奇跡のような旅
いまだに、一コマ一コマを毎日のように想い出し主人と話をしています
アレクサンダー・ガジェヴ
カレイドスコープ
第18回ショパン国際ピアノコンクール第2位入賞。注目のピアニストが東京オペラシティで室内楽とリサイタルを披露します。
高坂はる香(音楽ライター)
アレクサンダー・ガジェヴは、音楽をライヴで聴く意味を改めて実感させてくれるピアニストだ。予定調和はありえない。事前にあれこれアイデアを練り上げながらも、ひとたびステージに出ると、ひらめきを大切にその場の感覚で音楽を生み出していく。
1994年、スロベニアとの国境にあるイタリアの街ゴリツィアで、ピアノ教育者の両親のもと生まれた。子供の頃は活発で、“ピアノの前に座って1時間練習することなど不可能”だったという。やがて13歳で初めて舞台に立ったことをきっかけにピアノを真剣に学び始めたが、ザルツブルクモーツァルテウムに入学する19歳までは理系の道も選択肢にあるなど、さまざまな学問に関心を持っていたそうだ。
日本のピアノファンの間でその名が知られたのは、2015年、20歳で浜松国際ピアノコンクールに優勝したときのこと。その後、学びの場をベルリンに移し、2021年にはショパン国際ピアノコンクールで第2位に入賞を果たして、世界的なキャリアを切り拓いた。
ガジェヴの知性と旺盛な好奇心は、演奏活動のあり方にもよく現れている。東京オペラシティコンサートホールは彼のお気に入りの会場だそうで、これまでにも何度かリサイタルを行っているが、その中で、開演前、聴衆に2分間の静寂を味わってもらう時間を設けたことがあった。常にあれこれ考えて脳をフル回転させている彼は、頭の中をクリアにする時間をとるため日常的に瞑想を取り入れているそうだが、その機会を聴衆にも提供する斬新な試み。耳が開かれる感覚を味わわせてくれた。
ひらめいたら実行に移す。そのスタンスは演奏の最中でももちろん変わらず、その場で湧き起こるインスピレーションに従って音を奏でずにいられない。そうして生み出される一期一会の音楽が、前述の“演奏をライヴで聴く意味”を感じさせてくれるのだ。
今回の2夜にわたる〈カレイドスコープ〉と題した演奏会には、そんなガジェヴらしい、彼の頭の中に渦巻く空想を形にしたかのような企画が揃った。
第1夜 室内楽~世界で輝く俊英とともにでは、4手連弾、2台ピアノと打楽器、ピアノトリオという多様な編成によるアンサンブルを披露する。共演する面々はガジェヴと旧知の仲の友人たちばかりだから、彼が本番でリハーサル通りの演奏などしないことは想定済みだろう。それにどう応答し、どんなやり取りを繰り広げるのだろうか(ちなみに今回の2台ピアノの共演者でガジェヴの盟友である三浦謙司は、以前彼の印象を「とても知的なのに子供っぽいところもある人。おじいさんと子供が共存しているよう」と語っていたが、これは本当にぴったりの表現だ)。
そして第2夜のリサイタルは、異なるメーカーの5台のピアノを弾き比べるという内容。プログラムは、プレイエルによるショパンや、ベーゼンドルファーによるベートーヴェン、カワイやスタインウェイで弾くさまざまな作品、ファツィオリによる武満や即興を予定。それぞれの音色の違いや、楽器との相性でどのように美点が際立つのかを聴き比べることができる。ガジェヴは「こんなリサイタルが実現できるなんて人生のなかでも夢のような時間」だと話していたが、実際、そうそうできる機会のない贅沢な企画だ。
ガジェヴ自身、大変楽しみにしているという今回のチャレンジ。次に何が起きるかわからない、自由で刺激的な彼の音楽を耳にするべく、ホールに足を運びたい。
是非多くの方に聴いて頂きたいと思います🎹💞
あと3週間で始まります![]()
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