それは最後の通し稽古が終わり、

荷造りの前に皆で炊き出しのご飯を食べて


英気を養っているという時だった。




衣裳用の袴を実家の呉服屋から

借りてくれていた根津さんが突然

「借りれなくなった」

と言い出した。





明日劇場入り、という日に、である。




演出家・詩森ろば氏が

「それは困ります」

と敏感に反応、皆の箸が止まった。

僕だって困る。

大切に使わせて貰っている張本人だ。




でも根津氏はあくまで頑なだ。

「僕の一存ではどうする事も出来ない。諦めてほしい」

「それおかしいですよね?納得いきません」

詩森氏が声を荒げる。




おかしい?

どうだろう?

借りてるのは僕たちだし。


でも通達は劇場入り前日だし。


僕からしたら双方共に納得できぬ状態ではあったが


明らかなのは二人が初めて見たといっていいくらいの


臨戦態勢だったことである。


根津さんなんて笑みを湛えながら凄まじい怒りっぷりだ。


人間が笑いながら怒ることが出来るのか。狂気だ。





売り言葉に買い言葉の舌戦の中


不意に詩森氏が僕に矛先を向ける。


「多根さんのも使えませんよ。どうしますか?」


「考えましょう」


僕は努めて温和に、そして冷静に言った。


いや気づくとそんな言葉を吐いていた。


人間、考えなくても言葉って口をついて出てくるのね。





しかし自分の発した言葉が不意に重くのしかかる。


…考えるって?


明後日本番だぜ?


袴だぜ?買うのは勿論、借りるのだって安くないぜ?


マズイぜ!こりゃ最高にマズイぜ!

喧嘩なんてしてる場合じゃないぜ!





そんな考えがぐるぐると頭をよぎる中


今度は戦闘中の根津さんが僕に矛先を向けてきた。


「無理なものは無理だし、それに今日は色々あるから…」


もう言ってる事もしどろもどろだ。


「…それに誕生日の人もいるし」





次の瞬間笑いをこらえて目に涙をためたはざまみゆきが


ケーキを持って入ってきた。


多根周作オフィシャルブログ「棚から牡丹餅」powered by アメブロ-200905082001000.jpg


やられた。


何だかよく分からないがサプライズだ。


何が悔しいって、目の前で繰り広げられる


真実と疑わなかった出来事が全て仕込だったことだ。


残らず酒の肴にされたのは言うまでもない。


恐るべし、根津茂尚。恐るべし詩森ろば。




そんなこんなで誕生日です。ゾロ目です。


劇場入り前日にバースデーという


とんでもなく面倒な日に申し訳なかった。


でも色んな人からお祝いのメッセージを頂いた。


弟からは使わなくなったパソコンを貰った。


使わなくなったといってもほとんど新品だ。


本当に感謝。





33歳になって初めての舞台が


格式高いスズナリというのは嬉しい限り。


頑張ります。


今日からまた一年、積み重ねます。






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