機甲史、戦車史そして戦史・軍事史に残る本が出版される。
「機甲戦 用兵思想と系譜」だ。
世界の機甲史、戦史、日本の機甲史や各戦車部隊の戦史、自衛隊の機甲史は特に貴重でありお世辞抜きで貴重な資料である。
著者は陸上自衛官として最長在隊記録保持者でもある葛原和三元一等陸佐だ。
私の最も尊敬する機甲科幹部にして戦史研究家だ。
葛原元一佐は自衛隊生徒として入隊し、三等陸士から一等陸佐まで自衛隊在隊中、機甲生徒から戦車操縦手・砲手を経験され、苦学して大学を出られて一般幹部候補生で幹部となられてからは機甲幹部として小隊長・中隊長・大隊長を経験された。
戦車の指揮官を経験後は、旧軍の陸軍大学校に相当する幹部学校で戦史教官をされ、防大教授等をされていた。
定年後も再任用され戦史教育の教官として過ごされた。
私の上官でもあった方だ。
戦車ファンなら戦車教導隊第二戦車中隊の「雷撃星」のマーキングを考案した人物として知っている人もいるだろう。
戦車ファンなら知らなければいけない。
戦車教導隊では小隊長として、61式戦車の迷彩の研究もされていて貴重な証言も数多く残されている。
そういう経験と勉学によって、本書の「機甲戦」は他の者が書く戦車の本とは別格なものとなっている。
書斎型の研究者ではないからね。
特に戦車の操縦手や砲手の経験を積んだ機甲幹部は部内幹候以外だと中々いないのだ。
「機甲戦」のカバー表紙の写真は73戦車連隊第2戦車中隊長時代に矢臼別演習場の一枚だ。
74式戦車に丸太が5本、増加燃料を積み完全武装した戦車の姿がある。
同時代に私も矢臼別演習場で訓練をしたからよく解る。
湿地帯なので戦車はよくカメになる。
カメからの脱出用の丸太なのだ。
そういう経験談も巻末には書かれているので是非買って読んで欲しい。
ちなみに73戦車連隊のマーキング「勝兜」も葛原元一佐の考案である。
かつて士魂戦車大隊が戦車6個中隊に本管中隊の7個中隊という最大規模の戦車大隊時代に戦車大隊長をしていた。
増強戦車中隊として方面直轄の第317戦車中隊と第318戦車中隊が配属され通常の戦車大隊とは比べ物にならない規模の戦車大隊であった。
今は撤去され無いが、当時真駒内駐屯地には士魂のマーキングをされた61式戦車が常設展示されていた。
冬になると雪が積もる。
現役の戦車はシートを被せてるが隊員は毎朝除雪する。
しかし、61式戦車は展示用だし戦車大隊の所属ではないので雪の中に埋もれてしまう。
そこで葛原大隊長は61式戦車も士魂のマーキングをしている戦車大隊の戦車だ除雪せよと除雪するようになった。
愛車心の深い方だ、これが戦車乗りの精神であり、そういう戦車乗りが書いた「機甲戦」はきっと将来、戦車を愛する者なら必ず入手して必読する一冊になることは間違いないであろう。
戦車ファンならずも戦史を勉強する者なら必読の書です。
そして最後に現代の日本で学術団体なるものは軍事研究を拒否し学問としても学術としても軍事・戦史の分野は無いも同然の状態であるが、本物の軍事・戦史の専門家は日本には少ない。
学問・学術的にもこの「機甲戦」は本物の戦史研究家が書いた貴重なものであることは間違いない。
機甲史として戦車部隊、そして戦車そのものを学ぶ者として身内贔屓では決してなく御世辞抜きで戦車を愛する者は読んで損はない。
将来、きっと戦史・軍事、戦車に興味のある人は読んでおかなくてはならない本となるでしょう。
強くお勧めします。