自転車で帰宅する途中、まさかのチェーンが外れてしまった。

 

これは困った・・・

 

田中はブログやtwitter、SNSを駆使して、いかにも自転車男子っぷりをPRしているが、

実のところ、自分でパンク修理もできないから、当然チェーンなんぞも自分でハメることもできない。

なんにもできないんである。

 

さあ、

手には先ほど買った買い物袋。

家に帰って一杯やろうと思っていた小いわしのてんぷらと、キンキンに冷えた悪魔的ビール。

その他、納豆やキムチやら、冷蔵保存しないとまずいものばかりなのである。

 

弱った弱った・・・

 

 

家までは1km超あるし、

ダッシュで押しながら帰るか。

絶望に打ちひしがれながら目の前を見ると自転車屋の看板が。

 

僥倖僥倖、なんたる僥倖ッ

 

わらをもすがる思いを胸に、店内に駆け込むと、

80過ぎくらいの小さなおじいちゃん店主が。

 

「お?チェーンか?」と言うや、

 

田中と自転車を交互に一瞥するや、そこに置けと指示した。

 

 

 

 

よっと

 

はっと

 

・・・ほんとにこんなこと言いながら、使い古されたゴム手袋とともに、すいすいチェーンを繰っていく。

モノの意識だけは高い田中の自転車は、ドイツ製のクロスバイク。

申し訳ないが、おじいちゃんにこのドイツの魔物(※部品交換が、輸入するために時間がかかるなど、いろいろと不便)を操ることはできるのだろうかと、正直そんなことを思っていた矢先、

 

「ほい、できたで」

 

ものの2分もかからずに、見事に自転車を直してくださった。

 

 

「ありがとうございます。お代は?」

 

「いらんよ。乗ってけ」

 

「でも」

 

「いいから」

 

 

男は一顧だにせず、背中のまま店の奥に引っ込んで行った。

 

 

かっこいい。

こんな男になりたい。

こんな大人になるべきだと、

おじいちゃんは語らずとも田中に人生訓のようなものを教えてくれた気がした。

 

 

 

おかげで、買い物した惣菜もダメにならずに済んだ。

この日の夜は、おじいさんと一緒に一杯やりたい、そんな気分だった。