日本の皆さん、ハンガリーは現在午前5時。日本とは7時間の時差です。
吉田、伊調選手は金メダルでしたが、まだ終わっていません。女子の最終日は土性沙羅、鈴木博恵が68kg級、72kg級に出場です。色はなんでもいいので もう一枚メダルが欲しいところ。と言うのは団長としての公式発言で、私としては、とにかく表彰台を経験させてあげたい。10cm単位で高く上がるだけで、 見えるものが変わると思います。応援よろしく。

日本の女子レスリングはなぜ、これほど強いのかって質問がありますが、これには、オリンピックが影も形もない頃から強化に腐心してきたレスリング協会の福 田会長の努力、オリンピックが遅すぎた過去の選手らが積み上げた土台があり、一方で古いやり方を東京から離れた愛知で完全に無視して科学と選手らの主体性 を柱に築き上げた至学館大のやり方があったと思います。ちなみに、過去3回のオリンピックで女子は正式種目として戦いましたが、金メダルは全て至学館の娘 らが獲ってきたものです。

女子専用の大学チームをつくり、科学と本人の主体性を重んじても強いスポーツが可能と証明することに取り組んだのは私。殴らなくても、身体を壊さなくてもいいことを言っても変わらないからやって見せる決意でした。

それをレスリングの形として実現したのが栄監督です。彼は、見事にひとりひとりの選手の個性にチュニングし、生活や学業の細部にも目を配って歴史を創って きました。そして、トレーニング科学や栄養学のスタッフらがベースとなる科学で支え、小さな大学・高校の家庭的な雰囲気の中で学生らも選手たちが単位を落 とさないよう支えてきました。何しろ、金メダルとっても1単位もオマケはないのがわが大学。メダルに頼るような勘違いの人生は送らせたくないのです。むし ろメダルの輝きを増すような、メダルにふさわしい人間であることを目指したい。そういうチャンピオンたちを至学館の学生が運動系如何に関わりなく、リアル な目標としています。

栄監督は無茶苦茶神経が細かく、自分に厳しいです。でも、頑固に自分のやり方を押しつけたりしません。むしろ相手に合わせて指導できる稀有なスポーツ指導者です。年がら年中、悩みまくっています。

だから、私のように大雑把で原理原則以外はどうでもよく、ルールは少ないほど良いと思う人間が側にいるのがうまくいくみたいです。細かいところは全て現場 任せで、私は学生らを本気にさせるとき、心の切り替えが必要なときだけ登場。メダリストになった娘が勘違いしないよう見守ることも役割なので、絵莉もこれ から私に見張られることになります。つまり、私の分担は勝っても負けても試合が終わってからです。

至学館のレスリング部には、やらされている選手はいません。自ら選んでいつ辞めてもいいから、今は全力というのが基本。自分の目標は自分で決める、仲間の夢を支えるという原則で「夢追人」が部のモットーです。

今回も女王の座を守ったから、沙保里も馨も人類未踏の道を歩き続けていくでしょう。でも、いつか終わりが来ます。子どもが大好きで素敵なお母さんが学生時代からの沙保里の夢。馨は三食昼寝つきの専業主婦。
人として、女性として幸せに生きて欲しいです。彼女らは王座から一度降りたら辞めるでしょう。その覚悟でやっているからあれほど強いのです。アテネが終 わって直後に沙保里の両親と私は、彼女が辞める決意をした時にはその願いを叶えさせるために共闘することを約束しました。必ず、日本中敵に回しても彼女に 決めさせます。彼女の人生の一番辛い日には側にいて見届けたい。新たな門出を祝福したい。だから、私は今回ありがたく団長を引き受けました。でも、やはり 勝ちましたね。旅は続きます。これからも応援よろしく。