※前回の続き


203年10日【夏】


お父さんはあえて重い空気にならないように声のトーンを少しだけ上げて口を開いた。



ソール

「最近どうも調子が悪くて、昔と比べて全力の力が出ないなって思ってたんだ」


アスター

「あぁ前に言ってたね、調子悪いって」


ソール

「そう、でもいくら鍛えようが衰えてく一方でこの間バグウェルに会いに行った時に相談したんだよ」



そう言いながらお父さんは草むらに手を伸ばし、ボワの実を拾い上げた。

その横顔は笑ってなくて、思い悩んでいるようなそんな表情だった。



❊❊❊


【ソール視点、回想】



バグウェル…もとい、ダクドに会いに行ったのは202年の年末の事、あの日から年末の挨拶に行くと言ってから恒例になっていた。




あの日もバグウェルの森へと行き、いつも通り会いに行くとどことなく嬉しそうな顔をしてくれる。



ソール

『よ、会いに来たよ』


バクド

『ふん、また懲りずに来よって』


ソール

『嬉しいくせに、あれ今日は戦わないの?』


バクド

『今日はもう魔獣やら魔人やら蹴散らして来たのだ、少しは休ませてくれ。わざわざ敵意のない者と戦う意味も無い』



グルルルと喉を鳴らし地面に座って首を下ろす、完全に休憩しきっている。 

改めて観察してみても鱗は硬そうだし、大きな翼は立派という言葉以外何も出てこない。

鋭く光る黄金色の瞳は何度見ても自分の瞳を覗いているようだ。


俺もバクドの近くに腰を下ろし地べたに座り込む、手を後ろに付けて空を見上げるけど森の中だからか木々の葉がゆらゆらと揺れているだけだ。



バクド

『そう言えば能力の方はどうだ?』


ソール

『あぁうん、最近使いこなせる様になってきたよ』


バクド

『そうか、流石は末裔だ。だがそれを我に使ってみろ……首を食いちぎってやるぞ』



威圧的に睨まれれば俺でも冷や汗が滲んでくる、彼が恐れ崇められている存在であると教えさせられる。



ソール

『はは、こっわ。でも完全に使いこなせる訳じゃないからわざとじゃない時は流石に許して』


バクド

『ふん、まぁよかろう』


ソール

『…そう言えば最近、なんか自分が弱くなった気がするんだよね』


バクド

『ほう……して?』


ソール

『なんだろう、前の全力の力が出せなくなったって言うか。昔みたいに力がみなぎって来ないんだ』


バクド

『それはいつ頃ぐらいだ?』


ソール

『えぇと、うーん……そう言われるとなぁ』


バクド

『もしやすると能力を使いこなせる様になってから、ではないか?』


ソール

『あ〜そう言われてみればそうかもしれない』



バクドに言われた通り思い返すとそこら辺から力が発揮できなくなっていたのは間違いない。



バクド

『仕方がない事だ、大いなる力には大いなる代償が伴う。それは今も変わらぬ』


ソール

『そっか……』



俺は肩落とし地面を向いた、青々しい芝生はふさふさで生き生きとしている。

そうなると俺はもう、いつ誰かに負けてもおかしくない。

ずっと家族の為にこの力を使ってきた、民を守る為に。

だけどもうこの役目はもう時期終わるのだろう。



バクド

『これからどうするつもりだ?もう末裔を超えるものが産まれているかもしれぬ』



俺は自傷気味に笑い、ボソッと呟いた。

いつか来るものとは思っていたけどこんなに早いとは思わなかった。



ソール

『正直、俺の跡を継いで欲しい人がいる』


バクド

『して、それは誰だね』


ソール

『それは━━━━━━……』



頭の中で何人かの候補が上がる、だけど客観的に見てスペックや体力、力、スピード、性格全てを見た上で俺は…。



ソール

『俺の息子、アスだ』


バクド

『そやつは末裔を超えると?』


ソール

『そうだね、何れ俺を超えるだろう。少し心配な所があるけど…強くなる目的さえ見つけられらば安心出来る』


バクド

『ほう、末裔の子供とな。それは我としても楽しみだ』


ソール

『だけど…少し心が弱い所があるからそこが心配なんだ。自由気ままにしたいように生きてきたアスは目的の為に何かをこなすという事をして来なかった、何か心を変えられるような事が起きれば良いんだけど…』



それこそ恋人とか出来てくれたら心を変えるチャンスになると思うんだけど、なんせ遊んでてはいても本命が居ないっぽいからなぁ。

その気持ちはとても分かるし無理に心から愛せる人ができるわけでもない。



バクド

『焦らんでよい、いずれ好機は来ると信じておれ』


ソール

『うん、そうするよ』



いつになるのやらと思っていたのに、案外その好機というのはすぐに訪れるもので。

それがこの間起きたアスター達のストーカー事件だった。

 

今日アスターが彼女とデートしに行ったあと、俺も探索にでも行こうと外に出た時玄関にアスが来ていたのだ。



ソール

『あれ、アスターならもう外出ちゃったよ?』


アス

『いや、用があるのは父さんだから…』



昨日見たアスの表情はとても暗く、自分を責めているような感じだった。

だけど今は強い衝動に駆られたような心強い瞳をしている。

心を読まずとも何を考えているのかは察しがついた。



ソール

『とりあえず入りな?中にはイベリスしか居ないから』


アス

『うん』



アスは素直に頷き中へ入っていく、アスを花壇のある奥の部屋へ誘導するとイベリスがそれに気づき声をかけようとしたから口に指を当ててジェスチャーで伝える。


それが伝わったのかイベリスは微笑んで小さく頷き、またキッチンの方へと踵を返す。



ソール

『それで、用って何かな』


アス

『俺、今回の事で分かったんだ。俺がもっと強ければ、頼りになる兄ちゃんだったら…アスターは俺を頼ってくれたのかって』


ソール

『…うん』


アス

『最初は父さんが金くれるって言うから騎士隊に入ったけど、俺はそんなのよりももっと強くなりてぇ』



アスは何かを堪えるように下唇を噛み、強く拳を握った。

その黒曜石のように美しい瞳は闘志に燃え、まるで昔の自分を見ているような懐かしい気持ちにさえさせる。



アス

『頼む、俺を龍騎士になれるように育てて下さい。あんな思いをするのは…もう嫌だ』



アスは俺に頭を下げて頼み事をしてくる、そんな事今まで1回も無かったのに。

そんだけ真剣なんだと真摯に受け止める。



ソール

『アスは、何の為に強くなる?』



俺の問いにアスは少し考え込んだ後に、真っ直ぐと俺を見て答える。



アス

『アスターを……いや、俺の守りたい人達を守れるようになる為だ』



今までフラフラと過ごしてきたアスがこんなに心強く何かを成し遂げようとする姿勢をするのは無かった事だ。

子供の成長に鼻先がツンと辛くなるのに、自分も歳をとったと感じた。



ソール

『…そうか、なら今まで以上にビシバシ行くぞ』


アス

『…ありがとう、父さん』



アスは嬉しさを噛み締めるように目を細めた、こういう素直な所は可愛いんだがな。

この流れで頭を撫でようとすると手をはたかれる。



ソール

『じゃぁ俺は探索にでも行こうかな』


アス

『あ、なら俺も…』


イベリス

『お父さん!話し終わった?』



キッチンに居たイベリスがひょっこりと顔を出す、多分もう片付けが終わったのだろうか。

頷くとイベリスはアスに近寄り頭を撫でる。



アス

『なんだよ姉貴』


イベリス

『ううん、別に〜?ね、アス君一緒に釣りしに行こ?』



アスがイベリスからの誘いに断れるはずもなく、俺をチラッと横目で見たあとで静かに頷いた。

イベリスは嬉しそうに笑っている。

きっとイベリスも話の内容が聞こえていたのだろう。



アス

『先に行く』



アスは気恥ずかしくなったのかさっさと玄関の方へと歩いていく。

取り残された俺らは顔を見合わせる、イベリスは俺を見てにんまりと笑みを浮かべた。



イベリス

『時にお父さん、読唇術って知ってる?』


ソール

『読唇術って……』


イベリス

『私これでもお父さんの子なんだよ、私が知らないと思った?』



イベリスは物凄く目がいい、自覚はないと思っていたのにこれは1本取られたようだ。

俺は参ったなと言わんばかりに肩を落として笑った。



ソール

『ははは、流石俺の娘だね』


イベリス

『でしょ?』



いたずらっ子のように笑う笑顔はまるで昔に戻ったみたいで、まだまだ子供だなと父親ながら思うのだった。



❊❊❊


話を聞いている間も草むらでボワの実を拾い続けるアスターの手元を見ながら自分も辛うじて片手で手伝う。



アスター

「なるほどね、そういう事だったんだ…」


ソール

「うん、だからこれからアスを龍騎士になれるように育てるから…だけどこれを話した事はまだ言わないでね」


アスター

「うん、分かってる…お父さんも無理しないでね」


ソール

「ありがとう、アスター」



昔から聡くていつでも冷静なアスター、横顔を見ても何を考えているのかは分からない。

心を読めたら楽だけど、人の心を勝手に覗き見るのはプライバシーの侵害でもある。



アスター

「……僕も、強くなれるかな」



そうポツリと呟いたアスターの瞳には不安の色が浮かんでいた。

このまま置いていかれるかもしれない、という恐怖。

アスターは本当に心から優しい子で、それが例え悪人でも傷付ける事さえ躊躇ってしまう。


相手の為を思えば思うほど自分が疎かになる、自分の事にも鈍感で怪我してた事にすら気付かない。

このまま戦いに行けばアスターは危うい。

自分という存在がどれほど救いになるか、必要とされているか。


それを本人が理解していないといずれ身を滅ぼす戦いになる。

こんなに思っていても、親の心子知らずと言ったものか。



ソール

「…本当の強さとは大切な誰かを守りたいと思った時に発揮するものだよ」


アスター

「大切な、人…」


ソール

「アスターにも居るでしょ?アスもアスターや他の人達を守りたいと思った一心で強くなろうとしてるんだよ」


アスター

「そう、だね。守られてるばかりじゃ嫌だ、僕も兄さんや皆の事を守りたい」


ソール

「うん、その心がある限りアスターは強くなれる」


アスター

「うん」



アスターは珍しく満面の笑みを見せてくれる、こんな笑顔は子供の頃以来か。

自然に癖で頭を撫でる、柔らかな髪がレベッカにそっくりで無性に会いたくなる。


俺が死ぬその時まで、俺も守られるだけの存在にはなりたくない。

ずっと俺の家族を、守りたい。









【エルネアプラス】


【女(モブ)に無理やりキスされた時の反応】


アスター🦩

「え…」と驚く、話があると言われ呼び出された直後、振り返った瞬間キスをされる。驚きすぐさま肩をおしのけて距離を取り腕で口元を抑える。「なにを……」と信じられないと言った表情で見られ気持ちを伝えると「……ごめん」と重々しく言われる。感情が昂って泣いてる女に「気持ちは嬉しいけど、応えられない」と誠実に振りその場を離れる。毎回振ったあとは気分が晴れない。



アス🦭

「………」誘ってみたら誘いに乗ってくれたのが嬉しくて外で不意打ちにキスをしてみるがなんの反応もなく、離れると怖い程綺麗な真顔で見つめられ言葉が出ない。「萎えたわ」と普通にショックな一言が返ってくる。そのまま反対方向へと歩いて行くから引き止めて告白するも「そういうのだりぃ」とあしらわれ、それから話しかけようとすると無視されるようになる。ほんと自由だし、外でキスなんかして🦩に見られるのが嫌。



マルク🦎

「あ〜、そういう感じ?」と引き攣った顔で言われる、親切にされて今しかチャンスないと思ってした行動にすぐ後悔するも「どんな相手にも無理やりは良くないよ」と優しく注意される。だけど夜遊びしてる事を指摘すると「オレにだって選ぶ権利あるかんね?」とグサリと刺さる一言。普段全然怒らなくていつも笑っている🦎が急に真顔になり怖くなって逃げ出す、取り残された🦎は無性に🦭に会いたくなって会いに行く。



ディーン🐕

「ん〜?どうしたの?」と無理やりキスしたにも関わらず優しくしてくれる、キスぐらいだったら別に減らないしと考えている🐕は別にどうって事ない。「辛い事でもあった〜?」となんなら逆に慰める、🐕に集まる女は訳ありだったり寂しい思いをしてる女子ばっかだったからそういう反応になる。だけど好きな子が他の男とのキスを普通に許してたら嫉妬でおかしくなるかもしれない。



アルベルト🌠

驚きすぎて固まってしまう、まさか自分なんかが誰かにキスをされるなんて思ってもみなかったから思考が回らない。「……何故だ」と聞いてみると普通に告白されて嬉しい気持ちとなんで自分なんかをと言う疑心の気持ちになる。「…すまない」と短く謝りそれ以上答えようとはしない。簡単にキスされてしまい、こんな簡単に出来てしまうのかと少し悲しくなるのだった。