マージョの家出2 | ピアソラの蜜柑

ピアソラの蜜柑

オレンジの街での生活

ジャイちゃんも父と母のただならぬ様子に
一緒になって家の中を隅々まで探しますがマージョはどこにもいません。

私・「うっそ・・・。」

アルバロ男爵と私は血相変えてジャイちゃんとたっくんを義父母に預け
家の周りをマージョの名前を呼びながら探しはじめました。

「マージョ!マージョ!マージョ!」

暑い夏の日曜日の昼下がり、通りにはひとっこひとり見当たりません。

段々事態が深刻化し始めてしばらく捜索してもマージョは見つからず、
アルバロ男爵が車のエンジンをかけて

「ちょっと車で一回りしてくる。」

と言って出かけていきました。

20分後、マージョのとぼけた顔が窓からのぞいているのを期待して出迎えるも
出てきたのは悲壮な表情のアルバロ男爵の顔のみ。

マージョはバカだからまだ引っ越してきたばかりで家の場所も分からないだろうし、
運動神経も鈍いからうろうろしていれば車に轢かれるかもしれないし、
一番可能性が高いのはマージョは血統書付きの純血種のヨークシャーテリアなので
一目でそれと分かる整った容姿をしているから盗まれて売り飛ばされるか、
もしくはそのまま家で飼われるか・・・。

でもこの人口2800人ほどの小さなカシノス村じゃ散歩をしていればすぐに見つかるし
普段見かけない犬を所有者じゃない人間が散歩していればすぐに人目につきます。

義父母も来ているのでマージョにばかり関わりあっているわけにはいきませんでしたが
いても立ってもいられなくなり私は近所の開いているバルに通達を出しにいきました。

正直私もアルバロ男爵も義父母と楽しく昼食会という気分じゃなかったのですが
できるだけこの間はマージョのことは忘れることにして昼食会を終え夕方になり
夕涼みと再度のマージョの捜索がてら外に出ることにしました。

私はお向かいのばあさん、裏の公営プール、道端に椅子を出して涼んでいるジジババや
若者に片っ端からマージョのことを説明し名前と電話番号を書いた紙切れを渡していきます。

そして村のメイン通りでいつも見かける体の不自由な車椅子の女性を見かけました。

彼女とその車椅子を押している女性に近付きやはりマージョのことを説明します。

するとその女性が

「あ、見て見て!ちょうどあそこに座ってビールを飲んでいるおじいさんいるでしょ?
あの人が村の毎朝9時のアナウンス係りだから
あの人に話して明日の朝村の放送で流してもらいないさい。名前はミゲルよ。」

カシノス村では毎朝9時に

「みなさん、おはようございます!今日は○○で○○の催しが○○からあります!」

とか時には

「おはようございます!村長です!今日もいいお天気ですね!」

とか

「昨夜、○○通りの○○氏の夫人のカルメンさんがお亡くなりになりました。
葬儀は○○で○時からです。」

とか毎朝村中にアナウンスされるのです。

その放送の前後に流される音楽も訃報の時はクラシックのミサ曲、
祭りの催しの時はポップな流行歌、闘牛のお知らせのときはパソ・ドブレ。
村長さんの時はちょっと古めの日本でいう美空ひばり的村長さんのお気に入りと思われる昔の流行歌。

とこんな感じで音楽をきくだけで「あ、今日は訃報だな。」とか分かるのです。

そんなわけでこのアナウンスを雨の日も雪の日も長年続けているミゲルじいさんに
私は半泣き状態で藁にもすがる思いで話しに行きました。

ミゲル・「了解じゃ、明日アナウンスするからここに連絡先の電話番号書いときなされ。」

と。

もうどこを探してもいないマージョ、このアナウンスに頼る以外方法はありません。

夜になって義父母が帰ってからも
私たちは車の下で轢かれてないか道路を四つんばいになって探したり、
アルバロ男爵は

「無意味なことは分かってるけどなんだかじっとはしていられないからちょっと車を出してくる。」

とジャイちゃんとたっくんが寝た後、車で出かけていきました。

ずいぶん長いこと帰ってこないなぁ、と思ったらなんと山の家まで行ってきたそうです。

「もうどこを探したらいいのか分からなくて、山の家まで行ってきた。
もちろん真っ暗で誰もいなかったけど・・・。」

と・・・。

その日の夜はふたりがっくりで話す気力もなく、ベッドに入ってからも寝苦しく
私はうとうとするもマージョが誰かにさらわれた嫌な夢にばかり見てほとんど眠れませんでした。

そして一晩中落ちこんでつらい夜を過ごし朝を迎えました・・・。

(マージョの家出3に続く・・・)

ミズエ