五十九、子供父さん『山に登る』の巻 
                                           怖い夜編
           

この物語は、私の子供たちが小さいころに、
寝物語に話した物です。思い出したので書い
てみました。コメント等ありましたら、遠慮
なくお寄せください。お待ちしております。
           
信くんが言いました。      
『今日は、余り怖くないお話が良いな~。』
お姉ちゃんが言いました。    
『そーだねー。』      
父さんが言いました。      
『じゃあ、そんな話をします。』  
そう言うと、父さんは、話し始めました。
           
 子供父さんが、登った山には、高い山もあ
れば、低い山もありました。それぞれに、楽
しむ事が、出来ました。    
 まず低い山から、楽しみ方を、話しますね。
低い山には、日帰りで行けるので、たくさん
行けます。なので、色々な楽しみ方が有りま
した。一つは、色々な花や、植物が楽しめる
事です。その中には、食べられる物も、多く。
余計に楽しみです。      
 例えば、木の実、クルミや山なし、山ブド
ウ、色々な木イチゴなんかも、ありますね。
木イチゴは、種類が多く、少しづつ、季節も
ずれるので、楽しみが、特に多いです。
 春には、『蛇イチゴ、』これは余り、おい
しくありません。『なわしろイチゴ、』これ
は、粒が小さくて、集めるのが大変です。『
かえでイチゴ、』これは、大粒で、甘くてお
いしいです。『クマイチゴ、』これは、大き
くて、とても甘いですが、枝にとげが有り、
採りにくいです。『エビガライチゴ、』これ
は、枝の先の方に、まとまって、実るので、
採りやすいですが、根元の方から順番に熟す
ので、一度には採れません。他にも、『冬イ
チゴ』やなんかがありますね。  
 少し高い山には、『こけもも』と言う、小
さな実を付ける、植物が有ります、これは、
こけみたいな、小さな草に、小さな、甘酸っ
ぱい、実を付けます。野ウサギ何かの、大好
物です。その他にも、水辺に有る、野生のワ
サビや、フキ、セリやクレソンなんかも、生
えていましたね。      
 他にも、キノコなんかを、採りましたが、
地元の人に、教わりながら、とるので、聞い
た事のない、キノコを採り、恐る恐る、食べ
たのを、覚えています。例えば、地ゴボウ、
柳タケ、野生のしいたけや、ナメコ、珍しい
ところでは、はなびらたけだね。そんなキノ
コをつんで、皆一緒に煮て、さあどうぞとい
言われた時の。ドキドキ感は、今でも、忘れ
た事は、ありません。      
 そうそう、特に野生のはなびらタケは貴重
で、なかなか、みつかりません。とても覚え
やすい、花びらみたいな形を、しているので、
すぐに分ります。あとで、探して見つけて、
念の為、地元の人に確かめて、間違いない事
を、確認してから、食べました。でも、後で
聞いたら、野生のはなびらタケは、とても貴
重で、市場に持っていけば、あの大きさでは、
数万円はしたと、聞いて驚いたのを、覚えて
います。まっそんなことは、どうでもよいで
すけれどね。        
 高い山の方には、そんなに、たくさんの植
物は、ありません。でも、高い山にしか、生
えていない、高山植物、と言うのがあります。
前にも話したように。高い山にしかいない、
高山チョウと言うのも、居ますから、高い山
も良いです。こちらの方は、食べられる物と
言えば、さっき書いた、こけもも位ですね。
 山に登ると、高さによって、少しづつ、植
物、草や木などの、生えている様子が、変わ
ってきます。難しい言葉では、『植生の垂直
変化』と言います。簡単に言うと、段々高く
なると、生えている草木が変わります、と言
う事ですね。        
 暖かいところに、生えている、草木が、あ
るところから、始まり。少し高くなると、寒
いところでも、大丈夫な草木に変わります。
さらに、その上に行くと、木が生える事が出
来る、ぎりぎりの所に出ます。そこより上に
は、草だけしか、生えていません。難しい言
葉では、『森林限界』と言います。  
 森を抜けて、草はらになる前に、少しだけ、
面白い場所が有ります。寒さに、強い松の木
だけが、生えているんです。けれど、寒さと、
風の強さ、なんかのせいで、背が、高く伸び
ないで、地面を這うように、伸びているんで
す。そんな、所があります。松の木が、這う
ように、生えているので、這松と言います。
そのような場所を、難しい言葉では、『這松
帯』と、言います。      
 ある時、子供父さん達は、高い山に登りま
した。下界では、晴れていたのに、急に天気
が、悪くなり、山登りを止めて、帰ろうか、
とも思いましたが、やがて、天気は回復しま
した。でも、雨と、滑りやすい、道のせいで、
時間が、多くかかって、しまいました。予定
では、山頂の、向こう側の、山小屋まで、行
くつもりでした。でも、日が暮れ始めたので、
這松の所で、緊急に宿泊(ビバークと言いま
す)をすることに、しました。  
 周りを見回すと、這松の中に、ポッカリと、
ポケットの様に、開けた場所がありました。
ちょうど、風もよけられるので、そこに、テ
ントを、張る事にしました。緊急用のテント
なので、うすい生地で、なんとなく、頼りな
いですが、そこに、泊るしか、ありません。
 いつも泊る、出来あがっている、テントサ
イトでは、隣近所に、多くのテントが、有り
ます。だから、淋しくは無いんです。ですが、
今回は、山の中、這松の、ポケットに、テン
トを張るので、周りには、誰も居ません。
 日暮れ前に、簡単に食事を済ませて、寝袋
に入り、横になります。緊張していて、なか
なか、眠れません。ふと、登山口の所に、書
いてあった、掲示板を、思い出しました。『
何日か前にクマが出たので、ご注意ください
!!』と書いてあったんです。  
 それを思い出してから、更に眠れなくなり
ました。風がテントの周りを吹き流れます。
その流れの音が、クマが、動き回る音に感じ
ます。テントの周りを、ぐるぐると、回って
いる様な、気がするから不思議です。怖さで、
子供父さんは、まんじりとも、出来ません。
 やがて、周りが明るくなり、朝が、やって
きました。ゆっくりと、テントを開き外の様
子を覗います。何とも無いようです。体の大
きなクマが、本当に、テントの周りを、移動
していたなら、松の枝が、折れたりしている、
はずですが、なんとも、ありません。  
 子供父さんは、安心すると、急に、眠くな
りましたが、もう朝です。山を超えて、今日
は、家に帰る日です。とぼとぼと、テントを
畳み、食事を済ませて。這松帯を抜けて、山
小屋で休憩して、家路につきました。  
今日のお話は、これでお終いです。  
           
信くんが言いました。      
『クマが、出なくて良かったね!』  
お姉ちゃんが言いました。    
『でも、眠かったんだよね。』  
父さんが言いました。      
『そんな時に、トカゲをすると、  
 寝過してしまうんで、危ないんだ。』
           
おやすみ、ナスビに、キュウリに、トマト。