たむお現代語訳『一谷嫩軍記』3-3熊谷桜の段(その2) | はじめての歌舞伎!byたむお

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たむお現代語訳 『一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)』



登場人物紹介

 相模さん

「母をたずねて三千里」じゃなくて、
「何千里もたずねて来た母」です。
息子の小次郎さんの安否が気になってるんですが。


   藤 の 方 ふじのかた 

息子を訪ねて一人で爆走、源氏に追われ逃避行中の母。
息子の敦盛卿を討ったのは、なんと相模の夫、
熊谷直実でした。

軍次
今回も偉い人達に囲まれて、イタバサミです。。。

  梶原景高さん
源氏の武将。義経さんのライバル。
ちなみに「義経千本桜」の「すし屋」で出てくるのは梶原景時さん。
景高さんのお父さんです。

 弥陀六さん

石塔を建てて供養するのが大好きという、
ちょっと変ったおじいさん。
御影の里で藤の方をかくまったんですが、
その藤の方が逃げて来ているということは、いったい???

  敦盛卿
本人のいないところで話は進んでいます。

 熊谷次郎直実さん
本人のいないところで「殺す、助太刀しろ」なんてことになってます。

 

 そんじゃ、

たむお訳

と~ざ~い、と~ざい。

◆ 熊谷桜の段(その2)



  藤 の 方 ふじのかた 

「では、その恩を忘れてないというなら、助太刀してお前の夫の熊谷を私に討たしてくれ。」


 相模さん
「ええっ、そりゃ一体なんでまた。何のお恨みがあるんですか。」

  藤 の 方 ふじのかた 
「それは、先ほども話した院の血をひく無官の太夫敦盛を、お前の夫の熊谷が討ったからなの。」


 相模さん「ええ、そりゃまあ、本当ですか。」

  藤 の 方 ふじのかた 「むむむ。お前は何にも知らないのか。」

 相模さん
「はい。はるばると東より、たったいま到着したばかり。
今のお話を聞いて本当にびっくりしています。
やがて夫が帰りますので、その時に訪ねましょう。
それまで、はやまったことはなさりませぬよう。」

と、丁寧に説明して、なだめているところで、今度は表から、

「梶原平次景高、用があって参った。」

と、呼ぶ声が聞こえます。

 相模さん
「やあ、なに源氏方の梶原ですと。見付けられてはあなた様が(平家方ですから)大変です。こちらへお隠れください。」

と藤の方の手を取って、奥の部屋に一緒に入ります。


ほどなく入って来るのは  梶原平次景高さん。
横柄な顔つきもパワーアップしている、憎たらしいキャラ。
挨拶もしないでどっかりと座に付きます。

熊谷直実の家来の堤軍次が立ち出でて、

軍次
「今日は主人の熊谷直実は朝廷に参じています。御用があるならば私におっしゃって下さい。」

と、頭を下げますが、梶原景高さんは、

  梶原景高さん
「なに、熊谷殿は外出であるか。それ家来ども。その石屋の親爺めを引っ立てて来い。」

と命じます。家来は

「はは~っ。」

と答えて、何も悪いことはしていない白毫の弥陀六さんを、
梶原景高さんの前に連れてきて座らせます。

  梶原景高さん
「やい、なまくら親爺め、おのれ何者に頼まれ、敦盛の石塔を建てたのだ。
平家は残らず瀬戸内海へ逃げ下ったから、平家の者で石塔を誂える者はいないはずだ。
俺の予想では源氏の二股武士が、頼んだのに違いはあるまい。
さあ、素直にに白状しろ。
嘘をついたら、どろどろに溶かした鉛を背骨を割って流し込むぞ。」

と、脅しても弥陀六さんは正直一辺倒です。

 弥陀六さん
「さてもさても御無理な御詮議です。
先ほども申した通りで、石塔を注文したのは平敦盛さんの幽霊です。

五輪の塔のことはさておき、一厘も手付けは取ってなくて、
建て終わったらそのままいなくなって、
まるで石塔の食い逃げみたいなもんです。

せめてヒトダマでも手付けに取ったら、小提灯の代わりにできたんですがねえ。
冥途にまで請求書は出せませんから、まさにこれが 損しょう菩提(尊聖菩提とのシャレ)

有りのままに申し上げましたよ。この通りでござりまする。」

と、どうやら何も隠してはいないようです。

軍次
「ああ、これでは何おっしゃっても、ぬかに釘だ。」

と、軍次は言います。それを聞いて梶原景高さんは悪智恵を思いつきます。

  梶原景高さん
「石塔を建てさせた者もだいたいの見当はついている。
熊谷が戻ってきたら、まとめて詮議してやろう。
まずは、その親爺を引っ立てて来い。」

と、奥の一間へ入っていきます。
家来どもも、石屋の親爺をむりやりに引っ張って奥へ連れて行くのでした。

                           (「熊谷桜の段」終了)

ということで、源氏の軍勢、梶原景高さんに追われていた藤の方、
そして藤の方をかくまったのが、石材屋の親爺の弥陀六(みだろく)さん。
きれいに逃げきった、な~んてことはありませんでした。

おそらく、かくまった弥陀六さんは捕らえられて、
藤の方にも追っ手が尾行して来たのでしょうか。
逃げることは逃げた平家の藤の方ですが、
逃げ込んだのが源氏の熊谷さんの陣屋でした。

しかも、熊谷さんが信頼する源義経さんとは梶原さん仲が悪いし、
熊谷さんも梶原さんの家来の平山武者所と仲が悪いので、
もう一触即発のはず。

そろそろ熊谷さんが自分の陣屋(いくさのベースキャンプですな)に戻ってきます。

相模さんと軍次さんの二人が待っていると見える陣屋ですが、
その奥に藤の方、弥陀六さん、梶原さんが隠れているんですね。

(実はさらに、義経&四天王も隠れてるということが後からわかります。)



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床本は、豊竹咲穂大夫さんのホームページにあるものを参考にしました。

ありがとうございます。

イラストは、クリップアートファクトリーさん http://www.printout.jp/clipart/index.html
のお世話になりました。
ありがとうございます。


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