※前回の続き、夜表現あり


203年17日【夏】



【アス視点】


試合を終えた俺はマリーナの所に駆け足で向かっていた。

外に出るとマリーナが端の方で男と話しているのを見掛ける。

だけど直ぐに手を振って男はどこかへ歩いて行った。



アス

「よ」


マリーナ

「あ、試合おめでとう。凄かったわ」



声をかけるとマリーナはいつもの調子で答える。

俺は変に指先が震えそうだってのに。



アス

「移動しよーぜ」


マリーナ

「…そうね、久しぶりに学舎でも見に行かない?」



マリーナの言葉通り俺らは学舎へと歩いて行った、もう日が暮れ始めているせいか生徒はおらずシーンと静まり返っている。



マリーナ

「懐かしい、ここでアス君と出会ったんだっけ」



マリーナは校舎側にあるベンチに座り、足を伸ばした。

俺も隣に座り膝を伸ばして空を見上げる。

ここでマリーナと出会ったのを覚えている。

あれは俺が具合が悪くてこのベンチで寝そべっていた時だった。



❊❊

【回想】


ちょうど日陰になっていたからベンチに休む事にしていた。

あーくそ、気持ち悪ぃ。

静かに休ませて欲しいのに周りの声がヒソヒソと聞こえてくる。



『誰か話しかけてきなよ』

『無理だよ…』

『体調悪いんじゃない?』

『知らないよそんなの』



具合が悪いのと相まって余計に気持ち悪くなりそうだっけど、動いたら吐いてしまいそうだった。



マリーナ

『…大丈夫?』



うっすらと目を開くと見た事ない女が心配そうに顔を覗き込んでいた。

…地味な女。



アス

『…ほっとけよ』


マリーナ

『そんな顔色悪いのに無理に決まってるでしょ』



マリーナはちょっと待ってと言いどこかに行ったかと思えば直ぐに戻ってきて、人目を気にせず地べたに座り込む。



アス

『おい…何やって…』


マリーナ

『ハンカチ濡らしてきたから、これ頭に乗っけて』


アス

『は…やめろ、触んな』


マリーナ

『触られたくないなら大人しくしなさい』



ピシャリと叱られ大人しくしていると額に冷たいハンカチを置いてくれる。

俺なんかに話しかけるやつなんていないのに、変なやつ。



アス

『……あざす…



お礼を言おうと思ったら思ったより気恥ずかしくて声が小さくなってしまう。

だけど女はにっこりと田舎娘のように純情な笑顔を浮かべた。



マリーナ

『何よ、ちゃんとお礼言えるじゃない!わたくしはマリーナ』


アス

『…アス』


マリーナ

『宜しく、アス君』



こうしてマリーナとの出会いは始まった、俺に対して臆せずにハッキリと物を言ってくれるしからかっても反応が面白くて俺はマリーナに懐いていた。


それが執着なのか恋心なのかは分からないまま、曖昧にしたまま時間は過ぎていった。

このままマリーナもずっとそばに居てくれると思った、俺に好意を持っていると感じていたから。


だけどそれに応えなかったのは自信が無かったから、だから曖昧のままにした。

大人になってマリーナに触れられない分他で満たした、周りにどう思われようとそんなの関係なかった。


マリーナが恋人を作った時は悔しさよりも安心した、俺なんかをずっと追いかけないでくれて。

マリーナの事ちゃんと好きだったけど、諦めて欲しかった。

意味わかんねーけど、でもそれでハッキリと分かった事がある。


人の気持ちはどう足掻いても変わると、ずっとなんてそんなの幻だって。

諦めて欲しかった癖に好きでいて欲しかった。

とか都合よすぎ。


大人になってもあの頃のまま地味なマリーナ、俺の好きだった人。



アス

「今の彼氏と順調?」


マリーナ

「勿論、凄く幸せ。この後も待ち合わせしてるの」


アス

「はっ、地味のくせによく恋人出来たよな」


マリーナ

「そういうアス君は性格が悪いから恋人が出来ないんじゃないかしら〜?」



嫌味を言っても八つ当たりしてしまっても、今みたいに言い返してくるのが好きだった、図太い女。



アス

「俺の価値はこの顔と体だっつーの」


マリーナ

「ま、無駄に顔だけはいいものねー」



地味だけど精神が図太くて、ハッキリしてて裏表がない。



マリーナ

「後正真正銘の馬鹿」


アス

「俺より成績下だったのによく言うわ」



マリーナは何も返さずただひたすらに空を眺めるその横顔で何が言いたいのか察せてしまった。

ほんとーに、自分でも馬鹿だと思うわ。



アス

「俺さー……」



今日言おうと思ってた、自分の今までの気持ちを伝えようって思ってたけど。

幸せそうに笑うマリーナ見てなんかもうどうでも良くなった。



アス

「お前と会えて良かったわ」


マリーナ

「…なによ、藪から棒に」



うっすらと笑みが浮かぶ、もうこれで終わりだ。

俺みたいなやつは近くに居ちゃいけねーから。



マリーナ

「……でも、わたくしもアス君と友達になれて嬉しかったよ」



その言葉だけで充分。



アス

「おー…」


マリーナ

「じゃ、そろそろ行こうかしら」



そう言いながら立ち上がり俺の前に立つマリーナを見上げる。

俺は性格が悪ぃから最後に困らせてやろうと思って、マリーナの腕を引っ張り抱きしめた。

優しい匂いがする、温かい。



マリーナ

「…え」


アス

「…しっかり怒られて来いよ」



腕を解放するとマリーナはすぐさま距離を取り顔を赤くさせながら俺を睨みつけた。



マリーナ

「アス君…!!」


アス

「あはは!んじゃ、元気でな〜」



今の俺でも照れさせる事が出来るんだって嬉しく感じた。

ヒラヒラと背後に手を振りながら歩いていく、もう会いに行くことはないんだろうな。


なんか前よりもスッキリした気分だ、あれが俺なりの告白っつーことで。

家に帰ろうかと思っていると後ろから小さな走る音が聞こえてくる。



「アス〜!今暇??」



俺の腕に飛び付いてきたのは金髪の派手な女、甘い声で俺の名前を呼び胸に腕を押し当ててくる。

誰だ、コイツ。



「良かったら家来ない?」


アス

「んー、いいよ」


「ほんと!やった、じゃぁ早く行こ」



このまま家に帰るのも虚しいし、失恋してる所をアスターに見られたくもないから丁度いいや。



「あっ!……ぁん!激しっ…ん!



暗い部屋に甘ったるい喘ぎ声が響く、ただただ自分の快楽に身を任せて腰を打ち付ける。

こうしてる間と探索で体を動かしてる時だけは何も考えなくて済むから楽。



「もっと優しくして…」


アス

「……うるせぇ、黙ってろ」



甘えるように首に腕を回してくるから余計な言葉を喋らせないように女の口を手で押さえ付け、快楽に身を委ねた。


何回戦か達した後に水を飲む、女はベッドにへばりつくようにぐったりとしていた。

意識を失ってる女の頬を軽く叩くと、うっすらと目を開く。



アス

「おい、起きろ。飲め」


「んん…ありがと〜」



喘ぎすぎで声が枯れたのかガサガサな声でポソりと呟く。

もそりと体を起こし水をゴクゴクと飲み干す。



「…今日は嫌な事でもあったの〜?」


アス

「あ?ねーよ別に」


「前にした時よりも激しくてびっくりしちゃった」


アス

「あそ、つーかお前誰?」


「ひどーい、忘れちゃったの?前にも1回した事あるんだよ〜、お互い遊びだから丁度いいって」


アス

「あ〜そうだっけか?」


「てかほんとアスっていい匂いするよね!香水?」


アス

「そー香水付けてる、てかキスマつけんなよ」



女の話を適当にあしらって腕に服を通す、でも今日は流石に疲れたのか眠くなってくる。

アイツも今頃彼氏に怒られてんじゃねーの、想像したくないけど。



「ほんと、ヤッた後は泊まらないってまじ律儀だよね〜。眠いくせに」


アス

「…るせー」



「じゃぁまたね〜、気が向いたらやろー」



今回の女はきっぱりと遊びだと割り切れているからか必要以上に突っかかってこなくて楽だった。

手短に着替え髪を整えてこの家を後にする、外の新鮮な匂いが俺は好きだ。



いつも通りマルクの家に行くと目を擦りながらも扉を開けてくれる。

さっきまで寝てたのか髪がボサボサだ。



アス

「悪ぃ、毎回夜遅くに」


マルク

「気にすんな」



マルクの家の中に入りベッドに腰掛ける、ここはマルクが自分で所持してる家だ。

家に帰りづらいからって他の家を買ったらしい。



マルク

「…え、てかアスがうちん家に来たってことは……マリーナの事襲っちゃったの!?」


アス

「襲ってねーよ!!」



確かに女とヤッた後は毎回マルクの家で泊まらせもらってるけど流石に俺でも同意のない行為はしねぇーし!



アス

「……?てか待てお前、なんでマリーナの事知ってんだよ」


マルク

「あ、やべ」



マルクはやらかしたと言わんばかりに目を泳がせる。

そんなマルクを追い詰めるように近付くと上に覆い被さるようになった。



アス

オイ


マルク

「ちょ、ちょタンマ!落ち着いて!その顔怖ぇから!!」


アス

「俺の事好きすぎるからってストーカーしてんじゃねーだろうな」


マルク

「シテマセン!!そもそもオレ、マリーナと友達!マイフレンド!」



降参するように両手をあげるマルクを見て怒りも鎮まり押し倒してるマルクを見下ろす。



アス

「説明しろ」


マルク

「あの、先に退いてくれると助かる……」


アス

「このままてめぇの事掘ってやったって良いんだぞ」


マルク

「ハイスミマセン」



悪ふざけはこんぐらいにしてマルクの隣にそのまま寝転ぶ。



アス

「そんで?」


マルク

「はい、実は昨日チーズ小屋でアス達が話してるの聞いてしまいました。誓って不可抗力です」



昨日の会話が聞かれてたと思うの恥ずかしすぎて死にてー。

顔を覆っているとマルクが体を少し起こしこちらに向けてくる。



マルク

「それで??告白したん?」


アス

「してない、もう吹っ切れた」


マルク

「え早ァ!ま、アスっぽいっちゃぽいけどさ」



はぁ、と無意識のうちにため息を零すと気遣ってくれたのかマルクは明るく声をかけてくる。



マルク

「酒でも飲んで忘れる??」


アス

「……もう寝る」


マルク

「ちょそれオレの布団!」



隣で騒ぐマルクを背にして布団をかぶり身を縮こませる。

こんな時にマルクがいてくれて助かったと内心感謝するけど口にはしない。

あの時気まぐれだったけどマルクと友達になってよかったな。










【エルネアプラス】


【最近冷たくない?と言ってみた】


アスター🦩

「え、ごめん冷たく感じた?」とすぐに謝ってくれる、全然冷たくないけど少し慌ててるのが可愛くて意地悪しちゃう、「……嘘ついたでしょ」とニマニマしてる顔でバレ頬を引っ張られる『いひゃいれす』と滑舌の回らない口で訴えると「はは、かわいい」と柔らかい笑顔を見せてくれる。



アス🦭

「あ?どこがだ」と冷たくあしらわれてしまう、『そういう所』と指摘するとジト、とこちらを見つめられ睨めっこ状態。「はぁ……ったく、来いよ」と手招きされ懐にぽすりとはまると頭を撫でながら🦭は本を読み出す。「甘えたいならそう言えよ」とお見通し、何の本を読んでるのか問えば「推理小説、姉貴に渡された」と言われるが興味は無い、そのまま🦭の懐で眠るのだった。



マルク🦎

「いや、ありえない。オレが冷たい?ないない」と全否定される、確かに冷たさは感じないけど最近あまり構って貰えてない気がして出た言葉。『最近構ってくれない』と口を膨らませて言うと「それはぁ〜…確かにね?」と今やってる作業をやめておいでと、両手を広げてくれるから飛び込むと強く抱き締められる。



ディーン🐕

最近忙しいのか冷たくなったような気がして言ってみると驚いた顔をされて「え?冷たい?」と聞き返されるから頷くと「そんなつもり無かったんだけど…ごめんね?」と素直に悪気がなかったと謝られるから『わざとじゃないなら、いい』と少し恥ずかしくなってそっぽを向く。「僕が冷たくなっちゃって寂しかったの?」と当たり前の事を聞かれキレそうになったけど、顔赤くさせて照れてるの見たら逆にこっちも驚く。片思い拗らせてたからまさか彼女が寂しいと思ってくれた事に嬉しさを隠せない。



アルベルト🌠

「冷たい……」自分は全く冷たくしてる自覚が無いからそう言われショックを受ける、無愛想だし表情も硬いからそう思われるのも仕方ないけど彼女に言われると悲しくなった。「ごめん、努力する」と謝ると慌てて『ちが、そうじゃなくて!最近構ってくれないから寂しかったのよ…』と言い方を間違えたと言うと安心した顔をして「そうか、ごめんな」と嬉しそうに少し微笑んでくる。