202年20日【秋】

 

 

今日は日が昇らない星の日だ、遠くまで暗闇に染まる中で小さなダイヤモンドを散らばしたかのように星が瞬く。

空中を浮遊するフワ虫は淡い青色の光を放ちながら輝いている。

 

 

アス

「おい、起きろ!もう朝だぞ」

 

アスター

「う…まだ暗いよ…」

 

アス

「アホか、今日は星の日だろ。早く起きろ」

 

 

兄さんに肩を揺さぶられ、重いまぶたがうっすらと開き部屋の照明が目に突き刺さるように入り込んでくる。

 

 

アス

「おら、引っ張るぞ」

 

 

兄さんが僕の腕を力を入れて引っ張るとそのまま体も一緒に起こされる、支えがなくなったらまた体はベッドに吸い込まれそうになるけど兄さんがそれを許さない。

 

 

アス

「お前本当に朝弱いな~、兄ちゃんに世話されないと生きていけないのか?」

 

アスター

「うるさい…今起きる」

 

 

外がまだ暗いからかまだ眠気が襲ってくるがこれ以上兄さんに揶揄われる訳にはいかないし、早く行かないとご飯に遅れる。

寝癖を直して身支度を済ませてキッチンに向かうと、お父さんがキッチンに立っていた。

 



ソール

「おはよう、アスター」

 

アスター

「おはよう、ごめん寝坊した?」

 

ソール

「大丈夫だよ、ほらご飯作ったから食べな」

 

 

そう言われて料理を受け取り椅子に座る、起きるのが遅かった僕のご飯を作ってくれていたようだ。

最後にお父さんが席に着き手を合わせて食事を始める。

 





アスター

「お菓子あげないとなぁ…」

 



アスター

「見つけたらアイリスにあげるね」

 

アイリス

「うん!ありがとなの!」

 

アスター

「お父さん達はデート?」

 

 

食事を食べ終わりそうなお父さんに問いかけてみると、チラリとお母さんとアイコンタクトを取りながら僕に視線を戻した。

 

 

ソール

「今すぐにでもデートしたい所なんだけど…探索行かないとな」

 

アス

「探索?こんな日に?」

 

ソール

「虹の花採りに行きたいしね」

 

アス

「虹の花か…俺も行く」

 

ソール

「来る?多分退屈だと思うけど」

 

アス

「ならさっさと終わらせようぜ」

 

 

どうやら兄さん達二人は虹の花を採りに森の小道に探索に行くようだ、もう二人は食器を片して出かける準備をしている。

本当に行動が早い二人だ。

 

 

アスター

「アイリス、口に付いてるよ」

 

アイリス

「んぅ」

 

口の端に食べ物のタレが付いていたからハンカチでタレを拭う、アイリスもそれを大人しく受け入れ拭い終わったらまた小さな口を開けて食べ始める。

 

 

レベッカ

「所でアスター君、ネイディーンちゃんは気が合いそうだった?」

 

アスター

「あ、うん…まぁ良い人そうだったよ」

 

 

急に彼女の名前を出されて妙に焦りを感じた、歯切の悪い回答にレベッカはニッコリと優しく微笑んで言う。

 

 

レベッカ

「そう!良かった!実はね、ネイディーンちゃん今日が誕生日なの。ふふ」

 

アスター

「そうなんだ…」

 

 

お母さんはそれ以上何も言わなかったけど無言の圧を感じる。

これは祝いに行けと言うことか…まぁ少し彼女のことは気になっていたから別に構わないけどさ。

 

 

アス

「え、なになに?アスターに女?」

 

アスター

「すぐ揶揄ってくるのやめてよ兄さん…」

 

アス

「へぇ…ガチなんだ」

 

アスター

「違うよ、ただの友達」

 

アス

「ふーん、どうだか?」

 

 

何故か少し不機嫌になった兄さんはさっさと玄関から出て行ってしまう。

その後を追いかけるようにお父さんも歩いて行く。

 

 

ソール

「アスはほんとに素直じゃないね、アスターに彼女が出来そうで寂しいんだよきっと」

 

アスター

「はは、そうかもね」

 

 

お父さんはそれだけを言い残して兄さんの後を追いかける、自分も家を出る支度を済ませて果物を買うためにヤーノ市場に向かう。

外は幻想的で毎回見ても目を疑ってしまいそうになるほど美しい。

 

ヤーノ市場で買い物を済ませて彼女の元に案内して貰おうと導きの蝶を取り出すと、青い蝶はフワ虫と色合いが相性が良くキラキラと粉末が羽根にかかっている。

それを使う前に後ろから声をかけられ振り向くと、導きの蝶の淡い光が彼女の美しい顔を照らす。

 

 

ネイディーン

「あ、アスター君!」

 

アスター

「ネイディーンさん…?」

 


まさか彼女からプレゼントを貰うなんて思ってもみなくて驚きで硬直してしまう。

とりあえず差し出された貝殻を受け取る。

 

 

アスター

「え、てか今日ネイディーンさんの誕生日ですよね?おめでとうございます」

 

ネイディーン

「え!知ってるの?ありがとう!」

 

アスター

「母に教えて貰って…あと、これ何故か僕が先に貰っちゃったけど誕生日プレゼントです」

 

 

そう鞄から取りだしたのは春風の香水、お母さんにも以前渡したものだ。

女性に結構人気が高いようでふんわりと甘く優しい香りが人気のポイント。

 

 

ネイディーン

「え、わざわざありがとう…しかもこれ今の季節じゃ手に入らないのに。嬉しい」

 

 

彼女は大事そうに香水を手に持って柔らかく笑って見せてくれた。

年上なのにあどけない顔して笑うんだなと思うのだった。

 

 

ネイディーン

「ねぇ、アスター君…」




アスター

「…うん、こちらこそ宜しくお願いします」



ネイディーン

「あ、後私に敬語はもうなし!ね?」

 

アスター

「わ、分かった。宜しくね」

 

ネイディーン

「それでね、アスター君に頼みたいことがあるんだけど…」

 

 

彼女はとても言いづらそうに俯いて困ったような表情を露わにする。

すると耳を貸してと言わんばかりに口に手を当てて近寄ってくるから少し屈むと耳元で囁く。

 

 

ネイディーン

「私と付き合って欲しいの」

 

アスター

「…え?」

 

 

あまりにも予想外の告白にきっと僕の目は丸くなっているだろう。

その僕の様子を見た彼女は慌てて手をぶんぶんと振り、彼女の方がテンパっているみたいだ。

 

 

ネイディーン

「あ!ち、違うの!そうじゃなくはなんだけどっ…恋人のフリをして欲しいの!」

 

アスター

「恋人のフリ?なんでそんな事を…」

 

ネイディーン

「実は最近しつこく言い寄ってくる人がいて…何度も断ってるんだけど諦めてくれなくて。私一人暮らしだし帰るとき人の気配感じて怖いって言うか…」

 

アスター

「それをまだ知り合って間もない僕に?」

 

ネイディーン

「…私、頼れる人がいないの。家族もここにはいないし…何回か男の人紹介されたりしたけど…なんか、その失礼だけど目がガチで怖いって言うか…。でもね?アスター君はそんな感じじゃなかったから、私の見る目を信じてみようかなって」

 

 

彼女は段々と自信がなくなっていくような申し訳なくて消えたいという雰囲気が出ている。

少なくとも僕は知り合って全然時間もたってないけど、彼女はそんな僕を信じて言いづらい相談をしてくれるんだと思ったら断るのも忍びない。

 

 

ネイディーン

「ご、ごめんね。本当は自分で解決しないといけないのに…も、もちろんお礼はするよ!私があげられるものならだけど…」

 

アスター

「…いいよ、そんな泣きそうな顔してたら断れない」

 

ネイディーン

「本当…?あ、ありがとう!」

 

アスター

「でもお礼は良いよ、困ってる人から何か貰うとか出来ないし」

 

ネイディーン

「それはだめ!何か欲しいものないの?」

 

アスター

「欲しいもの…」

 

 

じっと彼女の瞳を見つめる、天色に輝く瞳はまるで深海に光が差したようで幻想的で綺麗だった。

 

 

アスター

「退屈しない日常?なんて」

 

 

昔から何か心が燃え上がるような体験がなかった、憧れや劣等感、嫉妬、そういった負の感情ばかり背負って暮らしてきたからか心から楽しいと思えるものがなかった。

ただ小さい頃、兄さんと一緒に何も考えないでばかしてたときが一番楽しかったな。

 

 

ネイディーン

「分かったわ!私がアスター君に楽しいって思わせられるように頑張るね…!」

 

アスター

「ふっ…楽しみにしてるね」

 

ネイディーン

「じゃぁ、改めて宜しくね彼氏さん」

 

 

差し出された手を傷つけないように優しく握る、初めて触った女の人の手は柔らかくてすべすべで、壊れそうなほど小さかった。

 

 

アスター

「うん、宜しく彼女さん」

 

❊❊


そのあと少し喋ってから彼女は用事があると言ってこの場を去って行った。

彼女が去って行ったこの場所で僕は謎の余韻に浸り、幻想的な夜空を見上げる。



イベリス

「アスター君、こんな所でどうしたの?」

 

アスター

「あ、姉さん…いやちょっとぼーっとしてた」

 

イベリス

「ふふ、変なアスター君」

 


アスター

「ガッパサンドだ、美味しいやつ」

 

イベリス

「簡単だけど許してね」

 

アスター

「姉さんの料理は毎回美味しいから大丈夫だよ」

 

イベリス

「良かった~、練習した甲斐があったかな!あ、あとこれこの間読んで結構面白かったからアスター君も読んでみてほしいな」

 


姉さんの緩やかな美しい瞳が細まり僕を見つめた。

姉さんはそれだけを渡したかったみたいで、これから義兄さんとデートに行くと言って小走りで去っていった。


そろそろエナの子コンテストが始まるから闘技場に向かう途中でマルク君に偶然遭遇する。



アスター

「今年もフワ虫綺麗だね」


マルク

「んな!まじサイコーだわ、指に止まってくんねえかな」


アスター

「…止まってくれんの?」


マルク

「でもアスは指に止めてたよ?虫に好かれても嬉しくないって言ってたけどオレからしたら羨ましい限りだぜ」


アスター

「はは!流石兄さん。…てかもう家帰ってお酒呑みたい」


マルク

「子供達にお菓子あげるのに酒臭かったらダメだろ?


アスター

「ふ、マルク君て変なとこで真面目だよね」


マルク

「お前は意外と不真面目か?」



そんな話をしているうちに闘技場につき、中は沢山の人で賑わっていた。

そして何故か僕もこのエナの子コンテストに出ることになっていたのだ。


マルク君と離れて闘技場の中心へと歩みを進める、兄さんもノミネートされてたみたいでくだらなさそうに欠伸をしながら立っていた。


僕も興味のないコンテストを右から左に聞き流しぼーっとしていると、もう投票が終わったみたいで進行が進んでいた。


コンテストの結果は僕が選ばれ、女性部門の方は知らない人だった。

勝手にノミネートされて、このコンテスト自体に僕はなんの思い入れもないけど景品を貰えるのは有難い。


コンテストが終わるとぞろぞろと皆は熱気の余韻を会場に残しながら外へと歩いていく。

僕も帰ろうかと思っていると突然肩を叩かれ、少し心臓がビクッと跳ね上がる。



アスター

「どうしたの急に…」


マルク

「なんかもう、望みないんかなって…」



マルク君は珍しく落ち込んでいるみたいで、寂しそうな顔をしていた。



アスター

「紹介できる女の人は居ないけど、お母さんに聞いてみたら良い人教えてくれるかもよ」


マルク

「そうだな、今度お前の母さんのとこ行ってくるか…。じゃ、オレはもう帰るよ」



マルク君はとぼとぼとした足取りで外へと向かっていく、途中兄さんとすれ違いマルク君は兄さんを恨めしそうに睨みつけていた。



マルク

「くそ!このイケメン!」



マルク君はその捨て台詞を吐いて走って逃げていってしまった。

兄さんは訳わかんねぇと言った顔で頭をかきながらこちらに寄ってくる。



アス

「なんだぁ?あいつ」


アスター

「さぁ…?」



アス

「さっさと帰って家でなんかしよーぜ」


アスター

「あ、そう言えば姉さんに本借りたんだ」


アス

「お、また推理小説?面白そうだから帰って読もうぜ」



家に帰って姉さんに借りた本を読むことになり、僕達は家に向かって歩き始める。



暫く話しながら歩いているとあっという間に玄関の目の前に到着し、中に入っていく。

外は少し肌寒かったけど中に入ると体が温まっていくのが分かった。


アス

「おし、お茶用意したから早速読もうぜ!」


アスター

「これ、姉さんから貰ったガッパサンド。これも一緒に食べよ」



こうして最高のおつまみと共に一緒のソファーに座り小説を読む。

中身は思ったよりも難しくて僕達でさえ犯人が誰なのか頭を悩ませるぐらいだった。


犯人が誰かを予想して最後に答え合わせし、合っていた方が勝ちで1つ言うことをなんでも聞くという条件がある。

どっちも合っていたら引き分け、何も無いことない事にしてる。




頭を結構使う推理小説を読み終わり、一息つく。

今日はもうぐっすり眠れそうだ。



アス

「姉貴って勉強そんな出来ないのにこういう推理小説とかは好きだよな」


アスター

「姉さん曰く勉強と推理は違うらしい」


アス

「なんだそれ」



兄さんは可笑しそうに歯を見せてケラケラと笑う、僕もそんな笑ってる兄さんを見てつられて笑ってしまう。



アス

「てことで、勝負は俺の勝ち…だな?」



にやりと兄さんは片方だけ口角を上げて、僕の方を見た。

勝負は兄さんの勝ち、僕推理小説苦手なんだよなぁ…。



アスター

「くそぉ〜…次は絶対僕が勝つ」


アス

「ふふーん、何命令しようかな〜。考えとく」



あまり面倒臭い事は命令されませんようにと願うばかりだ。

こうして今年の星の日は色んな事が起きて忘れられない一日となるのだった。









【エルネアプラス】



【子供が欲しい時】


アスター🦩

「ねぇ、そろそろ子供の事考えたいな」とすぐに子供を作ろうと言っては来ない。「君はどう思う?」とこっちにも意見を聞いてきてくれる、勿論嬉しいし頷くと安心したように力なく笑って「良かった…!ずっと君との子供欲しいと思ってたんだ」と言ってくれる。



アス🦭

「……子供作るか」とベッドに座っている彼のお腹を正面から寝転んだ状態で抱きついていると突然そんな事を言ってくる。まさかそんな気があったことに驚き固まっていると顔を鷲掴みされる。「んな驚くことかよ」と言われるがこっちは嬉しくて半泣き。



マルク🦎

「ねぇ〜、子供欲しい」と素直に強請ってくる、ぎゅっと抱きついて頭を擦られまるでマーキング。「だめかー?絶対君似の可愛い子が産まれると思うんだけど」と言われると悪い気はしない。「頷いてくれたらオレ、頑張るけど」っていやらしく背中を指でつ〜っと撫でられる、絶対頷くまで離しはしない。