あなたになら渡せる歌 後篇 (夏詩の旅人2 リブート篇) | Tanaka-KOZOのブログ

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★ついにデビュー13周年!★2013年5月3日2ndアルバムリリース!★有線リクエストもOn Air中!

2009年7月

都内A霊園
ジュンは3年前に急逝したマネージャーのぞみの、月命日にA霊園を訪れていた。

霊園内の広い通りを歩くジュン。
開花シーズンをとうに終えた桜並木たち。
木々の枝の隙間からは、日々強くなっていく太陽の陽が差し込んでいる。

あの区画を曲がれば、のぞみのお墓がある…。

そう思うジュンは、区画の境の方へと進んで行った。

「あれ?…」
そう言って、のぞみの墓石の前で立ち止まるジュン。
それは、のぞみの墓石に、またもや大きな白い百合の花が生けてあったからだ。

(また同じ花…、一体誰が…?)

ジュンはそう考えながら、しゃがむと自分が手にする花束を白い百合と一緒に生けるのであった。

目を瞑り、手を合わせるジュン。



(のぞみ…、いよいよ風鈴まつりが明日になったよ…)
(あの時は私、ヘンな意地を張って出演(で)なかったけど、今は違う…)

(明日はイベントに来てくれた人たちが楽しめる様に、頑張るからね…)
(私が人として成長した姿を見ていてね…)

ジュンはのぞみに、それだけの想いを告げると、立ち上がった。

ひゅっ…。

心地よい風が園内を吹き抜けた。



 風鈴まつり当日

埼玉県C市C神社境内
ジュンは会場入りをしていた。

「いやぁぁ~、ども、ども!」
40代と思われる中年男性が、ジュンに近づいて言う。
ジュンはペコリと男性に会釈する。

「今日は遠いところ、わざわざお越しいただきまして、ありがとうございます!」
「私、風鈴まつりイベント実行委員の、蔵田と申します!」
男性はそう言うと、ジュンに自分の名刺を両手で差し出す。

「櫻井ジュンです。今日は宜しくお願いします」
名刺を受け取ったジュンが笑顔で言う。

「いやぁぁ~、こちらこそ、どうかよろしくお願いします!」
「櫻井ジュンさんが、このイベントに出演(で)て頂けるなんて、来場されるお客様たちも大喜びですよぉ!」

イベント実行委員の蔵田は、せり上げたお腹と声を揺らしながら、ジュンにそう言った。

「じゃあ、当日の進行をご説明しますので、どうぞ、こちらに…ッ!」
笑顔で低姿勢の蔵田は、ジュンをイベント出演者たちが待機する控室の方へと案内するのであった。

 それからしばらく後、説明を聞き終えたジュンが、神社の境内へと再び戻って来た。

境内をキョロキョロと見回しながら歩くジュン。
C神社境内には先程よりも、かなり多くの来場客が集まっているのをジュンは確認した。

ブルル…。

その時、ジュンのスマホが揺れた。
ジュンがスマホを確認する。

(あ!、ジョーからだわ…)
画面を見てジュンが思う。

(ん!?)
ジョーからのメールを見るジュン。



お疲れ様

ジュン、悪いが仕事が立て込んで、そちらに着くのが遅れそうだ。

最悪は間に合わないかも知れない。

もし、君のステージに間に合わなかったら、申し訳ないが許してくれ。

せっかく君と約束したのに残念だ。

                            JOE


「そっか…、ジョーは間に合いそうもないのか…」
ジュンはポツリと独り言を言うと、ジョーに、(仕方ないわ。気にしないで)と、メールを返信した。

ジョーにメールを送ったジュンは、釣鐘の近くに立ちずさんでいた。※造語
すると少し離れた場所から、彼女の名を呼ぶ声が聞えた。

「お~!、ジュン!、来たぞぉ~!」
そう言いながら、手を挙げて近づいて来たのは、ギタリストのカズだった。
その後ろには、ハリーと中出氏の姿も見えた。

ジュンは、彼らに近づいて笑顔で言う。

「どうもありがとう。カズ、ハリー、中出氏さん…」



「“さん”は要りません。ナカデシだけで良いのです」(中出氏)

「そうだったわね…、どうもありがとう中出氏…(苦笑)」(ジュン)

「ところでジュンのステージは、いつから始まるんだぁ?」(カズ)

「あと30分後…。それまでは、神社の中をちょっと散策しておこうかな?」(ジュン)

「セッティングは大丈夫なのか?」(カズ)

「大丈夫!、今日はピアノだけの弾き語りだから」(ジュン)

「そうか…、ピアノだけのバラードか…」(カズ)

「うん」(ジュン)



「懐かしいな…?、(学生時代の)学園祭のライブの事を思い出すよ」(カズ)

「でしょ?(笑)」(ジュン)

「それは、ジュンさんがデビューする切っ掛けとなった、伝説の学園祭ライブの事でやすかい?」(ハリー)

「そうだよ。その時のステージが終わったら、ジュンは今の事務所にスカウトされたんだ」
カズがそう言うと、ジュンの後ろから誰かが話し掛けて来た。

「あの~…、もしかして櫻井ジュンさんですかぁ?」

「はい?」
ジュンがそう言って振り返ると、そこには中学生らしき女の子が立っていた。



「あの…、私フアンなんです…。サインを戴けませんか?」
少女がおどおどしながら言う。

「いいわよ」
ジュンはニッコリ笑ってそう言うと、ショルダーバックからマジックペンを取り出した。

「あなたお名前は…?」
少女の差し出した色紙を持ったジュンが言う。

「ナツです…。霧山ナツです…」(ナツ)

「そう…、なっちゃんね…?」
ジュンはそう言うと、色紙に少女の名を書いてサインをする。

「はい!」
色紙をナツに渡すジュン。

「わぁ!、ありがとうございます!」
“なっちゃんへ”と書かれた、ジュンのサインを手にした少女が喜んだ。

「ふふ…」(ジュンが微笑む)

「あの、ジュンさん…、1つ聞いても良いですか?」(ナツ)

「なあに?」(ジュン)

「私もジュンさんみたいに、歌手になりたいんです」(ナツ)

「へぇ…」(少し驚くジュン)

「歌手になるには、どうすれば良いんですか?」(ナツ)

「それはオーディション対策の事を聞いてるの?、それとも心構えとか…?」(ジュン)

「違います!、世の中に認知される、存在感のある歌手になるという事です!」(ナツ)

「難しい質問ねぇ…。そんなやり方があったら、私の方が教えて貰いたいわ」(微笑むジュン)

「私に歌を教えてくれた人は、日本人で初めて海外で成功したバンドのボーカルだったんです」
「その人はガンで亡くなる前に、自分の歌を私に託して亡くなりました」(ナツ)

ジュンはナツの話を黙って聞いている。

「だから私は、その人に少しでも近づこうと頑張ってるんですが、どうしてもその人の様には歌えないんです」
「私もその人と同じ様に歌えれば、きっと世の中で認知されるボーカルになれると思うんです!」

ナツが悲壮感を漂わせながら、ジュンに力強く言った。



「なっちゃん…、それは違うよ…」
話を聞き終えたジュンが、ナツに優しく微笑んで言う。

「違う…?」(ナツ)

「まず歌手になる為の技術的な事は、ある程度トレーニングすれば何とかなる…」
「それは努力をすれば、誰だって歌える様になれるという事…」(ジュン)

「はい…」(ナツ)

「だから、ただ上手く歌えるだけじゃダメ…」
「だってそうでしょ?、歌が世界一上手い人が、世界で1番人々に愛される歌手になれるとは限らないでしょ?」(ジュン)

「それと、あなたが目指す人と同じ事をしようとしてはダメ…」
「だってあなたは、モノマネタレントになりたい訳じゃないでしょ?」(ジュン)

「あなたに歌を教えた人は、あなたに自分のモノマネをして欲しいなんて思ってなかったはずよ」
「その人は、自分の歌の想いを、あなたに託したんじゃないのかな?」(ジュン)

「歌の想い…?」(ナツ)

「そうよ…。その想いは、既にあなたは持ってる様に、私には見えるわ」
「だからあなたは、自分の感じた想いを素直に歌えば良いのよ。あなたのやり方で、思うがままにね…」(ジュン)

「思うがまま…」(ナツが呟く)

「歌の表現は人生そのものよ。だから今のあなたに、大人と同じ様な表現は難しいと思う」

「表面的にそれが出来ても、それはただの想像で表現しているに過ぎない…、それでは人の心は動かせないわ」

「だから、今は人生の経験を積みなさい。歌以外の事にも興味を持つの。それがやがてあなたの表現力につながって行くわ」

「傷ついたり、悲しんだりしながら、誰もがみんな大人になって行くの。それが少しずつ分かって来たら、あなたの歌に周りは説得力を感じるから…、きっと…」

ジュンがそれだけ言うと、ナツは深々と頭を下げて言った。

「ありがとうございました!」(ナツ)

「あなたならきっとやれるわ…。頑張ってね…」
ジュンはそう言ってナツに微笑むのであった。

 それからナツは、再び頭を下げるとその場から去って行った。
ジュンは微笑みながらナツに手を振るのだった。

「あ!、いけない!、もおこんな時間!」
腕時計を見たジュンが言う。

「じゃあ私、そろそろ行くから…、また後で…。ステージで会いましょう!」
ジュンがそう言うと、カズたちも「分かった。またな…」と言った。

走り去って行くジュンの後姿を、微笑みながら見つめるカズ。

(ふふ…、あいつも人として大分成長したんだな…)
カズがそう思う。

「何、いやらしい目で彼女を見ているのです?」(ニヤッと言う中出氏)

「えッ!?」(カズが振り返る)

「何と!、カズさんはジュンさんを、そういう目で見てたんでやすかぁ~!?」(カズ)

「バカッ!、違ぇよ!」
カズは顔を赤らめて2人に弁解するのであった。


 風鈴まつりイベントの出演者控室側まで戻って来たジュン。
すると先ほどのイベント実行委員の蔵田が立っていた。

「ああ!、ジュンさん!、居た居たぁ~!」
ジュンを見つけるなり蔵田が言う。

「もう時間でしたかぁ!?」(ジュン)

「いえ…、そうじゃないです。実は藤田さんという方が先程お見えになって、ジュンさんにご挨拶したいとおっしゃってたんで、あなたを探してたんですよぉ!」(蔵田)

(藤田…!?、もしかして、のぞみのお母さんが…ッ!?)
亡くなったのぞみの母親が、来ているのでは?と、驚くジュン。

「ささ…ッ、こちらへどうぞ!、お待ちになってます!」
蔵田はそう言うと、ジュンを敷地内の裏側へと案内するのであった。

「あれ?、ジュンさんだぁ…」
敷地内のWCから出て来たナツが、遠巻きからジュンを確認した。

「ジュンさん、どこに行くのかしら…?」
不思議に思ったナツは、ジュンたちの後をついて行く。


「ここです」
蔵田がジュンに言う。



ジュンが案内された場所は、杉の木が生い茂る、ひっそりとした場所であった。
そこには大きな土蔵だけがポツンと建っていた。

「ここですかぁ?」
ジュンが聞く。

「はい、この中でお待ちです」
そう言って蔵田はジュンを土蔵の中へ入る様に勧める。

「…?」
ジュンが怪訝な顔つきで首を傾げた。

ドスッ!

すると蔵田がジュンのボディに、いきなりパンチを喰らわした!

「うッ…」
ジュンが膝から崩れ落ちる。

蔵田は素早くジュンを羽交い絞めにすると、引きずりながら土蔵の中へ入って行った。



(えッ!?、えッ!?、何!?、どういうコトッ!?)
(大変ッ!、早く人に知らせなくっちゃあぁ~ッ!)

遠くからその一部始終を見ていたナツは、急いで境内の方へと走り出した!


「うう…ッ」
薄暗い土蔵の中、苦しそうに腹を押さえ横たわるジュン。

あれから15分程経ち、時刻は午後4時を回っていた。
その間、蔵田は痛みに苦しむジュンを黙って見つめていた。

「ふふふ…、いい気味だ…。君のライブの開始時間になっちまったな?、今頃は君が居ないんで、会場は大騒ぎだろうな…?(笑)」

さっきまでとは、まるで別人の、薄気味悪い笑顔を浮かべる蔵田が言った。

「うう…、なんで、こんな事を…?」(ジュン)

「分からないか?(笑)」(蔵田)

「あなた…、もしや…!?」(ジュン)



「ようやく分かったか?、そうだよ…、俺がモグタンだ」
蔵田のその言葉に、ジュンは全身が凍りついた!

「君のフアンサイトから君のスケジュールを確認してたら、ここが出て来た…」
「ここなら君に近づく事は容易いと思った僕は、すぐ、このイベントのボランティアスタッフに応募したのさ…(笑)」

「そしたらすぐに採用されたよ。僕は大手IT企業の社員だから、信用されたんだろうね…ふふふ…(笑)」(蔵田)

「のぞみのお母さんはどこなのッ!?(怒)」(ジュン)

「のぞみ…?、ああ…、藤田って名前の事ね…?」
「そんなのは、最初から居ないよ(笑)」(蔵田)

「え!?」(ジュン)

「藤田の名前を出せば、君をここまで、おびき寄せられると思って使ったのさ…(笑)」
「君と大変仲が良かったマネージャーが、3年前に白血病で死んだのを知っている」

「そのマネージャーの名は、藤田のぞみで、君がその事で、大変悲しんでる事も僕は知っている」
「なぜならば、僕は君の熱烈なフアンだからね…。君の事は何だって知ってるさ。だから使わせて貰った…藤田の名をね…」

蔵田はそこまで言うと、クスクスと笑い出すのであった。



「なんて卑劣な人なのッ!」(ジュン)

「何とでも言えよ…。僕は目的を果たす為なら何だってするさ…」(蔵田)

「目的…?」(ジュン)

「忘れたのかよ?、僕はずっと言ってたよな?、君を滅多刺しにして殺すって事を…ッ!」(蔵田)

「そんなことしたら、あなた殺人罪で捕まるのよ!?、ホンキで言ってるの!?」(ジュン)

「本気だとも…、それに僕は捕まらないよ…」(蔵田)

「捕まらない…?」(ジュン)

「そうさ捕まらない…。だってそうだろう?、僕は君を滅多刺しにして殺した後、自らの命も断とうと思ってるから…」
「だからジュン、心配するな…。君を一人では死なせない、僕も一緒に行くから…」(蔵田)

「だッ…、誰かぁーッ!、助けてぇぇーッ!」
天井に向かって大声を上げるジュン。

「無駄だよ。何でこの場所を選んだと思ってる?、土蔵は中で叫んでも外には届かない…」
「昔から禁断の関係の男女の秘め事は、土蔵の中で行われてたのは、そういう事さ…」
そこまで言うと蔵田は高笑いをした。

(く…、狂ってる…)
ジュンが蒼ざめた表情で蔵田を見つめる。

「さぁジュン…、せっかく会えたのに、もうお別れしなくちゃならないとは、ホントーに残念だよ…」
蔵田はそう言いながら、懐からサバイバルナイフを取り出す。

ひッ!

ジュンは座り込んだまま後ずさりする。

「君がイケないんだよ?、僕の人生を奪ったんだから…。僕にはもう何も失うものは無い。だから一緒に死んでくれ…」(蔵田)

(ああ…、ああ…、助けて…、こーくん…!)
ジュンはピンチの時に、いつも必ず救ってくれた彼の事を思い出した。

バーンッッ!

その時であった。
土蔵の扉が勢いよく開く!

「何ッ!」
ナイフを手にした蔵田が振り返る。

開いた扉に立つ人影。
だが逆光が眩しくて、よく見えない!



(え!?、こーくん?、こーくんなのッ!?)
ジュンはそう思った。


 さて、ちょっと時間を遡ってみよう。

PM3:53
土蔵に引きずり込まれたジュンを目撃したナツは、大急ぎでイベント会場へ駆け戻った。

「あ!」
先程、ジュンにサインを貰った時に、一緒に居た連中を見つけたナツは、彼らの方へと向かう。

「なんか運営側が、ざわついてないか?」
ステージ最前列に立っていたカズが、周りの雰囲気を見て言った。

「ジュンさんが、まだ戻って来ないみたいでやすね?」(ハリー)

「何やってんだよアイツは…!?」(呆れるカズ)

その時、カズの背後から少女の声。

「はぁはぁはぁ…、みなさん…、大変です!」
肩で息をしながらナツが言う。

「あれ?、君はさっきの…?」(カズ)

「どうしたんでやすかい?」(ハリー)

「はぁはぁはぁ…、ジュ…、ジュンさんが、拉致されました…!、殴られて、無理やり裏の土蔵の中に監禁されました!」(ナツ)

「何だってぇッ!?」
カズがそう言うと、近くに居た男性が突然割って入って聞いて来た。

「おい!、君!、それは本当か!?」
細身で無精ヒゲ面の男が言う。

「あれ!?、あんたキリタニ・ジョーじゃないのか?」
男性を指してカズが言う。



「そうだ」(ジョー)

「ジュンがあんたに世話になってるそうだな?、あいつからよく聞いてるよ」(カズ)

「大した事じゃない」(ジョー)

「ジョーさんも、ジュンさんのステージを観に来たんでやすね?」(ハリー)

「ああ…、仕事で遅れちまって、今着いたとこだ。そんな事よりジュンだ!」(ジョー)

「よし、俺、警察に連絡して来る…」
そう言ったカズが動こうとした。

「待ってくれ!」(ジョー)

「ん?」
ジョーに振り返るカズ。

「警察はまずい…。警察沙汰になればイベントが中止になる」(ジョー)

「あんた何言ってんだよ!?、そんな事よりもジュンの方が大事だろ!?」
「ジュンを監禁したやつは、恐らくストーカーのモグタンってヤロウに違ぇねぇ!」(カズ)

「ジュンは今日のイベントで、自分の過去に決着させる為、ここへ出演(で)てるんだ…」
「だからイベントを中止にさせたくない!、彼女を連れ戻して、何事も無かった様に、ジュンをステージで歌わせてあげたいんだ!」(ジョー)

「その気持ちも分からんでもないが、そんな事、言ってる場合じゃないだろ!?」(カズ)

「大丈夫でやすよカズさん…」(ハリー)

「ああ…?」(ハリーを見るカズ)

「ここは、元警備員だった、あっしにお任せくだせぇ…。あっしがジュンさんを、すぐに連れ戻して来やす!」
「お嬢ちゃん、ジュンさんは、どこに閉じ込められてるんでやすかい?」(ハリー)

「ハリー、気をつけろよ…。相手はジュンを滅多刺しにして殺すと言っていた。恐らく刃物を所持してるだろう…」(カズ)



「何ィィ…ッ!?」(ハリー)

「俺も、やつから送られたメッセージをジュンから見せてもらったが、相当イカレタやつだと思う。何をしでかすか分からない危険人物だな」(ジョー)

「むむむむむ…ッ!」(ハリー)

「大変!、そんな危ない人なら、近づいたら何をされるか分からないわ!」(ナツ)



「むむむむむ…ッ!」(ハリー)



「命がいくつあっても、足りないという状況ですね…?」(中出氏)

「むむむむむ…ッ!」(ハリー)

「ああ!、早く助けに行かないとジュンさんがぁッ!」(ナツ)

「むむむむむ…ッ!」「むむむむむ…ッ!」(ハリー)



「むむむむむ…ッ!」(ハリー)

「早く行けよぉッ!」(ツッコむカズ)

「だ…、ダメでやす…。気持ちとは裏腹に、足が前に出やせん…(苦笑)」(ハリー)

「ダメだこりゃ…」
カズはそう言いながらガクッと崩れる。

「ああ!、もういい!、俺が行く!」
「君!、案内してくれ!」
しびれを切らしたジョーが言う。

「はい!、こっちです!」
ナツはそう言うと、駆け出す。

「ああ!、そうだ!」
ジョーが振り返り、みんなに言う。

「俺がジュンを連れ戻すまで、時間稼ぎをしておいてくれ!」(ジョー)

「時間稼ぎ…?」(カズ)

「そうだ!、君らはミュージシャンなんだろう!?」
「だったら、ジュンが戻るまでステージで演奏でもして、時間を稼いでおいてくれ!」(ジョー)

「分かりやしたぁッ!」(ハリー)

「ああ…?」(ハリーを見るカズ)

「お任せください…!、ここは我々、“8の字無限大!”が引き受けました!」(中出氏)

「頼んだぞ!」
ジョーはそう言うと、ナツと共に走り出した!

「ハリーさん、ついに、“8の字無限大!”のデビューステージがやって来ましたね!?」(中出氏)

「さぁカズさん!、あなたも一緒にステージへ上がりやしょう!」(ハリー)

「え!?、やだよ俺…。仲間と思われたくねぇもん…」(カズ)

「何言ってんでやすかぁ!?、今はそんな事、言ってる場合じゃないでしょう!?」(ハリー)

「まぁまぁハリーさん、“8の字無限大!”は私たち2人のユニットです。ここは私たちだけでしのぎましょう」(中出氏)

「分かりやしたぁ~!」
ハリーはそう言うと、ステージへと駆け上がった!

「頼んだぞぉ~!」
カズがハリーにそう言うと、隣の中出氏が、いつの間にか着替えていたのに驚いた。

「あれ?」
カズが中出氏を、まじまじと見る。
中出氏はクルーネックの長袖Tシャツに、短パンと白のハイソックスをはいた姿に成っていた。



中出氏がステージに上がると、キーボードの前で待機していたハリーが観客に叫んだ。

「みなさぁぁ~んん!、お待たせしておりやすぅ!、櫻井ジュンが、準備に手間取っておりやすので、それまでは暫し、この“8の字無限大!”にお付き合いくだせぇ!」

ハリーがそう言うと、観客たちは「何だ?、何だ?」とざわつき出すのであった。

中出氏が、ステージ中央のマイクスタンドの前に立つ。
どうやらボーカルを取るのは中出氏の様である。

「それでは、我々のデビュー曲を聴いてくだせぇ!」
「曲名は『君って☆スタイルE!』~!」(ハリー)

「ワタシニ、デワシテクラサイ…、ドゾヨロシクゥ~ッ!」
ハリーがマイクでそう叫ぶと、鍵盤を弾き出した!



「スタイル良い~♪、スタイル良い~♪…、スタイル良い~♪、スタイル良い~♪…」
中出氏が腕を左右にブラブラ振りながら歌う。

「スタイリーのパクリじゃねぇか…!」
ステージ下で観ているカズが、そう言いながらガクッと崩れる。

※スタイリーとは、70年代に大流行した、健康器具商品のパイオニアである。

「スタイル良い~♪、スタイル良い~♪…、スタイル良い~♪、スタイル良い~♪…」
中出氏が、けだるい仕草のダンスを続けながら歌う。
ハリーは単調なフレーズをひたすら繰り返し弾く。

「わははは…、懐かし~な~!、それ、スタイリーのCMじゃねぇかぁ~!(笑)」
観客の1人が、ステージの“8の字無限大!”に向けて言った。

「ははは…、俺の婆ちゃんちに置いてるの見た事あるぞ~!(笑)」
今度は別の観客が言う。



「スタイル良い~♪、スタイル良い~♪…、スタイル良い~♪、スタイル良い~♪…」(中出氏)

「ワタシニ、デワシテクラサイ…、ドゾヨロシクゥ~ッ!」(ハリー)

「俺んちにもあったぞぉ~!、今じゃハンガー掛けて洋服吊るしてるけどなぁ~!(笑)」(更に別の観客)

「お前、違ぇ~よ!、そりゃ、“ぶら下がり健康器”だろがぁ~!?(笑)」(観客)

「あ!、そっか?、間違えた…」(観客)

わはははは…!

「スタイル良い~♪、スタイル良い~♪…、スタイル良い~♪、スタイル良い~♪…」(中出氏)

「ワタシニ、デワシテクラサイ…、ドゾヨロシクゥ~ッ!」(ハリー)

「何とかなってるじゃねぇかぁ…!?」
ステージを見つめるカズが、唖然として言うのだった。


 PM4:06

「ここですッ!」
ジュンが拉致された土蔵の側で、ナツがジョーに言う。

「よし、君はここで待ってろ。俺がしばらくしても出て来なかったら、その時は警察に君が連絡してくれ…」
ジョーがそう言うと、ナツは無言でコクリと頷く。

ガチャガチャ…。

「くそッ!、開かないな…」
土蔵の扉を動かすジョー。
その様子をナツは少し離れた場所から見守る。

「フンッ!」
ジョーが扉を思いっきり蹴った!

バーンッ!(扉が開いた)

「ジュン!、無事かぁッ!?」
中に入ったジョーが叫ぶ。

「誰だぁッ?」
薄暗い土蔵の中で、男が振り返って叫んだ。

「ジョーッ!?」(何でここに…?)
へたり込んでいるジュンが言う。

「お前、邪魔すんなよ…」
男がジョーの方へ、フラフラと歩きながら近づく。

「うッ!」
ジョーが一瞬固まる。
それは男が、サバイバルナイフをジョーに向けたからだ。

ヒュンッ!

男がナイフを振り降ろす!

「くッ!」
ジョーが飛び退けてかわす!

「うらぁッ!」
今度はナイフを水平に振り、切りかかる男!

「うぁッ!」
ジョーが腰を引いて、ナイフをギリギリでかわす!

ドン…。

背中が壁に着き、追い込まれたジョー。

「ふふふ…、もう逃げられねぇぞ…」
男はジョーを見つめてニヤける。

「死ねッ!」
男がナイフを小脇に抱え突っ込む!



ドンッ!

男は身体ごとジョーに体当たりした!

「うッ!」(ジョー)

「ジョーッ!!」
腹を刺されたジョーを目の当たりにしたジュンが、悲痛な叫び声を上げた!


 PM4:11
その頃、風鈴まつりイベントステージでは…。



「スタイリ~♪、スタイリ~♪…、スタイリ~♪、スタイリ~♪…」(中出氏) ← もう完全に開き直って、そのまま「スタイリー」と歌っている(笑)

「ワタシニ、デワシテクラサイ…、ドゾヨロシクゥ~ッ!」(ハリー)

あれから、“8の字無限大!”は、同じフレーズを延々と歌っていた。
そして、それを聴かされていた観客たちが、ついにキレた!

「ふざけんなぁ~!、いつまで同じコト歌ってんだぁぁ~!」(観客A)

「俺たちは、そんなものを観に来たんじゃねぇぞぉ~!」(観客B)

観客たちが次々とヤジを飛ばす。

「そうだ!、そうだ!、ひっこめ~~ッ!」(観客C)

「そうだぁ~!、引っ込めーーッ!」(観客D)

ワーーーーーーーーーーーーーッ!(暴徒たち)

観客は手にした空き缶や瓶を、ステージの“8の字無限大!”へ、次々と投げつけ出した!

ワーーーーーーーーーーーーーッ!(暴徒たち)

「引っ込めーーッ!」(暴徒)

「引っ込め~~~!」(暴徒)

「わぁぁ~~~ッ!」(中出氏)
歌う中出氏に、缶や瓶が飛んでくる!

「ひぇぇぇ~~~~ッ!」
キーボードのハリーにも、缶や瓶がバシバシ当たる!

「皆様!、落ち着いて下さい!、落ち着いて下さい!」
実行委委員の1人が、メガホンで呼びかけるが、暴動は治まらない!

ワーーーーーーーーーーーーーッ!(暴徒たち)

「引っ込めーーッ!」(暴徒)

「引っ込め~~~!」(暴徒)



(ぐぅぅ…ッ、ジュンさん、早く戻って来てくだせぇぇ…ッ!)
(これ以上、引き延ばすのは、無理でやすぅぅ…ッ)

全身に飛来物を浴び続けるハリーは、そう願うのであった。


PM4:12
「ジョーッ!」
ストーカーの蔵田に腹を刺されたジョーを見て、悲鳴を上げるジュン!

「へへへ…」
ジョーを刺した蔵田が笑うが、次の瞬間、異変に気付く!

「ん!?」
そう言って手元のナイフを確認する蔵田。
だがナイフはジョーの両手に、しっかりと握られていた!

「うッ!」
蔵田が慌てて、ジョーの血だらけの両手からナイフを引き抜こうとした時だ!

ガンッ!

「うぁッ!」(蔵田)

ジョーが蔵田の顔面に頭突き!
しかめる蔵田が、少し沈んだ!

バシッ!

「あッ!」(蔵田)
続いて股間を蹴り上げられたやつが、うめき声を上げた!
ジョーが蔵田からナイフを奪い取る!

カラン…ッ

奪ったナイフを後ろに放り投げたジョー。
目の前の蔵田は、股間を押さえて苦しそうにしている。

「てめぇぇ…、よくも俺のジュンを…ッ」
ジョーはそう言うと、血だらけの拳を握り、蔵田の顔面にパンチを叩き込んだ!

ガンッ!

「うッ!」(蔵田)

「まだだ!」(ジョー)

ガンッ!

ジョーが続けてパンチを蔵田の顔面に叩き落とす!

「うぁッ!」(蔵田)

怒りに震えるジョーが、蔵田の顔を連打する!

ガンッ!

バシッ!

ゴツッ!

「もうやめてジョーッ!、死んじゃうわよッ!」
ジュンが慌てて、ジョーの腕を掴んで叫ぶ!

「やめて…」
そう言ったジュンの制止で、ジョーが攻撃を止めた。
蔵田は殴られ続けたせいで、失神して地面に伸びている。

「ふう、ふう、ふう…」
まだ気持ちが高揚しているジョーが、蔵田を見つめながら肩で息をした。

「大丈夫だったか?」
ジョーがジュンに向いて聞く。

「私は大丈夫…、それよりもジョー…、あなたの方が…」
「ああ…、こんなに血が出てる…」

涙目のジュンが、ジョーの両手を見て言う。
そしてショルダーバックからハンカチを出すと、それをジョーの手に巻いた。

「ありがとう…」(ジョー)

「何、言ってんの!、それはこっちのセリフでしょ!?」
目に涙を溜めてジュンが言う。



「あ!」
土蔵から出て来たジョーとジュンを見て、ナツが言った。

「大丈夫ですかぁ!?」
ナツが2人に駆け寄った!

「ああ…、もう大丈夫だ」
ジュンのハンカチで出血を押さえながら、ジョーがナツに言う。

「よかったぁ…」
ナツがホッとして言った。

「ジュン、後の事は俺に任せろ。君はステージへ戻れ…」(ジョー)

「え?」(ジュン)

「俺がこいつを警察に引き渡しておく…。だから君は早く戻るんだ」(ジョー)

「でも…」(ジュン)

「大丈夫だ…。ジュン、歌えるよな…?」
ジョーがそう聞くが、ジュンは無言でジョーを見つめる。

「ここで歌って、過去に決着させたいんだろう?、だったら早く行け…」
ジョーがそう言って微笑むと、ジュンは無言で頷いた。

「よし!、行けジュン!、それから君も、もういいぞ!」
ジョーはジュンとナツにそう言う。

「ジュン…、君のステージが観れないのは残念だが、仕方ないな…」
ジョーはそう言うと、ジュンに苦笑いをする。

「ジョー…、ありがとう…」
涙目のジュンが彼に感謝した。

「ああ!、そうだった…!、ジュン、君が戻るまでイベントを引き延ばしておく様にと、頼んでおいた」(ジョー)

「え!?、誰に?」(ジュン)

「ヘンな2人組だ」(ジョー)



(あいつらかぁ…?)
ジュンは、“8の字無限大!”の2人を想像する。

「多分、彼らではイベントを引き延ばすのは難しい…、ヘタしたら、君が現れない事で暴動が起こってるかも知れない…」
「だから早く戻れ…、そんな状況で歌うのは厳しいとは思うが大丈夫だよな?、君は歌手なんだから…」

ジョーがそこまで言うと、ジュンは力強く頷くのだった。


「じゃあジョー!、行って来る!」
ジュンは彼にそう言うと、ステージの方へと走って行く。
その後をナツも追う。

「しっかりな…」
ジュンの走る姿を見つめるジョーが、微笑んで言った。



 そしてステージの近くまで、駆け戻って来たジュンたち。
遠巻きから見ても、ステージが異常に騒がしい状態だったのが分かった。

「あれ…?」
ステージ前まで来たジュンが言う。

ステージでは、ハリーがノリノリで歌い、隣の中出氏もエレキをガンガン鳴らして弾いている。



「アイツの頭はあいうえおッ~♪、肝心要な、かきくけこぉッ~♪」(ハリー)

「ははは…、いいぞぉ~!、懐かしいなそれぇ~!」(観客A)

「俺、子供んとき観てたぞぉ~!、“おはようこどもショー”だろぉ~!?(笑)」(観客B)



「散々騒いで、さしすせそぉ~♪、大した態度で、たちつてとぉ~♪」(ハリー)

「ばか!、“カリキュラマシーン”だろぉ~!、カッパのカータンが出てるやつだよッ!」(観客C)

「それも違ぇよぉ!、カリキュラマシーンは、ゴリラの一郎だ!」(観客D)
※カータンは、ピンポンパンで、おはようこどもショーは、ロバくんと、ガマ親分。

ははははは…!(観客たち)

「何が何だか、なにぬねの~♪、甚だ半端で、はひふへほ~♪」(ハリー)

「うぇッ…、めっちゃくちゃ…、盛り上がってんじゃん…」
ジュンがステージを見つめながら、茫然として言う。
そして隣のナツも固まっている。

「真ん中、まる空き、まみむめも~♪、やけのやんぱち、やいゆえよ~♪」(ハリー)



「やりづれぇぇなぁぁ…(苦笑)」
この状況で、自分がバラードを歌う事を考えるジュンは、冷や汗をかくのであった。




翌日
昨日あった風鈴まつりのイベントを、何とか無事に終わらせる事が出来きたジュン。
彼女は、その報告をしに、のぞみが眠るA墓地へと再び訪れていた。

花束を手にしたジュンが、のぞみの墓石に行くと、一人の男性がしゃがみ込んで手を合わせている姿を見かけた。

ジュンより先に訪れていた男性は、大きな白い百合の花を、のぞみの墓に供えていた。

「あなただったのね…?」
しゃがんでいる男性の背中に、静かに問いかけるジュン。

「よお…」
男性が、ゆっくりと振り返る。

その人物は、キリタニ・ジョーであった。
昨日の怪我のせいで、ジョーの両手は包帯が痛々しいくらい、ぐるぐるに巻かれていた。

「この白い百合の花…、ずっと誰なんだろう?って、思ってた」
ジュンが、墓石の前から立ち上がったジョーに言う。

「俺も、のぞみとは仕事の件で、しょっちゅう話してたからな…」(ジョー)

「なんで黙ってたの…?」(ジュン)

「別に隠してた訳じゃないよ」(ジョー)

「あなたも毎月、来てたの?」(ジュン)

「いや…、毎月ってわけじゃないけど…。仕事の合間に、来れる時は、出来るだけ来る様にしてたな…」(ジョー)

「そう…」
ジュンはそう言うと、3年前のぞみが亡くなる前に、病室で言っていた事を思い出すのであった。



「ジュンちゃんは、ジョーさんの事、嫌なやつだっていつも言ってるけど、あの人はジュンちゃんが思ってる様な人じゃないよ。とっても良い人だよ」

ベットに横たわるのぞみが、ジュンの方を向いて言っていたそのセリフを思い出すジュン。

「ふふ…」
ジュンが突然笑う。

「何だ?」
ジョーが怪訝な顔をして聞く。

「ねぇジョー、この前言ってた話…、あなたが私に歌を作って欲しいって頼んできた話…」(ジュン)

「ああ…、それが…?」(ジョー)

「いいわよ…。私、あなたの歌う曲、書くわ…」
そう言って微笑むジュン。

「え!?、どういう風の吹き回しだよ?、あんなにダメって言ってたくせに…!?」(ジョー)

「ふふ…、私ね…。あなたになら、私の曲を渡しても良いって分かったの…」(ジュン)

「え?、え?、何だよその意味深な発言!?、どおいう意味だよ!?」(ジョー)

「そういう意味よ…(笑)」(ジュン)

「そういう意味って…ッ?、俺、分かんねぇって…ッ!」(ジョー)

「ふふ…」
ジュンが笑いながら歩き出す。

「おい!、ジュン!、ちょっと待てって…ッ!、どおいう意味だよぉ!」
ジョーは、そう言いながらジュンの後を追った。



2人が歩く通りに風が吹き抜けた。
そして路面に映る木陰は、ゆらゆらと揺れるのであった。


 ねぇ、こーくん…。

あなたは今、どこにいるの…?
実はさ…。私ね…。好きな人、出来たんだ…。

その男性(ひと)は、初めて会ったときは、第一印象が最悪でね…(笑)
でもね。何年か経つ内に段々と分かって来たの。

その男性(ひと)は、いつも傍で私の力になって支えてくれて、私の事を、すごく大事に考えていてくれてたんだってね…。

私は、自分が幸せを掴む瞬間ってのは、もっとドラマチックに訪れるもんだと、勝手に思い込んでいたんだ…。

でも違うんだね、それは…。

幸せって、見つけに行くんじゃなくて、実は身近にあるんだって…、自分がそれに気づく事なんだってね…。



こーくん…。今までいっぱい助けてくれて、本当にありがとう。

でも、もう平気よ。
私はもう大丈夫だから…。

でもね。これからも、時々あなたの事を私はきっと思い出すと思う…。
だって、あなたは私の青春、そのものだったのだから…。

じゃあ元気でね、こーくん…。

さようなら…。

ジュンは、彼に届く事のない最後のメッセージを呟いたのであった。

 同日
その頃、彼は辻堂海岸にいた。



「ちぇッ…!」

砂浜を蹴る彼が言った。
ここでも手掛かり無しか、という風に…。

それは、彼が探すハルカの行方は、未だ分からないままであったからだ…。

To Be Continued…。




あなたになら渡せる歌 前篇



※今回のエピソードでの関連ストーリーは以下となります。

爆走!ダーティー・ハリー

次へのバトン (夏詩の旅人 1st シーズン)