さてさて、刑法から始めてしまいましたので、刑法を終わらせていきましょう。
以下あくまで「ご提案」です。
①65条論について
よくこんな論証を目にします。
「65条1項と2項の関係をいかに解するかが問題となる。同条1項及び2項の文言から、同条1項は真正身分犯の成立と科刑を、2項は不真正身分犯の成立と科刑を定めた規定であると解する。」
刑法は、「文言に何と書いてあるか・その文言は社会通念上どの様に読めるか」ということそのものが強い理由付けとなります。これは、形式的犯罪論と、実質的犯罪論の対立まで遡ることができる面白い部分な気がしますが、試験との関係では割愛笑
例えば、防衛の意思の部分では、「ため」という文言から、防衛の意思は必要。これで終わりで良いと思います。また、240条が故意ある場合も含むかという点についても、結果的加重犯に規定される「よって」の文言がないから、含む。これでよいと思います。
そうすると、上記65条論についても、これでいいではないかとも思われます。
ただ、皆さんご存知の通り、この部分は、色々な説の対立が存在している部分です。例えば、1項は真正不真正を問わず犯罪の成立についての規定であり、2項は不真正身分犯の場合の科刑を定めたものであるという考え方があると思いますが、この考え方は、1項の「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為」という文言に着目し、この点では真正身分犯も不真正身分犯も同じであるということをその根拠の一つとします。そうであるならば、冒頭に書いたいわゆる通説的見解(この見解以外をとる)では、どの文言を重視するのか、あるいは、それ以外の理由を示す必要があるように思われます。
こんな感じがいいのではないでしょうか。
「1項が、「身分によって構成すべき犯罪」としているのに対し、2項が「身分によって特に刑の軽重があるとき」と規定していることを重視すると、同条1項は真正身分犯の成立と科刑を、2項は不真正身分犯の成立と科刑を定めた規定であると解すべきである」
もしくは、「65条1項、2項の文言、及び罪名と科刑の分離を防止すべきであることからすれば、、、同条1項は真正身分犯の成立と科刑を、2項は不真正身分犯の成立と科刑を定めた規定であると解すべきである」(別の理由をつけたバージョン。個別指導ではこちらで指導することが多いです)。
なお、65条1項の「共犯」に共同正犯を含むかという論点について、意外と正しく理解していない答案も多く見られます。
狭義の共犯しか問題とならない場合でも、この論点を書いている人がいるのですが、それは誤りですので気をつけましょう。
65条が真正身分犯の成立と科刑を定めたものだとすると、1項の「共犯」は、狭義の共犯のみを意味するのか、それを超えて、共同正犯も含むのかが問題の所在です。狭義の共犯は、そもそも「正犯」ではないのですから、65条1項の「共犯」に当然に含まれます。
②いわゆる「区別系論点について」
区別系論点ってなんだ??と思われた方もいるでしょう。最先端のファッションのことではないですよ。
「横領罪と背任罪の区別」
「共同正犯と幇助犯の区別」などなどです。
上記は、よく出題されます。「ある犯罪とある犯罪の区別(分水嶺)」という事項が隠れた出題意図であることは、予備試験司法試験上、往々にしてあります。これが理解できていると、それらの構成要件の理解がされているということが判定しやすいからではないでしょうか。
ただし、ここからがご提案。色々考え方はあると思いますが、私はこれを「論点」として書かない方が良いと思います。
出題趣旨や採点実感に書いてあるし、お前みたいなもんは信用できん!やっぱ書く!…確かに私は何の権威も個性もないただの人なのは認めます笑、ただ、ちょっとだけ待ってみてください笑
よく、こんな答案を見かけます。
「横領罪と背任罪の区別が問題となる。…(以下、よく出てくる論証)。これを本件についてみると、、、したがって、横領罪が成立する。」
嗚呼、またもや、条文とその要件の呈示がない答案が生まれてもうた。。。
いわゆる区別が問題となっているのは、横領と背任だけではありません。詐欺と恐喝の区別、詐欺と窃盗の区別、一項詐欺と二項詐欺の区別、、、いろいろありますよね。では、そういう場合必ず冒頭で「区別が問題となる」と書きますか?と質問すると、誰も答えられない。翻って、じゃあ、なんで横領と背任だけ書くの?と聞くと、「論証集に載っていたからです。基本書に載っていたからです。予備校テキストに載っていたからです」という理由しか返ってこないことが通常です。そして、それ以上の理由なんてないのだと思っています。
刑法では、基本的に「犯罪の成否」が問われます。したがって、行為を抜き出して、その行為について、検討すべき犯罪を決定し、その構成要件すべての充足性を検討する。この流れを徹底しましょう。
正確な構成要件の知識を押さえておけば、正確な結論となり、それが結果として、区別が理解できていることになるのです。
横領罪と背任罪は法条競合にあるといわれているのですから、まずは、横領罪の要件検討を正確に行う。成立するならそれで終わり。成立しないなら背任罪の要件検討を正確に行う。そして得られた結論こそが、「横領と背任の区別の理解」そのものなのだと思います。
どうして、区別系論点だけ、条文の要件検討から離れた検討をしてよいのかの説明はつかないと思いますし、実務上もそんな主張立証方法は当然のことながら採られていないと思います。
もし、それでも区別系論点を示したいのであれば、条文の文言の解釈の中で示していくという方法もあります。
例えば、1項詐欺と2項詐欺でも、まずは1項詐欺から検討するわけです。で、『では、「財物を交付」したといえるか。本件では、甲は預金債権を取得したに過ぎず、「財産上の利益」を得たにとどまるとも思えるため問題となる』。あくまで一例ですが、これが問題提起部分で示せていれば、1項詐欺と2項詐欺の区別について知ってるでーということは読み手にアピールできますよね。
やはり、刑法のすべての問題は、行為を抜き出し、適切な犯罪を選択し、その構成要件該当性をすべて検討するという発想を持っていた方が、シンプルで楽だと思いませんか??
それでは今回はこの辺で!