『摂州合邦辻』歌舞伎座團菊祭昼の部 2015年5月 | はじめての歌舞伎!byたむお

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東蔵さんの、母おとく。

義太夫狂言の台詞回しも、こってり感たっぷり。
義理か人情かと言えば、人情。
娘を思う気持ちが伝わってきます。

それに対して、歌六さんの、父合邦。

力強い早口の台詞は自分に言い聞かせているようでもあって写実的。
義理か人情かと言えば、義理。
もちろん義理を立てねばならぬが・・・
わが子を思う心は伝わってきました。
その心で、不義密通を犯したわが子を
「親が手にかけ殺さにゃならぬ。」
絞り出すような台詞。


浅香姫の尾上右近さん、

す~んごい綺麗そして、薄倖オーラ全開。
きっちり芝居の悲劇性を高めました。


俊徳丸さんは梅枝さん。

以前見たときは時蔵さんの俊徳丸だったので、
きっちり教わったのだろうなという印象。
高貴なお方、ナヨナヨ系男子。


それにしても、立ち役も女形もできる人材が豊富な音羽屋劇団。
配役のバリエーションがいろいろあって楽しませてもらえますね。



そしてそしての玉手御前は、菊ちゃん。

あまりにも素敵なKYっぷり。
KY(空気読めない)じゃなくて、
KY(空気読もうという気がさらさらない)です。

「死ぬのはいやぢゃいなあ。」

「いやぢゃ、いやぢゃ。わしゃ、尼になるのもいやぢゃいなあ。」

生きるか死ぬかという瀬戸際で、

「せっかく艶(つや)良う梳き込んだこの黒髪が、
どうむごたらしく剃らりょうもの」

髪の毛の心配です。

コノヒトナンカオカシイワ・・・・

それではストーリー解説。

このバタバタ騒動ですが、
お嫁にいった菊ちゃん、玉手御前は、
ダーリンの子供A(兄:養子)、B(弟:前妻との子)のうちのB、
俊徳丸さん(梅枝さん)に惚れてしまいました。
お母さん、義理の息子にラブラブテンプテーション。

コノヒトチョットヤヴァイ・・・・

その息子B、俊徳丸さんは浅香姫(尾上右近さん)という
婚約者もいるんですが、それでも気にしません。
そして、俊徳丸&浅香姫はこの合邦&おとくの家にかくまわれています。
しかし、玉手ちゃん実家に帰ってきちゃいました。
実は隠れているのではと疑って戻って来たのです。


コノヒトカナリヒツコイ・・・・


俊徳丸と浅香姫が自分たちの境遇を嘆いているところをロックオン。
後ろからドドドと登場して、お前はどけ!と浅香姫を突き倒し、
俊徳丸に

「ああなつかしい、俊徳丸様。お前に会う為にいろいろと苦労したのよ。
でも素敵な姿を見れて良かったわ。ウフッ。」

俊徳丸さん、
「あんたは恋人じゃなく母親でしょ。」
「私は病気にかかってしまい、顔が腫れて目が見えなくなっちゃいました。
こんな浅ましい姿なら嫌いになったでしょう。」

と逆セクハラオカンをある程度無難に遠ざけようとしますが、

玉手ちゃん
「何言ってるの。あなたが見にくい姿になるように、
この前お酒と見せかけて私が毒を飲ませたのよ。
そしたら、その浅香姫があなたのこと嫌いになって
ちょうどいいかなって思って、
あっ、あたしはもちろん普通のお酒飲んだけどね。
 (・ω<) てへぺろ」

コノヒトイッタイナンナンダ・・・・

もう、無茶苦茶ですわ。

毒酒を呑ませた鮑(アワビ)の盃を取り出してニンマリ。

「いつかのアワビの片思い、叶えてみせるわっ」

と身を寄せます。


なんと!病気にかかったと思ったら、毒を飲まされた。
しかもなんちゅう理由やねん。
俊徳丸はちゃぶ台ひっくり返すどころか、
胸ぐら掴んでこのBOKEEEEE!
と叫ぶくらいの気持ちでしょうが、
そこはやはりええとこのボンボン、
義理とはいえ、母に手を上げるなんてことはできず、
なんて不幸な我が身の上・・・と落ち込んじゃいます。

替わりに怒り爆発の浅香姫ちゃん、
うちのダーリンに何してくれんの!
母親が息子を誘惑して、しかもあんな顔にして!
元に戻しなさいよ!

ここからが迫力、我が道を行く唯我独尊系女子の玉手ちゃん

「人の道だろうが、法だろうが聞く耳は持ってないわ。
そこんとこ夜露死苦。
だって、あたし、恋しちゃったからね。
邪魔する奴は、蹴殺すぞ~!!!」

髪を逆立て、懐剣を振り上げて舞台中央での御乱行!
俊徳丸は倒れ、浅香姫は海老反りにきまります。

壮絶。
美しいけど、怖すぎ。
サイコホラーな菊之助さん

あまりにも人の道に反した、
暴走ラブモンスター
誰も止められません!

と、思ったら、奥の部屋からドドドドッと、
合邦(歌六さん)登場、と思ったら一気にグサリ。

仏に仕える身なのでここ十年間は蚤一匹すら殺したことがなかった。
しかしながら人の命をってだけでも大問題ですが、
苦悩の末、実の娘を手にかけます。
「これが坊主のあろうことか・・・」

こんなものわかりの悪い娘、
生かしておいても不義理、迷惑の掛け倒しだ。
自分も一緒に無間地獄の釜焦げの苦しみを味わう覚悟です。

◆ 歌舞伎用語「モドリ」、
悪い人だと思っていたら、突然いい人に戻ること。
『義経千本桜 すし屋』のいがみの権太とかが有名ですね。

台風の目、さんざん引っ掻き回してきた、玉手ちゃん、

「おお、道理ぢゃ。憎いはず。が、これには深い様子があること。」

そうして、これまでのいきさつを語り始めます。
刺されてから死ぬまでが長いのは歌舞伎のお約束ですね。

玉手ちゃんのダーリンは実の子である子供B、
俊徳丸さんに家を継がせようと考えてます。
それを知った子供Aは、B(俊徳丸)を殺そうと企んでいたのでした。

それを知った玉手ちゃん、義理の息子と言っても、わが子。
俊徳丸が殺されることのないよう病気にさせてしまい、
それによって、子供Aの「弟殺しちゃえyo! 作戦」を断念させようとしたのだ、
と語ります。

「だったら、Aの悪だくみを父親に告げたらいいだろ」と
当然のツッコミが入るんですが、

子供Aだって、私の子ということになるし、
その悪だくみを知ったらダーリンは厳しい方だから、
子供Aを切腹させるかお手打ちにするかどちらか。
子供Aも子供Bもどちらも私の義理の息子。
どちらも殺されるようなことがあってはなりません。
亡くなった前妻(B、俊徳丸のママン)もあの世で悲しむでしょう。
不義者と噂され、悪人になっても、二人を助けることにしたのです。

さらに、合邦のツッコミがはいります。
「じゃあ、しつこく俊徳丸様をここまで追いかけてきたのはなんでじゃ。」

そこで、ザ・歌舞伎な展開。

「私は、寅の年、寅の月、寅の日、寅の刻の生まれ。(参考記事
寅ぞろいで誕生した女の肝臓の生き血を、
毒を盛った盃で飲むとその病気はたちまち治るという言い伝えがあるんです。
だから、鮑の盃をもって、俊徳丸様を追いかけてきたんです。」

「さあ、父上。お別れの時です。
刀を抜いて下さい、そして私の血を・・・」


娘の心、まさに貞女の鑑と感動していた合邦さんですから、
自分の娘のとどめをさすことはできません。

お屋敷に仕えている、奴の入平(巳之助さん)に頼みます。
突然の無茶ぶり(代わりに娘にトドメさして)に
「こりゃ迷惑千万。主人同様の玉手様にどうして刃を当てられましょう。」

あたふた男性陣をよそに玉手ちゃん、
自分で刀を抜いちゃって、血を鮑の盃に入れます。
俊徳丸さん、さっきまで顔が腫れていたのに、
一口飲むとたちまち、まるで歌舞伎役者の中村梅枝みたいなビューティーフェイスに!
池に映る自分の顔を見て、目が見えるようになった&顔の腫れがなくなった、
ダブルのサプライズです。

そのことを確認して安堵、
意識が遠のいていく玉手ちゃん。

俊徳丸は実の母にもまさる義母のお慈悲をと感謝して、
玉手ちゃんを弔うため寺院を建てることを誓います。

父の合邦は鐘を叩いて、南無阿弥陀仏と唱え、
母、浅香姫、奴入平も玉手ちゃんの冥福を祈るのでした。





幕間は



基本に忠実にカレー。




何事も基本が大事ということで、
トッピングはハンバーグに。