鉱物の顕微鏡写真37 ―ハウスマン鉱―
顕微鏡写真
鉱物の顕微鏡写真37
―ハウスマン鉱―
産地:N' Chwaning Ⅱ mine, Kuruman, Kalahari Manganese field,
Northern Cape province, South Africa.(非売品)
Hausmannite ハウスマン鉱
[組成] Mn2+Mn3+2O4
[結晶] 正方晶系.自形は立方体に近い立体.多く粒
状やチョコレート色塊状.
[色] 黒色・褐黒色・灰黒色亜金属光沢.塊状のもの
はチョコレート色など.
[光沢] 金属光沢.チョコレート色塊状のものは無光
沢.
[モース硬度] 5~5.5
[比重] 4.83~4.85(4.7~4.84となっている文献
もある)
[劈開] {001}に完全.塊状のものは観察されにくい.
[条痕] 黒色・褐黒色・褐色.
[酸による反応] 塩酸で可溶.
[原産地] Oehrenstock, Langewiesen, Ilmenau district,
Thuringian forest, Thuringia, Germany.
(1827年発見)
[名称] Johann Friedrich Ludwig Hausmannに因む.
日本のマンガン鉱床で目が慣れているので,上のような結晶は別の鉱物のように思えてしまう.15年以上前にどこかの標本商で見かけて,日本産のものと同一の鉱物とは思えないくらいの良晶で,思わず買ってしまった標本です.標本は市場に比較的よく出回っている産地のもので,褐色の灰鉄石榴石を伴っています.
結晶の表面はどういう訳か凹凸があり,平滑で無い.結晶の成長が早すぎて骸晶になったのか,凹凸の壁面にも新たな結晶面ができていて強い光線を当てると,キラキラ反射してキレイに見える.
双眼顕微鏡下で撮影したものです.黒色の強い光沢部がハウスマン鉱の結晶です.褐色部は石榴石.
こちらは別の部分を双眼顕微鏡下で撮影したものです.黒色部がハウスマン鉱.褐色部は石榴石.
上の産地の標本のほかの部分に方解石とマンガンベスブ石?や菱マンガン鉱などが入っていました.
次に日本産のハウスマン鉱です.丹波帯や秩父帯の堆積岩中に見られるハウスマン鉱は,N'chwaning Ⅱ mineのような立派な結晶では無く,多くが赤レンガあるいはチョコレートの塊のような外観をしています.見てくれは余りキレイなものではありませんがマンガンの重要な鉱石鉱物です.分解すると横須賀石(Nsutite)になるらしく,この鉱物も乾電池性能に優れていたようで,採鉱の対象になっていたそうです.
(以下,日本産の標本をいくつか.)
Hausmannite ハウスマン鉱 産地:岩手県九戸郡野田村玉川 野田玉川鉱山.
(Locality:Noda tamagawa mine, Tamagawa, Noda, Kunohe district, Iwate
prefecture, Japan.)
チョコレート色の塊状鉱石では無く,黒色亜金属光沢の粒からなっています.
褐色部はパイロクロアイトないしパイロクロアイトから変質したファイトクネヒト鉱です.(知人よりサンプル提供してもらった標本で非売品です)
Hausmannite ハウスマン鉱 産地:滋賀県栗東市下戸山 五百井鉱山.
(Locality:Ioi Mn mine, Shimodoyama, Rittoh city, Shiga prefecture, Japan,)
こちらも黒色亜金属光沢の粒状からなるハウスマン鉱です.東海道にほど近い便利なところにあった鉱山で,近畿地方有数の成績を残した鉱山でした.滋賀石(Shigaite)の原産地としても知られています.
標本はいいサイズの標本を探していたら,目に留まって購入したものです.(非売品)
Hausmannite ハウスマン鉱 産地:滋賀県高島市朽木雲洞谷 立戸鉱山.
(Locality:Tatedo Mn mine, Kutsuki Utoutani, Takashima city, Shiga prefecture,
Japan.)
この標本は黒色粒状のハウスマン鉱とチョコレート色塊状のハウスマン鉱が同一標本内に共存しています.念のため分析すると黒褐色のもの,チョコレート色の部分もどちらもハウスマン鉱とのことでした.当初は黒褐色部はブラウン鉱と思っていました.共存する淡桃肌色の部分はアレガニー石,灰緑色部はテフロ橄欖石です.(非売品)
Hausmannite ハウスマン鉱 産地:福島県いわき市御斉所鉱山.
(Locality:Gozaisho Mn mine, Tabito-cho, Iwaki city, Fukushima prefecuture,
Japan,)
黒色のやや肉眼的な粒状のハウスマン鉱です.周囲の部分は菱マンガン鉱やアレガニー石などの鉱物からなっています.
Hausmannite ハウスマン鉱 産地:京都府南丹市美山町下平屋 丹波鉱山西山鉱床.
(Locality:Nishiyama deposit, Tanba Mn mine, Shimo hiraya, Miyama-cho, Nantan city, Kyoto prefecture, Japan.)
いわゆるチョコレート鉱と呼ばれるハウスマン鉱の標本で,全体を黒褐色のヤコブス鉱の脈が切っています.ハウスマン鉱に混じって,ケリー石(Kellyite)やペナント石(Pennantite)などを含んでいるそうで,元ラベルにもペナント石と記載されていました.ですがどの部分かと云われるとはっきりしません.
(サンプルを提供してもらいました.非売品)
Hausmannite ハウスマン鉱.産地:長野県南佐久郡川上村 しだ宿鉱山.
(Locality:Shidazyuku Mn mine, Kawakami, Minamisaku district, Nagano
prefecture, Japan.
購入品です(非売品).文献で鉱山名を調べても掲載の無かった鉱山です.赤褐色部がハウスマン鉱で白色の脈は菱マンガン鉱,黒褐色の脈はヤコブス鉱です.灰緑色部はテフロ橄欖石です.
Hausmannite ハウスマン鉱 産地:埼玉県飯能市南川大蔵鉱山.
(Locality:Ohkura Mn mine, Minamikawa, Hanhoh city, Saitama prefecture,
Japan.)
赤褐色部がハウスマン鉱で灰緑色のテフロ橄欖石を伴っています.関東地方のハウスマン鉱の標本を持っていなかったので購入した石です.(非売品)
Hausmannite ハウスマン鉱 産地:岡山県美作市白水 白水鉱山.
(Locality:Shiromizu Mn mine, Shiromizu, Mimasaka city, Okayama prefecture,
Japan.)
以前にも少し触れました.中国地方のマンガン鉱床は熱源の貫入でよく焼けていてこういう高品位の鉱物があまり産出しないように思います.赤褐色部がハウスマン鉱です.
標本産地のサンプルはもっとあるのですが,メモリーの関係上これくらいにしておきます.