17記事目:スズメと社長と、一箱のティッシュ。

〜おっさん、異世界に転生しました〜 



 4月。おっさんの新しい人生が幕を開けました。 


結論から言います。



……ここ、本当に同じ日本ですか?



 前職では



「一回しか教えないからな!」



という脅迫めいた指導がデフォルメでしたが、今の職場は



「わからなかったらいつでも聞いてね」


という、聖母のようなお言葉。 



さらにはパートさんからお菓子まで飛んでくる始末。



おっさん、あまりの優しさに


「これ、ドッキリ番組の仕掛けじゃないよね?」


と周囲をキョロキョロしてしまいます。 


 先日も、花粉症で鼻水が決壊した私。 


あいにくティッシュを忘れ、

恐る恐る共有の箱から1枚だけ

「拝借」したのですが……。



 それを見た方が



「これ、一箱どうぞ!」



と、新品のボックスティッシュを差し出してくださったのです。


 前職なら、1枚使っただけで


「ツカツカ」


と足音を立てて寄ってこられ、


「会社の備品を勝手に使うな!」


と全校集会並みの音量で怒鳴られていた案件です。


この違い、もはや神対応を通り越して


「仏対応」 です。



 さらに驚いたのは、定時のチャイムと共に皆さんが光の速さで帰宅すること。 


終業間際に私が女性事務員さんに話しかけてしまった際、 


「ちょっとぉ、おっさん(私)が話しかけるから残業になっちゃったじゃない!どうしてくれるの(笑)」


 と冗談が飛び出し、事務所内は大爆笑。 


「残業=美徳」だった暗黒時代から一転、ここでは「笑い」が定時の合図のようです。


 極めつけは、ある朝の出来事。 

遅刻厳禁と早めに出勤した私を待っていたのは、どこからか迷い込んだ一羽の


「スズメ」


と、それを見守る社長でした。 



 「社長、スズメが飛んでいるのですが……」



 「おぉ、窓を開けて逃がしてあげよう!」 



 入社間もない平社員(おっさん)と、会社のトップである社長と二人きり。 


 そんな二人で朝から社長が


「チュンちゃん、こっちだよ〜」

「出口はあっちだよ〜」


と社長が言いながら二人でスズメの追いかけっこ。 

 社長のあまりのチャーミングさに、おっさん、笑いを堪えるのが必死でした。 



 まだ「借りてきた猫」状態の私ですが、今のところ社員さんの裏の顔は見当たりません。


これからどうなるか。

本当は悪い人たちか。 

もしこれが夢なら、どうか4月の間だけは覚めないでほしい。



 なにが起こるかわからない、それが人生。



 今は無理せず、この温かい空気の中で、一歩ずつ恩返し、できる限り頑張って続けて行きたいと思っています。