F1中玉トマト101の育成過程

 

 

 2000年前後に、大玉品種でもなくミニトマト品種でもないトマトが、中玉(ミディ)トマトとして店頭で見かけるようになった。初期に登場した栄養繁殖系品種は、食味に優れミニトマト並みに糖度が高く、大玉トマトのような食べ応え感もあり、生産・流通・小売まで一貫したブランドで取り扱われていた。その頃、種子繁殖系品種は、国内メーカー以外にも海外の大手メーカーの品種が入ってきていたが、房どり特性や、収量性、日持ち性には優れていたものの、甘さや皮の硬さに難があったように思う。

 2005年までに、国内メーカー各社から新品種が発表され、産地形成も進んだため、最近の店頭では「大玉トマト」、「ミニトマト」に加え、「中玉(ミディ)トマト」が普通に並ぶようになった。

 ただ、中玉品種は需要が少ないためか開発競争が起こりにくく、大玉・ミニ品種に比べ品種数が少ない。特性も”味は良いが大葉で管理面で劣る”、”収量性に優れるが、ガクが外れやすく個どりできない”など、品種としての完成度に物足りなさを感じる。

 このことから各品種の優れた特性を併せ持つ品種の育成を目指し育種を開始した。

 

【育種目標】

トマトの風味が強く高糖度で食味に優れる

果は光沢があり、約30~40g平均

個どり専用種だが、きれいな果房でS~W果房中心になる

ミニトマト並みに葉が小さく栽培が容易

 

【育成過程】

 青果物で輸入されていた海外F1品種の分離後代から、トマトの風味が強く、多収性の系統を選び選抜固定した(A系統)。また、国内メーカーのF1品種から、夏秋栽培で甘味・酸味のバランスがよく味が良いと評価されていた品種の分離後代から食味の良い個体を選抜固定した(B系統)。固定した両系統を用いて試験交配(試交C)を行ってみたところ、糖度は予想していた通りだったが、B系統に入っていた”酸味”がA系統の特徴だった”トマトの風味”を打ち消してしまいA系統の良さが失われてしまう結果となった。

 この結果をもとに、トマトの風味と高い糖度を持った系統の作出を狙い、試験的に組み合わせた試交C後代から酸味の少ない個体の選抜を試みたが、単純な選抜では思うように酸味を取り除くことができなかった。そこで、A系統に戻し交雑(A×C)を行い、高い糖度とトマトの風味を維持したまま、酸味の除去を試みたが、この方法でも想定したような味にならなかった。

 A系統×試交C 後代からの選抜をあきらめ、当時、促成栽培で酸味がないことから食味の評価が高くなっていた国内品種を、育成途中の系統(A×Cの後代)に交配させ、酸味が少ない個体を選抜したところ、分離後代から酸味がなく大玉で母系統としての適性を持った個体を選抜、固定できた(D系統)。

 

 父系統は、より高い糖度を求め、ミニトマト品種から糖度が高く、比較的大粒のF1品種EとFを選び出した。品種Eは、味のバランスがよく、1本の花房は短いがW~複花房になり、草姿は複葉が小さくコンパクトで通風性や作業性に優れていた。品種Fは、着果に特徴があり食味に優れ、夏秋栽培でも糖度の低下が少なかった。その両品種の特性を併せ持つW~複花房で夏秋栽培でも糖度が安定した系統の作出を目指し、両F1品種を交配させ、その分離後代から比較的大粒で糖度の高い系統を選抜固定した(G系統)。

 

育成した両系統を組み合わせたところ、シングル花房主体で果重30g平均になってしまったが、トマトの風味があり食味が良いなど、そのほかの特性は育種目標を満たしていると判断し新品種完成とした。

 

D系統× G系統= F1中玉トマト101