「いつか一輝に山頂からの景色見せたりたいねん」
きっかけは佐々木のその一言だった。
ぼくたちは深夜24時に名古屋駅に集合した。
背中には大きなバックパック。
足元にはごついブーツ。
これは紐を結ぶのが少しばかり難しいやつだ。
初めての山登りということもあり
寄せ集めのアイテムでなんとか間に合わせた。
汗を吸っても乾きやすいバスケ用のTシャツに
ランニング用のナイキのショートパンツに好きなバンドのキャップに10年使っているレインウェア。
この背中の大きなバックパックは佐々木から開店祝いのプレゼントということで数日前に送られてきた。開店祝いにしてはずいぶん遅い。
とても喜んだ。
デザインもちゃんとぼくの好みだった。
そのバックパックの中には全身の着替えと
大事なカメラとそこまで大事ではないカメラと
持ち運びのiPhoneバッテリーが入れてある。
大きなバックパックの割に荷物の量は
控えめなのでまだかなりスペースが空いていた。
なんでも余裕があるぐらいがちょうどいいのだ。
日帰りなので(まあ深夜の24時ではあるが)
必要最低限の荷物で十分だと聞かされていた。
結局、そのまま彼の言うとおりだった。
正直体力には自信がなかった。バスケをしていたのはもう10年ほど前、それ以来美容に全力で打ち込んできたのでもう運動なんて全く忘れていた。
たまにランニングなど軽くすることはあった。
しかしそのたびに体力の低下を思い知らされ、
数日間は筋肉痛になってしまうレベルだった。
佐々木は「おれも運動不足だから大丈夫大丈夫!」
とか言っていたので、何が大丈夫なんだとぼくは
思っていた。彼は大学でもバスケをしていて、
ここ数年は山に登りつづている。
何が大丈夫だというのか。
比べ物にならないほど動けないぞぼくは。
しかし何かあっても助けてくれるであろうという
安心感と信頼のある人なので任せることにした。
それにしても佐々木もぼくも前日は仕事をしていた。寝ずに集合してそこから車で数時間かけて
山の近くまで行って少し仮眠してから登るらしい。
直前まで詳しく聞いてなかった。
というか聞いていたが把握してなかった。
とてもハードな旅になりそうだ。
少し佐々木の説明をしよう。
地元の友達で高校が一緒でバスケ部でも一緒。
お互いだいたい何でも知っているような仲だ。
一輝と佐々木といえば俺たちのことだ
大学 専門になってぼくが大阪に住みさらには
東京に出てきてからというものは年に何度か
連絡を取るぐらいだった。
でもまあだいたい、なんとなく様子は分かっていた。今回、会ったのも2年ぶりだったがお互い話した感じは特に変わってはいなかった。まあいつものことだ。
彼は土日休みを取れないぼくに合わせて仕事を休み
さらに超スーパーペーパードライバーのぼくのためにずっと運転してくれたり、何から何までお世話になった。
この旅の細やかな計画を立てたのも全て佐々木だ。
さらにバックパックまでくれて、、、
ぼくはただワクワクしながら荷物を詰めて助手席に乗っただけだ。
普通なら相手に気を使い、いてもたっても
いられなくなると思うが決してそんなことにはならない。気楽にいさせてくれるような人間なのだ。さすがだ。
名古屋駅から長野県の中央アルプスに向かう道中ではお互いの近状を話し、さらに佐々木の山での経験や簡単な知識などを教えてくれた。地理の先生みたいだ。ちなみにお互い地理は苦手だった。
あとは家族のこととか女性関係のこととか、久しぶりに会った友達と話すようなことを話した。同級生の話は定番中の定番である。でも話してしまうものだ。
話によるとみんな元気らしい。
まあどうせ元気だろう。聞くまでもなかった。
そのまま2時間程運転しながらしゃべり続けた。
気がついたら目的地に着いていた。
2時か3時ぐらいだった。
まだまだ明ける気配のない夜だった。
駐車場の周りは木々と夜の暗闇に包まれていた。
駐車場には他の登山客の車がいくつか止まっていた。始発のバスの時間まで少し仮眠するらしい。バスに乗るのは一般の車では行けない道だかららしい。
ぼくたちは車のエンジンを切り、
お手洗いを済ませ大きな音を立てないように
軽くだけ準備をして、仮眠をすることに。
1時間弱は寝たと思う。
起きても外は真っ暗だったがバスを待つ登山客が
ちらほらと外に出てきていた。
もう朝の何時か覚えてないがバスでの道のりは30分ほどで、少し仮眠ができた。気持ちとしては山を前に高ぶっていたが寝ようと思えばすぐに寝れた。
さてついに
おれの初登山が始まる。
ここからは写真と映像でお届けすることにする。
旅系のブログでは意識していることであるが
見る人も、一緒に旅をした気分になれるような
そんな内容が理想だと思っている。
あなたの忙しい(もしくは退屈な)毎日に少しでも
非日常というスパイスをふりかけれればなと思う。
では行きましょうか。
その時は近い。
そろそろ山頂に着く頃だ。
2へつづく
↓
◼︎田中と山と佐々木 2