ウクライナ軍と民間人を震え上がらせた、ロシアが気化爆弾(サーモバリック爆弾)を使用したようだ。
「バキュームボム(真空爆弾)」の名でも知られる気化爆弾は、周囲の空間から酸素を奪い、高温反応を引き起こす兵器であり、通常の爆弾と比べて爆風を引き起こす時間が長いことでも知られている。
英国防省は9日、ロシアがウクライナで高い殺傷能力を持つ燃料気化爆弾を使用したことを認めたと発表した。
気化爆弾は、液体燃料を気化させて周囲の酸素を巻き込んで高温爆発を起こすもので、民間人が被害を受ける可能性のある状況での使用が規制されている。
実戦投入したのは、気化爆弾を弾頭に搭載したロケット弾を地上から一斉発射できる「TOS―1A」。
TOS-1「ブラチーノ」(重火力投射システム)は、サーモバリック爆薬弾頭ロケット弾を運用するために、T-72戦車の車体に220mmロケット弾発射器を装着した多連装ロケットランチャーである。
オリジナルのTOS-1は、搭載している30発の220mmサーモバリック弾頭ロケット弾を15秒で撃ち尽すだけの連射性能を持っており、射程距離は最小で500m、最大でも3,500mと比較的近距離である。
ソビエト連邦の崩壊後のロシア連邦軍でも、チェチェン紛争でも使用されている。
TOS-1では破砕弾頭などの、そのほかの各種弾頭のロケット弾は使用されない。このため現在唯一の火炎放射戦車と扱われることがある。
燃料気化爆弾は、爆弾の一種である。
なお国内では単に気化爆弾とも呼ばれる。
開発当初からアメリカ陸軍では同呼称(FAE)が使われてきたが、燃料でなく専用爆薬を用いるなどの語義変化もあり、サーモバリック爆弾(Thermobaric)と呼ばれることが増えている。
サーモバリックとはギリシャ語の熱を意味するthermosと圧力を意味するbaroを組み合わせた造語である。
燃料気化爆弾は、火薬ではなく酸化エチレン、酸化プロピレンなどの燃料を一次爆薬で加圧沸騰させ、BLEVEという現象を起こすことで空中に散布する。
燃料の散布はポンプなどによるものではなく、燃料自身の急激な相変化によって行われるため、秒速2,000mもの速度で拡散する。
このため、数百kgの燃料であっても放出に要する時間は100ミリ秒に満たないと言われている。
爆弾が時速数百kmで自由落下しながらでも瞬間的に広範囲に燃料を散布できるのはこのためである。
燃料の散布が完了して燃料の蒸気雲が形成されると着火して自由空間蒸気雲爆発をおこすことで爆弾としての破壊力を発揮する。
都市ガスによるガス爆発事故のように、爆鳴気の爆発は空間爆発であって強大な衝撃波を発生させ、12気圧に達する圧力と2,500-3,000℃の高温を発生させる。
加害半径は爆弾のサイズによって様々であるが、一般的には数百mと推定されている。
広範囲に衝撃波を発生させるため、特に人体に多大な影響を与える事で知られる。
BLEVEという爆発現象による事故から、これを兵器に応用した物と思われる。
近年では燃料ではなくサーモバリック爆薬と呼ばれる専用の爆薬を使用するようになってきている。
燃料気化爆弾の破壊力の要諦は爆速でも猛度でも高熱でもなく、爆轟圧力の正圧保持時間の長さにある。
つまり、TNTなどの固体爆薬だと一瞬でしかない爆風が「長い間」「連続して」「全方位から」襲ってくるところにあると言って良い。
燃料気化爆弾による傷は爆薬によるものとは異なった様相を見せる。
これは、燃料気化爆弾が金属破片を撒き散らさないで爆風だけで被害を与えるためである。