結婚話 | ピアソラの蜜柑

ピアソラの蜜柑

オレンジの街での生活

私の結婚話が進んでいます。


相手本人からではなくその父親からものすごい圧力がかかっています。



私の家の下に「バル・ロス・ペペス」(ペペ達のバル)というバルがあります。

朝7時半~夜9時まで開店の主に土方のおじちゃん、真面目な労働者、地域社会にまっとうに生きる人たちの為のバルです。

タンゴ・イ・トゥルコとはまったく正反対の位置にあるタイプのバルといえましょう。


私はペペに大体毎日行きます。

ある時は朝のコーヒーを飲みに、ある時は一杯50円のワインを飲みに、ある時はぼーっとしに。

冷蔵庫に何もなければペペで食べ、困ったことがあれば全てペペに相談。


ペペがいなければ3年前にバレンシアにたったひとりで乗り込み、家を買い、

ここまで元気に楽しくやってこれなかったでしょう。


いわばバレンシアでの父親みたいなものです。


ところがぺぺが私の本当の父親になりたいと言い出しました。


ぺぺには二人の息子がいます。

30歳のホセと24歳のイバンです。

ホセはスーパーに勤めており、イバンは電気修理屋です。


弟のイバンは社交的で冗談が上手な上、誰にでも親切で常に彼女も入れ替わり立ち替わりです。

小柄ではありますが色も浅黒く、ジムに行っているので体つきも締まっています。

笑顔からこぼれる真っ白い歯がとてもかわいい印象を与えます。

ウチの電気が壊れれば軽いフットワークでひょいっとやってきてすぐ直してくれるし、

何か重い買い物があればちょいと車を出してくれます。

この辺りが女の子にも人気があるところなのでしょう。


ところが兄のホセは何もかもイバンとは対照的です。

まず外見は、つぶらな瞳の上に切る前の海苔巻きのような一文字眉があります。

ドラえもん体型で、頭頂は既にさみしくなっています。

性格は穏やかで無口で、恥ずかしがり屋です。


バルで会って私が「オラ!ホセ!」なんて言っても右斜め後方を向いて目も合わせず

「ォラ・・・」と小さくつぶやいて走り去って行ってしまいます。

先日はスーパーの帰り、偶然道でホセに会いました。

明らかに二人とも行き先は同じペペなのでおしゃべりでもしながら一緒に行こうと思ったのです。

(あわよくば荷物一個くらい持ってもらおうと思った。)

すると私が言葉を発する間もなく「ォラ・・・」と小さくつぶやき

突然競歩の選手のように走るでもなく、かといって歩くでもなし、微妙な・・・・

しかし物凄いスピードであっという間にはるか彼方へ消え去ってしまいました。


しかしペペの奥さんでホセのお母さんのパキは「ホセくらい心の優しい子は見たことがない。」と言います。

私もそう思います。

恥ずかしがり屋のテディベアみたいでかわいいなぁとも思います。


しかし!それとこれとは話が別です。


ぺぺとパキの勝手な妄想はどんどん具体化していきます。


パ・「ミズエはもう家があるんだからそこにホセと新婚で住めばいいわね。」

ぺ・「結婚したら無条件でこのバルを二人にプレゼントするよ。」

ぺ・「ミズエとホセがバルを始めたら新婚さんの邪魔にならないように自分達はさっさと引退するよ。」

パ・「イバンには今私達が住んでいる家をあげればいいから、ミズエとホセには山の別荘もオマケに付け  

   るわ。」

(ぺぺはバルのオヤジですが実は資産家で山の別荘の他、バレンシアに土地などを持っているのです。)

ぺ・「ミズエは早起きが苦手だから、朝だけ自分が働いても良い。」

パ・「なんなら私がモーニングコールするわよ。」

ぺ・「いや、なんならミズエはカウンターでワインを飲んでいても良い。」

パ・「そうね、新婚だと何かと大変だからしばらくは専業主婦してなさいな。」

ぺ・「自分が元気なうちは気が向いた時だけ働けばいいよ。」

パ・「オリエンタルの孫なんてかわいいでしょうねぇ~」

パ・「山の家の湖で中国人の孫と遊べるなんて夢みたいだわ。」


ミ・「ちょ、ちょ、ちょ、二人とも・・・・あはは・・・・」


ぺ・「あはは・・・じゃない。いつまでも小鳥みたいに自由に唄って飛び回ってるわけにいかないだろ。」

パ・「そうよ、そうよ。」


ぺ・「ところで具体的な財産分与の話だけど・・・・」


一気にワインを飲み干して大慌てで逃げ出してきました。

心を強く持っていないと押し流されそうです。


風前の灯?とは私のことです。


ミズエ