夏が呼んだ蜃気楼 (夏詩の旅人2 リブート篇) | Tanaka-KOZOのブログ

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★ついにデビュー13周年!★2013年5月3日2ndアルバムリリース!★有線リクエストもOn Air中!



1989年8月中旬
東京都千代田区麹町FMセンタービル

この日、TOKIO fm放送スタジオでは、歌手の櫻井ジュンがゲストに招かれていた。
87年に18歳でデビューしたジュンは、日本レコード大賞新人賞を受賞。
そして翌88年には念願の日本レコード大賞を受賞。

国民的人気歌手となったジュンは、今年89年も、レコード大賞の大本命と囁かれていた。
そんなジュンも、今年二十歳になっていた。


「じゃあジュンちゃん!、トークも盛り上がってるんだけど、この辺で新曲を披露してもらってもいいかな!?」
TOKIOfmのDJがジュンに言う。



「はい…、分かりました」(ジュン)

「今日は、ジュンちゃんの新曲をリスナーのみんなに、生で歌ってもらえるんですよね?」(DJ)

「はい…」
ジュンが笑顔で応える。

「じゃあ!、準備ヨロシクッ!」
DJがそう言うと、ジュンはライブ演奏のスタンバイをしている隣のスタジオへ移動した。



 同日
所変わって、新宿PEPE前のマック店内
そこには、ジュンが高校生だった頃、バンドに参加していたメンバーの2人がいた。

大学4年になった彼らは、就職活動の真っただ中であった。
※当時は今と違って、大学4年になってから就職活動をしていたのである。

マックの店内からは、TOKIOfmが放送されていた。

「おう!、じゃあ、俺、そろそろ行くわ!」
ビックマックを食べ終えたスーツ姿のカズは、正面の彼に言った。
カズは、これから企業説明会に向かうのであった。

正面に座る男性は、ボーカル担当で、バンドのリーダーでもあった。
彼は、ヘタったフライドポテトをつまみながら、ギタリストのカズに言う。

「おう!、頑張って来いよ!」
そう言った彼は、ポテトを口に入れると、続けてコークをストローで飲んだ。

「あれッ!?」
立ち上がったカズが、突然言う。

「どうした?」
彼がカズに聞く。

「ほら…、この曲…、ジュンが歌ってる…」
立っているカズが、店内から流れているジュンの歌声を聴いて言った。

「ホントだぁ…」
店内に流れるジュンの曲を聴いた彼が言った。

「アイツ、売れてンなぁ…」
カズが感心して言う。

「だけど…、なんだよ!、この曲はぁ…?」
彼はジュンの歌う曲を否定的に言った。

「MISTY GIRLだ!」
カズが曲名を彼に言う。

「うぇッ!…、ダッサ!」(彼)

「でも売れてるぜ…。今やジュンは、国民的な人気歌手だ!」(カズ)

「国民的な人気アイドルだろ…!」
彼が吐き捨てる様に言った。

「どっちでも、良いじゃねぇか?、儲かってんだし…」(カズ)

「良かぁねぇよ!、俺は、こんな曲を歌わせる為に、アイツを送り出したんじゃねぇ…」
「アイツはアーティストなんだッ!、こんなフワフワした曲なんかじゃなくて、自分で作曲してやれる、シンガーソングライターなんだよッ!」(彼)

「お前、何、怒ってるんだよ?」(カズ)

「別に怒ってなんかねぇよ…。俺にはカンケーねぇコトだしな…」
彼はそう言うと、またストローを咥えて、コークを呑むのであった。

(アイツ…ッ、いつまで、こんな音楽やってるつもりだよ…ッ!)
ストローを咬みながら、彼はそう思うのであった。


 1987年、夏
当時大学2年生だった僕は、柳瀬川でよく釣りをしていた。
理由は、メンバーが抜けてしまった事で、バンド活動が休止状態であったからだ。

暇を持て余す僕は、バイト先へ向かう前の午前10時頃から午後の3時くらいまで釣りをして過ごす。
そして、僕がそろそろ納竿しようとする時間になると、現れる1人の女の子がいた。

少女は高校の授業が終わると、毎日、ポカリを片手に、「暑いね~…。はい、差し入れ♪」と言って僕の前に現れた。
その少女が、デビュー前の櫻井ジュンであった。



彼女は 高2の時から、僕とカズのバンドに参加しており、高3の5月にスカウトされ、8月にプロとしてデビューした。

カズの高校時代の軽音部の後輩であったジュンは、最初、キーボードコーラスとして、僕らのバンドに参加していた。

だけど実は、彼女はとんでもない歌唱力の持ち主で、作詞作曲も出来るアーティストであったのだ。

彼女は僕に遠慮して裏方に徹していたが、ジュンの本当の夢はプロのシンガーになる事であった。
それを知った僕は、5月の学園祭の野外ライブステージで、ジュンに1曲だけ歌わせる事にした。

そして彼女は、その1曲だけでプロミュージシャンとして見事にスカウトされるのであった。


 その年の7月。
僕は、ジュンと僕と交流のある仲間たちとで、新宿の居酒屋で送別会を行う。

そしてジュンを送り出した翌月、ジュンは異例のスピードで歌手デビューを果たす。
ただし、アイドル歌手としてのデビューであったのだが…。

 1989年12月
そしてジュンは、2年連続レコード大賞受賞した。
大学卒業を控えた僕やカズも、その頃には内定を得て一安心していた。

当時はバブルで、就職活動は売り手市場であった。
企業サイドは、内定を出した新卒を逃さない為に、色々と工夫を凝らしていた。

内定を出した新卒者に電子手帳を渡したり、夜の東京湾でフェリーを貸し切り、船上パーティーなどを開催して、内定者の流出を防ぐのに必死であったのだ。

 1990年3月
同級生たちが卒業旅行で海外に出かけている間に、僕は一足先に早くも就職先の企業研修が始まっていた。

僕は上場一部の大手アパレルメーカーに就職していた。
富士山麓の合宿所で、大卒、短大卒、専門卒、高卒の総勢5000名の企業研修を1週間の泊まり込みで行った。

教官には自衛隊の人が付いて、朝からランニングや筋トレが何故か組み込まれており、それが終わると商品知識の講習が毎日行われていた。
ちなみに僕は、その年に入社する全ての新卒者の中で、1番面接の印象が良かったそうだ。(笑)

研修合宿も後半に入ると、新卒者の中からリーダーを1人だけ選んで、新卒研修の進行担当を決めるという話になった。
僕は5000名の中から、その年の新卒研修のリーダーに投票で任命された。

大講堂の壇上に立ち、総勢5000名の前でマイクを手に、企業研修の進行を行った。
当時の記憶は残ってないのだが、僕は余り緊張していなかったと思う。

研修も終わり、最終日に配属先が発表された。
僕は本社勤務を期待していたが、新宿にある本店の配属を命ぜられた。

後で分かるのだが、本社勤務は出来レースで、最初から東大、一橋大などの国立大卒と、早慶や上智の卒業生だと決まっているそうだ。
それ以外は、例え明治や立教の東京六大学卒でも、高卒と同じ販売員に配属されるのだ。

しかし、新宿の本店でトップになれば、全国で売り上げがトップになれると、その時に聞いて知る。
そこでノンキャリの僕は、全国で売り上げトップになり、本社勤務を目指す事を画策するのであった。



 4月になり、僕は新宿の本店で勤務を開始した。
僕は就職したアパレルの服を着ないで、全販売員の中、1人だけポールスミスのスーツを着て接客していた。

別に自社のスーツを着なければイケないというルールはなかったので、僕は、ポールスミス、J.PRESS、イッセー・ミヤケ、キクチ・タケオのスーツで仕事をした。
そして僕はバンバン売り上げた。

卒業を控えた息子のスーツを探しにやって来た親子、若い女性客のカジュアルファッション、外国人観光客らが、僕にコーデの意見を求めて来るのだ。
僕は、「コーディネートは、こうで、ねぇと…(笑)」てな、感じで、売り上げをどんどん伸ばして行く。

そして僕は、入社1ヶ月目にして、上場一部企業のアパレルメーカーで、全国1位の売り上げを達成するのであった。(※マジよ!)




 同年6月
僕は仕事帰りに、学生時代のバイト仲間だったタカやヤスと、渋谷宮益坂にある居酒屋、“がんこ親父”で飲んでいた。

僕の仕事は接客サービス業なので、休みは平日だった。
職場の同僚と飲みに行くにも、退勤時間や休日が異なるので一緒に遊ぶのは無理なのだ。

当時、ヤスはまだ大学4年生で、タカはフリーターだったので、自ずと飲みに行く仲間は、学生時代のやつらと同じメンツになるのだ。



「どうスか、こーさん。職場の方は…?」
ガタイの良い、茶髪ボウズアタマで切れ長目にメガネのヤスが、正面に座っている僕に聞く。
※この頃のヤスは、トレードマークであったロン毛をバッサリと切っていた。

「どうもこうもねぇよ…。俺、本社勤務のデスクワークを希望してたから、思い描いてた人生とはチョット違う感じかな…?」
最初の中生を手にした僕が言う。

「サービス業って、同僚と休みがバラバラだから、ヤなんすよね…?」(ヤス)

「それは、あるな…。だから俺は、お前らと未だに飲んでいる…(笑)」(僕)

「カズさんは、今、何してるンすかぁ?」(ヤス)



「あいつも就職したよ」(僕)

「へぇ…、どこに?」
細マッチョで、金髪ソフトモヒカンで三上博史似のタカが、僕に聞く。

「Cセメント…。なんか親父の縁故で入ったらしい…」(僕)

「大手じゃないですか!?」(タカ)

「でも、もう辞めたいんだと…」(僕)

「ええ!?、なんで?、勿体ない!」
“がんこ親父”の名物メニュー、“巨大おにぎり”を頬張るヤスが僕に聞く。

「朝早くて、夜遅くて大変なんだと…。ギターを触る時間もないから、もうイヤなんだとさ…(苦笑)」(僕)

「それが理由ですかぁ…?」
理解できない?という感じで、ヤスが言う。



「お前だって、大好きなオナニーが、仕事忙し過ぎて出来なかったら、仕事やめンだろ?」
枡酒を口にしてから、タカがヤスにそう言った。

「ああ!、分かります!、そりゃあ無理ッスね~!(笑)」(ヤス)

「いや…、オナニーはしてる…」(僕)

「はぁ!?」
タカとヤスがシンクロする。

「忙しくて、ギター触れなくても、友だちんこは、毎日欠かさず触ってるそうだ…(苦笑)」※それはその後、30年間欠かさず続く(笑)

「ははは…ッ!、何スかそれぇ!?(笑)」
ヤスが笑いながらそう言うと、隣のタカもクスクスと笑う。



「ところでヤス…。お前、今年就職活動だろ?、どうなんだよ?」
今度は僕がヤスに質問した。

「う~ん…、こーさんの時と違って、そんなに売り手市場でもない感じですね…」(ヤス)

「そうなんだ?」(僕)

「ええ…、バブルが弾けた影響が、そろそろ出て来たって感じです」(ヤス)

「そうか…。で、どうすんだお前?」(僕)

「取り合えず、パーラーから内定貰ったんで、そこにしよっかなぁ~?と…」(ヤス)

「パーラーって?…、新宿のタカノ・フルーツパーラーの事か…?」(僕)

「違いますよぉ!、パチンコ!、パチンコ屋です!(笑)」(ヤス)

「中学受験して、K大入ったやつがか…?」(僕)

「でも俺、中学、高校、大学と、全然勉強しなかったッスからぁ…(笑)」(ヤス)

「ふぅ~ん…」(僕)

「その代わり、本社勤務になれますよ!(笑)」
ヤスは悪戯な笑みで、僕にそう言うのだった。

※しかしヤスの就職後の配属先は、本社ではなく名古屋となる。この頃は知る由も無かったのだが…。

「タカは、今後どうするんだ?」
僕はヤスの隣に座るタカに聞く。

タカは、ワシダの政経狙いで浪人中、そのままフリーターになってしまったパターンの男であった。

「俺は、今のバイト、そろそろ変えようかと思ってます」(タカ)

「ダイニング“D”をか…?」(僕)

「ええ…、来年にはヤスも卒業で辞めますしね…」(タカ)




「ドカチン(店長)も移動になって、今はもう居ないんだってな?」(僕)

「ええ…」(タカ)

「そっかぁ…、あの頃一緒に働いてた連中は、今はもうみんな居ないんだな…」(僕)

「あの頃は面白かったッスよねぇ~?、こーさんが、メチャクチャで…(笑)」(ヤス)

「何だよそらぁ?、俺はもう立派な社会人になってるぜ(笑)」(僕)

「はいはい…。そういう事にしときます…(笑)」(ヤス)

「タカ…、話が逸れちまってワリイな…!、それで、今のバイト辞めてどうすんだ?」
僕は、タカに再び、先程の続きを聞く。

「イベント運営会社から誘われてまして…、そこでバイトしてみようと思ってます」(タカ)

「イベント運営…?、そこでは何をするんだ?」(僕)

「フェスとかの、コンサート会場の設営準備とか、やるみたいスね…」(タカ)

「へぇ…、面白そうだな…(笑)」(僕)

タカはその後、そのイベント業で知り合った人の縁故で、大手ゼネコンに就職する事となり、現在では役職付きの高給取りになっている。※実話
この頃は知る由も無かったのだが…。 ←こればっか!(笑)



「こーさん、明日休みでしょ?、この後、久々に「KAVE」行きません?」

僕とタカの話が終わると、ヤスが突然、僕に言う。
※「KAVE」とは、渋谷にあるCLUBの事である。

「ああ…、構わんよ」(僕)

「KAVEって言やぁ…、覚えてます?(笑)」(ヤス)

「何を?」(僕)

「ほら…、夜中の2時に俺たちで行った時、店はガラガラだったけど2人だけ元気に踊ってる女の子がいたじゃないですか?」(ヤス)

「あ~!、思い出したッ!、平日の夜中に、OLのオネーさんみたいなのがいたから、俺が話し掛けてみたら15歳の都立高校生だったってやつッ!」(僕) ※実話

「そーそー!、あれはびっくりしましたねぇ~!?、大人っぽいんで、俺もてっきり女子大生くらいかなとは思ってましたけど、まさかねぇ~…(笑)」(ヤス)

「あれは、俺も驚いた…」(僕)

「ところで、高校生って言やぁ…、ジュンちゃん、元気に頑張ってるみたいスねぇ…」(ヤス)

「あいつは、もう高校生じゃねぇ…」(僕)



「分かってますよ!(笑)、でもね…、俺の中では、あのコは今でも高校生のままなんですよねぇ…」
ヤスが店の天井を見上げながら、感慨深く言う。

「お前、女子高生好きだったもんなぁ…?(笑)」(僕)

「今もです!(笑)」(ヤス)

「へっ!?」(僕)

「今もですッ!(笑)」
「大学を卒業するまでに、絶対!、女子高生のカノジョ作りますからぁッ!」(ヤス)

「あっそ…。好きにしなさい…」
僕はヤレヤレという感じで、笑顔のヤスにそう言うと、タバコを咥え火を点けるのであった。



 同年10月

PM10:43
Cセメントに就職したギタリストのカズは、歌手の櫻井ジュンと久しぶりに電話で話していた。

「それでな!、同期の連中とこの前、カラオケ行ったんだよ!」
「そうしたら女子の連中は、みんなお前の歌を歌うんだよ!」
「お前、ホントすげぇなぁ!」

声を弾ませたカズが、受話器の向こうで聴いているジュンにそう言った。



「ふふ…、ありがとう…(笑)」
某TV局のロビーにある公衆電話から、カズに電話を掛けたジュンは、ほくそ笑むのだった。

「カラオケって、歌われると印税が入ンだろ!?、お前、相当儲かってんじゃねぇの?」(カズ)

「残念ながら、私の契約は月給制なの。それに私が作った曲じゃないから、印税はあまり関係ないわね…」(ジュン)

「そうなんだぁ?」(カズ)

「そうよ!(笑)、それに事務所は、ここに来るまで、私に先行投資してるからね。しょうがないわ」(ジュン)

「そうか…。それでジュンは、自分で曲を書く気はもう無いのか?」(カズ)

「書きたい気持ちはあるけど…、こればっかりは事務所の方針もあるから、どうにもならないわ」
「今のところ、提供された曲を歌って成功してるから、当分は難しいわね…」(ジュン)

「なるほどねぇ…。やっぱビジネスが絡んでくると難しいんだな…」(カズ)

「カズはどうなの?、仕事の方は?」
今度はジュンが、カズの状況を聞く。

「ああ…、俺!?、俺は辞めた!(笑)」(カズ)

「えッ!?、辞めたって…、仕事を!?」(ジュン)

「うん…」(カズ)

「まだ半年しか経ってないじゃない!?」(ジュン)

「ダメだ!、忙し過ぎてギターを触る時間がない!」(カズ)

「だって、お父様の縁故で入ったんでしょ!?」(ジュン)

「だから、親父と一緒に菓子折り持って謝りに行った…(苦笑)」(カズ)

「呆れたぁ~…」(ジュン)

「やっぱ俺には、ギタリストしか道はねぇ…(笑)」(カズ)

「どうするつもり?」(ジュン)

「実はさ…、セミプロ的な活動は、もう始めてンだよ(笑)」(カズ)

「そうなんだぁ~?、何やってんの?」(ジュン)

「J-WAVEのジングルをこないだ依頼されて作った。J-WAVE分かるよな?」(カズ)

「分かるよ!」(ジュン)

「エイト、ワン、ポイント、スリ~♪…、じぇ~いうぇぇ~♪」
カズは得意げに、受話器を持って歌い出す。

「ジングルって分かるか?、ジングル!」(カズ)

「分かるよ!」(ジュン)

「ターザンが活躍する場所じゃねぇんだぞ!」(カズ)

「そりゃ、ジャングルッ!(笑)」(ジュン)

「ははは…、そう!、ジングルは、CMに入る時に流す短い曲だ…(笑)」(カズ)



「相変わらずの寒いギャグと顔は、デーブ・スペクターとそっくりね!(笑)」(ジュン)

「お前それ、言うなよぉ~!、最近あいつがそれを、みんなに言い出したお陰で周りからも似てるって、云われ出してンだからよぉ…(苦笑)」(カズ)

「あいつ…?」(ジュン)

「そう!、あいつ…」(カズ)

「こーくん?」(ジュン)

「うん…」(カズ)

「ねぇ…、こーくんは、最近どうしてるの…?」(ジュン)

「知らん。全然会ってねぇし…。だって休みが違うんだもん。あいつサービス業だからさ…」
「アパレル業界で、そのまま働いてるンじゃねぇの…?」(カズ)

「そっか…」(ジュン)

「ジュン!」(カズ)

「え!?、何?」(ジュン)

「俺はプロのギタリストになるぞ!、学生時代の縁で、ちょこちょこオファーが入って来た!」(カズ)

「ついにカズもこっちの世界に来るんだぁ…」(ジュン)

「そのうち、お前のバックバンドにでも使ってくれ…(苦笑)」(カズ)

「勿論よ♪、カズがバックでギターを弾いてくれたのなら、鬼に金棒よ!」
「あなたの才能は、高校時代から側で見てた私が1番良く分かってるつもりよ!」(ジュン)

「そうか、そうか♪(笑)」
「よしッ!、俺はギタリストとして大成してやるからなぁ~ッ!」(カズ)

「ふふ…、楽しみにしてるわ…(笑)」
「じゃあねカズ…。また時間が取れたら電話するね♪」(ジュン)

「おう!、またな!」
カズがそう言うと、ジュンは受話器を置いた。

(そっかぁ…、カズもやっぱり、こっちの世界に来るのかぁ…)
(こーくんの方は、どうするんだろう…?)

ジュンは学生時代、一緒にバンドを組んでいたボーカルだった彼の事を、思い出すのであった。


 翌日
赤坂のMBSテレビでの収録を終えたジュンは、マネージャーの時田加奈子が運転する車で青山通りを走っていた。

※時田は、3年前の87年5月の学園祭野外ライブで、ジュンをスカウトした女性である。

「ジュン…、今日はお疲れ…」
派手な赤いボディの、ホンダNSXのハンドルを握る時田が言う。



「はい…、今日は疲れました…」

助手席のジュンが、ボソッと言った。
時刻は夜の11時を既に回っていた。

「ふふ…、今日は朝からCM撮影が入ってたから疲れたでしょう?、明日も10時から収録が入ってるんだから、今日は早く休みなさい…」
時田がそう言うと、ジュンはカーステから流れる曲の事を彼女に尋ねた。

「時田さん…、この曲、誰が歌ってるんですか?」(ジュン)

「え?」と時田。

「ほら、この曲、最近よく流れてるじゃないですか?」(ジュン)

「ああ…、これ?、この曲は『ブレス・オブ・ザ・ムーン(月の呼吸)』と言って、“アゾシリン”っていう、最近デビューしたバンドよ」(時田)

「アゾシリン…?」(ジュン)

「最近ブームの、“ビジュアル系バンド”ってやつね…」(時田)

「ビジュアル系…」

ジュンは、そう言いながら、思い出すのであった。
学生時代に同じバンドメンバーだったマサシとハチが、『これからはビジュアル系ロックの時代が来る』と言っていた事を…。

「ジョーっていう、今年23歳になった男がボーカルよ」
「確か…、大学のサークルで活動していたバンドで、レコード会社が主催したコンテストに優勝して、今年デビューしたんじゃないかしら…?」(時田が思い出す様に言う)

「へえ…、そうなんですかぁ…」
ジュンは、そう言いつつ、頭の中で考える。

(そっか、カズと同い年か…、こーくんは一浪してるから、こーくんからは1コ下かぁ…)

「どうしたの?」
考え事をしているジュンに、時田が聞く。

「あ!、いえ、別に…ッ」
ジュンが急いで言う。

怪訝そうな表情で、ジュンを一瞬、チラ見する時田。
そして彼女の運転するNSXは、ウィンカーを右に点滅させると、そのまま表参道を右折した。


 それから数日後
ジュンは、“夜のホットスタジオ”の収録で、初めて“アゾシリン”というバンドを目の前で見る事となった。

彼らのデビュー曲、『ブレス・オブ・ザ・ムーン(月の呼吸)』を歌うボーカルのジョー。
無精ヒゲを生やしたジョーは、細身な身体に、ヨレヨレのガラシャツを着ていた。

ジュンが抱いた彼の第一印象は、“チャラそうな男”というものであった。
そして収録を終え、ロビーを歩いていたジュンへ、誰かが近づいて彼女を呼び止めた。

「ジュンちゃんッ!」と呼んだ男性の声。
ジュンが、誰?という感じで振り返る。

「あの…、俺、“アゾシリン”のジョー…」
男性がそう言って笑顔でジュンに近づく。

「知ってます…」
ジュンが無表情で言った。

「あ?、もしかして人見知り?、はは…、俺も初対面だからちょっとキンチョー…(笑)」
ジョーが、ジュンへ気さくに話し掛けるが、彼女の顔からは笑顔は無い。

「何ですか?」
ジュンが少しムッとした顔でジョーに言う。

「俺さ…、デビュー前からアンタのコト気になっててさぁ…」(ジョー)

「それはどうも、ありがとう…」(無表情で喋るジュン)

「それでさ…、本物に今日初めて会えたから挨拶したいと思ってさ…」
「そういうコトで、今後ともヨロシク…」
笑顔のジョーはそう言うと、ジュンに右手を差し出して握手を求めるのであった。



「あなたジョーさんでしたっけ…?」
握手に応じないジュンが、彼に言う。

「ああ…(笑)」とジョーが応える。

「あなたに1つ教えてあげるわ…」(ジュン)

「何をだい…?(笑)」(ジョー)

「ジョーさん…、あなたは私より年上かも知れないけど、この業界では、デビューが先の方が先輩なの!」
「芸能界は上下関係が、とても厳しい世界なの!」
「何?、あなたのその態度は?…、ちょっと馴れ馴れし過ぎない!?」
ジュンがジョーに、ムッとして言った。

「カタイこと言うなよぉ…(笑)」
「そんなの気にしないで、気軽に話そうじゃないか!?(笑)」
ジュンのアドバイスに動じないジョーが笑顔で言う。

「私は、そういう事は気にするのッ!」(ジュン)

「分かった分かった…。先に芸能界に居る方が先輩なんだな…?」
ジョーがヘラヘラと笑いながら、ジュンをなだめて言う。

「そうよッ!」(ジュン)

「だったら、俺の方が先輩だ…(笑)」(ジョー)

「はぁッ!?」(ジュン)

「俺は14歳の時に、2年A組ドン八先生に出てた…」
「子供の頃に劇団に入ってて、それでドン八先生で子役デビューを14歳でした」

「君は18歳でデビューしたけど、俺の方が先にデビューしてる(笑)」
「だから、俺の方が先輩だから、これからはジュンと呼ばせてもらうよ…(笑)」(ジョー)

「はあい!?」
ジュンが驚く。

「そういうコトだ…。ヨロシクな!、ジュン!」
笑顔のジョーが、ジュンに再び握手を求める。

(まったくッ!、なんてやつなのッ!)
無言でジョーを睨むジュンは、そう思うと、プイっと踵を返してロビーをスタスタと歩き出す。

「あれ!?、おお~い!ジュン!、怒ったのかぁ~!?(笑)」
「だって君が言ったんだろぉ~?、先にデビューした方が先輩だって!」

困ったジョーは、去って行くジュンの背中にそう言うが、ジュンは無言で行ってしまった。

これがジュンとジョーのファーストコンタクトである。
ジョーの第一印象は、ジュンにとって最悪なものであったのだ。


 1992年 4月

ジュンが所属する音楽事務所、“アカシック・レコード”に、高校卒業したての女性が入社して来た。



女性の名は、藤田のぞみ 18歳
ショートカットが似合う、目のくりくりした、まだあどけなさの残る小柄な女性であった。

のぞみは、中学2年生の時にジュンの大フアンになったのをきっかけに、高校を卒業すると同時にジュンの所属する芸能事務所に就職したのである。

同年 6月
アカシックレコード本社

「ジュン!、ちょっと…」
マネージャーの時田が、ジュンの事を手で招いて言う。

「はい…」
フアンに充てるサイン色紙を大量に書いていたジュンは手を止めて立ち上がると、時田の方へと歩いて行った。

時田のところに行くと、隣には新入社員の藤田のぞみが座っていた。
のぞみは、もじもじしながらかしこまっている。



「座って…」
時田がそう言うと、ジュンは「はい」と言って、円卓の席に着いた。

「あのねジュン…、実はあなたのマネージャーを今後は、のぞみに任せようと思ってるの…」
時田がジュンにそう言う。
隣に座るのぞみは、下を向いて黙っていた。

「この子は、3月に免許取ってて車も運転できるんだって…」
「私、最近、宝田社長の業務も手伝ったりして、いっぱいいっぱいになっちゃってね…」

「今のあなたなら、もう十分やっていけるでしょ?」
「どう?、良いわよね…?」

時田がそう言うと、ジュンは、「はい…、私の方は構いません…」と、静かな口調で言った。

時田が、「ジュンは、もう十分やっていける」と言ったものの、実際この頃のジュンは、デビュー当時の絶頂期は過ぎ去り、安定期に入っていた。

最近メディアで話題になる女性歌手も、ジュンより後にデビューした、彼女よりももっと若い世代の歌手たちに移り行く気配をジュンは感じていたのであった。

するとのぞみが元気のない声で、ジュンに突然謝るのだった。

「すみません…」

「どうしたの?、何であなたが謝るの?」
ジュンが聞く。

「だって、ジュンさんみたいな大物芸能人に、私みたいな素人がマネージャーに付くなんて…」
のぞみが申し訳なさそうに言う。

「何言ってるの!?、そんな事ないわ!、それにこれは社の方針なんだから、あなたが気にする事なんてないの!」(ジュン)

「でも…」(のぞみ)

「のぞみ、聞いて頂戴…。これはチャンスなのよ!」
今度は時田が、のぞみに言う。

「チャンス…?」(のぞみ)

「そう!、あなたが、この業界で成長するチャンスなの!」
「それに、誰でも良いからって、お願いしたんじゃないわ。あなたを信頼してお願いしてるの!」(時田)

「私を…?」(のぞみ)

「そう!、私があなたの実力と熱意を認めたって事よ!、だから遠慮せず、胸を張って堂々とジュンのマネージャーをやって頂戴!」(時田)

「私からもお願いするわ!、あなたなら絶対大丈夫よ!」(ジュン)

「私で本当に良いんですか…?」(のぞみ)

「ジュンを頼んだわよ、のぞみ!」
時田がそう言うと、のぞみは笑顔で元気に、「はいッ!」と、力強く応えるのだった。

こうして、のぞみはジュンの新しいマネージャーになる事となった。


同年 7月

ジュンは、ゴールデンの生放送バラエティ番組にゲスト出演していた。
そして、奇しくも、その番組の同じゲストには、あの忌まわしき、“アゾシリン”のボーカル、ジョーも出演していたのであった。

放送が終わり、スタジオを後にするジュンは、のぞみと2人でロビーを歩いていた。
その時、またしても彼女の後ろから、ジョーが駆け寄って来るのであった。

「お~い!、ジュン!、待てよぉ~!」

そう言いながらジュンに走り寄るジョーは、この頃には彼のバンド、“アゾシリン”も低迷していた。
彼は、キリタニ・ジョーという芸名で、歌う事よりもドラマを中心とした俳優業が中心になっていた。

「のぞみッ!、ヘンなやつが来たわ!、良いわね?、無視よ!、無視!」
ジュンが隣を歩く、のぞみに小声で言った。

「おい、ジュン、待ってくれよぉ!、今夜どうだ?、一緒にメシでも食いに行かないか?」
ジュンの元に着いたジョーが、彼女を食事に誘う。

あまりにも、ぶしつけがましいジョーの態度にジュンがキレた!
※正確には、「不躾(ぶしつけ)出がましい」が、正しい日本語です(笑)

「あなた!、頭おかしいンじゃないッ!?、一体、何度断れば分かるのよッ!」
ジョーに振り返って言うジュン。

「へへ…、俺はそう言って来たオンナを、全部モノにしてきたぜ…(笑)」
ジョーがヘラヘラと笑いながら言う。

「あっそ!、私は、そうは行きませんからぁ!」(ジュン)

「なぁジュン…、俺たちって、気が合わないか…?(笑)」(ジョー)

「どこがよッ!?、誰があんたみたいなチャラいやつと!」(ジュン)

「チャラい?」(ジョー)

「そうよ!、芸能界きっての、プレイボーイらしいじゃない!?(苦笑)」
「週刊新調、見たわよ!、女優のFさんや、Hさんをもてあそんだあげく、捨てたそうじゃない!?」(ジュン)



「またそれか…、あんなのは嘘っぱちだ…」
ジョーがヤレヤレと、困り顔で言う。

「連日、ワイドショーでも言われてるわよ、アナタ!」(ジュン)

「それも嘘だ…。ジュン…、君もそのうち分かると思うが、メディアってのは、嘘を掻き立てて儲けるのが仕事なんだ…」(ジョー)

「じゃあ、FさんやHさんとは、まったくデマで一切関係が無いっていうの?」(ジュン)

「付き合ったよ2人とも…」(ジョー)

「ほら、やっぱりそうじゃない!」(ジュン)

「だけど2人と付き合ったのは、被ってない…。あれは、モテないやつらが、俺をひがんで陥れようとしてる嘘だ…」(ジョー)

「どうかしら…?、だって付き合って、すぐに捨てたんでしょ…?」
嫌味な笑顔でジュンが言う。

「そんなの誰だってあるじゃないか!?」(ジョー)

「え!?」(ジュン)

「君は無いのか?、普通にお付き合いして、やっぱこのコとは合わないなぁ~って、思って、短い交際期間で別れたりする事が!?」
「そんな当たり前に起こり得る事をマスコミは、まるで俺が女をもてあそんで捨てたみたいに、スキャンダルにして搔き立てる!、一般人だったら何も問題ないのに…ッ!」

「じゃあ何か?、俺たち芸能人は恋しちゃイケないのか!?、結婚しちゃイケないのかぁ!?」
「俺ら芸能人だって人間だ!、恋したり、失恋だってする権利はあるだろぉ!?」

ジョーがそう熱弁すると、隣で聞いていたマネージャーの、のぞみが、「的は得てますねぇ…」と、神妙な顔つきでジュンに言う。

「ジョー…、聞いて…」
のぞみの言葉をスルーしてジュンが言う。

「あん…?」
何だぁ?と言う感じのジョー。

「あなたに1つ教えてあげるわ…」(ジュン)

「またかよ…(苦笑)、前もそんな事、言ってたなぁ…」(ジョー)

「いいから聞いて…」(ジュン)

「はいはい…(苦笑)」(ジョー)

「私ね…、芸能人とだけは、一緒にならないって決めてるのッ!」
「特に、ミュージシャンとはね…(苦笑)」←正確に言うと、お笑い芸人もです(笑)

ジュンはそう言うと、ジョーを見つめながら、ひひひ…と笑う。
それを聞いたジョーは、ポカァ~ンとした表情で固まった。

「さ!、のぞみ!、行くよッ!」
ジュンは、のぞみにそう言うと、ロビーに立ち尽くすジョーを置いてスタスタと歩き出すのであった。


 その夜、ジュンは久々に、高校時代の軽音部からの先輩である、カズに電話をするのであった。
ジュンもこの頃には、社長宅の居候から開放され、一人暮らしを許される様になっていた。

※未成年の18歳でデビューしたジュンは、最初は社長宅でその家族たちと一緒に生活し、悪い虫が付かない様、しっかりと監視されていたのである。

 8月には23歳を迎えるジュンの住まいは、品川区の中原街道沿いにある高層マンションである。

そのマンションには、芸能活動をしている人間が、割と入っていた様で、当時、ジュンと同じ階層には、ダンス甲子園で一躍ブレイクした、“L.L.ビィーンズ”なども住んでいた。
近くには、毒蝮三太夫のラジオでお馴染みの、武蔵小山商店街もあった。



「え~ッ!、何ッ!?、カズ、結婚すんのぉ~ッ!?」
自宅のコードレスホンを手にしたジュンが、そう言って驚いた。

「仕事も順調に入って来る様になったからな…」(カズ)

カズは大学卒業後、半年で就職したCセメントを退職し、スタジオミュージシャンになった。
あれから3年、ジュンとは対照的に、カズは売れっ子ギタリストとして音楽業界で活躍していたのであった。

「ヨリコさんと…?」(ジュン)

「ああ…」(カズ)

ヨリコとは、カズが高校1年の時から付き合っているカノジョである。

高1の5月、外タレのロックコンサートを同級生たちと観に行った時に、偶然、同い年の女性グループが列の前に並んでいた。

その中にヨリコがおり、カズが話し掛けると意気投合。
以来、2人はずっと交際を続けていた。

「ふぅ~ん…、まだ24歳なのに、結婚なんてスゴイね♪」(ジュン)
※カズの誕生日は11月なので、この時点では24歳となる。

「まあな…(笑)」(カズ)

「カズは女好きで浮気性だから、そんなに早く結婚するなんて夢にも思わなかったよ…(笑)」(ジュン)

「何言ってんだよ!?、俺は、いつだってヨリコ一筋だったじゃねぇか!」(カズ)

「よく言うわよ…(笑)、青学の軽音の、野間さんや高田さんや、藤枝さんの事、隙あらばどうにかしようと、してたじゃないの…ッ!?(苦笑)」(ジュン)

「ヒィィィーーーーーッ!、バカッ!、ヤメロッ!、ヨリコがこの小説読んでたらどうすんだぁッ!?」(カズ)

「読まないでしょう?(笑)」(ジュン)

「そうでもないんだッ!、たまに、このブログを見てるって以前、言ってた事があるッ!」(カズ)

「そうなんだぁ?、それは大変ね…(笑)」(ジュン)

「この前、結婚した娘だって見るかもしんねぇんだから、気をつけてくれよッ!」(カズ)

「娘…?、子供はまだ生まれてないでしょ?」(ジュン)

「あ~~~ッ!、もおッ!、この小説では生まれてないけど、現実の2022年には、結婚して、家庭を持ってるんだよぉッ!」(カズ)

「2022年…?、カズ、あなた何言ってるの…?」
ジュンは、可笑しなことを言い出すカズにそう言うのであった。

「あ!、それでな…。式を挙げる予定は、今んとこ無いからさ…」
受話器越しのカズがジュンへ唐突に言う。

「え?、何でぇ~!?」(ジュン)

「色々と諸事情があってな…。まぁ籍は、来年の春までには入れるけど…」(カズ)

「そうなんだぁ…?、私、行こうと思ってたのに…」(ジュン)

「ばか!、お前なんか来たら大変な騒ぎになって、式がメチャクチャになっちまうよぉッ!」
「まぁ、もし式を挙げる時が来たら、ビデオメッセージでもやってくれよ」(カズ)

「うん…、分かったぁ…」
カズの言葉に、ジュンはガッカリして言う。


「じゃあな!、俺、もう寝るからぁ!」
それからしばらく続いた雑談の後、カズがそう言った。

「うん…、またね…」
ジュンはそう言うと、コードレスホンのスイッチを切った。

「ふぅ…。そっかぁ…、もう私たちも、そういう事を考える齢なのね…」
ため息をついたジュンが、そう独り事を呟くのであった。


 翌日
TV収録が済んだ帰り道の車内。
ジュンは、運転するのぞみに突然話し掛ける。

「ねぇ、のぞみ。来週さ、海行かない?」(ジュン)

「海?」(のぞみ)

「夏だからさ…、海へドライブに行こうよ♪」
「ちょうど火水が、オフだから…(笑)」(ジュン)

「良いですね~♪、行きましょう!(笑)」
「あ!、でも私、免許あるけど車が無い!」(のぞみ)

「じゃあレンタカー借りて行きましょう!、私ン家の近くにレンタカー会社があるから…」
「朝早くに出発するから、あなた前日は私の家に泊まりなさいよ」(ジュン)

「良いんですか!?」(笑顔の、のぞみ)

「勿論よ♪、私がその夜、手料理を披露するわ♪」(ジュン)

「わ~い♪、ところでどこの海に行くんですかぁ?」(のぞみ)



「そうね…、日帰りだから湘南の…、茅ヶ崎なんてどう?」(ジュン)

「江ノ島じゃなくて、茅ヶ崎ですか?」(のぞみ)

「そう!、サザンの茅ヶ崎!」(ジュン)

※サザンオールスターズの歌に出て来る、あの「茅ヶ崎」だよ!という意味でジュンは言っている。
当時はまだ「茅ヶ崎海岸」と呼ばれており、「サザンビーチちがさき」の名称は、1999年になってから。



※ちなみに有名な「C」のモニュメントは、2002年3月に設置されたので、この時点ではまだ存在しない。

「どうして茅ヶ崎に…?」(のぞみ)

「私ね…。デビュー前にバンド仲間と海に行く約束をしてたの…。それが茅ヶ崎だった」
「でも私のデビューが急遽決まって、行けなくなっちゃったから…」

「水着まで買って準備してたのに…。ホント残念だったわ…。以来、仕事で忙しくて1度も海に行けてなかったんだ…」(ジュン)

「そうなんだぁ…?、ふふ…、やり残した事があるというワケですね?(笑)」(のぞみ)

「うん…(笑)」(ジュン)

「じゃあ、その水着着るんですかぁ?」(のぞみ)

「まさかぁ~ッ!?、水着着て海岸なんかに出たら大変なコトになるわよッ!」
「海に行くって言っても、お忍びよ!、サングラス掛けて、帽子かぶって、遠くからひっそりと海を眺めるだけ…」(ジュン)

「それだけで満足なんですかぁ?」(のぞみ)

「満足じゃないけど…、それが芸能人の悲しい定めなのよ…(苦笑)」
「大事なのは、海に来ているという実感なのよ!」

「上手く行ったら、車から出られて、どっかでトロピカルジュースでも飲みたいわね(笑)」(ジュン)

「私、茅ヶ崎への道分かるかなぁ…?、海なんて、電車でしか行った事ないし…」
「そうだ!、ジュンさんナビゲートお願いしますッ!」(のぞみ)

※当時は、カーナビがまだ普及していない時代であった。

「うぇッ!?、ナビゲート~!?」
ジュンが一瞬たじろぐ。



「どうしたんですか…?」
ハンドルを握るのぞみが、正面を向きながらジュンに聞く。

「私、車の中で地図を見ると酔っちゃって…」(ジュン)

「でも、それじゃたどり着けませんよぉ…」(のぞみ)

「分かったわッ!、コンビニで、ゼンリン(地図)と、アタリメと、プリッツのサラダ味買って、ナビゲートするッ!」
覚悟を決めたジュンが元気よく言った。

「アタリメ…?、プリッツ…?」
ゼンリンは分かるが、後の珍味の意味が分からない、のぞみが聞いた。

「あ!、それを食べながらだと、車に酔わないの…(笑)」(ジュン)

「そうなんですかぁ~…?」(のぞみ)

「ほんと!、ほんと!、学生時代に江ノ島まで車で行った事があって、そんときナビさせられたの(笑)」
「案の定、途中で気持ち悪くなっちゃったんだけど、車を運転する彼が、アタリメとプリッツサラダ味を準備してて…」

「これを食べれば大丈夫だって言うから、食べたらホントに気持ち悪いのが治ったの!」(ジュン)

「カレシと行ったんですかぁ?」(のぞみ)

「あ!、彼って言ったけど、カレシじゃなくて、バンドのメンバー…」
「免許取り立てで、運転に自信が無いって言うもんだから、私が運転の練習に付き合ってあげたのよ(笑)」(ジュン) ←お前、よく言うよ…(苦笑)

「その人、アタリメとかをドライブ行くのに準備してたんですかぁ?」(のぞみ)

「そう!(笑)」(ジュン)

「ヘンな人ぉ~!、ふふふ…(笑)」(のぞみ)

「そうね?、確かにヘンよねぇ~?(笑)、ふふふ…」
「のぞみの言う通り、その人ってヘンだわ…。ちょっと変わってるわ…、ははは…(笑)」(ジュン)

「ははは…」
釣られてのぞみも笑い出す。

こうして2人は、来週の平日に海へドライブへ行く事となるのであった。


 そして週が明けた、次の火曜の朝。
ジュンと、のぞみはレンタカーを借りて茅ヶ崎へと出発した。

AM7:45
ニッサンのマーチを運転するのぞみに、ジュンがゼンリンの地図を手に言う。

「のぞみ、国道1号に出れば、後はそのまま“小田原・横浜方面”の標識に従って進めば、茅ヶ崎に着くみたいよ」(ジュン)

「分かりました」(のぞみ)

「そこ左へ曲がって、そうしたら1号にぶつかるから、右折して」
中原街道を走り出したばかりの、のぞみにジュンが指示を出す。

そして片側3車線の道路に出たマーチ。
2人の乗ったマーチは、そのまま国道1号線を直進するのであった。


「いい天気ねぇ~♪、晴れて良かったぁ!(笑)」
しばらくすると、サングラスをしてるジュンが、運転するのぞみに言う。

「今日は暑くなるそうですよ…。日中は35度にもなるそうです」
ハンドルを握るのぞみが、正面を向きながらジュンに言う。

「35度ぉ~!?」(ジュン)

「人が多そうですね?」(のぞみ)

「大丈夫よ!平日だし…。それにまだ海開きしてないんだから…」
ジュンは、フロントガラス越しから見える青空を見つめながら、のぞみにそう言った。

それから1時間後、2人の乗ったマーチは藤沢バイパスを通過していた。
カーステからは、ZOOのゴージャスがFMから流れている。

「思ったよりも早く着けそうね…?」
ゼンリンを手にしたジュンが言う。

「そうですね…。1時間半も掛からないで着けちゃいますね…」(のぞみ)

「ラッキー♪、9時頃に到着すれば、海岸にはまだ人が居ないから、車から出られるかも♪」(ジュン)

「では…、このまま、渋滞しない事を願いつつ、向かいます!(笑)」
のぞみが、そうおどけて言うと、彼女が運転するマーチは、左へ迂回して茅ヶ崎方面に向かった。

「ねぇ、のぞみ…。私の学生時代のバンドの先輩で、スタジオミュージシャンやってる人がいるって言った事あるじゃない?」
するとジュンが突然、カズの話をし出すのであった。



「ギターの、2コ上の人でしたっけ?」(のぞみ)

「そう!、デーブ・スペクターよ!」(ニヤリとして言うジュン)

「デーブ・スペクタぁ~?」(のぞみ)



「似てるのよ!…、顔とギャグセンスが…」(ニヤリとして言うジュン)

「ははは…!」(笑い出すのぞみ)

「まぁ、そんな事はいいわ…。それでね…!、その人が、今度結婚するんだって!」(ジュン)

「へぇ~!、ジュンさんの2コ上の先輩なら、25歳って事ですよねぇ~?」(のぞみ)

「まだ誕生日来てないから24だけど、来年の春までには籍入れるって言ってたから、25歳の段階では結婚はしてるわね」(ジュン)

「早いですね~?、男性で25歳で結婚なんて…」(のぞみ)

「やっぱそうよね?、私、来月で23になるけど、まだまだ全然そんな事、考えてもないよ!」(ジュン)

「私は…、19歳だけど…、早く結婚しても良いかなって思ってます…」(のぞみ)

「え!?、何?、のぞみ、アナタそんな関係の恋人いるのぉッ!?」(ジュン)

「いませんよぉぉ…」(含み笑いするのぞみ)

「ああ…、驚いたぁ…」(ジュン)

「でも…」(のぞみ)

「でも…?」(ジュン)

「私なんて、果たして結婚できるのかぁ~て、たまに悩みますよ…」(ジュン)

「何で?」(ジュン)

「自分の性格の事や、料理とかも得意じゃないし…」(のぞみ)

「あなた性格良いと思うけどなぁ…?、それに料理なんて独り暮らししたり、結婚したり、そういう状況になったら、何とか出来る様になっちゃうもんよ♪」(ジュン)

「そうなんですかぁ~?」(のぞみ)

「そうよ!、私だって、社長宅から刑期を終えて、それから料理が出来る様になったんだから…」(ジュン)

「刑期って…(笑)」
ジュンの話に笑う、のぞみ。

「のぞみ…。私思うの。この世の中に、結婚が出来ない人なんて一人も居ないんじゃないかってね…」(ジュン)

「そんな事、無いですよ~!、やっぱ性格悪かったりしたら出来ませんよぉ…(苦笑)」(のぞみ)

「違うわ!、性格悪くても、ブサイクでも、太ってても、ハゲてても、ビンボーでも、結婚してる人は大勢いるわよ!(笑)」
「要は、本人に結婚する気があるか、ないかの問題なのよ…!」(ジュン)

「本人の問題?」(のぞみ)

「そう、本人の問題…。何て言えば分かるかなぁ~?」

「ほら、仕事が無いとか言って、ちっとも就職しない人っているじゃない?」
「でも周りから見れば、その人の働ける仕事はいっぱいあるのに、何でそんな事言ってんだろう?って思うワケよ」

ジュンの説明に、のぞみは「ふむふむ…」という感じで頷きながら運転する。

「つまり本人には、その仕事がタイプじゃないのよ!、選り好みしてるのよ。だから無職なの」

「結婚しない人も同じ。自分の希望する相手が見つかるまで状況を見守ってるの」
「だから美人で独身の人も、いるのよ!、独身の美人は、性格が悪いから独身というワケじゃないのよ!(笑)」(ジュン)

「男を値踏みする美人の独身は、やっぱ性格悪い様な気はしますけど…(苦笑)」(のぞみ)

「まぁ、それはそうね!(笑)、ふふふ…」(ジュン)

「ははは…」
釣られて笑う、のぞみ。


「あ!、のぞみッ!、そこ、左折してッ!」
話に夢中になっているのぞみに、ジュンがナビゲートを慌ててする。

「はいッ!」
のぞみの運転するマーチは、松林小学校交差点を左折し、ラチエン通りへと入った。



「ここを真っ直ぐ行って、突き当たれば134号に出るわ。そうしたらT字路で右折して」
ジュンがラチエン通りを走行するのぞみへ、菱沼海岸の交差点に出たら右折する様にと指示を出した。

「もうすぐですか?」(ジュン)

「もうすぐよ!、134号に出て、ゴッデスを越えたらセブンが左側にあるから、そこを左折すれば海岸よ」
※セブンイレブンは、当時、今とは逆の対面側にあった。

「ゴッデス…?」
のぞみが聞く。

「ユーミンの曲の中に出て来る、サーフショップよ」
「日本にサーフィンが入って来た頃からやってる、お店らしいわよ」(ジュン)
※ちなみにその曲は、「天気雨」
天気雨

「あ!、ジュンさん!、あれは…ッ!?」
菱沼海岸交差点が近づいた頃、運転するのぞみがジュンに言った。



のぞみが、そう言った先には防砂林の間から顔を出す、大きな岩山であった。

「えぼし岩…?」
ジュンが、その岩山を見つめながら言う。

「そんなワケありませんよぉ!、烏帽子岩は、茅ヶ崎の海岸から眺めたって、小さく見えるのに…、あんなに大きくありませんよ」
運転するのぞみが、ジュンにそう言う。



「そうよね…?、烏帽子岩が、あんなに大きいワケないものね…」
のぞみの言葉に納得したジュンが言う。

※解説をしよう。
実は2人が見たものは、紛れもない烏帽子岩なのであった。
ラチエン通りから、菱沼海岸交差点間近で眺める烏帽子岩は、植樹された周りの防砂林とのコントラストの影響で、大きく見えるのである。

「あれッ!?、水溜りがある!?」
運転するのぞみが、前方に見えた水溜りの事をジュンに言った。



「ふふ…、のぞみ…。違うの、あれは、“逃げ水”よ」(ジュン)

「逃げ水…?」(のぞみが聞く)

「蜃気楼の一種…。今日みたいに気温が高くて、地面が熱しられると、その温かい空気の層と、その真上の冷たい空気の層との間で、ああいう水溜りみたいな蜃気楼が発生するのよ(笑)」
ジュンが笑顔で、のぞみに説明をする。

「あれは、蜃気楼なんですかぁ!?」(のぞみ)

「ええ…、“逃げ水”は、蜃気楼よ」
「どんなに近づいて行っても、あの水溜まりは、決してたどり着けず、いつまでも自分より先に存在し続けるの…。それが、“逃げ水”と呼ばれる所以よ」(ジュン)

「どんなに近づいても、決してたどり着けない…?」(のぞみ)

「そう…。そして、“逃げ水”は、まさに今の私の心境ね…」(ジュン)

「それって、どおいう意味ですかぁ?」
“逃げ水”は、自分の心境だと言ったジュンに、のぞみは聞いた。

「私はプロの世界に入る時に、ある決心をしたの…」
「それは、自分が書いた曲で歌う…、いわゆる、シンガーソングライターになるっていう事なんだけどね…」(ジュン)

「へぇ…、シンガーソングライター…?」
のぞみがそう言うと、ジュンは、「そこ右折よ!」と、指示を出す。

マーチはウィンカーを点滅されながら、国道134号線へと入った。
そしてジュンは、話の続きを語り出す。

「でも現実では事務所の方針で、私はアイドル歌手としてデビューしてしまった」
「だから私は考えた…。アイドルで成功すれば、多少は好きな事をさせて貰えるんじゃないかってね…」(ジュン)

「実績を築けば、作詞作曲もやらせて貰えるんじゃないかと…?」(のぞみ)

「そう…。でも、アイドルで成功すればする程、増々事務所はアイドル路線で、私を売り込んで行く…」
「そして人気に陰りが見え始めると、今度は『そんなバクチは打てない!』と、過去に成功したアイドル路線に固執し出すという始末…(苦笑)」

「私が目標を目指して頑張っても、その目標は、いつも私から離れて行っていまう…」
「そんなとこが、自分の人生と、“逃げ水”が、リンクしてるって言ったの…」(ジュン)

「そうだったんですかぁ?」
ジュンの話を聞いたのぞみが、言う。

「私は、彼と約束したの…、シンガーソングライターでやって行くって…」
「だから彼は、私を快く送り出してくれたのよ…。私のやりたい道なら、止めないってね…」(ジュン)

「カレ…?」(のぞみ)

「さっき言ってた、“アタリメ”よ!(苦笑)」(ジュン)

「ああ…、ドライブに行った、“アタリメ”ですかぁ…?」(のぞみ)

「ふふ…、のぞみ…。アナタそれ、あの人に失礼よ…(苦笑)」(ジュン)

「何ですかぁ~!、ジュンさんが言ったから、そう言ったんじゃないですかぁ~!」(のぞみ)

「ふふ…、そうよね?…、ゴメンゴメン…(笑)」
のぞみの言葉に、ジュンはそう言って笑う。

防砂林に囲まれたR134号線。
のぞみが運転するマーチが疾走する。

「のぞみ、そろそろ着くよ!」
ジュンがそう言うと、マーチが防砂林を抜け出した。

左側に茅ヶ崎の海岸が現れる。
そして右側には、サーフショップのゴッデス。
しかし2人は海に気を取られていて、ゴッデスには気づかない。

「あ!、海だぁッ!」
ハンドルを握るのぞみが、声を弾ませて言う。

「そこ!、あのセブンのとこ、左折よ!」
ジュンが海岸への道を、のぞみに伝える。

そしてウィンカーを点滅させたマーチが、左へ曲がった。
真っ直ぐ海岸を目指す車。
134号を折れてから茅ヶ崎海岸は目と鼻の先である。



「あれ?、海開きしてますよぉ!?」
砂浜の駐車場へ誘導する係員と、海の家が営業しているのを見た、のぞみが言う。

「そっかぁ…。海開きって、海の日じゃないんだぁ?」
その光景を見つめてジュンが言った。

「取り合えず砂浜の駐車場へ入りますね!、変装してるから大丈夫でしょう…」
バケットハットを深くかぶり、サングラスをしているジュンに、のぞみが言う。


 それから、係員が指定した場所へ車を停めるのぞみ。
こうして2人は、茅ヶ崎海岸へ着いた。

時刻は9時5分。
車を停めた正面の海の家から、団扇を持ったスタッフが手招きしながら、ジュンたちを呼び込んでいる。

「まだ人が海岸にいないみたいですね?」
ジュンの方を向いて、のぞみが言う。

「そうね♪、ちょっと海岸に出ちゃいましょうか!?」
声を躍らせてジュンが言った。



ザザーーーー……、ザッパァ~~ン!……、ザザーーーーー……。

焼けるような強い陽射しに青い空。
海岸に出た2人は、繰り返しうねり続く波を見つめている。

「気持ち良いねぇ~?」
海風に飛ばされない様、バケットハットを片手で押さえるジュンが、笑顔で言った。

「ねぇジュンさん…」
のぞみが、正面の海を見つめながらボソッと言った。

「ん?」
笑みを浮かべながら、ジュンはのぞみの方を向く。

「やりましょうよ…、シンガーソングライター…」(のぞみ)

「え?」
のぞみの言葉に、きょとんとするジュン。

「やってみたいんでしょ?、自分の作った曲で…。良い機会じゃないですか…?」
正面を見つめながら、のぞみが淡々と言う。

「のぞみ…」
どうしたのよ?という感じで、ジュンが言う。

「ジュンさんは、デビューからずっと同じスタイルでやって来た…」
「でも、時はいつだって流れてる…。だから、ジュンさんも新しい事に、どんどんチャレンジしてみなきゃダメ…」

そう言ったのぞみの話を、ジュンは黙って聞いている。

「ラテンぽい曲なんかジュンさんが歌ったら、面白そうですよね…?、サルサとか…」
「私、社長に進言してみます…。まずは次のアルバムの中に1曲…。ジュンさんの作った曲を入れて貰える様に…」(のぞみ)

「社長…、オッケーするかなぁ…?」(ジュン)

「やるんです!、そうしないと、世間から、どんどん忘れ去られて行ってしまいます!」
「私もマネージャーとして、バンバン仕事を取って来ますから、ジュンさんも頑張って下さい!」(のぞみ)



「なんであなたは、そこまで言ってくれるの?」(ジュン)

「だって…、私の青春時代は、いつも櫻井ジュンの歌が傍にあったんですもの…」
「櫻井ジュンの歌に、救われて…、励まされたりして…」
「それに私だって聴きたいもん♪、櫻井ジュンの作る曲を…(笑)」(のぞみ)

「ふふ…、ありがとう、のぞみ…」
「あなたいいコね…。私、あなたとなら、きっと上手くやって行ける気がするわ…」
ジュンはそう言うと、両手でのぞみの手を掴むのであった。

「やりましょう!」
手を握られたのぞみが笑みを浮かべ、ジュンを見つめて言う。

「ええ…」
その言葉にジュンも笑顔で頷いた。

2人が立つ、茅ヶ崎の砂浜では、相変わらず繰り返される波音が…。
そして強い陽射しの太陽が、真上から2人を照らし続けるのであった。

To be continued….