※前回の続き、流血表現あり

 
 
203年25日【冬】
 
ネイディーンside
 
 
ジェネに無理やり連れて行かれたあと、掴まれた腕が痛くて引き止める。
 
 
ネイディーン
「ジェネ!離して、腕痛いよ…」



ジェネ
「…ごめん」
 
 
自分が思ったより力を込めていた事に気づいたのかハッとして腕を離す。
2人の空間に気まづい空気が流れる。
せっかくプロポーズしてくれてこの後も一緒に過ごせたらって思ってたけど…仕方ない。
 
 
ネイディーン
「…一旦私の家行こっか」
 
ジェネ
「…うん」
 
 
そうしてお互い無言のまま家へと向かっていった。
久しぶりの再会だけど喜んでる暇すらない、きっとジェネは私に対して物凄く怒ってると思うから。
何も言わないで家から飛び出したこと。
 
 
ネイディーン
「何も無いけど…くつろいで」
 
 
ジェネを家の中に入れるとお茶を注ぐ隙もなく、攻め寄ってくる。
見ないうちに前よりもやせ細っていて顔色も悪い。
 
 
ジェネ
「姉貴、もう気がすんだだろ。家に帰ろう」
 
ネイディーン
「帰る?私の家はここよ、帰らない。それに、私結婚するの」
 
ジェネ
「さっきのあの男か?いい加減目覚ませよ…!どうせまた傷つくだけだろ…!」
 
ネイディーン
「あの人はそんな人じゃない!何も知らないのに悪く言わないでよ!」
 
ジェネ
「なぁ、心配なんだよ。俺の側にいてよ…」
 
 
ジェネは壊れそうな宝物を扱うように優しく私を抱き締め、傷跡のある横腹を撫でる。
私の可愛い弟、昔はこんなんじゃなかった。
私の後ろを必死に着いてくるような、そんな子だったけどある1件から私に対して異常なぐらい過保護で心配性になった。
 
元の国に居た時も私から一切離れなくなり、行動を制限され姉弟の距離感を通り越してた。
 
 
ジェネ
「俺がそばにいないと…」
 
 
自分に言い聞かせるように呟くジェネの背中を優しく撫でる。
これじゃダメだと思ってジェネの為にも離れたのに、今更戻るわけにはいかない。
 
 
ネイディーン
「…今日はもう休んだ方が良いよ、顔色が悪いもの」
 
ジェネ
「…俺が寝てる間に逃げようって思ってるんだろ」
 
ネイディーン
「思ってないよ、そもそもここ私の家なのにどこに逃げるの?」
 
ジェネ
「あの男の家」
 
ネイディーン
「そんな迷惑かけられないよ、暫く良く眠れてないんでしょ?眠るまでそばに居るから」
 
ジェネ
「…絶対だからな」
 
 
ジェネをベッドに寝かせると、結構我慢していたのかすぐに眠りについた。
あどけない寝顔は幼い頃にそっくりで、頬をつついてみる。
 
 
ジェネ
「…、…行かないで…姉ちゃ…」
 
 
寝言で悲しそうに眉を顰めるから、眉間を解してやると表情を変える。
 
 
ネイディーン
「…どこにも行かないよ」
 
 
そっと手を握り私も目を瞑る、ジェネに釣られて眠気が襲ってきたのか瞬く間に眠りへとついた。
 
 
 
 
❊❊【回想】❊❊
 
あの日は木々の葉が色を変え少し肌寒い秋の季節だった。
 
 
ジェネ
『姉ちゃん!どこ行くの?』
 
ネイディーン
『探索しに行くの!𓏸𓏸君が取ってきて欲しいものがあるって言うから』
 
ジェネ
『危ないよぉ、ボクも行く!姉ちゃん守る!』
 
ネイディーン
『ジェネは銃の扱いが上手だもんね、頼もしいな』
 
 
歯を見せて嬉しそうに笑うジェネを連れてあの日は探索に出かけた。
だけどそれが間違いだった、手に入れたいものが取れるダンジョンは普段より少し難易度の高い所だった。
 
だからジェネは油断して魔物に襲いかかられ間一髪で倒せたけど、それを遠くから見ていた私もそっちに気が取られて後ろにいた魔物に気づけなかった。
 
 
ジェネ
『姉ちゃん!』
 
 
焦った声色でジェネが銃を構え発砲したけど、焦りから手元が狂いその弾丸は私の腹部を貫通し魔物に当たった。
一瞬何が起こったのか分からなかったけど、今まで感じた事ない痛みが腹部からするのだけは分かった。
ジェネが慌てて近づいてきて声をかけてくる。
 
 
ジェネ
『ま、まって…う、どうしよう血が止まらない…』
 
 
必死に私の腹部を抑えて止血しようとするけど、どくどくと体が血が抜けていく感覚がする。
重たい腕を上げてジェネの頬を触る、大きな涙がぽたぽたと落ちてくる。
 
 
ネイディーン
『だい、じょうぶ。私のバッグに…』
 
 
そう言った所で急に体に力が入らなくなり腕が重力に従って地面に落ちた。

 

 

視界も段々とぼやけてきて声が遠なっていく。

私、ここで死ぬのかなぁ…。

ジェネにこんな姿見せたくなかったな…なんて思っていると体の痛みが無くなり意識を手放した。

 

 

 

ジェネ

『だめ、だめだよ…』

 

 

目の前で反応が無くなったのを見てパニックに陥りそうだったけど、ネイディーンが言った言葉を思い出しバックを漁る。

 
中に回復薬が入っていてテンパりながらも回復薬を飲ませる。
早く家に運ばないとと思って、血に汚れるとか一切考えずにネイディーンの腕を回し連れて行く。
 
ダンジョンを抜け出した所に大人の人が発見し、家まで連れていくのを手伝ってくれた。
その後は色んな手を尽くして命を繋いでくれていた。
 
ジェネはベッドで死んだように眠っているネイディーンの傍から離れようとしなかった。
こうなったのは自分のせいだと、泣きながら責めて。
何日かして目を覚ました時、ネイディーンの視界に飛び込んできたのは目元を赤く腫らしたジェネの姿だった。
 
 
ジェネ
『姉ちゃん!良かった…目覚めた…』
 
 
ぼろぼろと安心したのか私の手を強く握って額にくっつけている。
その手は暖かくて生きてることを実感させられた。
 
 
ジェネ
『このまま目覚めなかったらって、怖かった…』
 
ネイディーン
『起きるまでそばにいてくれたの?』
 
 
久しぶりに声を発したからか上手く声が出せずガラガラに掠れる。
 
 
ジェネ
『うん』
 
ネイディーン
『そっか、そばに居てくれてありがとう』
 
ジェネ
『ボクのせいでごめん、お腹傷跡残っちゃった』
 
 
そう言われて自分が撃たれたことを思い出した、包帯が巻かれていて色々迷惑かけた事を表していた。
 
 
ネイディーン
『お母さん達呼んできてくれる?』
 
ジェネ
『分かった!待っててすぐ戻るから』
 
 
急ぎ足で部屋から出てったのを見て全身鏡の前に立つ。
包帯を外し自分の腹部に視線を落とすと確かにそこには目を逸らしたくなる程痛々しく残された傷跡があった。
 
しばらくして私は家で休むように言われた、だけどその時付き合ってた彼に会いたくてこっそりバレずに抜け出した事があった。
 
だけど彼の家に会いに行くと他の女とベッドで寝そべっている光景を目の当たりにする。
 
 
𓏸𓏸
『え、お前なんでここにいるんだよ。今家にいるんじゃねぇの?』
 
 
焦ったように慌てて服を着る彼を他所に女は私を見てニヤリと口角を上げた。
 
 
ネイディーン
『…その子だれ?』
 
𓏸𓏸
『あー、これはほら。気の迷いってやつだよ、許せって。な?』
 
ネイディーン
『なにそれ…』
 
 
目の前の人間が急に気持ち悪く見え怒りと悲しみがぐちゃぐちゃに混じり合う。
 
 
『あれ〜?弟くんの傍に居なくていいの?傷跡凄いんじゃないの?ねぇ』
 
 
すると女は突然私の服をたくし上げ腹部が丸見えになる、傷跡が視界に飛び込むと彼は醜いものを見るように眉を顰めた。
 
 
𓏸𓏸
『うっわ…まじじゃん、きも…』
 
『それ、弟くんに撃たれたんでしょ?弟サイコパス?あはは』
 
ネイディーン
『ジェネを悪く言わないで!!』
 
 
面白可笑しく話す女に浮気された事実よりも腹が煮え返りそうになる。
 
 
『こっわ〜…やっぱあの噂本当なんじゃない?弟とできてるって噂』
 
𓏸𓏸
『ありえるわ〜、毎回ネイディーンと会う時睨んでくるし。はは、うける』
 
 
私とジェネのそんな噂が流れてるなんて知らなかった。
私のことはなんと言ってもらっても構わないけど、ジェネを悪く言うのだけは許せない。
 
 
ジェネ
『姉貴!早く帰るよ』
 
 
私を探しに来たジェネがこちらに駆け寄ってきて腕を引っ張るけど、私は動かず2人を睨みつける。
 
 
『ヒーローのお出ましって感じ〜』
 
𓏸𓏸
『こえーよまじで、なぁ弟くん。お姉ちゃん撃つってどんな気持ちだった?あはは!』
 
 
するとジェネは彼の胸ぐらを掴み上げる、ここで殴ったらジェネガ悪くなるから必死に止めた。
 
 
ジェネ
『お前、覚えておけよ』
 
𓏸𓏸
『は、こっえ〜』
 
 
2人は反省の色も見せずに話すだけ無駄だと感じ今度は私がジェネを引っ張って家へと帰る。
抜け出したことを両親に叱られ部屋に閉じ込められた。
 
 
ネイディーン
『ジェネ、ごめんね。嫌な事聞かせて』
 
ジェネ
『嫌なことって…嫌な思いしたのは姉ちゃんだろ。あいつのこと前から嫌いだったけど、あれって浮気だろ』
 
ネイディーン
『いいの、もういいんだ』
 
ジェネ
『姉ちゃ』
 
ネイディーン
『ごめん、1人になりたいから出てって』
 
ジェネ
『…なんかあったら呼んで』
 
 
後ろでバタンと扉が閉まる音が聞こえる、緊張がほぐれたように地面に座り込む。
心臓が締め付けられるような思い、もちろん悲しいし辛い。
人に裏切られるのがこんなに苦しいなんて知らなかった、声を押し殺して泣くけれど段々としゃくりをあげ声が溢れ出てしまう。
その悲痛の泣き声をジェネは扉の外で静かに聴いていた、自分が守ってあげないとと強く拳を握りしめて。
 
それからどこに行くもジェネは私に付いてきた、行動を制限され恋人を作ることも友達と探索に行くと言っても止められる。
そんな生活がしばらく続き耐えられなかった、ジェネが成人して好意を寄せる子が現れても自分は私のそばにいないとって恋愛すらしようとしない。
更にあの噂は広まっていつからか全てのひそひそ話が自分の事だと感じるようになった。
 
このままじゃだめだ、私もジェネもだめになる。
ジェネや両親にバレないように荷造りを始めて行き先を考えて家から出て行こうとした。
朝一で出ようと思っていたのに両親にバレ、物凄く反対された。
もちろん、ジェネにも。
 
 
ジェネ
『姉貴!急に出てくってどういうことだよ!』
 
ネイディーン
『ごめんね、でももう無理なの。私のことは放っておいて、今までありがとう』
 
ジェネ
『姉貴、待って俺を置いていかないで』
 
ネイディーン
『…もう私のそばにいなくても私は大丈夫』
 
ジェネ
『待って…姉貴!』
 
 
引き留めるジェネを押し抜けて国を離れた、後悔なんてしてない。
置いていったことは悪いと思っているけど、私に縛られないで幸せになって欲しかっただけなのに。
 
❊❊
 
いつの間にか眠って居たようで布団が掛けられていた、起きたときにはベッドにジェネがいなくて部屋を見渡すとキッチンにジェネが立っていた。
懐かしい夢だったな…。
 
 
ジェネ
「起きた?」
 
ネイディーン
「あ…おはよう」
 
 
ジェネはテーブルに作ってくれた女神のスープを並べる、体を起こして椅子に座り手を合わせる。
 
 
ネイディーン
「いただきます…」
 
 
スープを口に運ぶと暖かい温度と何だか美味しいともいえない微妙な味に思わず笑いが溢れ出てしまう。
そういえばジェネは料理が下手っぴだったんだ、どんなに頑張ってもセンスがないというか…。
 
 
ネイディーン
「ふふ、懐かしい」
 
ジェネ
「なんだよ」
 
ネイディーン
「相変わらず料理下手っぴだね」
 
ジェネ
「今回は上手くいかなかっただけだし…」
 
 
美味しいとは言えないけど、心が温まる味だ。
すると笑ってる私を眺めていたジェネの仏頂面が少しだけ柔らかくなった気がした。
 
 
ジェネ
「…笑った顔見るの久しぶりだ」
 
ネイディーン
「そうだっけ」
 
ジェネ
「俺が姉貴に怪我させちゃった時から姉貴は笑わなくなったから…」
 
ネイディーン
「…そうだったかな」
 
 
またお互いの間に沈黙が訪れる、今まで何の話をしていたのか覚えてないぐらいまともに会話するのは久しぶりだ。
 
 
ジェネ
「傷の事、ごめん。ずっと後悔してる」
 
ネイディーン
「気にしないで、元々私この傷のこと気にしてなかったし。ジェネが守ってくれた証だもの」
 
ジェネ
「でも、あいつだって…」
 
ネイディーン
「逆に浮気するような人だって分かって清々した、それにあの事がなかったらアスター君にも出会えてなかったし」
 
ジェネ
「…本当に結婚するの?」
 
ネイディーン
「勿論、私の傷跡も含めて綺麗って言ってくれたの。優しいし危ない時にも守ってくれたし、いつも私のこと考えてくれる。素敵な人よ」
 
ジェネ
「危ないときって何?」
 
ネイディーン
「一時期ストーカーされてたの、アスター君が助けてくれたのよ」
 
ジェネ
「ストーカー!?やっぱり俺と家に帰ろうよ」
 
ネイディーン
「もー!もう私には他に守ってくれる人が居るの!心配しないでジェネは自分の心配しないさい!」
 
ジェネ
「そんなこと言われても…」
 
ネイディーン
「良い?私はもうあの国には帰らない、ここに居る方が幸せだから」
 
ジェネ
「……分かった、じゃぁ俺もここに残る」
 
ネイディーン
「はい!?」
 
ジェネ
「本当にあいつが姉貴のこと傷つけないか見張るから」
 
ネイディーン
「…もう好きにして…」
 
 
真剣な眼差しで見つめてくるジェネに何を言っても聞く耳は持たないからもはや諦めることにした。
アスター君と幸せいっぱいなところ見せれば流石に諦めてくれるでしょ…。
それでアスター君にこのこと説明しないと。
 
 
ジェネ
「あ、姉貴今日は家出ないでね。心配だから」
 
ネイディーン
「それは無理!」
 
ジェネ
「えぇ~、じゃぁ出ても良いけど俺も付いてくからね」
 
 
私の平穏な日常はこうして危機にさらされているけど今回は絶対にジェネの好きにはさせないんだから。
そう意気込んで瞳に熱い決意を燃やすのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 









 
【エルネアプラス】
 【息子に赤ちゃんの作り方を聞かれたら】

ジェネ🌧
「なっ……えと、それは、だな…」なんて言っていいのか分からなくてたじろいでしまう、教えるにしてはまだ早いと思うしだからといって何をどう教えればいいのか分からなくてテンパっていると妻に肩に手を置かれ冷静さを取り戻す。「もう少し、大きくなったらな」とそれを言うだけで精一杯だった。お可愛い人。


ディーン🐕
「ん?」と聞き返されるがもう一度聞いても「ん?」しか返って来ない、何故か聞いてはいけない圧を掛けてくるからそれ以上聞けないし母に聞きに行っても怒られて返ってくるから聞いちゃいけないんだと子供は思う。でも「君も大人になったら分かるよ、自然にね」と言われて大人しくするしかない。



アルベルト🌠
「…………お菓子、食べるか」と明らか様に話をズラそうとするから子供はお菓子を食べながらもう一度聞いてみると本当に参った様子で「今はまだ、聞かないでくれ……」というものだから困らせるのも不本意なので子供も聞かない事にした。その夜妻にこの事を相談していつ話すかを模索する事になる。