「人間ゆうのは、記憶を燃料にして生きていくものなんやないのかな。
 その記憶が現実的に大事なものかどうかなんて、生命の維持にとっては別にどうでもええことみたい。
 ただの燃料やねん」

「もしそういう燃料が私になかったとしたら、もし記憶の引き出しみたいなものが自分の中になかったとしたら、
 私はとうの昔にぽきんと二つに折れてたと思う。」

「いろんな記憶を時に応じてぼちぼちと引き出していけるから、
 こんな悪夢みたいな生活を続けていても、それなりに生き続けていけるんよ。
 もうあかん、もうこれ以上やれんと思っても、なんとかそこを乗り越えていけるんよ。」

                            『アフターダーク』/村上春樹


何かから逃げ、コオロギという偽名を名乗る女性の言葉。
この小説で伝わってきたのは、この言葉に要約されてると思う。

人が、自分の都合のいいように記憶を変えてしまうことがあったり、
嫌なことはすぐ忘れようとしたり、過去の記憶はやたら輝いて感じたり、
そういうのはきっと、生きていくために備わった知恵みたいなものなのかもしれない。

記憶をたどって、思い出される心象。
…。

今となっては全部全部、いとおしい。
本当はもっともっと、思い出したいのに。
なんだかもどかしいよ。