囲で持分を広げる可能性もあります。一方、地政学リスクが高い地域(中国・ロシアなど)への直接投資は控えめにするでしょう。総じて、**「アメリカの優良企業+選りすぐりの海外株」**という組み合わせで分散を利かせつつ、バリュエーション次第で柔軟に動く方針が続くと考えられます。
  • 秘匿ポジションの存在: 付言すれば、バークシャーは時折**株式保有を当初非開示(秘匿)**にする許可をSECから得て大口投資を進めることがあります​

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    。実際2023年後半にも非公開で買い増している銘柄があったと報じられました​

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    。この銘柄が何かは時間差で判明する可能性があります。過去にはこうした秘匿ポジションが後にシェブロン株やエクソンモービル株であったケースもありました​

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    。現在進行形で水面下にある投資先があるならば、バークシャーが近未来的に注力しようとしている新分野を示すものかもしれません。今後の13F開示や年次報告書で突然新たな主要株が明らかになる可能性も念頭に置くべきです。

以上の分析を踏まえると、バークシャー・ハサウェイは当面は守りを固めつつ、時機を見て攻めに転じる構えであると言えます。では、こうした動きを踏まえて個人投資家はどのような戦略を取るべきでしょうか。以下に、短期・中期の視点で「攻め」と「守り」の具体的アドバイスを提案します。

個人投資家への投資アドバイス(短期と中期)

短期(今後半年程度)の戦略

守りの戦略(ディフェンシブ): バークシャーの動向にならい、個人投資家も短期的には防御姿勢を重視することが賢明です。まず、株式市場全体のバリュエーションに不安を感じる場合は、ポートフォリオの一部を現金や流動性資産で確保しておくことを検討してください。事実、バークシャーは2024年後半に巨額の現金を蓄え、「リスクオフ」姿勢を鮮明にしました​

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。個人でも無理にフルインベストせず、手元資金を潤沢にしておくことで、予期せぬ調整局面に備えることができます。また、現在保有中の銘柄についても、過度に偏った持株構成の是正を図りましょう。例えば、一社の比率がポートフォリオの30%以上を占めているような場合、バフェット氏がApple株を利確したように、一部利益確定して分散することでリスク低減が可能です​

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。特にこの1年で大きく上昇したハイテク株などは、部分的に利益を確定し、投資比率を下げておくことも選択肢です。

守りの具体策としては、ディフェンシブ銘柄や高配当株への比重を高めることも挙げられます。バークシャーが依然としてコカ・コーラやアメリカン・エキスプレス、クラフト・ハインツといった銘柄を厚く保有している点に注目してください。これらは景気変動に強く、安定配当を支払う企業です。短期的に景気後退懸念が高まる場合、こうした生活必需品・優良株が相対的に下支えとなるでしょう。個人投資家も、防御の一環としてこれらディフェンシブセクター(食品飲料、医薬品、通信、公益事業など)の銘柄や、債券・MMFなど安全資産への分散を検討すると良いでしょう。

もう一つ重要なのは負債やレバレッジの管理です。金利上昇局面では借入コストが増すため、投資においても過度な信用取引やレバレッジETFへの依存は避け、耐久力のあるポジションサイズを心掛けてください。バークシャー自体は保険浮遊資金という低コストの資金源を持ちつつも、通常はネットで借金をして株を買うようなことはしません。同様に個人も、短期的なボラティリティに耐えられるポジション(含み損に陥っても追証を求められない範囲)に留めることが大切です。「生き残ることが第一」――守りを固めることで、次に訪れる好機を掴む余力を維持しましょう。

攻めの戦略(オフェンシブ): 短期とはいえ、全く攻めの姿勢を捨てる必要はありません。むしろ、バークシャーの個別銘柄の動きをヒントに、割安な好機にピンポイントで攻める戦略が有効となる場合があります。バフェット氏らが2024年に行ったように、市場の過剰反応による「安値局面」で優良株を拾うことを検討してみましょう。たとえばエネルギー株は、原油価格の変動で短期的に売られ過ぎる場面があれば、バークシャーがオキシデンタルを買い増したように​

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、思い切って買い向かう判断も一案です。実際、同社の動向公表後にはオキシデンタル株が急反発しています​

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。これは**「良い企業の一時的な株価下落はむしろ買い場」**であることを示唆しています。

攻めの具体的アイデアとして、バークシャーが新規または追加投資した銘柄を自分なりに分析してみることをおすすめします。ドミノ・ピザやコンステレーション・ブランズは、バークシャーの買いで株価が上昇しましたが、それでもなお中長期で見て魅力的かどうか検討する価値があります。前者はデリバリービジネスの効率性、後者はブランドポートフォリオと北米市場での強みが光ります。これらバークシャーのお眼鏡にかなった銘柄は、短期的に市場の信頼を得やすく、悪材料が出にくい傾向もあります。短期売買をするにせよ、なるべく質の高い銘柄で行うことでリスクを抑えられるでしょう。「バフェット銘柄をフォローする」のは個人投資家にとって分かりやすい攻めの一策です。

また、日本株や海外市場への目配りも短期的な攻めの戦略になり得ます。日本市場は2024年に大きく上昇しましたが、依然としてPERやPBRで見ると米国市場より割安な銘柄も多く存在します。バークシャーが投資する商社5社は配当利回りも高く、中には株主還元策の強化を打ち出す企業もあります。短期的な為替変動リスクはあるものの、日本株やその他海外の割安市場への分散投資は、攻めと守りを兼ねた妙手と言えるでしょう。例えば日本の商社株は高配当であるため、持っているだけでディフェンシブな収益を得つつ、市場評価が改善すればキャピタルゲインも狙えるポジションです。バフェット効果で短期的に物色される局面では思わぬ利益機会もありえます。

総じて短期の攻めは、「大局は慎重に、小局で敏捷に」を意識します。市場全体に強気一辺倒で突き進むのではなく、一時的に売られ過ぎた優良株への機敏な投資や、バフェット氏の動向に沿ったテーマ(エネルギーや消費ブランド)への追随など、ポイントを絞った攻め方が望ましいでしょう。幸いバークシャーが四半期ごとに公表するポートフォリオは良質なアイデアの宝庫です。それらを参考にしつつ、自己責任で取捨選択する形で短期の攻めを実践してみてください。

中期(今後1~3年)の戦略

守りの戦略(ディフェンシブ): 中期的視点では、足元の景気サイクルと金利動向を踏まえ、ポートフォリオの耐久性を高める戦略が重要です。2025年前後には景気減速や企業収益の調整が現実味を帯びるとの見方もあります。その場合、株式市場はボラティリティが高まり、大きな下落局面が訪れる可能性があります。バークシャーが巨額の現金を蓄えているのは、まさにそのような**「冬の時代」に備える保守的戦略**です​

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。個人投資家も中期で見て、いかなる局面でも生き残れるポートフォリオ設計を心がけましょう。

具体的には、債券や債券代替の活用が考えられます。現在は米国をはじめ金利が上昇しており、安全資産である国債や高格付社債にも魅力的な利回りが出ています。中期的に景気後退が予想されるなら、株式の比率を少し落として債券を組み入れることで、全体のボラティリティを下げつつインカムゲインを得られます。バークシャー自身も直接債券投資は開示していませんが、手元資金の一部は短期国債などで運用しているはずです。現金比率の高さはそれだけ安全資産の割合が高いことを意味します。個人も、ポートフォリオの一部を預金・国債・社債・金などの安全資産で保有し続けることが、中期の守りを固める上で有効です。

さらに、中期で考える守りとして質へのこだわりを挙げます。バークシャーが長年保有し続けている銘柄は、いずれも強靭なビジネスモデルと競争優位性を持った企業群です(例:コカ・コーラ、ムーディーズ、アメリカン・エキスプレスなど)。中期スパンで見れば、景気の波を乗り越えて成長し続ける企業かどうかが投資成績を左右します。したがって、保有銘柄や新規投資候補について、「この会社は5年後10年後も収益を伸ばしているか?」「他社には真似できない強みがあるか?」といった視点で精査してください。多少割高に見えても質の高い企業は持ち続け、逆に構造的に劣後する企業(技術革新に乗り遅れた業態など)は早めに見切るといったポートフォリオの質的改善を図ることが、中期では最大の防御策になります。

最後に、中期的なリスク管理としてアセットアロケーションの再評価も欠かせません。株式:債券:現金:その他資産といった配分比率が、ここ数年の市場環境変化に照らして適切か見直しましょう。バークシャーのケースでは、株式比率を意図的に下げ現金を厚くする判断をしました。個人投資家はリスク許容度によって答えが異なりますが、自身の目標やライフイベントに即した資産配分を中期プランとして設定し、それに沿ってポートフォリオを微調整していくことが大切です。守りとは決して消極策ではなく、将来の攻めに備えるための能動的戦略である点を認識してください。

攻めの戦略(オフェンシブ): 中期的な攻めは、一言で言えば**「好機を虎視眈々と待ち、一気に行動する」ことです。バフェット氏の有名な格言に「他人が貪欲なときは慎重に、他人が臆病なときは貪欲に」というものがあります。まさに今、バークシャーは慎重モードですが、いずれ市場に恐怖が広がる局面が来れば、同社は積極的に貪欲モードへ転じるでしょう。同様に個人投資家も、中期視点では将来訪れるであろう投資機会に備えておき、来たるべき時に大胆に攻める**用意が必要です。

具体的には、大幅な市場調整が起きた際の「買いリスト」をあらかじめ用意しておくことを強くおすすめします。バークシャーが巨額のキャッシュを抱えて待っているのは、優良企業がバーゲン価格になる瞬間を狙っているからです。個人も、例えば「○○社の株価が今より30%下がったら○○株買う」といった目安をシナリオごとに検討しておくと良いでしょう。中でも、バークシャーが一部売却したが依然大きく保有している銘柄(Apple、BofA、コカ・コーラなど)は、調整局面では再び買い増しの好機となり得ます。バフェット氏自身、Appleについては**「我々の最高の事業(投資)だ」**と述べるほど惚れ込んでおり​

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、税制上の理由で一部売ったものの将来性には自信を持っています。従って、仮に市場全体の下落でApple株などが割安圏に来れば、個人にとっても中期の大きなリターンを狙えるエントリーチャンスとなるでしょう。

また、中期ではテーマ投資にも目を向けてみましょう。バークシャーのポートフォリオを眺めると、「消費ブランド」「金融(決済など)」「エネルギー」「インフラ」「保険・リスク管理」などいくつかの柱が見えてきます。これらは景気変動を通じて利益成長が期待できるテーマです。例えばデジタル決済はアメリカン・エキスプレスやVisa、Mastercardへの投資(バークシャーはVisaとMastercardも少額ながら保有)から伺えるテーマです。キャッシュレス化は世界的潮流であり、中期的にも追い風が続くでしょう。同様にインフラ投資や気候関連は、バークシャーが鉄道(BNSF)や公益事業で大きな事業展開をしていることから重要視しているテーマです。個人でも関連ETFや関連銘柄への投資でこれらテーマに乗ることができます。中期的に成長が見込め、かつバークシャーの動きで裏付けのあるテーマは、攻めの候補として注目に値します。

国際分散の中期活用も攻めの一環です。先述のようにバークシャーは日本株で成功を収めていますが、今後他の地域にもチャンスが出てくるかもしれません。例えば、新興国市場は短期的には逆風でも、中期的には人口動態や経済成長で有望な所もあります。バークシャー自身は慎重にしか手を出さないかもしれませんが、個人として中期でリスクを取れるなら、新興国株式や債券を少量組み入れてリターン機会を探ることも可能です。バリュー投資的観点で見れば、依然割安に放置されている市場(例えば英国市場や一部のアジア市場)もあります。バークシャーの日本投資成功は「米国一極集中ではなく、良いものは海外にもある」ことを教えてくれます​

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。中期的に攻めるには、広い視野で世界中の投資対象を比較検討し、自分なりの「掘り出し物」を見つけ出す姿勢が求められます。

最後に強調したいのは、中期の攻めはタイミングと度胸が鍵という点です。バークシャーほどの規模でも、大暴落時には巨額投資を断行します(例:2008年リーマン危機時のGEやゴールドマンへの出資)。個人投資家も、中期で大きく資産を伸ばすには「ここぞ」という時の大胆な行動が必要です。ただしそれは無計画にリスクを取ることではなく、徹底的な準備と分析に裏打ちされた上での集中投資であるべきです。バークシャーが数年待ってでも虎視眈々と好機を待つように、私たちも日頃から情報収集と分析を怠らず、チャンスが来たら恐れず行動するマインドセットを持ちましょう。


以上、バークシャー・ハサウェイの2024年後半以降の投資ポートフォリオ変化を分析し、その示唆するところと今後の見通し、さらにそれを踏まえた個人投資家向けの戦略を述べました。バフェット氏の動きは常に注目を集めますが、大切なのは自分自身の状況に合わせて解釈し応用することです。バークシャーのポートフォリオ変化は、市場や経済に対する一つのメッセージでもあります​

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。それを手掛かりにしつつも、自らの投資原則を持って臨むことが、長期的な成功につながるでしょう。幸運を祈ります。

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