※前回の続き


203年14日【夏】


【マルク視点】


ネイディーンとアスターが二人で話している頃、マルクはとても困った状態に置かれていた。


とても困ったこれは困りすぎている。

マルクが今いる場所はチーズ小屋のチーズ棚の方、壁の陰に身を潜めていた。



アス

「こんな時間まで熱心だな」


「そう?楽しくていつの間にか時間が過ぎちゃうの」


アス

「そーか?」



親友と多分その片思い相手だと思われるマリーナの会話が聞こえてくる。

アスには黙ってたけど、その相手オレの友達だしどんな子かも知ってるんだよな。


こんな所に居合わせたのも本当に偶然だった、ただいい匂いに誘われてチーズ小屋に入った瞬間窓から誰かの影を感じ咄嗟に身を潜めてしまったのだ。


もう日は傾き始めているからか人通りは少なくなっている。

だからオレもチーズ小屋に気にせず入れた訳なんだけど。



アス

「あのよ…明日俺試合なんだけど」


マリーナ

「そうなの?凄い、応援してる!皆言ってるよ、アス君の事人が変わったみたいだって」


アス

「あー?そーかよ、興味ねぇけど」


マリーナ

「そういうとこは変わらないのね」



くすくすとマリーナは笑っているのが聞こえる、爽やかで少し掠れてる声がいつもより優しくて違和感を感じるぐらいだ。



アス

「んで?お前は来てくれんの?」


マリーナ

「勿論、友達を応援しに行くのは当たり前でしょ」


アス

「はは、あっそ。じゃぁ試合終わったら少し話さね?」


マリーナ

「…あら、アス君が約束事なんて珍しいのね」


アス

「うっせーよ、じゃ、俺もう行くわ」


マリーナ

「今さっき来たばっかなのに?」


アス

「そ、まぁお前の顔見に来ただけだから」



じゃーなと後ろ向きで手を軽く振ってチーズ小屋から出ていってしまう。

顔見に来ただけって…アスもあんな事言えるんだな。

なんて考えていたけど、チーズを作り終えたマリーナが棚にしまおうとしたみたいでこちらに近寄ってくる。



マルク

やべっ



どうにかしてこの状況を打破しようとするけど逃げ道はないし、完全に詰んだ。



マリーナ

「わぁ!」



ほら、見つかった。

マリーナは目を丸くさせてパチクリとさせている。



マルク

「や、やぁ」


マリーナ

「マルク君!?」



マリーナとオレは同級生のようなものだった、あの頃のアスを思い返せば確かによく一緒に居た気もする。

片思いしてるとは思ってもなかった、だってマリーナの容姿は平凡だし言っちゃ悪いけどパッとしない。


農場管理官の服を身にまとい、褐色肌に金髪、小さな黒い瞳に暑い唇。

素朴な顔立ちであまり目立たない、アスに近くにいる女の人はいつも煌びやかで鮮やかな人が多いから逆にこういうのが好きなのか?


いや、それは絶対ありえない。

長くいたけどアスの見た目のタイプはロングで可愛らしい顔立ちでえろい女だ。

何度も聞いてきた。



マリーナ

「なんでこんな所に…」


マルク

「いや、あはは…元からここに居たんだけどおたくら達が入ってきてつい隠れたって言うか?」


マリーナ

「あらあら、ふふふ。ホント2人とも神出鬼没なんだから」


マルク

「はは、あんたは相変わらずアスに好かれてんね」


マリーナ

「わたくしが?ふふ、違うわよ」



マリーナは棚にチーズを起きながら自傷的に微笑んで呟いた。



マリーナ

「ただ、わたくしがアス君の周りにいるようなタイプじゃないから新鮮なだけ」


マルク

「そう、かな」


マリーナ

「そうよ。それにおかしな事言うのね、わたくしにはもう恋人がいるのに」


マルク

「まぁ〜あ?そりゃ知ってっけど…」



マリーナはテーブルに手を付き下を俯いた、瞳は憂いを帯びていたけどすぐに愛想のいい笑顔を浮べる。



マリーナ

「だから有り得ないのよ」


マルク

「だけど…なんで急に恋人なんか作ったんだよ?そんな気配無かっただろ」


マリーナ

「まぁ失礼しちゃう、ほんと。タイミングよそんなの」


マルク

「少なくともオレはあんたもアスの事好いてるかと思って」



ドンッ!と突然テーブルをマリーナが叩き大きな音が響く、そのせいで言葉が途中で途切れてしまう。

…怒らせたか?



マルク

「あ〜…っと、マリーナ?」


マリーナ

「あ、ごめ、ごめんなさい。大きな音出して」



マリーナは我に返ったようにハッとして顔を上げた、その表情からは焦りを感じる。



マリーナ

「ふ、ふふ。そうね、そうだった。昔から貴方には何も隠し事出来ないわね」



マリーナは振り向いてテーブルに寄りかかり、オレの足元を見て話し始めた。



マリーナ

「覚えてる?わたくしが嫌がらせ受けてたこと、貴方はそれを見抜いて助けてくれたわよね」


マルク

「もちろん、覚えてるよ」


マリーナ

「アス君と仲がいいからって妬まれた、勿論わたくしだって優越感はあった。特定の誰かとつるまないアス君が構ってくるんだもの」



マリーナは1呼吸置いてから静かに、感情的に

ならないように抑えながら話しているように見えた。

マリーナが嫌がらせを受けていた原因はその当時分からなかったけど、アスが原因だったのか。



マリーナ

「……そりゃ好きにならない方がおかしいわよ、あの顔でしかもわたくしには優しい特別扱い。何の取り柄もないわたくしに」


マルク

「じゃぁなんで」


マリーナ

「疲れるのよ!アス君と一緒に居ると。わたくしをどんなに特別扱いしてても夜遊びはしてるくせに、わたくしには触れてもくれない!」



それはマリーナの悲痛な叫びだった。

成人をしてからマリーナとはあまり関わらなくなったし、恋人が出来て余計に話しかける事もなくなったから知らなかった。



マリーナ

「アス君と一緒に居ると、自分がどんどん醜くなるの。独占欲と嫉妬で頭がどうにかなりそうだった、心が…しんどいの……もうあんな想いはしたくない。…だからわたくしはアス君と一緒になれない、もし付き合ったとしても過去に嫉妬して前へ進めないから」



意外と嫉妬深いのよ、と消え入りそうな声を零しぎゅっと拳を握る。

アスが夜遊びをしていたのは寂しさを埋める為、本命には触れる事すら出来ないとか。

恋愛童貞すぎるだろ…。



マリーナ

「…今の人は不安なんて一切与えない、安心できるの。過去も今もわたくしだけを愛してくれる。ドキドキなんてもう要らない」



最後らへんの声は震えているように聞こえた、オレに背を向いて後ろからでも涙を拭う仕草が分かる。



マリーナ

「分かった?だからもうこの話は終わり」


マルク

「……分かった。だけど最後に言っておく、あんたが終わりだと思っていてもまだ終わってねぇかんな」


マリーナ

「…そんなの、分かってるわよ」



そう呟いたマリーナから目を逸らしこの場を離れようとすると今度はマリーナが口を開く。



マリーナ

「でも、そういう貴方は?あの子の事好きなんでしょ?」


マルク

「…なんで知ってんだ?」


マリーナ

「そんな怖い顔しないでよ、見てたら分かるわよ。わたくしに見せ付けるようにべったりして、ほんと良い性格してるわよね。どこが好きなの?」



マリーナは仕返しと言ったばかりに彼女の話題を吹っかけてくる。



マルク

「根は悪い子じゃないんだよ、ほんとに。ただ真っ直ぐすぎるだけで」


マリーナ

「あら、そのせいでこっちは良い思いはしなかったけど?」


マルク

「…それについては謝るよ、悪い」



彼女の代わりに頭を下げると、少ししたはくすくすと笑う声が上から降ってくる。



マリーナ

「冗談よ、気にしないで。もう辛くないから」


マルク

「…ありがとう」


マリーナ

「さ、もうすぐ日が暮れるわ。そろそろ帰りましょうか」


マルク

「そうだな」



チーズ小屋の扉を開けてマリーナが出やすいようにすると、少し微笑んでから外に出る。

外はもう日が暮れて暗闇に包まれそうになっていた。



マリーナ

「じゃぁわたくしは…」



何かを言いかけたマリーナの言葉を遮るように遠くから聞き覚えのある高くハキハキとした可愛らしい声が聞こえてきた。



カトリーン

「マルクー!!」


マルク

「カトリーン!?」



駆け足でオレの元に来ると隣にいたマリーナに気づいて可愛い顔の眉間にシワがよる。



カトリーン

「…邪魔した?」


マリーナ

「してないわよ」



その時人の足音がすると思ったらヤーノ市場方面から来たと思われる男の人がこちらに手を振っていた。



マリーナ

「じゃぁ迎えか来たみたいだから、またね」



マリーナはその男の人の所に急ぎ足で向かい、仲睦まじそうに手を繋いで歩いていった。



カトリーン

「え、なにあれ…え?誰?」


マルク

「マリーナの恋人だよ」


カトリーン

「え!?あの人恋人いたの?」


マルク

「そーだよ」


カトリーン

「じゃ、じゃぁ私悪い事しちゃった…」



今度は眉を下げて少し不安そうな表情をする、その顔でさえ可愛くて抱きしめたくなる。



マルク

「それなら今度謝れば良いだろ、それよりなんか用?アスは居ないけど」


カトリーン

「あ、ううん…帰る途中でマルク見かけたんだけど、女の人といるの珍しくて声掛けちゃった」



それはヤキモチ妬いたって言われてるみたいで思わず顔がにやけそうだけど、彼女にそんなつもりは無いんだろう。

抑えろ、オレ、勘違いするな。



マルク

「あっそう?オレが女の人と居るのそんなに珍しい?」


カトリーン

「だってあんま見たことないんだもん!」



そりゃそうだ、好きな子に見られないように隠れてやってんだから。



マルク

「はは、そんなこたねーよ」


カトリーン

「え?」



不思議そうに首を傾げる彼女をじりじりと壁際に追い詰めると、上目遣いでオレを見てきて自虐心が掻き立てられる。

こうして見ると本当に小さいしこれから捕食される小動物のようだ。



マルク

「もうガキじゃねぇからな、お前はまだガキだけど」



見下すように、舐めるような視線で彼女の頬に手を添えて顎を軽く掴む。

親指に唇が少し当たり柔らかい。



キスをする真似をして顔を近づけると彼女は馬鹿にされたことに気づいたのか、顔を真っ赤にさせた。



カトリーン

「そ、そんな事ないもん!からかわないで!」



彼女はオレの手を振り払いスタスタと家の方向へ歩いていく。

オレはあとを追いかけるように1歩後ろに下がって彼女の後ろ姿を眺める。


あのまま止めてくれなかったら本当にキスする所だった。

お前はまだガキでいい、アスのお墨付きとかまじで嫌だからな。

そんなオレの心なんか知らずに笑顔を見せる彼女に心を囚われ目が離せられない。












【エルネアプラス】


【恋人のキス】


アスター🦩

「……あ、ごめんしたくなっちゃった」と悪びれもなく普通に話してる間でもキスをしてくる、自分がキスをした時と思った時にはそのまま行動にするし、なんかタイミング良くしてくれる時もあるから彼女もムラつきやすい。彼女より年下のくせに余裕があるから彼女は悔しくなって仕返しタイム。



アス🦭

「んー」と不意打ちだったり、近くにいるときに頭を引き寄せられてキスされる。キスとかあんまり好きじゃなかったけど彼女とするのはなんか好きだからしょっちゅうしてくる。じっと見つめると「あ?んだよ」と不思議な顔をするからこっちからキスをすると普通に襲われる。えなんで。



マルク🦎

「…可愛い」とじっと目を見つめてキスをしてくる、目閉じてないもはや。理由は彼女の顔をずっと見ていたいからという、口以外にも惜しみなくキスを落とすし可愛いと思った時にキスしてるから頻繁。こっちからキスしようとすると「キスしてくれんの?」と嬉しそうな顔でふにゃりと笑うから可愛くて仕方ない。



ディーン🐕

「ん、柔らかい」とめっちゃ不意打ちでしてくるしまじキス魔。なんで不意打ちばっかなのかを聞いたら今まで出来そうなタイミングは沢山あったけど付き合ってからキスをしても許される関係になったから片想い時代の思いを完全燃焼しようとしてる。彼女は自分はこんなにも隙が多かったのかと反省する。



アルベルト🌠

キスをしていいのかタイミングを伺って失う人、だけど「……キスしていいか」と遠慮がちに聞いてくるから『いつでもして、嬉しいから』と言えばそれからは優しいキスをされる事が多くなる。でも理性は制御して彼女からのOKサインがないと襲わない忠犬。