202年19日【秋】
広い空に秋の静かな雲が斜めに流れ、木々から舞い落ちた枯葉は風に乗り地面を転がっている。
少し風も肌寒くなってきた。
今日はお母さんとアイリスの誕生日だ。
ソール
「アイリスもお誕生日おめでとう」
アイリス
「ありがとなの!」
アスター
「おめでとう、二人とも」
アス
「お前にはまだ早いんじゃね」
アイリス
「おにいちゃんひどいの!」
アスター
「兄さん…あんまりアイリスの事虐めないであげてね」
アス
「んだよ、冗談だっての」
本当に冗談なのかわかりずらい兄さんは口をとんがらせて不機嫌な様子になってしまった。
そんな様子を微笑ましそうに眺めている両親は、食べ終えた食器をキッチンに片付けこれからデートに行くようだ。
レベッカ
「じゃぁ、出かけてくるね」
ソール
「あんま喧嘩すんなよー」
そう言ってお母さんはお父さんの腕に手を回して仲よさそうに外に出て行く、二人が喧嘩した所なんて今までの一度だって見たことがない。
アスター
「あ、そうだ。アイリス」
アイリス
「ん~?」
帽子をかぶって出かける準備をしているアイリスに声をかけ、床に片膝をつけて鞄の中から星空の砂が入った瓶を取りだしてアイリスに差し出す。
アスター
「喜んでもらえて良かった、気を付けて出かけるんだよ」
アイリス
「うん!ありがとぉ」
僕からプレゼントをもらえたからかアイリスはチラリと兄さんの方を見て少し悲しそうに睫毛を伏せた。
きっと兄さんからもプレゼントをもらいたかったのだろう。
アイリスは僕にばっかり付いて来るが本当は兄さんにも遊んでほしいし、もっとかまってほしいのだろう。
僕と遊んでいる時も兄さんの事を気にかけているし、そのことも兄さんは気づいているはずなのに気恥ずかしいのか兄さんの方を見ると目を合わせようとしてくれない。
アイリス
「へへ…」
アスター
「はぁ、兄さん。恥ずかしいのは分かるけどアイリスが可哀想だよ」
アス
「くそっ…ほらよ」
兄さんはぶっきらぼうに袋に包んでいるクッキーをアイリスの前にぶら下げる。
アイリスは目をまん丸にさせながら遠慮がちにそのクッキーを受け取って、本当に嬉しそうに笑ってみせてくれた。
アイリスはそのクッキーを大事に鞄の中にしまい、元気よく家から飛び出していく。
アスター
「兄さん…クッキー作れたんだね…」
アス
「お前は馬鹿にしてんのか!」
そう思ってしまうのも仕方ないことだ、だって兄さんは料理なんて作らないし何せそんなに上手くない。
アス
「おい、今失礼な事考えてんだろ」
アスター
「まさか!考えてないよ」
アス
「まぁ別にいいけどよ、てかお前母さんに何あげんなよ」
アスター
「えー、無難に香水?」
アス
「お前も洒落たもん渡すようになったなー」
アスター
「マルク君が色々教えてくれるからかな」
アス
「あいつ余計な事喋ってねぇだろうな…」
アスター
「余計な事って?」
アス
「いや、なんでもない。じゃ、俺も行くわ」
アスター
「うん、怪我しないでね」
アス
「俺はお前の子供かっての」
兄さんは手をひらひらとさせて颯爽とこの場から立ち去る、僕もそろそろ外に出かけようと支度を始めた。
そうだ、香水をお母さんに渡しに行かないと。
多分もうお父さんとのデートも終わっている頃だろう。
❊❊
ぶらぶらとしながらお母さんの元に向かっていくといつでも賑やかなヤーノ市場で買い物しているお母さんが見えた。
レベッカ
「あら、アスター君。どうしたの?」
レベッカ
「凄くいい匂い、私の好きな匂い」
アスター
「それなら良かった」
レベッカ
「あ、そうだった!」
お母さんは何か思い出したようにニッコリと笑っているが、その笑みはとても嫌な予感がする。
心の中でやっぱりと思わずにはいられなかった、今までどんだけお母さんから紹介されたと思ってるんだ。
レベッカ
「ソール君からアスター君の好きなタイプ教えてもらってピンときたのよ~」
お父さんめ…、と心の中で恨めしそうに呟いても届かない事はわかりきっているのに。
呟かずにはいられなかった、だって何も教えてないのに何をどうお母さんに伝えたんだよ…。
アスター
「分かった、行ってくるけど…これで最後だからね」
レベッカ
「うん!今回はお母さん自信あるわ」
ふわりと優しげに微笑むその笑顔に逆らえない、なんか許しちゃうんだよな。
多分兄さんも同じ感じなはずだ。
アスター
「はいはい…」
**
お母さんに言われるままその人の元へと案内してもらい、多分その女性だと思われる人を見つける。
本当にこの声をかける瞬間だけはなれない。
アスター
「貴方がネイディーンさんですか?」
川辺の近くにいる彼女に声をかけると驚いたように目を丸くさせて振り向く。
汚れが一切ないガラスのように透明な雰囲気を持つ。空色の髪はまるで絹のように淑やかでするりと指を潜り抜けそうだった、もっちりとした白肌に群青色の瞳は良く映える。
全体的に清楚顔立ちで静か空気の中にあどけなさを感じる。
あまりの透明感に見惚れてしまっていると彼女は不思議そうに首を傾げて一歩近寄って来る。
ネイディーン
「あの…?大丈夫ですか?」
その声で我に返って正気を取り戻す、改めて人当たりのいい笑顔を浮かべて口を開く。
アスター
「母から紹介から参りました、アスター・タナカです」
ネイディーン
「レベッカさんの息子さんですか、ふふ。じゃぁ、お友達から宜しくお願いしますね」
いつもみたいに冷たく突っぱねてしまえばいいのに咄嗟にそれが出来ないという事は、少なからず僕は彼女に惹かれているということだろう。
それに彼女からは下心のようなものは感じない、友達になっても特に害はないか。
アスター
「はい、宜しくお願いします」
挨拶を終えた僕はひとまず休憩したいと思い、家に戻ることにした。
戻る途中で兄さんの後ろ姿を見つけ、声をかける。
アスター
「兄さん!兄さんも家に帰るの?」
アス
「あ?あぁ、アスターか」
ものすごく不機嫌そうに睨み付けられ少し話しかけるのを躊躇いそうになった。
あんまりこう言うときは刺激しない方がいいことは今までで学んできたし、いらついてる時の兄さんは普通に怖い。
家に帰って休憩でもしようと思ったけど、兄さんも家に帰るみたいだし僕は違う所に避難でもしようかな。
アスター
「ぼ、僕マルク君の所行ってくるから兄さんは家でゆっくり休んで!」
それだけを言い残してさっさと兄さんの側を離れて、導きの蝶を使ってマルク君の所に案内してもらうことにした。
そうだ、お腹すいてきたし酒場にでも誘ってみようかな。
アスター
「おーい、マルク君!」
マルク
「お~、アスターか。どうした?」
酒場に向かい歩きながら雑談を繰り広げる、マルク君は歩くスピードを合わせてくれている。
マルク
「こんな時間にアスターが誘ってくるなんて珍しいね」
アスター
「うん、それがさ家に帰って休もうと思ったんだけど兄さんの機嫌がめっちゃ悪くて…」
マルク
「あ~、今日女の子に追いかけ回されてたからなぁ。仕方ない」
アスター
「兄さんってモテるのに恋人作らないよね、なんで?」
マルク
「まぁ、アスは縛られるのが嫌いだからね。結婚なんていつするか…」
アスター
「もう一生しないような気もする」
マルク
「はは、死ぬ前までには結婚しててほしいわ。ガチで」
他愛もない話をしているといつの間にか酒場の近くまで来ていて、マルク君は酒場の扉を開いて中に先に入れてくれる。
こういう紳士的な行動も女子からしたら好評だと思うのに、そういえばマルク君も恋人全然作らないな。
マルク
「ん?どうした?」
アスター
「なんでもない」
顔をじっと見つめていたら不思議に思ったマルク君は首を傾げる、適当に空いてる席を見つけて座り料理を注文し届くのを待つ。
ウィアラさんの酒場は料理も美味しいのに提供する時間も早くて街の中でもとても人気の酒場だ。
アスター
「夏も終わってしのぎやすくなってきたね」
マルク
「塩焼きならムタンも欠かせないよなぁ」
マルク
「そうだ、アスターの親父さんなら持ってんじゃない?分けてもらったら?」
アスター
「じゃぁ、実ったら作ってあげるから家に遊びに来てよ」
マルク
「お、流石アスター。楽しみにしてるぜ」
料理を食べ終えた僕たちは酒場の外へと出る、ちょうどいい気温の風が頬を撫で少し気持ちいい。
アスター
「ついでに兄さんの機嫌も直してくれると助かるけど」
マルク
「善処します…」
こうして僕たちは家に向かうことになった、家の玄関を開けると静かで寝室の方を覗いてみると兄さんは穏やかな表情ですやすやと眠っている。
マルク君は眠っている兄さんの顔を覗き込みまじまじと見つめた。
マルク
「ほんと、綺麗な顔してるよなぁ。こうしてみると、アスターもだけど」
アスター
「ありがとう、僕はマルク君の顔も好きだよ」
マルク
「はは、そりゃどーも」
ティーカップを棚から取り出し紅茶を注ぐ、お菓子が欲しくなるようないい匂いが鼻腔を擽る。
カップをテーブルに置き、椅子に座るとマルク君もこちらに来て腰をかけ紅茶を口へと運ぶ。
マルク
「明日は星の日か~、フワ虫が綺麗でオレ好きなんだよなぁ」
アスター
「お菓子も用意しないと泥団子投げつけられるよ」
マルク
「まじで容赦ない子供いるよな」
アスター
「それもいいね、ならべく子供が来ないところで」
マルク
「お前って結構毒舌っていうか、はっきり言うよな…」
アスター
「そうかな?」
そんな話をしていると玄関の方から扉の開く音が聞こえてくる、誰か帰ってきたのかと目線を移すと姉さんがひょこっと顔を覗かせた。
イベリス
「あ、良かったアスター君いた」
姉さんはほっと安心したように柔らかい表情を見せ、マルク君の方を見直して声をかける。
イベリス
「マルク君もこんにちは」
マルク
「こんちは、相変わらずお綺麗っすね」
イベリス
「ふふ、ありがとう」
姉さんは鞄の中からお菓子を取りだし、僕に差し出してくる。
微かに知っている野菜の匂いが漂う。
アスター
「この匂いは…パチャ?」
イベリス
「あ!分かった?そうなの、畑で採れたからパイにしてみたんだ~」
マルク
「すげー、美味しそう」
イベリス
「良かったら皆で食べてね」
アスター
「うん、ありがとう」
姉さんはこれだけを渡しに来たようですぐに帰ってしまった、僕は貰ったパチャパイを切り分けお皿に移す。
マルク君は美味しそうにパイを口に運び嬉しそうに食べている。
僕も甘いものが好きだから、こうやってお菓子を分けてくれるのは物凄く嬉しい。
お菓子を食べ終えたマルク君はそろそろお暇するといって自分の家に帰っていった、その少しした後に兄さんが目を覚ましキッチンの方へと顔を出す。
アス
「くぁ〜…、腹減った」
アスター
「おはよう、さっき姉さんがパチャパイ持ってきてくれたんだけど食べる?」
アス
「甘ったるい?」
アスター
「兄さんでも食べれる甘さだと思うよ」
アス
「じゃぁ食う」
椅子に座った兄さんの目の前に切り分けたパイを置くとパクパクと手を進んでいるところを見るとどうやら口に合ったようだ。
ソール
「ただいま~。ん、なんかいい匂いがする」
時刻はもう夜で段々と家族が帰ってくる、お父さんは身にまとった鎧を脱ぎキッチンに近寄ってきた。
黙々と食べている兄さんの隣に腰をかけるからお父さんにも同じようにパイを渡す。
ソール
「お、美味しい。これイベリスが作った?」
アスター
「うん、よく分かったね」
ソール
「味付けに人柄が出るからなんとなくね」
アス
「ご馳走さん、アスターお皿洗っていて」
兄さんは綺麗に食べたお皿を僕の横に置いてさっさと寝室の方へと戻っていく、お皿を洗っていると食べ終えたお父さんが隣に並んで水滴の付いたお皿を拭いてくれてた。
ソール
「アスター、なんか今日良いことあった?」
お父さんにそう言われ少しドキッと嫌な鼓動が響く、お父さんと目が合うといつもの糸目から微かに覗き見るバグウェルと同じ黄色の眼光が僕の目線を逸らさせてはくれない。
アスター
「あ、うん…。今日お母さんに紹介してもらった女の子がいたんだけど、少し気になってて…」
ソール
「そっか!ようやく気になる子見つけたんだなぁ、良かったね」
お父さんは僕の頭を優しく撫でる、その時の表情がとても嬉しそうでなぜか少し恥ずかしかった。
たまに感じるあの目に僕は違和感を覚えていた、それを聞いて良いのか今まで分からなかったけど…聞くなら今しかない。
アスター
「あの、さ…お父さん」
ソール
「ん?どうした?」
アスター
「お父さんってなんか不思議な力でも持ってるの?」
ソール
「なんでそう思ったの?」
お父さんは僕を別に責めるわけでもなくただいつも通りに問いかけてくる。
アスター
「なんか、上手く言葉に出来ないんだけど…その目?がたまに怖いっていうか」
ソール
「……」
お父さんからの返答はなく少しの沈黙が続く、やっぱり聞いちゃいけなかったのかと顔をあげると怖い顔でもしてるのかと思ったがそうではなく、何かを考え込むような表情だった。
アスター
「お父さん?」
ソール
「あいや、ごめん。ちょっと考えてた、そうだね。いつか話さないといけない事だろうし、でももう少し待ってくれるか?」
アスター
「うん、分かった」
ソール
「ごめんな」
怒られることもなくその時の会話は終わり、その後はまだ何か考えてる様子だったけどお母さんが帰ってきたらいつものお父さんになっていた。
アイリス
「おにいちゃん、いっしょに寝るの!」
アスター
「いいよ、もうお布団被ろうね」
アイリス
「うん!おやすみなの!」
アイリスはベッドに横になると眠かったのかすぐに眠りについていた、トントンと背中を叩いていた手をやめて仰向けになる。
今日は色んな事があったから少し疲れた…、明日は兄さんとどっか出かけられるかな。
頭の中で思考を巡らせるが眠気でどんどんと意識が遠のいていった。
【エルネアプラス】
【浮気しないでねって言った時の反応】
アスター🦩
「する訳ないよ、何か不安な事があるの?」とちゃんとしない事を伝え更に今現在そう言うってことは何か不安があるのかと不安を取り除こうとしてくれる、🦩の人柄上浮気する訳ないって信頼を寄せているから『冗談よ』とおちゃらけで笑うのだった。
アス🦭
🦭は心底どうでもいいように溜息を着く、嫁を手招きして近付くとベッドに押し倒される。「それはお前次第」といつもの口癖、例え浮気されても最終的に🦭が帰って来る居場所は自分だと信じて疑わない嫁は過程などどうでもいい、結果が全て。「でも、お前も浮気しないなら俺もしないでいてやるよ」だって今🦭のそばにいるのは自分だから。
マルク🦎
「えっ…オレって浮気するように見える?」とショックを受けている様子。「オレ、結構遊んでたけど本当はずっと君だけが好きだったよ」とまるで捨て犬のように縋ってくるその姿と恋人になってからの対応を見れば浮気しないなんて分かってるから『あは!知ってる!』と笑う。