あなたになら渡せる歌 前篇 (夏詩の旅人2 リブート篇) | Tanaka-KOZOのブログ

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★ついにデビュー13周年!★2013年5月3日2ndアルバムリリース!★有線リクエストもOn Air中!

 2006年10月 鎌倉国立大学記念講堂内
テロリストの黒幕は、毎朝新聞編集者の大柴リュウジであった。

「酷いッ!…、私はこれ以上、目の前で人が死んでいく姿なんか見たくないのにッ!」
大柴に利用された野中涼子(リョウ)は、目に涙を溜めてそう叫ぶとやつにつかみかかった。

大柴は銃を突きつけてる彼の背中を突き飛ばすと、つかみかかって来たリョウの手首をつかみ、彼女に銃を向けた!

「残念だなぁ~野中くん…。君は良いパートナーになれると思ってたのに…」
銃を向けられたリョウの顔が青ざめた。

「やめろぉーッ!」
大柴へ飛び掛かる彼。



バーンッ!

「ぐあッ!」

ズダーンッ!

振り向きざまに大柴が銃を撃った。
彼は左肩口に弾丸を受けて、その場に仰向けで倒れた。

その光景に、リョウは口を手で押さえ、言葉を飲み込んだ!
後ろでは、彼の名を叫ぶ櫻井ジュンの声。

「こーくんッッ!、こーくんッッ!」

ピピピ…、ピピピ…、ピピピ…。

「う…、んんん…?」
耳元で響く目覚ましアラームの音



「ジュンちゃん!、ほらぁ、起きて!仕事だよぉ~!」
ジュンのマネージャーの、のぞみがジュンを起こす。

「あ…、分かったわよ…、のぞみ…」
歌手の櫻井ジュンが、寝ぼけ眼でショートカットの、のぞみに言うと、ジュンは突然驚いた!

「えっ!?、のぞみッ!?」
1年前に白血病で亡くなった、のぞみに驚くジュンが、ガバッとベッドから起きる!

ピピピ…、ピピピ…、ピピピ…。

カーテンが閉められた薄暗い部屋で鳴り響く目覚ましアラーム。

「ゆ…、夢かぁぁ…?」
ジュンはアラームを止めると、額に手を添えてそう言った。

 2008年8月
あの鎌倉国立大学テロ事件から、もうすぐ丸2年が経とうとしていた。
櫻井ジュンは39歳になっていた。

ジュンはあの日以来、銃で撃たれた彼の夢を何度も見ていた。
そして、彼が病院を人知れず退院してから、未だ行方も分からないままであった。

「こーくん…、のぞみ…」
心の支えだった2人の名を、ポツリと呟くジュン。

「そっか…、ごめんねのぞみ…、最近、お墓参り行ってなかったよね…?、う…、うう…ッ」
4年前に亡くなったのぞみを思い、ジュンは声を詰まらせながらそう言うのであった。



 数日後
都内A霊園にジュンは訪れていた。

「そっか…、のぞみのお母さんも来てたんだ…」
のぞみの墓石の前で花束を抱えるジュンが言う。

それは、墓石には既に花が添えられていたからだ。
大きくて白い百合の花が、風に揺れている。

「また来るね。のぞみ…」
ジュンは墓石にそう呟くと、立ち上がった。

「ジュンさん…」
その時、後ろから女性の声。

「あ…!」

振り返るジュンが笑顔で言う。
そこに居たのは、のぞみの母親であった。

「また来てくださったんですね…?」
のぞみの母が笑みを浮かべて言う。

「はい…」(ジュン)

「のぞみも喜んでると思います…」
そう言ったのぞみの母は、花を手にしていた。

(あれ?、あの白い百合は、お母さんじゃなかったの…?)
墓石に添えられた百合の事を思うジュン。

「どうかされまして?」
無言で立つジュンに声を掛ける、のぞみの母。

「あ、いえ…、何でもありません」
苦笑いで応えるジュン。

(あの花…、誰だろ…?)

墓石に手を合わせる、のぞみの母の背を見つめながら、ジュンは思うのであった。




同日
熱海駅1番線ホーム 伊豆急下田行・伊東線車内

「こぉぉ~さぁんッ!?」
伊東線の車内にいた僕の背後から、驚く声がした。

「ん?」と言って、声の方に振り返る僕。

「タカかぁ!?」
僕もそう言って驚いた。
何故ならば、そこに立っていたのが、学生時代のバイト仲間のタカだったからだ。



そして僕が、彼の事を確認する様に言ったのは、当時、細マッチョだった金髪ソフトモヒカンのタカが、黒髪でかっぷくの良い、スーツ姿のオヤジになっていたのが理由である。

タカと会うのは僕が社会人になってから数年後、彼の結婚式に出席して以来であった。

「こーさん!、久しぶり!、ニュース観たよ。ケータイ解約してるし、心配してたんだぜ」
タカはそう言うと、僕の前の席に腰を掛ける。

「すまなかったな…」(僕)

「いや、いいよ別に…、それよりも歌は辞めちゃったのかい?、最近活動してなかったみたいだけど…?」(タカ)

「そうだな…、そんな感じだ。左手の指が動かなくて、ギターどころじゃないからな…」

僕はそう言って、鎌大テロ事件で左肩を撃ち抜かれてから、ギターが弾けなくなっている現状をタカに説明した。

「そうだったんだ…?、それで今日は何で熱海に?」(タカ)

「これから下田方面へ向かうところなんだ」(僕)

「旅行かい?」(タカ)

「まぁ、旅は旅なんだけど観光じゃない…、人探しの旅だ」(僕)

「人探しって、誰を?」
タカがそう言って、旅の理由を僕に聞く。

「実はな…」

僕はそう言うと、2004年の初夏に出会った、サーファーの晴夏(ハルカ)の話をタカにした。



「だから俺はハルカを探し出したい。もう一度、彼女と会ってみたいんだよ」
タカへの説明が終わった僕が言う。

「なるほど…、それで当てずっぽうに、彼女が現れそうな海まで旅をして探し回ってると…?」(タカ)

「そうだ…」(僕)

「ふふ…、そういうとこはアンタらしいな…?(笑)」
「昔と変わってないな…(笑)、限りなく可能性がゼロでも、挑戦しようというとこが…」
タカが苦笑いする。

「まぁ…、今はやる事もないしな…(苦笑)」(僕)

「最初、話を聞いた時は、らしくないと思ったよ。こーさんがオンナの行方を捜すなんてさ」
「でも、そのハルカって女性(ひと)との経緯(いきさつ)を聞いてたら、あんたがそこまでして探したい理由が分かったよ」
タカが僕を見て、ニヤッとして言った。

「理由が分かった…?」(僕)

「俺が今まで見て来た、こーさんの周りにいるオンナってのは、いつもあんたを頼りにしているオンナばかりだった…」
「だけど、そのハルカって女性(ひと)だけは違う」

「初めてじゃないか?、こーさんが他人(ひと)に励まされて、力になってくれたオンナってのは…?」(タカ)

「確かにそうだな…?」
思い返す様に僕が言う。

「だから惹かれるんだな…、その女性(ひと)に…?」(タカ)

「ああ…」
僕はそう言って頷くと、「ところでタカは、どうして熱海に?」と、今度はこちらが彼に質問をした。

「ヨメの爺さんに不幸があってね…。ヨメと娘は先に稲取に行ってて、俺は仕事があったから、今日やっと向かってるってとこ…」(タカ)

「そうなんだ…」
僕はタカの奥さんと学生時代から面識があった。

一度、タカとそのカノジョと、僕とヤマギシ(あゆみ)の4人で、稲取の隣の今井浜まで日帰りで海水浴へ行った事があった。
その時、タカのカノジョの実家が稲取だと聞いていたのを思い出した。



それにしても、あの時、なぜタカは、バイト仲間の僕とヤマギシを誘ったのか不思議であった。

今にして思えば、あれはタカが身の潔白を証明したいが為に、僕とヤマギシを誘ったのだと思う。

あの当時、ヤマギシにはビジュアル系バンドマンのカレシがいた。
そしてタカはニヒルで、一見、危険人物に見られるタイプだったので、とっつきにくくて周りから怖がられていた。

しかしそんなタカでも、ヤマギシは彼によく懐いていた。
ヤマギシにはカレシがいたが、恐らくタカにも気が合ったんだなぁと、当時の僕は見ていて分かっていた。

それでタカのカノジョの方も、普段女性とあまり仲良くしないタカが、ヤマギシとだけは仲が良いので、2人の関係を疑り出したのだと僕は思うのだ。

そこでタカは、カノジョにヤマギシを会す事で、「ほら、俺ら何でもないだろうぉぉ!?」と、証明したかったのではないだろうか?(※どうだ!タカ!?そうだろ? 笑 )

しかしな…、そのやり方はマズイぞタカ。

それはな、よく浮気してる旦那が、奥さんを油断させる為に、敢えて浮気相手と奥さんを会わせる手口と一緒だからな…(笑)

まぁ当時、カノジョがそれをどう判断したのかは、こちらが詮索する事でもないので、このハナシはここまでとしよう(笑)

「こーさん、何ニヤニヤしてんだい?」
僕の表情を見つめながらタカが聞く。

「あうッ!、いや、何でも無い!」
僕が慌てて言った。

 それから間もなく伊東線が発車した。

カタンコトン、カタンコトン…。

規則的なリズムを刻み、列車が進む。
僕らは各駅停車の鈍行列車に乗っていた。

僕はビンボー学生だった頃から、伊豆に電車で行く時には、大体鈍行を利用していた。
当時はカネが無かったからだけど、大人になって金銭的余裕が出来ても、やっぱり僕は鈍行に乗り続けた。

綺麗で観覧席の付いた特急列車は、何か味気ない。
急ぐ旅でなければ、少し古臭い鈍行列車の方が味がある。

それと、鈍行に乗っていると、あの頃、仲間たちと伊豆に向かった懐かしい情景が思い起こされるからだ。

僕はタカに聞く。
「何でタカは鈍行に乗ったんだ?、踊り子号の方が早いじゃないか?」と。

するとタカはこう言った。
「結婚して子供が出来ると、色々とカネが掛かりましてね(笑)」

「節約か?」と、僕が聞く。

「そうですね…。でも、鈍行を選んで乗ったのは、半分はこーさんと同じ気持ちだと思いますよ(笑)」
どうやらタカも、想いは僕と同じ様だった。

列車がトンネルに入る。

ガーーーーーッ

抜ける。

カタンコトン、カタンコトン…。

伊豆多賀駅を抜けた頃には、車窓の景色にも海が見え始める。

頬杖をついて、窓から海を眺める僕。
するとタカが、クスクス笑いながら言う。

「ふふ…、それ、まだ有るんですね?、今どきはペットボトルがあるのに、わざわざそれを買うなんて、こーさんらしいね…(笑)」
窓際の棚にちょこんと置いてある、ポリ茶瓶を指してタカが笑う。



「そうだ…。わざわざこれにした。懐かしいだろ?」(僕)

「ええ…」と頷くタカ。

「だがな、俺がガキの頃は、“汽車土瓶”って言って、プラスチックの小さなしびんみたいなやつで、直接、口を付けて飲んだんだ」(僕)

「汚ねぇなぁ~(笑)、しびんじゃなくて、急須みたいなカタチって言えば良いじゃないすか…(笑)」(タカ)

「確かに…」
僕がそう言って苦笑いすると、二人は「ははは…」と、笑い出すのだった。


「さてと…」
それから僕は、バッグから駅弁を取り出した。

「それは…?」
レトロな包み紙にくるまれた僕の駅弁を見て、タカが聞く。



「見た事ないだろ?、これは日本初のサンドイッチ弁当だ」
「大船軒ってとこで出してる駅弁で、パンに挟まってるハムは、あの鎌倉ハムが使われている」(僕)

「鎌倉ハムなら知ってる。日本で初めての自家製造のハムですね?、大船軒は、あの駅蕎麦の…?」(タカ)

「そう、あの立ち食いソバ屋の大船軒だ。あそこは元々、駅弁屋で明治からやってるんだ」
「鯵の押し寿司弁当が1番有名だが、軽い食事にしたかったんで、今日はサンドイッチにした」(僕)

「へぇ…」(タカ)

「神奈川界隈にしか売ってないと思ってたら、熱海の駅弁屋でも売ってたんでこれにしたんだ」
「どうだ?、よかったらお一つどうぞ…」(僕)

「じゃ、遠慮なく…」
タカはそう言うと、サンドイッチを1つ取って、口に入れた。

「どうだ?」(僕)

「ええ…、美味いっす。なんか素朴な味だけど、飽きの来ない味ですね」(タカ)

「このサンドイッチ弁当が、国内のサンドイッチの普及に大きく貢献したそうだ」(僕)

「そうなんだぁ?」(タカ)

「良かったら、もう1つどうだ?」(僕)

「いや、良いよ。こーさんの分が減っちゃうから…」(タカ)

「いいって、いいって!、元々、駅を降りてから何か食おうと思っててサンドイッチにしたんだから…」(僕)

「じゃあさ、こーさん稲取で降りなよ。俺が美味い店教えるから、そこで一緒に食べようぜ」(タカ)

「時間あんのか?」(僕)

「大丈夫だよ。メシ食う時間くらい…」(タカ)

「そうか…、で?、美味いモンって、金目の煮つけか?」(僕)

「それも美味いけど、そんなの伊豆に来たらしょっちゅう食べてるだろ?」
「だったら、稲取ならではの、ご当地グルメに連れて行くからさ」(タカ)

「そんなのがあるんだ稲取に?」(僕)

「ああ…、楽しみに待っててくれよ。じゃあ、サンドイッチも1つ頂くわ…」
タカはそう言って、大船軒のサンドイッチをまた1つ食べるのだった。




 それから列車は、伊東を出て宇佐美へと向かっていた。

カタンコトン、カタンコトン…。

「ところでタカよ…、仕事の方はどうなんだ?、順調なのか?」
僕はタカの仕事の近況を聞いてみる事にした。

「ええ…、まぁ、何とか…」(タカ)

「しっかし、まぁ…、まさかタカがゼネコン系に就職して高給取りになるなんて、あの頃は想像もしなかったぜ」
「一生スーツ着た仕事なんかしないタイプだったもんなぁ…。よくぞ立派に社会復帰したもんだ(笑)」(僕)

「そんな前科モンみたいな言い方しなくたって…(苦笑)」(タカ)

「あのデビルマンが、人間と結婚して、娘までいるんだからなぁ…」
僕がそう言うとタカが「ははは…」と笑う。

「まぁ、でもさ…、こーさん見てると羨ましいよ。自由で…」
「会社員ってさ、しがらみばっかで、融通利かないヤロウばっかだし…」(タカ)

「タカみたいな大手だと、余計そういうの多いんじゃねぇの?」(僕)

「なんか俺から見ると、周りのやつらは薄情というか…、あんまり人に対して深入りして来ないやつばっかだね」(タカ)

「ほぅ…」(僕)

「取引先から後で訴えられない様にする為に、あらかじめ理論武装して接してるんだよ」
「何かあっても、『それは、初めに言ってましたよね?、聞いてないあなた方が悪い』って言える様に、いつも逃げ道を作ってる」(タカ)

「まぁ大手だとクレームのリスクは大きいからな。ヘタしたら自社株にも影響してくるしな…」(僕)

「でも、明らかに相手側が意味を勘違いして契約したりしてるのに、それを俺が相手に説明しようとすると、『余計な事しなくていい。ウチらはちゃんと説明したんだから、取り違える方が悪い』って言って、上司はそのまま話を進めちゃうんだよ」(タカ)

「それは会社の方針なのか?」(僕)

「いや違う…。社訓では、顧客に対しては状況に応じて柔軟に対応し、会社が間違えていると分かったら、何が正しい行いなのか自分で判断して進めるべきだと書いてある」(タカ)

「じゃあ、その上司がバカなんだな」
「上層部のホンネは、その社訓の通りなんだよ。だけど中には状況判断できないバカも社員にいるだろうから、タカの上司はコンプラを重視して慎重になるんだ」(僕)

「しかしコンプラなんてモンは、守れば守るほど本来の意味とはどんどん乖離してしまうんだって事を、その上司は理解してねぇんだな」(僕)

「だけどそういうゴマすりに限って、出世して行く…」(タカ)

「いや…、そうでもないぜ。会社のホンネとタテマエを理解できない奴は、せいぜい中間管理職止まりだ」
「企業でも、政治家でも、芸能界でも、世の中は全てホンネとタテマエがある。それをどう調整していくかで、他人(ひと)より業績を上げる事が出来る」(僕)

「頭の固い奴はそれが理解できないが、アスリート競技では、それを“インサイドワーク”と言うんだ」(僕)

「会社が言うタテマエだけを、ひたすら守っていれば評価されると考えてるヤロウは、所詮アマチュアだよ。学生時代から成長してないやつだ」
「学生は、先生の言う事だけを素直に守っていれば、良い成績が与えられるからな。しかし社会人になったらそれではダメだ」(僕)

「社会人は自分で考え、判断をして成果を上げなきゃならない。だから時には、コンプラを破る行為になったって俺は良いと思ってる」
「破るって言ったって、校則みたいにどうでもよいものの事だけどな。犯罪につながる様なのはダメだ」(僕)

「でも、そのどうでも良いコンプラを破る事によって、仕事の効率が上がり、自分も、顧客も、会社も幸せになれば、それは良いと俺は考える」
「そのコンプラに囚われた殻を打ち破れる人材を、本当は求めているんだって、タカの会社の社訓を聞いて俺は理解したけどね」(僕)

「殻を打ち破人材かぁ…」(タカ)



「そういうワケで、会社のホンネとタテマエを理解できないやつは出世できない。というか、上から引き上げて貰えないよ」
「だってそうだろ?、会社のホンネを理解できないやつに、ホンネは話せないだろ?」(僕)

「タテマエしか実行できないやつは、上層部から信用はされる。だけど信頼はされない」(僕)

「信用はされても、信頼はされない?」(タカ)

「そうだ。タテマエだけを実行するやつは、末端の仕事で使っていれば安心だ。ルールを必ず遵守するから信用できる。だけど云われた事しか実行しないから、期待以上の成果を出す事は無い」(僕)

「一方、ホンネを理解しているやつなら、会社の戦略を決定する上層部に引き上げて傍に置いても、気兼ねなく安心して鉈を振ることが出来る。即ちそれは信頼関係だ」
「だからコンプラに囚われてる様な、ひよったやつじゃ、経営母体からの信頼は得ないという事さ」(僕)

「分かった!、じゃあ俺も明日からは、半沢直樹の『倍返し!』で行くわ!」(タカ)

「いや…、そりゃちょっと違うわ…(苦笑)」
過激な性格のタカがやり過ぎないように、セーブを促す僕であった。


 そして列車が伊豆稲取駅に着いた。
僕はタカについて、稲取港方面に歩いていた。

「どういった料理なんだ?、稲取のご当地グルメって…」(僕)

「中華っす…」(タカ)

「中華!?」
漁港なのに、海鮮料理じゃないから僕は驚いた。

「小さな店ですけどね~、むか~しからやってる名店で、TVでも紹介された事あるんすよぉ~♪」(タカ)

「へぇ…、そうなんだぁ~?」(僕)

「あ!、あれっす!」
駅を出てから5分くらい歩いた頃。
タカが白い建物を指して言う。

坂を上がった先に見える建物は、中華屋というよりは、喫茶店という感じの、おもむきであった。

店内に入る僕ら。
床はフローリングで、白いテーブルに赤い椅子が並べられている。
やはり中華屋というよりは、喫茶店と言った方がしっくりくる店の内観だった。



「肉チャーハン2つ!」
席に着くなり、タカはメニューも見ずに店主へ注文した。

「肉チャーハン?」と僕が聞く。

「ええ…、肉チャーハンは稲取のソウルフードなんですよ」
「今は肉チャーハン出す店も減っちゃいましたけど、でも、ここはその肉チャーハン発祥の店なんですよ」(タカ)

「つまり元祖か?」(僕)

「ええ…、元祖です(笑)」(タカ)

「そうか、楽しみだな…」
「なぁタカ、ビール飲むか?」(僕)

「ええ…、飲みましょう。でも1本で良いすよ。法事で行くのに赤い顔で行ったらマズいんで…」(タカ)

「そりゃそうだ(笑)」
僕はそう言うと、瓶ビールを注文した。

ビールはすぐに出て来た。

「あら?、黒ラベルが青ラベルだ…」
出されたサッポロ黒ラベルを見て、僕が言う。

「この界隈はみんなコレです。伊豆限定ラベルのサッポロ黒ラベルっす」(タカ)

「青じゃん(笑)」
どこも黒くないラベルを見た僕が言う。
そしてタカのビアタングラスにビールを注ぐ。

「では…」
ビアタンを手に僕はそう言う。
2人はグラスをカチンと合わせた。


 それからビールが無くなろうとした頃だ。
待望の肉チャーハンが僕らのテーブルに運ばれて来た。



その肉チャーハンとは、卵を溶いたチャーハンの上に、回鍋肉が乗せてある様なものであった。

「これが肉チャーハンかぁ…」
僕は目の前のチャーハンを見つめて言う。

「食べてみてよ(笑)」
目の前に座るタカが言う。

「おお!、ナルホド~!」
肉チャーハンを口にした僕が言う。

「どうです?(笑)」(タカ)

「なんか、ありそうで無かった食べモンだなぁ…。シンプルに美味いよ!」(僕)

「良かったっす!(笑)」
タカはそう言うと、自身もレンゲですくったチャーハンを口に運ぶのであった。


肉チャーハンを食べ終えた僕らは店の前に出ていた。
すぐ近くの稲取港から運ばれて来る潮風が、僕らの服の袖を揺らしていた。

「こーさん、今日はこれからどこへ?」
タカが僕に聞く。

「今日はこれから下田の白浜海岸に行って見ようと思ってる」(僕)

「そうすか…。ねぇ、こーさん…」(タカ)

「ん!、何だ?」(僕)

「さっきのハナシだけど…、もし、ハルカさんを見つけ出せなかったら、どうするんだい?」(タカ)

「そういうコトは、考えない様にしている…」(僕)

「ふふ…、そうか…」
タカがニヤッとして言う。

「そうだ…」
僕は港の方を見つめながらポツリと言った。

「こーさん…、余計な事かも知れねぇけど…」(タカ)

「何だ?」(僕)

「俺さ…、最近思うんだよ…。幸せってさ、遠くに探しに行くモンじゃなくて、すぐ傍にあるのに実は気が付いてないだけなんだなって…」

そう言ったタカの顔を黙って見つめる僕。

「ジュンちゃんの事だよ…」
タカがボソッと言う。



「俺は、こーさんが大学生の頃から2人の事を知ってる…」
「ずっと前からこーさんとジュンちゃんを見てたから、こーさんはジュンちゃんと、いつかは一緒になるんだろうなって思ってた…」

そう語るタカの言葉を、僕は黙って聞いている。

「こーさんは昔から、いつもジュンちゃんの事、泣かして来たよな?、でも、あのコはいつもあんたの傍にいた」
「ジュンちゃんは今も独身なんだろ?、彼女、こーさんの事、待ってんじゃねぇの?」(タカ)

「考え過ぎだよタカ…(苦笑)」(僕)

「俺は、2人が一緒になってくれたら良いなと思ってるよ…」(タカ)

「何だよ?、どうしたんだよタカ、突然…」(僕)

「いや…、何でもない…。聞かなかった事にしてくれ…」
タカがそう言うと、僕は「ふっ…」と苦笑いをした。

「じゃあ、またいつか!」

稲取の駅前。
タカが僕に言う。

「ああ…、また会おう」(僕)

「ケータイをまた所持(もつ)事があったら、連絡してくれ…」(タカ)

「分かった…。じゃあまたいつか…」
僕がそう言うと、タカは昔の様に「うす…」と言って頷くのであった。


 2009年5月某日
歌手の櫻井ジュンは、この日、TV番組「ミュージック・フェス」収録出演の為、フジTVに来ていた。

出演者控室

「あ!、また来てる!」
スマホを手にしたジュンは、自分のTwiiterをチェックしていると、そう言った。




俺はお前を許さない!、絶対ゆるさない!
コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!…

「うわぁ…、キモイわぁ~…」
延々と同じ文章が繰り返されるツィートに、ジュンは辟易する。

ツィート主は、“モグタン”と名乗る男性であった。
年齢不詳であるが、恐らくジュンと同世代の中年男性であると想像できた。

ジュンは昨年からTwitterを初めていた。
それは、元ロックボーカルで、現俳優のキリタニ・ジョーからの勧めがあったからだ。

以下、回想シーン

「ジュン…、Twitterって知ってるか?」
某TV局の通路で、久々に再会したジョーが、会話の途中で突然そう言った。

「知らないわ…」
ジュンは、細身で無精ヒゲを生やしているジョーへそう応える。

「Twitterってのは、2006年からアメリカで開始されたSNSツールだ」
「これが最近、日本でも流行り出して、芸能人も続々と始めている」(ジョー)

「Mixiみたいなもの?」(ジュン)

「まぁ、それに近いが、Twitterってのは、文字数制限があって、呟く様なコメントしか出来ない」(ジョー)

「不便ね」(ジュン)

「ところが、それがTwitterのウケている原因の1つなんだよ。現代人は情報過多になり過ぎて、1日の時間が足りないんだ」
「だから手っ取り早く、結論を知りたがる傾向に、どんどんなっている」(ジョー)

「それで私にも始めろって…?、あなたMixiの時もそう言ってたじゃない?」
「もうそういうのはいいわ。必要ないし…」(ジュン)

「Mixiは利用者が急落して来てるが、こっちの方は違うぞ」
「自分が承認すれば、その相手と直接のアドレス交換をしなくてもダイレクトメールが出来る」(ジョー)

「承認…?、ダイレクトメール…?」(ジュン)

「フアンと直接繋がるんだよ。人間関係が…」
「これからの芸能界は、所属事務所任せじゃダメだ。自分で直接、フアンと繋がりを持って、アピールして行くんだ」(ジョー)

「ふぅ~ん…、めんどくさいね…」
ジュンはジョーにそう言うが、結局、後にはTwiiterを始める事となるのであった。




 それから、ジュンがTwitterを始めてしばらく経ってからだ。
“モグタン”を名乗る男からフォロー申請が来た。



モグタンは、ジュンがデビューした時からのフアンだと言っていた。
連絡をくれれば、いつでも応援に駆け付けるとも言っていた。

そんな人なら大事にしなくては…と、ジュンはモグタンと相互フォローをする事になった。
しかしその事が切っ掛けで、ジュンはトラブルに巻き込まれる事となった。

モグタンからの引っ切り無しに届く、ダイレクトメール。
メッセージの中身は、常に熱烈なラブコールであった。

フアンを傷つけたくないジュンは、当り障りのない返答でモグタンのラブコールをかわす。
しかしそれがいけなかった。

モグタンは脈があると思うや、ジュンの事務所に連日、プレゼントが届くようになる。
ある日、モグタンからダイヤのリングが届いた。
それはモグタンからのプロポーズであったのだ。

「こんなものは頂けません!」とジュンは断るのだが、モグタンは「君が持ってくれさえすれば良い」と、聞き入れない。

ジュンは仕方なく、その指輪を当分の間、預かる事にした。
そしてある日、モグタンから今度は可愛らしいクマのぬいぐるみが届くのであった。

「可愛いぬいぐるみをありがとう。部屋に飾っておきます」
ジュンは、モグタンを邪険にせず、お礼のメッセージを送った。

それから何日か経った頃、モグタンから不気味なメッセージが届くようになる。

「お疲れ様~!、今日は遅かったんだね?」

家についてから直ぐに、モグタンからメールが届く。


「今、シャワー浴びてたの?」

「〇〇さんって、知り合いだったの?」

「昨日は1日中、家に戻らなかったね?、どこに行ってたの?」

モグタンから連日届くメールの内容は、まるで自分の行動を監視されてる様な内容であった。

そしてついに決定的な事が起きた。

「ジュンちゃんて、もしかして○○の近くに住んでるでしよう?」

自分の住んでいる場所まで特定された事に、ジュンは恐怖を感じた。
翌日になるとジュンは、所属事務所の上司、時田加奈子にモグタンの事を相談する。

「ジュン、それってストーカーよ!、あなたの家を盗聴されてるかも知れないわ」
時田はジュンにそう言うと、盗聴バスターズという業者に連絡して、ジュンの家を調べてみる事にした。

そして、業者が立ち合いの元、原因は直ぐに分かった。
モグタンのくれたクマのぬいぐるみから、盗聴器とGPS発信機が仕込まれてあったのだ。



ジュンは恐怖に怯え、急いでマンションを引っ越す事にした。
そしてモグタンをTwitterからブロックした。

ところが数日後、ブロックしたはずのモグタンからツィートが入る。
どうやら別アカウントを作成した様だった。

モグタンの暴威を他の人に知られたくなかったジュンは、仕方なくフォロー申請を許可し、彼とDMのやり取りをした。
それは、やり取りがが終わったら、モグタンを再びブロックすれば良いと考えたからだ。

「どうしたのジュン?、なぜ僕をブロックしたの?」(モグタン)

「あなた私を盗聴してたでしょ?、分かってるのよ。あなたのくれた、ぬいぐるみよ!」(ジュン)

「あれは君の事が心配だから、しょうがなかったんだよ」(モグタン)

「何が心配よ!、あなたはやって良い事と悪い事が分からないみたいね?、お願いだからもう私には関わらないで!」
ジュンはモグタンに、これが最後だというメールを送ると、再び彼をブロックした。

するとしばらく後、またモグタンから別アカウントのフォロー申請が届く。

「いいかげんにして!、もう私のところには来ないで!」

申請許可したジュンが、モグタンにそうメールをした。
すると今度はモグタンの態度が豹変した!

「ふざけるな!、今まで散々俺に思わせぶりな態度を取りやがって!」
「今まで俺がお前に、一体いくら使って来たと思ってんだ?、金返せ!、この詐欺師め!」(モグタン)

「私は何も思わせぶってなんかいないわ!、分かったわ、お金はいくら使ったの?」(ジュン)

「700万は掛かってる!」
モグタンがそう吹っ掛けて来た。

いくら何でも、そこまで掛かってるとは思えなかったが、マニアだったら考えられない事もない…。

そう考えたジュンは、「分かったわ!、口座を指定して!、すぐに振込むから!、だから私にはもう関わらないで!」と返信した。
今のジュンに取って、700万は決して払えない額ではなかったからだ。

「ふざけるなぁ!、指輪はどうするんだ?」とモグタンから返信が入る。

「それもあなたが送って来た住所に宅配便で返しとくから安心して!」(ジュン)

「舐めやがって!、俺の精神的苦痛はどうなる?、俺の貴重な時間を返せ!、慰謝料1億円を請求する!」(モグタン)

「そんな無茶言わないで!、多めに振り込んでおくから、それでもう許して!」(ジュン)

「ダメだ!、許さない!、どうしても俺と別れるというのなら、お前をコロス!」(モグタン)

「馬鹿なこと言わないで!、それに私はあなたなんかと付き合った事なんかないわ!」(ジュン)

「もう許さん!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!、コロス!…」

それ以降、モグタンからのメールは、それだけの内容になった。
辟易したジュンは、モグタンを再びブロックした。

しかしモグタンの追撃は止まらない!、またもや届くフォロー申請…。
だがジュンは、もう2度とモグタンのブロックを解除する事はなかった。

するとモグタンは、コロスの連続コメントを直接リツイートして来る様になった。
ジュンはすっかり気がめいってしまった。

うっかり手を出したSNSに、こんな落とし穴があるのだという事実を初めて知ったのであった。

回想シーン終了

コンコン…。

その時、ジュンの控室のドアがノックされた。
ビクッと反応するジュン。

ガチャ…。

ドアが開く。

「入るぜ…」
そう言って、控室の中に入って来たのは、キリタニ・ジョーであった。



「久しぶり…!、今日は俺もフジで仕事あってな…」
「ジュンが、“ミュージック・フェス”に出るって聞いたから挨拶に来た」
ジョーはそう言うとニヤリと微笑む。

2人が遭うのは久しぶりだった。
のぞみが亡くなる時に、彼女の為に作ったバラードが大ヒットした事で、以来ジュンは本来の歌手業でのオファーが増えたのだ。

低迷期では、このキリタニ・ジョーの計らいで、小さな仕事を振ってもらい、何とか芸能人としての活動を続けて行く事が出来た。

今ではそれも必要もなくなり、ジュンとジョーは仕事で共演する事がどっと減ったのである。

「あ~驚いたぁ…。何だジョーじゃないの…?」
ジョーを見てホッとするジュンが言う。

「ん!?、どうしたんだ?」
ジュンの顔を覗き込む様にジョーが聞く。

「あのね!、あなたが変なもの勧めたお陰で、私、今大変な事になってるのよ!」
ジュンが憤慨して言った。

「ヘンなものって?」(ジョー)

「Twitterよ!」(ジュン)

「Twitterは、変なものじゃないだろぉ?」(ジョー)

「これ見てよ!」
そう言って、自分のスマホ画面をジョーに見せるジュン。

「ああ!?、コロス、コロス…って、なんだこりゃあ!?」
ジュンのTwitterを見たジョーが驚く。

「もお、ノイローゼになりそうよ…」
吐き捨てる様にジュンが言う。

「こいつは誰だい?」
ジョーがそう聞くと、ジュンはモグタンとの経緯(いきさつ)を話し出すのであった。


「そいつは散々だったなぁ…。でもTwiiterがおかしいんじゃない、こいつがおかしいんだ」
ジュンの説明を聞き終えたジョーが、ジュンに言った。

「どっちにしたってね!、あなたのせいで、こうなったんですからね!」(ジュン)

「そりゃ、すまなかったよ…」
頭をかいて、ジョーが謝罪する。

「ところで今日は何の用!?、まさか本当に私がフジに来てるから挨拶に来たってだけじゃないでしょう?」(ジュン)

「ふふ…、さすがはジュン…。鋭いな…」
「実は君にお願いがあってね…」
ジョーはそう言うと、ニヤリと微笑む。

「お願い…?」(怪訝な表情のジュン)

「俺、ズイブン昔に言った事あったよな?、ジュンは自分で曲を書いた方が良いってさ…」(ジョー)

※ジュンが低迷期だった頃、ジュンは社の方針で作詞作曲を認めてもらえなかった。

「ええ…、覚えてるわ…」(ジュン)

「それで君は大ヒット曲を作り上げて、見事に復活した!」(ジョー)

「それがどうしたっていうのよ?」(ジュン)

「俺さ…、元ロックボーカルだったろ?、でも今じゃ俳優だ」
「歌をやめたのは、歌い手としての限界を感じたからだ」

ジョーの話をジュンは黙って聞いている。

「でも君は、人気が落ちて来ても諦めなかった。歌手を続けて大逆転劇を演じた!」
「それで俺もジュンを観てたらウズウズして来てさ…、もう一度、歌に挑戦したくなったんだ!」(ジョー)

「ジョーがまた歌を!?」(驚くジュン)

「そうなんだ…。だからお願いだ!、ジュン!、俺の歌うバラード曲を作ってくれないか!?」
「君が作詞・作曲した曲を歌ってみたいんだ!」
ジョーが思いの丈をジュンに言うが、ジュンはあっさりと言った。

「お断り…」(ジュン)

「え!、何で?」(ジョー)

「私の歌は、私の言葉で作った歌…。他の誰かが歌ったら、その意味が変わる」
「だから誰にも渡さない…」

ジュンはそう言うと、(あれ!?、私、何でこーくんと同じ事、言ってんだろ…?)と、柳瀬川に掛かる金山橋の上で、以前、彼にそう云われた時のシーンを思い出す。




「だったら尚更、俺が歌うべきじゃん♪」(ジョー)

「はあい?」(ジュン)

「だってそうだろ!?、この世の中で、ジュンの事を1番理解してるのは俺じゃないか!(笑)」
「なら俺なら、君の作った曲を歌う資格があるよな!?」(ジョー)

「あなたって、ほんと堪えない人ね?、昔っからだけど…」
ジュンが冷ややかに言う。

「頼むよぉ!」(ジョー)

「ダメ!。ゼッタイ!」(ジュン)

「ちぇ~…、何だよぉ…。まぁいいや!、考えといてくれ!」
ジョーはそう言って、部屋を後にしようとした。

「あ!、そうだ!、ちょっと待ってジョー!」
ドアノブへ手を掛けたジョーに、ジュンが言う。

「え?」
振り返るジョー。

「ジョー…、覚えてる…?、あなたがその時に言ってた別の事…」(ジュン)

「別の事~?」(考えるジョー)

「埼玉のC神社での、小さなイベントの話よ!」(ジュン)

「ああ…、覚えてるよ…。それがどうかしたのか?」
ジョーはそう言うと、当時の事を思い出すのであった。


 1998年4月
この日、2人は共演するCM撮影の仕事が入っていた。
撮影の合間の休憩時間の事である。

「ジュン…、埼玉のC市は知ってるよな?」
むくれているジュンに、ジョーは話し掛ける。

「7月にC市のC神社で、夏祭りが行われる。それで夏祭りの当日に、神社の境内で小さな音楽イベントが行われるんだ」
ジョーの話をジュンは黙って聞いている。

「俺もアマチュアの時、バンドのみんなと出演(でた)事があるんだが、とても良いイベントだったよ」
「地元のみならず、県外からも観光客がたくさん訪れていたよ」

「アマだけじゃなく、ちょっとしたプロのミュージシャンも参加したりしてた。ジュン…、君もそのイベントに出演(でた)らどうだ?」
「歌を歌う場所を探してるンだろ?、君なら、きっと歓迎されると思うぜ…」

ジョーはジュンにそう話すのであった。
するとジュンは語気を強めてジョーに言った。

「ちょっとしたプロが参加してる!?、アナタ、私は、“櫻井ジュン”よ!、2年連続でレコード大賞を獲ってる歌手なのよッ!」(ジュン)

「分かってるよ…。でも、今の君は歌う場所が減って来ている…」
静かなトーンで、ジョーがジュンに言う。

「ギャラは幾らなの!?」(ジュン)

「ギャラ?」(ジョー)

「そうよ!、ギャラよ!」(ジュン)

「田舎町のイベントだ…。そこで2~3曲歌うだけだ。いくら君でも、出せて5万ってとこじゃないかな…?」(ジョー)

「5万!?…、バカにしないでよ!、それでどうやって、バックバンド集めて、機材を搬入する気よ!?、大赤字じゃない!?」(ジュン)

「儲ける為に出演(でる)んじゃない…。知ってもらう為に出演(でる)んだ…。言わば、将来への投資だ…」
「それに、ピアノは用意してある…。君1人で出演(で)れば良いじゃないか…。そこで、君が作ったバラードを歌えば良いじゃないか…」(ジョー)

「そんな田舎のイベントに出たところで、どうなるって言うのよ!?」(ジュン)

「ふっ…、ふふ…」
ジュンの言葉に失笑するジョー。

「何よ!?」
笑ってるジョーに、ムッとして聞くジュン。

「腐っても鯛とでも言いたいのか…?」
ジョーがボソッと、含み笑いしながら言う。

「え!?」
ジョーの嫌味に、反応するジュン。

「ジュン…、自惚れるんじゃねぇよ。何様のつもりだ?」
「お前は歌手だろ!?、場所なんか関係ない!、どこかでお前の歌を待ってる人の為に、お前は歌うんじゃないのかよッ!?」

「見損なったぜジュン…」

ジョーはそこまで言うと、ジュンにプイと背中を向けて、その場から立ち去ってしまった。

不機嫌そうにジョーの背中を見つめるジュンに、隣にいたマネージャーの、のぞみが言う。

「ジュンちゃん!、私もジョーさんの言う通りだと思うわ!、あなたどうしちゃったのよ!?」
「せっかく、オリジナル曲が披露できる場所があるってのに、それを断るなんて…ッ!?」(のぞみ)

「嫌なのよ…ッ!」
すると小声で力強くジュンが言う。

「え?、嫌?」(のぞみが聞き返す)



「分かってる…ッ、バカな事、言ってるって分かってる…。分かってて、わざと心にもない事を言ってる…」
ジュンが身体を小さく震わせながら、小声で言う。

「なんでそんな事を…?」(のぞみ)

「あいつに頭下げて、仕事を恵んで貰うみたいな感じが嫌なのよ…!」
「自分が…、う…、惨めで…、嫌なのよぉ…。うッ…、うう…」

瞳を滲ませたジュンが、小さな声だが力強く、のぞみにそう言う。
のぞみは困惑しながら、ジュンを黙って見つめているしかなかったのであった。

回想シーン終了

「私、あの時、C神社のイベントに出ないって言ってたけど、今は出たいと思ってる!」
ジュンがジョーに力強く前のめりで言う。

「良いのか?、ギャラは少ないぜ…」(ジョー)

「私、歌手とはどうあるべきなのか、今なら分かるの!」
「持ち出しになったって良いの!、あの時、のぞみの前で、ばかやった私にケジメを着けたいのよ!」(ジュン)

「ふふ…、そうか、ジュン…、変わったな…?」
「C神社のイベントは7月だ。その時は俺も君のステージを観に行くよ…」
ジョーはそう言うと、ニヤリと笑う。

「ありがとう…。待ってるわ…」(ジュン)

「ところでジュン、あのイベントの存在を教えたのは俺だよな?」
「お礼に、俺へ曲を書くってのはどうだ?」(ジョー)

「ダメ!、それとこれとはハナシは別!」(ジュン)

「うへッ!、何だよそりゃあ~?」
「分かったよ…、曲の依頼はもう言わないよ。じゃあ、今日の収録、がんばれよ!」

ジョーはそう言うと、ジュンが見つめる控室のドアから出て行くのであった。

 2009年6月某日
埼玉県C神社、風鈴まつりまで一ヶ月となった。
歌手の櫻井ジュンは、この祭りの当日に境内で行われる、音楽イベントに出演する。

PM7:45
新曲のレコーディングを終えたジュンは、カズの運転する車の助手席に乗っていた。



「カズ…、送ってくれてありがとう…」
学生時代の先輩で、スタジオミュージシャンになったギタリストのカズにジュンが言う。

「いいってことよ!」
ハンドルを握るカズが言った。

彼は先程、後輩のジュンが、ストーカーに狙われてるという話を聞いて、彼女を自宅まで車で送って行く事にしたのであった。

「ところでさ…。俺のギターどうだったよ?」
正面を向いてハンドルを握るカズが言う。

「うん…、良かったよ。良いレコーディングになったわ」
「すごいねカズは…。ロックだけかと思ってたら、アコースティックもイケるんだぁ?」(ジュン)



「へへ…、あいつの影響でね…。あいつのアルバム制作の時に、アコギやボトルネック奏法とか、いろいろやらされたからな…」(カズ)

「こーくんの事…?」(ジュン)

「そう…!」(カズ)

「こーくん、一体どこ行っちゃったのかしら…?」
鎌大テロ事件後に、姿をくらました彼の事をジュンは言った。

「なぁジュン」(カズ)

「何?」(ジュン)

「今日は早く終わったから、久々に飲みに行かないか?」(カズ)

「良いけど車は?」(ジュン)
※因みにジュンは酒が飲めないのでウーロン茶でカズに付き合う。

「自分んちに停めてから、飲みに行く…」(カズ)

「遅くなっちゃうじゃない?」(ジュン)

「大丈夫だ。飲みに行くのは、“ぐるぐるセブン”だから…」(カズ)

「“ぐるぐるセブン”って、カズの家の裏にある…?」(ジュン)

「スナック!、俺の親父の代からの御用達だ」(カズ)

「私、飲んだ後は、どうやって帰るの?」(ジュン)

「タクシーで帰れば良いじゃん♪」(カズ)

「まぁ!、まったく…」
結局、録音スタジオから自分で自宅に戻るのと同じ結果に、ジュンは呆れるのであった。


 練馬区石神井公園
ぐるぐるセブンの前に立つ、カズとジュン。
ドアの向こうからは、カラオケを熱唱する客の歌声が微かに洩れている。

ガチャ…。

ドアを開けるカズ。

「一度ぉぉ~限ぎぃりのぉ~♪、一度限りの人生ぇぇおお~♪」
ステージで熱唱する客はハリーだった!

「うわッ!、ハリーだッ!」(驚くカズ)



「俺の力でぇぇ~♪、俺の力でぇぇ~♪、切ぃぃ~りぃ開ぁぁぁくぅぅ~~♪」(ハリー)

「出よ!、出よ!」
カズが慌ててジュンの背中を押す!

「あ!、カズさんにジュンさんじゃねぇでやすかぁ!?」
出て行こうとするカズたちに気づくハリー。

「あちゃぁ~、見つかったぁ…」
ジュンの背中を押さえてるカズの背後から、ステージに立つハリーの声。

「どうしたんでやすかぁ?、ささ!、どうぞこちらへ…」
ハリーはカズたちに近づくなり、自分の座っていたテーブル席の方へ2人を誘導した。

「お!、カズの宮様だ!、カズの宮様がお見えになったぞ!(笑)」
店のマスターが、カウンター越しからそう言って、カズをからかった。

「カズのミヤ…?」
罰の悪い苦笑いのカズに振り向いて、ジュンが言う。

「マスターは、俺の事をいつもそう言うんだよ…」
ハリーに手を引かれながらカズが言った。

「ねぇハリー…、あなたが今歌ってたのは誰の曲?」
先程、ハリーが熱唱していた曲の事を尋ねるジュン。

「どっこい大作でやす!(笑)」(ハリー)



「どっこい大作!?…、知らないわ、そんな歌手…?」(ジュン)

「ドラマの題名でやす。そのテーマソングでやす(笑)」(ハリー)

「ドラマ…?」(ジュン)

「へい…、昔はアニメや特撮以外に、子供向けの30分ドラマが、夜の7時と7時半に放映されてたんでやす」
「刑事くん、サインはV、柔道一直線とか、ハレンチ学園とか…(笑)」(ハリー)

「ちょっと何言ってンだか、全然わかんない…?」(ジュン)

「まぁまぁ…、とにかくお掛け下さい…」
ハリーは自分の座っていたソファ席に、2人を座らせる。
その席には、メガネを掛けた男性が座っていた。

「あなたは…?」
ハリーの連れに聞くカズ。



「初めまして、ワタクシ…、中出(ナカデ)ヨシノブと申します。中出氏とお呼びください…」
顔が少しシャクレたメガネの男性が笑顔で言う。

「ナカデシ~?」
カズとジュンが声を揃えて言った。

「あっしら2人は、ユニットを組んでるんでやす!、ユニット名は、“8の字無限大”でやす!」(ハリー)

「お前ら、リイドコミックのレイポマン読んでたろぉ!」(指を差してカズが言う)



「何?、レイポマンって…?」(カズに聞くジュン)

「あうッ!、お前が一生、読む事の無いマンガの事だ。気にするな…!」(カズ)

「ふぅん…」(ジュン)

「中出氏は高校時代バンドでギターをしておりやして、エックス・ジャポンをカバーしてたんでやす」(ハリー)


※マジです。

「じゃあ、ハリーがキーボードで、その中出氏さんがギターというワケか?」(カズ)

「“さん”は要りません。中出氏だけで良いのです」(中出氏)

「分かったよ。次からはそう呼ぶよ(苦笑)」(カズ)

「8の字無限大は、音楽ユニットでありながら、会社法人でもあるのです。だから我々は色んな事業にも手を出しております」(中出氏)

「そうなんだぁ?、どんな事をやってるの?」(ジュン)

「×××の経営や、×××の販売、更に×××の制作など様々な…(笑顔)」(ハリー)

「やらしい…。サイテーねッ!、あなた達!」(ジュン)

「エロを制する者は世界を制しますから…」(中出氏)

「誰の言葉だぁ?」(カズ)

「私の祖父、中出ヨシツネの言葉です」(中出氏)

「知らないわよ、そんな人!」(ジュン)

「あんたら2人は、どこで知り合ったんだよ?」(カズ)

「2007年、山梨県で起きたバスジャック事件を覚えてやすか?」(ハリー)

「何か、そんな事件があったな…?」(カズ)

「あっしらは、そのバスに乗り合わせていたんでやす。そこで意気投合してからの付き合いなんでやす」(ハリー)

「意気投合するでしょうねぇ…、あなた達なら…」(呆れ顔のジュン)

「そうそう!、そん時、不二子さんも居たんでやすよ!」(ハリー)



「不二子さんて、あの、“Unseen Light”の女社長かぁ!?」(カズ)
※“Unseen Light”とは、音楽イベント会社

「へい…、彼女そん時、お見合いで、実家の山梨に帰ってたんでやす…」(ハリー)

「彼女は山梨の人なんだ?」(カズ)

「ふッ…、不二子さんは結婚したのぉッ!?」(前のめりに聞くジュン)

「いえ…、結局お見合いは断ってやしたねぇ…」(ハリー)

「そうなんだぁ…?」(ホッと胸を撫で降ろすジュン)

「お前、何喰いついてんだよ?」
不思議に思うカズがジュンに聞く。

「だって不二子さんって、私と同世代なんだよ!、先を越されたかどうか気になるじゃないの…」(ジュン)

「まぁ、ジュンも8月で、いよいよ40になるからな…。お前もいいかげん結婚しないとヤバいぞ(苦笑)」(カズ)

「あのさ…!、私がこうなった原因は、カズッ!、あなたにもあるんだからねッ!」(ジュン)

「なんで俺が…?」(たじろぐカズ)

その時、中出氏が立ち上がって言う。

「あ!、私の歌う番が来ました」
中出氏はそう言うと、スナックのステージへと向かった。

「そういえば不二子さん、あいつが銃で撃たれて入院した時、見舞いに来て泣いてたよなぁ…」(カズ)

「カズ!、聞こう聞こうと思ってたんですけど…ッ、あなた、不二子さんと、こーくんをくっつけ様としてたでしょ!?」
「それで私の事、こーくんに近づけさせない様に、ガードしてたわよね!?」(ジュン)

「お前は今、大事な時期だ…。あいつに関わってる場合じゃないだろ?」(カズ)



「あんたねーッ!、それ、私が18歳でデビューした時から、ずっとじゃないッ!?、一体、何十年同じ事、言ってんのよぉッ!?」(ジュン)

「あ!、中出氏の歌が始まりやしぜ」
ハリーがカズとジュンに言う。



「ワンダバダワンダバダワンダバダ…、ワンダバダワンダバダワンダバダ…、ワンダバダワンダバダワンダバダ…」(中出氏)



「なんなのよぉ?、この気が重くなる様な選曲はあ~!?」(嫌な顔のジュン)

「懐かしいでやすねぇ~?、帰ってきたウルトラマンの、MATのテーマじゃないでやすかぁ~!(笑)」(ハリー)

「ワンダバダワンダバダワンダバダ…、ワンダバダワンダバダワンダバダ…、ワンダバダワンダバダワンダバダ…」(中出氏)

「すげぇなアイツ…。よく歌えるな…。ワンダバダワンバババ…ッと、言えねぇ~よフツー…(苦笑)」(カズ)

「あ~~ッ!、あたしもう40歳になっちゃうのよぉ~ッ!、ここまで引っ張られて、どう責任取ってくれんのよぉ~ッ!」
頭を抱えて言うジュン。



「ワンダバダワンダバダワンダバダ…、ワンダバダワンダバダワンダバダ…、ワンダバダワンダバダワンダバダ…」(中出氏)

「お前は若く見られるから大丈夫だよ(苦笑)」(ジュンの肩に手を置くカズ)

「ジュンさん!、そんなに結婚したいなら、あっしはどうでやすかぁ!?」(自分を指すハリー)

「ワンダバダワンダバダワンダバダ…、ワンダバダワンダバダワンダバダ…、ワンダバダワンダバダワンダバダ…」(中出氏)

「いやぁぁ…、アタシは、フツーの人が良いのぉぉ~ッ!」
両手で顔を覆い泣くジュン。

「あいつは全然フツーじゃねぇって!、あいつは超変わってるぜ!(笑)」(カズ)

「ワンダバダワンダバダワンダバダ…、ワンダバダワンダバダワンダバダ…、ワンダバダワンダバダワンダバダ…」(中出氏)

「超変わってるくらいが、丁度良いのぉぉ~~ッ!」
両手で顔を覆い泣くジュン。

「ジュンさんッ!、あっしも超変わってるって、よく言われやすッ!」(自分を指すハリー)

「いやぁぁ…、アタシは、フツーの人が良いのぉぉ~ッ!」
両手で顔を覆い泣くジュン。

「どっちなんだよ…?(苦笑)」(カズ)

「ワンダバダワンダバダワンダバダ…、ワンダバダワンダバダワンダバダ…、ワンダバダワンダバダワンダバダ…」(中出氏)

「あーッ!、もお、うるさいッッ!」
ステージの中出氏にキレるジュン。

「そうだ!、そうだ!」
すると他の客も叫び出した。

「いつまで同じコト、歌ってんだぁーーッ!?」

「ひっこめーーーーッ!」

他のテーブル席や、カウンター席の客たちは、そう叫ぶと中出氏目がけて一斉にオシボリを投げつけ出した!

「わあぁぁぁーーーーッ!」
どんどん飛んでくるオシボリに、叫び声を上げるステージの中出氏。

「何やってんだアイツは!?」
オシボリを投げつけられている中出氏を呆れ顔のカズが言った。




「え!?、ジュンさん、C市の風鈴まつりのイベントに出るんでやすかい!?」
カラオケが終わった中出氏の隣に座るハリーが、JINROの水割りグラスを手にして言う。

「C市って、埼玉のか?」(ジュンに聞くカズ)

「うん」
ウーロン茶の入ったグラスを両手で持つジュンが頷く。

「あっし、3年前に、そのイベントの警備をやりやしたぜ」(ハリー)

「そうなんだぁ?」(ジュン)

「その時、こーさんが弾き語りで出演(で)てやしたぜ」(ハリー)



「ホントにぃ~ッ!?」(ジュン)

「あいつがぁ~!?」(カズ)

「へい…、詳しくは1stシーズンの『次へのバトン』を読んで下されば分かりやす…」(ハリー)

「そうかぁ…、あの人も出演(で)てたんだぁ…」
ジュンが感慨深く言う。

「7月だな?、よし分かった。俺、観に行くよ」(カズ)

「あっしも行きやしょう!」(ハリー)

「そう、ありがとう!」(ジュン)

「当日は、目一杯盛り上げますね!」(中出氏)

「頼むから、変な事だけは、しないでちょうだいねッ!?」
中出氏をギロリと睨むジュン。

「わ…、分かってますよぉぉ…」
両手を広げ、中出氏がオドオドする。

ブルルル…、ブルルル…。

その時、ジュンのスマホが揺れる。

「ん!?、誰だろ?」
そう言ってスマホを見るジュン。

(あ!)
言葉を呑むジュン。
それは、例のモグタンからの、殺害予告ツィートが届いたからだ。

(俺はお前を絶対に許さない!、滅多刺しにして、コロス!、コロス!、コロス!……)

「どうした?」
そう言ってジュンのスマホを覗くカズ。

「うわぁッ!、こいつかぁ~?、例のストーカーは!?」
カズが文面を見て仰け反った。

「ストーカー…?」
そう言って、ハリーもスマホを覗く。

「カズ…、わたし怖い…」
不安で目が潤み出すジュン。

「こいつは、どんなやつなんだ?」(カズ)

「知らない…」(顔を左右に振るジュン)

「齢は?、住んでる場所は?」(カズ)

「知らない…、私、会った事ないもの…」(顔を左右に振るジュン)

「という事は、やつが近くに潜んでても、こっちの方は、まったく気が付かないというワケか…?」(カズ)

「ちょっとヤメテよぉ…、脅かすのは…」(ジュン)



「以前ありましたね…?、地下アイドルの女の子が、ライブへ向かう途中で、元フアンだったストーカーに滅多刺しにされた事件が…」(中出氏)

「ちょっとぉッ!、何てこと言うのよぉッ!」(ジュン)

「ジュン…、遅くなると危険だからそろそろ帰るか?、店の前にタクシーを着けさせよう」(カズ)

「うん…」(頷くジュン)



「万が一、タクシーの運転手が、その犯人だったとしても分からないという事ですね…?」(中出氏)



「お前なぁ…!」
ジュンは、ワナワナと怒り震えて、中出氏を睨むのであった。

To Be Continued…。



あなたになら渡せる歌 後篇