有島武郎氏の『生れ出づる悩み』が出版されて、百年が経ったそうです。

 

 

 

『『生れ出づる悩み』を読む 有島武郎と木田金次郎のクロスロード』

という一冊が刊行されました。

 帯にはこうあります。<僕たちはどう悩んだか 希望か絶望か 生活か芸術か>

 デザイン、面白い。

 

 読まれ続けている作品ですが、この作品を今どう読むかというテーマで、私も寄稿しています。

 

 

 

 有島氏が作中で綴った青年漁師画家である「君」とは、まさに木田金次郎氏のことなのはよく知られています。

 

 

 私は有島氏の他者への共感する力の深さに絞って書かせていただきました。

 ただただ「君」の存在への共感が描かれた稀有なストーリーであり、共感する力の深さが、「私」と「君」の激しく美しい言葉を手繰り寄せたように感じています。

 他者を思ってそれほどに悩むことがあったろうか、百年経っても問いかけてくる。

 

 ニセコ町にある有島記念館主任学芸員の伊藤大介さんと、岩内町にある木田金次郎美術館学芸員の岡部卓さんによるクロストークでは、岡部さんがこの小説について<普遍的なテーマで言えば「ひとつの偶然の出会い」を考えてみたくなります。ある出会いが人の生き方を変えて、それまで想像もできなかった方向へと背中を押します。悩みもがきながらも、そのことが希望だと感じます>そう話されています。

 

 ドイツ文学者の池内紀さんは、<木田金次郎は本当に吹雪の夜に狩太の農場を訪れたのだろうか。そのときあらわれたたくましい青年は、おりしも有島武郎がこの年に発表した『カインの末裔』の主人公を思わせる。狩太の大自然をそのまま人物化したような野人の姿である〉

 

 いずれも印象的な読み解きがされています。

 私が読んだ版は、1991年版。

 

 

 

 

 北海道新聞社が編集を担当、谷口雅春さんの原稿によって、本書に登場する当時の札幌のりんご園の様子も想像できるようになりました。

 札幌にもたくさんのりんごの樹があったことを改めて知る機会にもなりました。

 

 書籍は北海道の書店を中心に販売されて、道外ではアマゾンなどで購入ができるそうです。