203年7日【春】


どこからともなく春の息吹が漂ってくる、気温は暖かく心が温まるようだった。


珍しく朝早く起きた僕は眠たげな瞼を擦りのそのそと動き出す。



アス

「お、珍しいなこの時間に起きるの」


アスター

「ん…今日は兄さんの試合の日だから…」


アス

「じゃぁ顔洗って目覚まして来い」


アスター

「ん」



兄さんに言われた通り僕は顔を洗いに行く、冷たい水が気持ちいいぐらいだ。



レベッカ

「今日は早起きなのね」


アスター

「うん、昨日ディーン君と酒場で呑んでたんだけど…酔って早めに寝たからかな」



ソール

「珍し、早起きだ」


アスター

「皆に言われるけど僕そんなに寝坊助?」


ソール

「アスターは子供の頃から寝坊助だからなぁ」



今日は僕が早く起きたからか早めの朝食になった、だから自分で朝食を作り食べてみるけどお父さんの料理の方が美味しくて寝坊助も悪くないと思った。

いつも通り兄さんの皿洗いを済ましてまた椅子に座る。



アス

「まじ今日勝てるように応援してくれよな」


アスター

「兄さんなら絶対勝てるよ」


アス

「おう!任せとけ」



兄さんと二人で話しているとお父さんが寝室の方から歩いてくる。



ソール

「アイリスの遊び相手してやってくれない?」


アスター

「全然良いけど…お父さんこれから何か用事?」


ソール

「うんちょっとね、ロニー達に呼ばれてて」


アスター

「もしかして酒場?」


ソール

「そー、ミロとかも居るし前から約束してたからさ。さっきアイリスに強請られちゃったけど外せなくて、ごめんな」


アスター

「大丈夫、アイリスはどこ?」


ソール

「玉座の所に居るよ」


アスター

「分かった、兄さん行ってくるね」


アス

「お〜、気をつけてなー」



お父さんはいつも探索ばっかいってるし仕事とかで中々友人達と時間を取れないことは知っている。

だから久しぶりに皆で集まれる日だからお父さんに頼まれて僕が断るなんて出来るわけない。



アスター

「アイリスー?」



お父さんと遊びに行けなくて拗ねてるかと思いきや、明るい笑顔を浮かべているアイリスは機嫌が良さそうだ。

アイリスは素直で良い子だから駄々を捏ねるなんて事はあんまりしない。



アスター

「お兄ちゃんと出かけよっか、どこ行きたい?」


アイリス

「んー!きのこ採りにいきたい!」


アスター

「いいよ、行こっか」



小さな手を繋いで薬師の森に向かっていく、いつも僕の後ろを着いて歩く可愛い妹。

ご機嫌に鼻歌交じりに歩くアイリスの先に姉さんを見かける。



アイリス

「あ!おねえちゃん!」



嬉しそうに声を弾ませながら姉さんの元に走っていくアイリスの後を追いかける。

こちらに気づいた姉さんも手を振ってくれる。



イベリス

「2人でお出かけ?」


アスター

「うん、これから薬師の森行くんだ」


イベリス

「ふふ、仲良しで羨ましい」


アスター

「姉さんだって兄さんと仲良いでしょ」


アイリス

「わたし知ってる!おにいちゃん毎日おねえちゃんの所行ってるの!」


イベリス

「え〜?でも最近ニーノ君とも仲良くてたまに一緒に探索行ってるんだよ」


アスター

「え、そうなの?意外…」


イベリス

「アス君には内緒ね」



お淑やかに口元に指を当ててお茶目に片目を瞑る、その時ちょうど結構な速さで走っている人にぶつかりそうで咄嗟に姉さんの腕を引っ張り自分の方に引き寄せる。



イベリス

「わっ…!」



急に引っ張られてよろけた姉さんは僕の胸元に顔を埋め抱きとめる。



アスター

「あぶな…大丈夫?」


イベリス

「うん、ありがとう…いてて」



姉さんはゆっくりと離れてぶつけた鼻を摩る、そのせいか少し赤くなっていた。



アイリス

「おにいちゃんとおねえちゃんも仲良しなの!」



今の一部始終を見ていたアイリスはにっこりと笑って手を繋いでくる。



アスター

「じゃぁ僕らは行くから、姉さんも気をつけてね」


イベリス

「うん、ありがとう。またね」



姉さんと別れて僕達は本来の目的薬師の森へと歩いて行った。



アイリス

「えへへ〜おにいちゃんと遊べてうれしいの!」


アスター

「お父さんじゃなくても良かった?」


アイリス

「うん!パパと遊べないのはざんねんだけどおにいちゃんが遊んでくれるから良いの!」


アスター

「そっか…アイリスは本当に良い子だね」



よしよし、と頭を撫でると嬉しそうにはにかむアイリス。

薬師の森に到着すると早速アイリスは原木の近くに寄って探し始める。



アイリス

「うーん、ないなの…」


アスター

「見つからない?」


アイリス

「うん……あ!」



小さく声を上げて何かを見つけたのかと思ったらサリアの花を掲げる。



アイリス

「あまいやつなの!」


アスター

「ふふ、良かったね」


 

アイリス見てると可愛くて癒される、小動物みたいなそんな可愛さがある。

その後も少し採取をし、沢山採れて満足気なアイリスを見てから声をかける。



アスター

「沢山採れたね」


アイリス

「うん!パパが帰ってきたらじまんするの!」


アスター

「そうだね、いっぱい自慢してあげな」



元気よく頷いて笑うアイリス、僕らはのんびりと家に帰る。

家に着けば朝早く起きたせいか大きな欠伸が出る。

まだ夕方まで時間があるから少し仮眠をとることにした。



アイリス

「おにいちゃん寝るの?」


アスター

「うん…ちょっと眠くなっちゃった」


アイリス

「分かった、おやすみなの!」



僕はベッドに寝そべり目を瞑る、段々と意識の奥底に沈んでいくような感覚と共に眠りにつくのだった。



❊❊❊


自然と目を覚まし眩しい光が目に差し込む、眩しくて思わず顔を顰めて目を細めた。



気だるげな体を起こして今の時刻を確認すると、兄さんの試合が始まる夕刻は過ぎていて目を開く。



アスター

「えあ、うそ!?やば!



慌てて髪を整えながらリビングに行くと兄さんがもう既に帰ってきていて蒸しガゾを食べていた。



アス

「あ、起きた」


アスター

「に、兄さん!えまじでごめん!試合見逃した…」


アス

「別にいーよ、疲れてたんだろ」



兄さんは椅子から立ち上がって僕の目の前まで歩いて来て頭を撫でられる。

兄さんの様子を見る限り今日の試合は良い結果だったみたいだ。



アス

「はは、見てねーのに分かるんだ?」


アスター

「兄さん見てたら分かるよ…」


アス

「あ、そーだ前の勝負の命令決まった。ヤカロト作って自宅酒場しよーぜ」


アスター

「僕が全部作るやつそれ」


アス

「だってアスターの方が俺よりうめぇもん作れるんだもーん」



拗ねたような口調で喋るけど目は輝いていてワクワクが止まらないといった感じだ。



アスター

「じゃぁ明日ね」


アス

「うっし、マルクも呼んでやるか」


アスター

「ほんとごめんね、兄さん」


アス

「いつまで謝ってんだよ、仕方ねぇな」



兄さんは僕の罪悪感が拭えない事を察したのか少し考え込むような仕草をしてから少しだけ口角を上げた。



アス

「じゃー、もし仮に俺が結婚するとしたらその時の服に刺繍入れてもらうってのはどう?」


アスター

「兄さんが結婚?」


アス

「ま、可能性は低いけどお前手先器用だし。今日試合来なかった罰な」


アスター

「うん…!」


アス

「じゃ、俺ちょっと外出てくるわ」


アスター

「あ、うん。分かった」



そう言って兄さんは玄関の方へと向かっていった、僕はソファーに座りさっき言われた事を思い出す。

もし本当に兄さんが結婚するとしたら、ちゃんと豪華な刺繍にしてあげたい。


するとコンコン、とドアをノックされる音が響き開けてみるとそこにはネイディーンさんが立っていた。



アスター

「ネイディーンさん?どうしたの?」


ネイディーン

「あ、今ちょっと時間いい?」


アスター

「うん、大丈夫だよ」




アスター

「…良いよ」



いつもと打って変わって神妙な表情でそう言うもんだからまた何か変な事でもあったのかと思いネイディーンさんの後ろをついて行く。


到着したのは幸運の塔だった、もうすぐ日が暮れる為夕焼けが綺麗で花はゆらゆらと揺れている。

周りを見渡す限り変な人物は見当たらないけど…。



ネイディーン

「あのね、私アスター君の事が好きなの」

 

アスター

「え…」



本当に真剣に告白してるみたいで思わずドキッと胸が高鳴るけど、そんなわけない。

多分これは演技なのかもしれない、もしかしたらネイディーンさんだけストーカーの位置がわかってるのかもしれないし。

僕はネイディーンさんの手を取り優しく握る。



アスター

「僕も好きだよ」


ネイディーン

「…え!」



下を俯いていたネイディーンさんは驚いたように顔を見上げるけど、何をそんなに驚いているのか不思議に思い顔を傾げる。



ネイディーン

「あ……本当に?」


アスター

「え、どういう意味…」


ネイディーン

「今日、友達から聞いたんだけど…黒髪の女の人と抱き合ってたって」



言われて思い返してみるけど、心当たりと言えばぶつかりそうになった姉さんを抱きとめはしたけど…その事を言っているのか?



アスター

「それは僕の姉さんだよ、人とぶつかりそうになってたから」


ネイディーン

「あ、そうなんだ!じゃぁ本当に…私の事好きなの?」


アスター

「え?あ、うん…


ネイディーン

「…なんか無理して言ってるように聞こえるよ」


アスター

「いやだって…」



これを聞かれるのはまずいと思いネイディーンさんに近づき耳元で囁く。



アスター

演技でしょ?



そう言うとネイディーンさんは俯いてしまい顔の表情は見えない。



アスター

「ネイディーンさん…?」



すると突然ネイディーンさんに胸ぐらを捕まれ、不意に力いっぱい引き寄せられ抗う事も出来ず呆気に取られていると唇が重なった。



ゆっくりと離れたネイディーンさんは顔を真っ赤にさせて瞳に涙を溜めながら震える声で伝えてくる。



ネイディーン

「私は…本気だからね」



それだけを言い残したネイディーンさんは僕と目を合わせようともせずその場を逃げるように去ってしまった。

取り残された僕は何が起こったのか分からず立ち尽くす。



アスター

「え…?



ド太鼓のように心臓がうるさく落ち着かない、顔も熱くて力が抜けるようにその場にしゃがりこむ。



アスター

「まじか…」



友達としていい関係を築けていたと思っていたネイディーンさんがまさか僕の事を男として意識しているとは思ってなかったから驚きが隠せない。

それでも嬉しいと、感じてしまった。









【エルネアプラス】



【私と別れたら次誰と付き合うの?って聞いてみた】


アスター🦩

「そんな人居ないよ」と安心させる為にそう言ってくれる。「僕は別れたいなんて考えた事ないから次も考えた事ないよ」と不安にさせたのかと思い心配になる、逆に彼女の方が離れていきそうな感じがしてぎゅっと抱きしめる。



アス🦭

「別れたいの?」と至って普通に聞き返してくる、そういう訳じゃないと否定すると「ふぅん……この先お前以外と付き合える気がしないわ」って言ってそっぽを向いて寝ようとするから思ったより嬉しい事を言ってくれたのに寝かせるわけがない。急いで顔を掴んで自分の方に向けさせると不機嫌そうな顔で可愛い。



マルク🦎

「はぁ〜?一生お前だけ」と軽くあしらわれてしまうけど、座っていた🦎に足でホールドされ逃げられない状態に。「オレの片思い年歴なめんなよ」と少し怒っているのか不機嫌な様子「申し訳無いと思うならキスしてくんね?」とイタズラにオネダリ。



ディーン🐕

「え〜?なんでそんな事聞くの〜?」と答えようとしない、そう聞かれた瞬間から何か作業してても直ぐにやめて彼女を抱き締めに行く。「そんな事聞かないで、僕でも傷つくよ」と素直に気持ちを伝える、しょんぼりとして犬のように耳が垂れているような幻が見える。



アルベルト🌠

「俺にはそんな人居ない…」と静かに答える、「君は誰かいるのか?」と不安になってくる。自信がないから振られるのは自分だという不安が拭えない。その問いに全力で否定すれば安心したように擦り寄ってきて「ん、良かった。愛してる」と甘い囁き。