X'masの奇跡 後篇 (夏詩の旅人3 Lastシーズン) | Tanaka-KOZOのブログ

Tanaka-KOZOのブログ

★ついにデビュー13周年!★2013年5月3日2ndアルバムリリース!★有線リクエストもOn Air中!

 2014年12月25日 クリスマス当日

サンタに扮したハリーは、中出氏が開発した反重力空中滑走機「メスプレイ」で、児童養護施設ともしび学園へと向かっていた。



「うっひょぉぉぉ~~~~ッ!」
ご機嫌のハリーは、そう雄叫びを上げながら市街地の上空を飛んでいる。

やがて、空を飛んでいるトナカイとソリに気が付いた住民が、指で差しながら叫ぶ。

「おい!、何だあれはッ!?」

「え!、マジッ!?」

「うえっ、サンタクロースじゃんかぁッ?」

「どこどこッ!?」

「ほら!、あそこッ!、あそこッ!」

住民たちが次々と、上空のサンタに気づき出す。
そして住民たちは、スマホでサンタの動画や画像を撮影し始めた。

街は大騒ぎとなった。
道路を走る車も止まり、大渋滞が発生した。

サンタの画像を撮った者たちは、Twitterや、インスタグラムに次々と投稿を始めるのであった。



東京赤坂 MBSテレビ

「番組の途中ですが、ここで緊急ニュースをお届けします!」
ニュースバラエティの司会アナが、慌てた口調で言う。

「先程、東京多摩地域の上空で、空を飛ぶサンタクロースが現れた模様です!」
「視聴者から送られた動画がこちらです!」

男性アナが興奮気味にそう言うと、空を飛ぶサンタの動画が番組で流された。



「フェイク動画なんじゃないの~~~?」
コメンテーターの玉川が、訝し気な表情で言う。

「いえ、玉川さん、これは今しがたの様子を撮影したものですから、動画を編集する暇などありません!」
「この動画以外にも、同様のサンタが飛ぶ動画が、番組に次々と送られて来ています!」(男性アナ)

「いくら今日がクリスマスっていっても、サンタなんか現実にいるワケないでしょう!」(玉川)

「しかし、これは現実ですよ!、玉川さん!」(男性アナ)

「サンタクロースは空想上の人物です!、アナタ、現実の世界にサンタなんかいませんよ!」(玉川)

「ちょっと、玉川さん…ッ、子供も観てるんですよ!」
隣の長島シゲカズが、玉川に注意する。

「あ!…」
玉川はそう言って、慌てて口を押えた。
彼は、夢の無い事を言ってしまったと、自らを少し反省した。

すると、司会のアナウンサーが突然興奮気味に話し出した。

「みなさん!、今、たまたま別の番組で多摩地区へ収録に来ていた阿部さんと繋がっているようです!」
「現場の阿部さぁ~~ん!、そちらの様子を教えて下さぁぁ~~い!」(男性アナ)



「みなさん…!、事件です!」
緊張の面持ちでマイクを握る、レポーターの阿部が画面越しに言う。

「これをご覧ください!、私が見る限り、確かにサンタクロースがトナカイの引くソリに乗って、空を飛んでおります!」

「なんという事でしょうか!?、クリスマスの夕暮れに、本物のサンタクロースが現われたのです!」

阿部レポーターの中継に、スタジオのコメンテーターたちも、画面に釘付けとなるのであった。


 東京多摩地域上空
ハリーの操縦するメスプレイへ、中出氏から連絡が入る。

「ハリーさん、随分とハデにやってますね!?(笑)、TVやネットでは、ハリーさんの話題で持ち切りですよ♪」
正面のモニターに映る中出氏が、笑顔で言った。

「え!?、そうなんでやすかい?」(ハリー)

「ニュース番組では大騒ぎ、Yahoo!トピックや、Twitterでトレンド入りしてますよ♪」(中出氏)

「ガハハハハ……、そうでやすかぁ…」(ハリー)

「ハリーさん、喜んでばかりも、いられませんよ…」(中出氏)

「どういう事でやすか?」(ハリー)



「先程、茨城県の百里基地から自衛隊の第7航空団が、F-2戦闘機でスクランブル発進しました」(中出氏)



「え!?、何でまた?」(ハリー)

「当たり前じゃないですか!、ハリーさん、アナタは今、日本の領空侵犯をしているんですから…」
「彼らは、国籍不明機のハリーさんを迎撃しに間もなく現れます」(中出氏)

「何ですとぉぉッ!?」(ハリー)

「アナタが今操縦している、メスプレイの最大速度はマッハ1ですが、F-2戦闘機はマッハ2で追って来ますので逃げきれません」(中出氏)



「でも自衛隊機ってのは、相手から攻撃を受けないと、撃墜する事は出来ないでやしょ?」(ハリー)

「ふふふ…、ハリーさん、自衛隊法第76条第1項には、「防衛出動」というのがありまして、緊急に、我が国を防衛する為に必要とあれば、国会の承認を得なくても自衛隊の判断で出撃して撃墜できるのです」

「そこで、アナタに今からF-2戦闘機から逃れる方法を伝えようと思います」(中出氏)

「何でやすかそれは!?」(ハリー)

「今、私が映っているモニターの下にボタンがあるでしょう?、それはワープボタンです。ワープをすれば、F-2機からハリーさんは逃げられます」(中出氏)

「それじゃ、早速ワープを…ッ」(ボタンを押そうとするハリー)

「ハリーさん、ワープするには、その横に取り付けてあるNaviTimeに、ともしび学園の住所を入力しなければ作動しません」(中出氏)

「何でそんな、まどろっこしい事をッ!?、大体、始めからワープで出発すれば良かったじゃないでやすかぁッ!」(ハリー)

「すみません、すっかりワープの事、忘れてしまいました(笑)」(中出氏)

「まったくもう…、ええと…、ともしび学園の住所はと…」
ハリーがNaviTimeに住所を入力しようとすると、中出氏が言う。



「ふふ…、ハリーさん、どうやらもう来たみたいですよ…」
中出氏がそう言うと、物凄いジェットエンジン音が聴こえて来た!



ギュウゥゥゥゥ~~~~~~~~ンンッッ!!

「わぁ~~~ッ!、住所ッ!、住所ぉぉ~~ッ!」
ハリーはそう言いながら、慌てて行き先を打ち込んだ。



 その頃、ハリーのメスプレイを捉えたF-2B戦闘機のパイロット達が、驚きながら言う。(※F-2B機は2人乗り、ちなみにF-2A機は1人乗り)

「なんだあれは…ッ!?、サンタクロースじゃないかぁッ!?」

「本当だ…。あり得ん…ッ」

「どうする…ッ!?」

「と…、取り敢えず、警告を発してみよう…ッ」

「Roger!(了解!)」
パイロットはそう言うと、目の前のサンタクロースへ警告を発した。

「We are Japan air self difenceforce, You are approting Japanese air space.Take Heading East.
(我々は航空自衛隊です。貴機は日本の領空を侵犯しようとしています。東に変針して下さい)」

国際緊急周波数で警告を発したメッセージは、ハリーのメスプレイにも届いていた。
しかしハリーは、ただオロオロするばかりであった。

「わ~~~~ッ!、あっしは日本人なんでやすからぁ、英語で云われても分かんないでやすよぉぉッ!」
そういって、そのまま飛び続けるハリー。

F-2機からの警告は、その後も繰り返し続けられた。

「警告に従わないな…」

「どうする?」

「取り敢えず、追跡を続けよう」

「Roger!(了解!)」


「何だかよく分かんないでやすが、取りあえず止まれって事でやすかね…?」
ハリーはそう言うと、いきなり空中で静止した!

「うぁッ!」(パイロット)



ギュンッッ!

慌てて旋回したF-2機!
危うくハリーと衝突するところだった。

キィィィン…ッ

再び旋回するF-2機が、ハリーのメスプレイへ接近しながら言う。

「いい…ッ、今、空中で静止したよなぁッ!?」

パイロットは、ベルヌーイの定理を無視した飛び方をするメスプレイの事を、驚愕しながらパートナーに言った。

「どういう原理で飛んでるんだぁ!?」
パートナーが、目の前で静止しながら浮かぶメスプレイを見て言う。

「わぁぁ~~~ッ!、またこっちに来たでやすぅぅ~~~ッ!」
ハリーはそう言うと、トナカイの手綱を思いっきり引き上げた!

「チョリソォォォーーーーーッ!」

ブワッ!

メスプレイが、垂直に急上昇!
その真下を通過するF-2戦闘機!

キィィィィーーーンンン…ッ

再び旋回するF-2戦闘機!
そして、そこから上昇してメスプレイを追った!



「人間の乗り物じゃ、あんな動きは無理だぁッ!」(パイロットA)

「だとすると、地球外生命体かッ!?」(パイロットB)
彼らはそう言いながら、追跡する!

ギュゥゥゥゥゥ~~~~~~~~ンンッ



「みなさんッ!、事件ですッッ!、上空をご覧くださいッ!」
「今、自衛隊機とサンタクロースの激しいドッグファイトが空中で行われておりますッ!」
阿部レポーターが興奮気味に言う。

「サンタさぁぁ~~ん!、逃げてぇぇ~~!」
阿部の後ろから群衆の1人が悲痛な叫び声。

キィィィィーーーンンン…ッ

「サンタは自衛隊機の警告に従わず、飛び続けていますッ!」
「このまま飛び続ければ、自衛隊機はサンタを撃墜する事になりますッ!」
阿部がマイクを握りしめながら、カメラに向かって言う。

「やめろぉぉ~~~~!」

「撃たないでぇぇ~~~!」

空を見守る群衆が、自衛隊機に向かって叫ぶ。


「ええとぉ…、さ、…、相模原市…」
一方、ハリーは懸命にナビを打ち込むが、追われながらなので上手く作業が進まない。

ギュゥゥゥゥゥ~~~~~~~~ンンッ

「うわぁッ!、これじゃあ、住所入力できねぇでやすよぉぉ!」(ハリー)

キィィィィーーーンンン…ッ

ギュゥゥゥゥゥ~~~~~~~~ンンッ

「自衛隊機は、果たしてサンタを撃墜してしまうのでしょうかぁぁ~~~ッ!」
マイクを握る阿部レポーターが絶叫する!

「やめろぉぉぉ~~~ッ!」

「逃げろぉぉ~~~!」

群衆も叫ぶ!



「やむ得ん…、撃墜する…」

「Roger!(了解!)」

警告を無視しながら飛び続けるメスプレイに対し、ついにパイロット達が決断した!


「ふぅ…、やっと住所入力できたでやす…」
NaviTimeに、ともしび学園の住所をやっと入力し終えたハリーが言う。

「発射ッ!」
F-2機のパイロットがそう言ってボタンを押す!

機体の下からミサイル2基が出ると、前方のハリー目がけて一直線に飛び出した!



バシュッ!



「みなさぁぁ~んッッ!、撃ったぁぁ~~~~ッ!」(絶叫の阿部リポーター)

「あああ~~~~!」

「神よぉぉ~~~ッ!」

絶望する群衆も叫ぶ!

シュゥゥゥゥーーーーーーーッッ!(ミサイル)

「ひぇぇ~~ッ!、来たぁああ!、ワープッ!、ワープッ!」
ハリーがワープボタンを押す!

バシュゥッッ!

次の瞬間、空が発光した!
ハリーのメスプレイが、白い輪のワームホールに飛び込んだ!



シュゥゥゥ…ッ

光の輪が消えると、メスプレイはミサイル2基と共にワームホールの中へと消えた。

「消えた…」
その光栄を目の当たりにしたパイロットが唖然と言う。

だが心のどこかでは、サンタを撃墜しないで済んだ事に安堵するパイロットなのであった。

 一方、ワームホールに突入したハリーは、ミサイル2基に追われていた。



「ひぇぇぇ~~~ッ!、ミサイルまで一緒に、ついて来ちゃったでやすぉぉ~~~ッ!」
そう叫びながら逃げるハリーの背後から、ミサイルはどんどん差を縮めて来る!

シュゥゥゥゥーーーーーーーーッ!

ミサイルがメスプレイに当たる瞬間であった!

「チョリソォォ~~~ッ!」
ハリーはそう叫びながら、ソリの手綱を思いっきり引き上げた!

バゥッ!

垂直に急上昇するメスプレイ!
その真下を通過する2基のミサイル!

シュゥゥゥゥーーーーーーーーッ!



「ふぃぃ~~…、危なかったでやす…」
目の前を飛び去るミサイルを見つめながら、ハリーが言った。

『まもなく、目的地周辺です…』
そのタイミングで、今度は備え付けられたNaviTimeが、アナウンスする。

「どうやら無事に、ともしび学園に着けそうでやすね…」

ハリーはそう言って安堵すると、目の前に広がる光の輪の出口へと、メスプレイを進めるのであった。



 夕暮れの、児童養護施設ともしび学園

音楽室では、職員のマチコが弾くオルガンに合わせて、子供たちが“赤鼻のトナカイ”を楽しそうに歌っていた。



「それじゃあ次は、ともしび学園の校歌を皆で一緒に歌いましょうか!?」
マチコが、明るい笑顔で子供たちに言う。

「じゃあ始めるわよ~♪、さん、はい!」(マチコ)



「どこまぁ~でもぉ どこまぁ~でもぉ 果てしない空ぁぁ~~~♪」(子供たち)
校歌は結局、大原専門学校CM曲を採用していた…(笑)

 それから、校歌が始まって間もなく、1人の子供が教室の窓を指して言う。

「せんせぇ!、何あれ!?」
子供が言った方へ目を向けるマチコ。

「えッ!?」
それを見たマチコが驚いた。
なぜならば、夕闇の上空からサンタクロースのトナカイが降下して来たからだ!



ボボボボボ……ッ

サンタとトナカイが、ゆっくりと、ともしび学園の校庭に着陸した。

「わぁ♪、サンタさんだぁ!」
1人の子供がそう叫ぶと、他の子供たちも一斉に沸き上がり、校庭へと走り出すのだった。

「サンタさん!、サンタさぁ~んん♪」
校庭から飛び出して来た学園の子供たち。
みんなは、ハリーの元へと駆け寄って行く。



そしてマチコも校庭に出た。
そのサンタの姿を見た瞬間、あれはハリーなのだと気が付いた。

それと同時に、1人だけサンタに駆け寄らなかったタケシが、遠巻きからみんなに言う。

「おい、みんなぁ!、騙されんなッ!」
「あれはサンタじゃない!、よく観ろ!、あれはハリーだ!、ニセモノだ!」



その言葉を聞いたハリーが、ギクッとする。

「ほらみろ…、俺の言った通りだろ!?、サンタなんか居ないんだ!」
「あれはハリーが、俺たちを騙そうとして変装してるだけだ!、やっぱり大人は嘘つきなんだ!」

ハリーに近づきながら、タケシが言う。
マチコは、その様子を黙って見つめていた。

するとハリーは、タケシに笑顔で話し掛けた。



「タケシくん…、確かにあっしは、ハリーでやす…」
「でも、あっしはニセモノのサンタじゃありやせんぜ…」(ハリー)

「ニセモノじゃないかッ!」
ハリーを指して、タケシが言う。

「違いやす…。本物でやす…」
ハリーはそう言うと、タケシにゆっくりと説明をするのであった。

「タケシくん…、サンタクロースってのは、何人居るのか知ってやすか…?」(ハリー)

「サンタクロースは1人だ!」(タケシ)

「その通りでやす…、サンタは世界中に、たった1人しかおりやせん…」
「一方、世界中に子供たちは何人いると思いやすか…?」(ハリー)

「そんなの分かんねぇよ!、多すぎて数えきれねぇよ!」(タケシ)

「そうでやす…。世界には、数えきれないほど多くの子供たちがいやす…」
「でもサンタは、その全ての子供たちに、プレゼントを渡したいと思っておりやす…」
「でも渡せる日は、クリスマスの日だけでやす…。時間が足りやせん…」(ハリー)

「だから何だってんだよ!?」(ハリー)

「だからサンタさんは、みんなにプレゼントを渡す為に、あっしみたいな者たちに、仕事の協力を依頼するんでやす」
「分かりやすか?、依頼って?、仕事を手伝って欲しいと頼む事でやす」

「お父さんやお母さんのいる子供たちには、サンタさんは、そのお父さんやお母さんにサンタの手伝いを依頼しやす」
「みんなの様に、お父さんやお母さんが遠くに居て会えない子供たちには、サンタさんは、あっしに仕事を頼みやす」

「だから、サンタの格好をした世の中のお父さんやお母さんは、決してニセモノなんかじゃありやせん…。勿論、あっしもそうでやす」

「なぜならば、あっしらは、サンタさんから子供たちへプレゼントを渡す様にと、正式に依頼されたからでやす」

「あっしは、サンタさんが渡しきれないプレゼントのお手伝いしている、正式なサンタクロースなんでやす…。だからあっしも本物のサンタクロースなんでやす」(ハリー)

「ハリーさん…」
マチコは、ハリーのその言葉を聞いて、微笑むのであった。
だがタケシは、そんなハリーの言葉に耳を貸さず、挑発的に言う。

「じゃあさ!、本物のサンタだって言うならさ、俺の欲しい物、プレゼントしてくれよぉぉ!」(タケシ)

「良いでやすよ…、アマゾンで売ってるものなら、何でもOKでやすよ…」
ハリーは、そう言って例の〝打ち出のメガホン〟を取り出し、タケシに向けてロックオンした。



ボンッッ!

「わぁッ!」
驚くタケシ!
メガホンの先から白い煙と共に、何かが飛び出して来た!



「わぁぁ~!、ゲームウォッチだぁぁーッ!、俺、これ欲しかったんだぁぁ~♪」
出て来たおもちゃに、大喜びするタケシ。

「ハリー!、俺も!、俺も!」

「あたしも!」

「俺も!」

それを見ていた子供たちが、一斉にハリーへプレゼントをねだる。

「良いでやすよ…。それ!」(ハリー)

ボンッ!

「それ!」

ボンッ!

「それ!、それ!」

ボン、ボンッ!

打ち出のメガホンから、次々とおもちゃが飛び出して来る!



「やったぁー!、ミクロマン!だー♪」

「リカちゃんハウスだわぁ~♪」

「うわぁ♪、野球盤だぁー!」

「ジャンボマシンダーだぁ♪」



「きゃぁ~!、ママレンジだわぁぁ~♪」

「田宮プラモのタイガー戦車だぁ~!」

「人生ゲームだぁー♪」



「任天堂のウルトラマシンだぁ~♪」

子供たちは、希望のおもちゃを手にしながら大喜びした。 ← いつの時代の子供やねん…(笑)

 そして順番は、まだプレゼントを貰っていない、ハルトの番となった。

「さぁハルトくん、何が欲しいでやすか?」
ハリーが笑顔で話し掛けると、ハルトはタケシの後ろに隠れながら、もじもじして言った。



「おかあさん…」(ハルト)

「え!?」
ハリーは、ハルトの言葉にたじろぐ。

(まずいでやす…。この子は、自分の母親が既に亡くなっている事を知らないんでやす…)
(弱ったでやすなぁ…、人間なんか願ったら、またダミーオスカーみたいなのが出て来ちゃいやすよぉ…)

悩むハリーが、ハルトに言う。



「ハルトくん、プレゼントはアマゾンで売ってる物しかダメでやすよぉ…」(ハリー)

「だめなの…?」(ハルト)

「へい…」
申し訳なさそうに頷くハリー。
それを見ていたタケシが言った。

「出してやれよハリーッ!、お前、本物のサンタなんだろッ!?」
「本物なら、何だって出来るだろぉッ!?」(タケシ)

「そうよ!、そうよ!、ハルトくんの願いを聞いてあげて!」

「そうだそうだ!、ハリーはサンタなんだから出来るだろぉ~!」

子供たちが次々と、ハリーに詰め寄って来た。

「ちょっと、みんな大人しくしなさい!、そんな事言ってサンタさんを困らせないで!」

見かねたマチコが、子供たちに言う。
しかし子供たちは収まらない。

「や~れ♪、や~れ♪、や~れ♪、や~れ♪」
子供たちがハリーに向けて大合唱する。

「ぐぅ…ッ」
困り果てて、その場に立ち尽くすハリー。

(ハリーさん…)
子供をたしなめながら、不安な表情でハリーを見つめるマチコ。

「分かりやしたぁッ!、こうなったら、破れかぶれでやすッ!」
「ハルトくんのおかあさんよ、出てこぉぉ~~いいッ!!」



ハリーがそう叫びながら、メガホンをハルトに向けた!
するとメガホンの先から、ひと際大きな煙が飛び出した!



ボオオオオォォォンン…ッ!

ハリーの目の前は、白煙でホワイトアウトした!

「ゲホゲホゲホ…ッ!」
煙を吸ったハリーがむせ返る。

やがて徐々に煙は引いて行く…。

「あれ!?」
煙が消えた目の前を見たハリーが言う。
それは、目の前にいたはずのハルトが、消えていたからだ。

「ええッ!、ちょっとハルトく~~~~んッ!、どこ行ったんでやすかぁぁ~~ッ!?」

辺りを見渡しながら、オロオロするハリー。
そこへマチコがハリーに話し掛けた。

「どうしたんです?、ハリーさん?」(マチコ)

「どうしたんだってッ!?、ハルトくんが消えちゃったじゃねぇすかぁッ!」(ハリー)

「ハルトくん…?」(マチコ)

「そうでやすッ!、ハルトくんが…ッ!」(ハリー)

「ハルトくんって…、誰の事ですか…?」(マチコ)

「ハルトくんは、ハルトくんでやすよぉッ!」(ハリー)

「うちの学園には、ハルトくんなんて名前の子供は居ませんわ…」(マチコ)

「なぁ~に言ってんでやすかぁッ!?、マチコ先生ッ!」
「おいタケシくん!、今、ハルトくんが目の前から消えたでやすよねぇ!?」

ラチの空かないマチコから、タケシに同意を求めるハリー。
しかしタケシの反応もマチコと同じであった。

「ハルト…?、誰だよそいつ?、俺、そんなやつ知らねぇよ。なぁみんな、ハルトなんて知らねぇよなぁ!?」

タケシの問いかけに、他の子供たちも同様に「知らない…」と、首を横に振る。

(一体、どうなってるんでやすかぁ…?、ハルトくんが消えちゃったのに、なんで皆、ハルトくんの事、覚えてねぇんでやすかぁ…ッ!?)
ハリーは不思議に思う。

「おい!、ハリー!、まだプレゼント貰ってないやつがいるんだから、早くしてくれよ!」
タケシがハリーに言う。

「へ…、へい…!」
茫然としていたハリーは、タケシの言葉に頷くが、心ここにあらずという感じであった。


 同日 午後6時08分
ハルカと一緒に飲みに行っていた僕は、由比ヶ浜海岸の自宅近くまで戻って来ていた。

「あ~!、美味しかったね!、チ・キ・ン…♪(笑)」

伸びをしながら歩くハルカ。
チキンを食べに行こうと誘った僕が、彼女を連れて行った先は、焼き鳥屋であったのだ。

「ははは…、美味かったろ?、あのお店!」
R134号沿いの遊歩道を歩きながら、僕は隣のハルカに言った。

ザザ~~ンン…、ザザ~~~ンン…。

通りを走る車が減ったからであろうか?
海岸から波の音が聴こえる。

「ねぇ、ちょっと降りてみようよ♪」
ハルカは突然そう言うと、階段を降りて夕闇に染まる由比ヶ浜海岸へ向かう。



砂浜に降り立った二人。
水平線の夕陽もほとんど沈み、辺りはだいぶ暗くなっていた。

それでもいつもより、この海岸に人が多かったのは、今夜はクリスマスだからなんだろう。



僕は、海を見つめているハルカの横顔を眺めながら、ふと、そんな事を思っていた。
すると、何かに気づいたハルカが突然言う。

「あれ!?…、ねぇ、こーさん!、雪!、雪が降って来たよ♪」(ハルカ)

「え?」と僕。

「ほんとよ!、ほらぁ…」
そう言って、海岸を指すハルカ。

彼女が指した海岸には、粉雪が微かに見えた。
それは、まるで空からパラパラと零れ落ちて来た様な粉雪だった。

「ホワイトクリスマスだね♪」
ハルカが僕に微笑む。

「今日、雪が降るなんて天気予報で言ってたかぁ?」
僕が言う。

「言ってない…、たぶん…」(ハルカ)

「そうか…」
僕は海に落ちて行く粉雪を見つめる。

「積もるかな?」(ハルカ)

「さぁ…?」
僕は海を見つめながら、ハルカの問いかけに首を傾げながら笑みを浮かべた。


 
 場面変わって、児童養護施設ともしび学園 午後6時5分
ここでも、粉雪がチラチラと降り始めていた。

サンタに扮したハリーは、打ち出のメガホンを使って、子供たち全員分のプレゼントを渡し終えたところであった。

「さぁ、これで全員プレゼントを受け取りやしたね?」
ハリーが笑顔で子供たちにそう言うと、タケシがハリーに言い出した。

「まだだよ」(タケシ)

「まだ?」(ハリー)

「まだマチコ先生が、プレゼント貰ってないじゃん」(タケシ)

「ああ!、そうでやしたね♪、マチコ先生も欲しいものを思い浮かべて下せぇ…(笑)」(ハリー)

「いえ…、私は別に…」と、遠慮するマチコ。

「良いんでやすよ!、今日はクリスマスなんでやすから♪」
「マチコ先生の欲しいものを、あっしに向けて願って下されば、何でもお望み通りに出て来やす♪」

ハリーは、そう言いながら打ち出のメガホンをマチコに向ける。

「私の欲しいもの…?」
何だろうと考えるマチコ。

ハリーは微笑んで、メガホンをマチコへロックオンした。
その時であった…!

「ミホッ!」
夕闇の中、学園の校門から男性の声!

その声に振り返るマチコ。
※マチコは苗字で、先生の名前は靺子みほ

「鶴田くんッ!?」
そう言って驚くマチコ。

「へッ!?」
何だ?と、ハリー。

校門の前に立っていたのは、若いイケメン男性だった。
長身で体育会系タイプのその男性は、もう一度、「ミホッ!」と、言うとマチコへ駆け寄って来た。

「どうしたの!?、なんで急に…?」
マチコがその男性に訊く。

「悪かった…、あんな事いって…、俺にはやっぱ。君しか考えられない…」
男性にそう言われたマチコは、黙って笑みを浮かべるも、目は潤んでいた。

そして、隣でその状況を見ているハリーは、この男性こそが、半年前までマチコと付き合っていたカレシだと確信した!

「あ!、ハリーさん、紹介するわ!、彼は鶴田知己くん…、大学時代の同級生なの、大きいでしょう!?」(マチコ)

「自分、中央大でアマレスやってましたぁ!(笑)」
男性はそう言い、頭に手をやってハリーに笑顔で挨拶をする。



「ど…、どうもでやす…」
硬直しているハリーは、そう言うのが精一杯であった。


「でも、鶴田くん…、どうして今日いきなり私のところに…?」
そしてマチコが、男性に振り返り再び訊く。

「今日でなきゃダメなんだ」(鶴田)

「え?」(マチコ)

「今日は、ミホの誕生日じゃないか」(鶴田)

「あ!」と、自分の誕生日の事など、すっかり忘れていたマチコ。

「もう一度、やり直したいんだ…」
男性はそういうと、ポケットからリングケースを出して、マチコの前で開いた。

「え!?」
それを見て驚くマチコ。

「受け取って欲しい…」(鶴田)

「良いの?、私なんかで…?」(マチコ)

「君じゃないとダメなんだ!」
男性が力強くそう言うと、マチコは黙って微笑み、コクリと頷くのだった。

ガーーーンンッ! ← ハリーの頭の中に響く音



「そんな…、そんな…、今度こそ、上手く行くはずだったのにでやす…」
ハリーは、その場でガックリと沈み込む。

 一方、マチコとカレシのやり取りを見ていた子供たちは、2人を冷やかし出す。

「ヒュー!、ヒュー!」

「熱いよ!、熱いよぉぉ~♪」

マチコがみんなに祝福される中、ハリーはヨロヨロと立ち上がり、メスプレイの方まで歩き出した。

「あ!、ハリーさん、どちらへ!?」
それに気づいたマチコがハリーの背中越しに言う。

「へい…、まだ他にもサンタの仕事が残ってやすので、あっしは、これで失礼させて頂きやす…」
力のない声で、ハリーはマチコに振り返る事もなく言った。

メスプレイに乗り込んだハリーが、スイッチを入れる。
トナカイとソリが、ゆっくりと垂直に上昇した。



ボボボボボ……ッ

空へ上がって行くハリーへ、マチコが笑顔で大きく手を振る。



「ハリーさんんッ!、ありがとー!、あなたのお陰だわー!」
「こんな素晴らしい奇跡を私にくれて、ありがとー!」
「あなたは、やっぱり本物のサンタクロースだわぁーーーー♪」

笑顔で空中のハリーへ、マチコはいつまでも手を振り続けた。

「とほほほ…、なんでこうなるんでやすかぁ…」
「分かりやしたぁッ!、もうこうなったらヤケクソでやすッ!」

「本物のサンタの力を、町中にみせつけてやるでやすッッ!」



ハリーはそう言うと、「ギヒヒヒヒ…」と笑いながら、メスプレイを海の方角へと飛ばした。



 鎌倉 由比ヶ浜海岸 午後6時25分
海に降り注ぐ雪を見つめていた僕とハルカ。

2人がそろそろ、家に戻ろうとした時であった。
海岸にいた他の人々が、何やら物騒がしい気配を漂わせているのに気が付いた。

「あ!、何だあれはッ!?」
その中の1人が、夕闇の空を指して叫ぶと、海岸からは次々と驚きの声が上がった。

「サンタだッ!」

「サンタクロースだぁッ!?」

夕闇の空に浮かぶ、トナカイのソリに乗ったサンタクロースが、目の前に現れた!



「う…、うそだろぉぉ…ッ!?」

僕は驚愕しながら、目の前に浮かぶサンタを見つめて固まった。
一方、周りにいた他の人々は、スマホやデジカメで早速サンタを画像に収め始める!

「メリ~~~クリスマスでやす~~~~~!」
「今夜は年に一度のクリスマス!、サンタさんが皆さんに大サービスするでやんすよ~~~♪」
空中のサンタはメガホンで、僕らにそう呼びかけた。

「大サービスって、何~~~~?」
1人の女性がサンタに問いかけたると、サンタはメガホンで、女性に応える。

「何でも欲しいものを、みんなにプレゼントしやすぜ~~♪」
「但し、アマゾンで取り扱ってる物に限りやすがね~~~♪」

「きゃぁ!、ホント?、サンタさん♪」

「欲しい物を頭の中で、想像して下させぇぇ~~!」
「そうすれば、お嬢さんの目の前にプレゼントが飛び出しやす~~~!」

「頭の中で想像~?」
サンタと話している女性がそう言うと、彼女の目の前でいきなり白い煙が飛び出した!

ボンッ!

「きゃぁ!」

「どうでやすかぁぁ~~?」
上空からサンタが女性に問いかける。

「きゃぁぁぁぁ~~~!、エルメスのバッグじゃないのぉぉ~~~ッ!?」

女性が欲しかった物を手にしながら叫んだ。
するとそれを見ていた他の者たちも、サンタに喰いついた!



「俺も!、俺も!」

「あたしもぉぉ~~!」

「お安い御用で…」
サンタはそう言ってニヤケると、海岸の人々へ次々とプレゼントを与えた。



ボンッ!

ボンッ!

ボンッ!

「やったぁぁ~~!、ヴィトンのバッグだぁぁ~~!」

「見てぇぇ!、シャネルのコートよぉぉ~~!」

「ティファニーのネックレスだわぁぁ~~~!」

「ロレックスだぁぁ!、ラッキィィーーー!」

サンタからプレゼントを貰った人々は、各々が歓喜の雄叫びを上げている!

「マジかよ…!?」

「すご…ッ!」

僕とハルカはそう言って、目の前で起きている信じられない光景を見つめていた。
すると今度は、僕らにサンタが呼びかけて来た。

「はぁ~~いい!、そこのお二人さぁぁ~~~んんッ!」
「アンタたちの今、1番欲しい物は、なんでやすかぁぁ~~!?」

「俺の欲しい物…?」
僕はサンタの言葉に乗せられて、つい考えてしまった。

ボンッ!、ボンッ!

「うわぁッ!」

「きゃッ!」

僕とハルカの手の中で、白煙が舞う!
僕は、恐る恐る手を開く。

「え?」
僕がそう言って驚いたのは、手のひらの中にプラチナのリングが入っていたからだ。

「こ、これは…?、マリッジリング(結婚指輪)…?」
カルティエと思われるマリッジリングを見つめて、僕が言った。

「は…、ハルカ…!?」
僕は彼女の方も気になって、慌ててハルカに振り向く。



「こーさん…」
茫然としながら、そう言ったハルカも、僕と同じマリッジリングを手にしていた。

「君も同じ物…?」
(という事は、想いも同じって事だよな…!?)

僕はそう思うと、ハルカにゆっくりと訊いた。

「俺と一緒になっても…、良いって事…、なのか…?」

「もう、前から一緒に住んでるじゃない(笑)」

「そういう意味じゃなくて…、籍を入れても良いのかって…?」
僕がそう訊くと、ハルカは少し照れくさそうに頷いた。

(やったッ!)

僕は思わず小さくガッツポーズ!
それを見たハルカが、クスクスと笑う。

「ねぇ、こーさん…」

「何だ?」

「それ、はめて…」
ハルカはそう言うと、僕に左手の薬指を差し出した。

「ああ…ッ、分かった…ッ」
僕はそう言って、マリッジリングをハルカの薬指に、はめようとする。
ハルカは黙って、リングが指に収まる様子を見つめていた時であった。

「ああッ!、ダメだ!、ダメだ!」
僕が慌てて、リングをはめる手を止める!

「どうしたの?」

「いや…、こういうものは、やっぱ、人から貰ったもので渡すもんじゃない!」
「こういうものは、自分の働いた金で買って、渡すものだろ?」
「だから、指輪は俺の金で買って渡す!、それで良いだろ?」

「ふふふ…、そうだよね?」
「じゃあ、こんなものは、いらないか…」

ハルカはそう言って含み笑いをすると、指輪を海に向けて投げようとした。

「わ~~ッ!、ちょっと待ったッ!」

「ん?」
指輪を投げ捨てようとしたハルカを止めた僕に、ハルカが振り返る。

「捨てるのはよせ…」

「だって、イラナイんでしょう?」

「そういうものは、捨てちゃいけないんだ…」

「じゃあ、どうするの?」



「ロッコーさんの、ダイキチに持ってく…!、生活費の足しにするのはセーフ!」

「なんだそりゃ…!?」
僕の言葉に、ハルカはガクッと崩れた。

 それから間もなく、上空のサンタは夜の海岸から去って行くのであった。

「ひ~ん!、ひ~ん…ッ!、マチコせんせぇ~!、どうかお幸せに~ッ!」



「出会いの数だけ、別れがあるとぉぉ~♪、分かっているのに、恋をするぅぅ~っとくらぁぁ!」

この日、サンタの役目を終えたハリーは、今の心境に合った歌を歌い、中出氏のいる8の字無限便社へと戻るのであった。

※この曲に歌詞があったのを意外と知られていない、ジャンボ鶴田の入場曲



 東京都青梅市 中出氏邸



「そうですか、それは残念でしたねぇ…」
失恋の報告を受けた中出氏が、ハリーに言う。

「ひ~ん!、ひ~んッ!、あっしは、今まで何の為に、ここまで頑張って来たんでやすかぁぁ…。よよよよよ…ッ」(ハリー)

「お気持ちはお察ししますが、随分とハデに暴れ回りましたねぇ…」(中出氏)

「ああでもしなきゃ、やってらんなかったんでやすよぉぉ…ッ」(ハリー)

「そうですか…。じゃ、これを…」
中出氏が、ハリーに1枚の紙を渡す。

「なんでやすか?、これ?」
手にした紙に目を通すハリー。

そこには、“請求書 請求額合計:1千800万円”と書かれていた。



「げぇぇぇッッ!!」(ハリー)

「今回、ハリーさんが勝手に、街の人々へプレゼントしたブランド品の請求額です」
「この分も、ダミーオスカー人形と同様に、働いて返していただきますよ」(中出氏)

「ああーッ!、あっしは、何てことを~~~ッ!」
頭を抱えるハリー。

「とにかく、こんな事をやられては大赤字です。これをもって8の字無限便は、閉鎖させていただきます」(中出氏)

「そんじゃあ、この大金を、あっしはどうやって返せば良いんでやすかぁぁッ!?」(ハリー)

「また警備員の職にでも戻って、コツコツ返金して下さい。まぁ利子しか返せないでしょうが…」(中出氏)

「中出氏ィッ!、あの、以前言ってた、YOUTUBERをやるって仕事!、あれをやりましょう!」
「あっしと、中出氏でやるAV批評のYOUTUBEチャンネルを!、あれがバズれば、こんな金など、すぐ返せますぜ!」(ハリー)

「分かりました。では、検討してみましょう…」
中出氏がハリーに言う。

※この話が後々実現し、2人がYOUTUBERとして活躍する様になった話は、1stシーズンの最終回をご覧になった方であれば、ご存じだと思います。

 こうしてクリスマスの夜は更け、関東では太平洋側を中心に積雪20cmにもなる雪が明け方まで降り続けるのであった。


 翌朝
鎌倉市 由比ヶ浜



「わぁ!、すごい!、こーさん見て!、海岸が雪で真っ白だよ!」
2階の窓から、由比ヶ浜海岸を見渡すハルカが僕にそう言った。

「本当に積もったんだな…」
ハルカの隣に立つ僕も、海岸を見て言う。

「ねぇ、こーさん、昨日の話、覚えてる?」
ハルカが僕に振り返り言う。

「なんだ?、ダイキチに行くハナシか…?」

「ばかッ!」

「冗談だよ…(笑)、ちゃんと覚えてるよ…」
僕はそう言うと、ハルカの顔を肩の方に引き寄せた。

「ふふ…」
ハルカが僕の胸の中で、含み笑いをした。

こうして僕らは、年明けの1月に入籍をしたのであった。

END ROLL




夏詩の旅人3 Lastシーズン ~ X’masの奇跡

STORY:Tanaka-KOZO

CAST

こーさん(主人公・元シンガーソングライター)

ハルカ(主人公の同居人・サーファー)

サンボ(主人公の同級生・クルーザーのスキッパー)

ハリー(8の字無限便のドライバー)

中出氏(8の字無限便の代表・謎の男)

マチコ(ともしび学園の職員)

鶴田(マチコの恋人)

ハルト(ともしび学園の生徒)

タケシ(ともしび学園の生徒)

ハルトの母

F-2戦闘機パイロット1

F-2戦闘機パイロット2

玉川(ニュースバラエティのコメンテーター)

阿部(TV番組のレポーター)


BONUS MATERIAL

ホワイトアウトした、目の前に広がる空間
そして、遠くから微かに聴こえて来る踏切の警報音

その音は、段々と大きくなっていき、目の前の白い空間は、霧が晴れるかの様に溶けて行った。

カンカンカンカン…ッ(踏切音)



「あれ!?」
ハルトは驚く、それは今まで、ともしび学園に居たはずの自分が、車の助手席に座っているからだ。

そして、車内から見た目の前の風景が、あの日、母と離れ離れになった踏切である事にも…。

すると誰かが突然、車の窓を叩いた!

ババン…ッ!、バン!、バンッ!

「ハルト!、ハルト!」

「お母さんッ!?」
窓を叩く母を見たハルトが驚く!

「ハルト!、ハルト!…ッ」
涙目の母が叫ぶ。



「お母さん!、お母さんッ!、どこに行ってたのぉ!?」
ハルトも泣きながら母に叫んだ。

「ごめんなさいハルト、あなたを独りぼっちにさせてしまって…、お母さんを許して…ッ」
ドアを開けて車に乗った母は、そう言うと助手席のハルトを強く抱きしめた。

「うう…、ううう…ッ」
抱きしめられるハルトが、涙をぼろぼろと流す。
母子はそのまま、しばらく無言で泣き続けるのだった。

ププ…。

すると後ろからパッシング。
気が付くと、長い間降りていた遮断機が、いつの間にか上がっていた。

母は、後続車に会釈すると、車を急いで発進させた。
踏切を越えて商店街の中をゆっくりと走る車。

しばらくすると、ハルトが再び母に訊いた。

「ねぇ、お母さん、どこに行ってたの?」

「お母さんはね…、ずっとお月様に居たの…」
ハンドルを握る母がハルトに微笑んで言う。

「お月様って、空の…?」

「そうよ…。そこでお母さんは、空の上から神様と一緒に、あなたの事を、ずっと見てたわ…」
「ハルトが泣きながら、私の事を何度も呼んでいたのも、お母さんは知っていたわ…」

「私はその度に、神様に何度もお願いしたの、『お願いです!、私をあそこに還して下さい!』って…」
「でも、神様は決して許してくれなかった…。私は母親失格だからダメだと言われたの…」

「それでも私は、何度も何度も神様にお願したの。『もう決してハルトを離しません、お願します!』って…」
「そうしたら、今日やっとクリスマスの日に許して貰えて、ここに還る事が出来たの…」

「それで還ってみて気が付いたら、時間が巻き戻っているじゃない!?」
「あの日、ハルトと離れ離れになった、あの時に戻ってるじゃない!?」

「きっと神様が、あの日からもう一度やり直しなさいと、云っているんだと思うわ…」

ハルトは母の話を黙って聞き続ける。

「ハルト、これからあなたにも、いろいろ苦労を掛けてしまうかも知れないけど、お母さん頑張るから、あなたもお母さんについて来てくれる?」



「僕は平気だよ。お母さんが居れば大丈夫だよ」

「うう…ッ、ありがとう…、ありがとうねハルト…」
母はハルトの言葉に涙する。
するとハルトが突然言う。

「あ!、海だ!」



若宮大路を走っていた車の前に、由比ヶ浜が見えた。
T字交差点を右折した車はそのままR134号を走る。

「ねぇ、お母さん」

「なあに?」

「神様って、どんな人だったの?」

「う~ん、神様はねぇ…、私たちと同じ人間の姿をしてたわ」

「僕たちと同じ?」

「そう、メガネを掛けてたわ」

「え~?、メガネを~?」

「それでね、ちょっと変わってたわ」

「変わった?」

「ヘンな人って事…(笑)」

「ははははは…」

母の言葉に笑うハルト。
海岸線を走る2人が乗った車からは、微かな笑い声が漏れる。



夕暮れのR134号を進むハルトと母。
その目の前には、希望に満ちた未来へと続く道が、どこまでも続いていた。

END

エンディング



関連作品 
X'masの奇跡 前篇

関連作品(ハルト少年と、ともしび学園入園までの経緯)
贈り物は春と共に

※いよいよLastシーズンの最終回が、近づいて参りました。
最終話は、夏詩の旅人の最後の作品となりますので、ここで少し休載させて下さい。
代わりに次回からは、別シリーズがスタートします。
乞うご期待!!