たむお現代語訳『一谷嫩軍記』1−1堀川御所の段(その2) | はじめての歌舞伎!byたむお

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和歌の心も理解する万能タイプの義経さん、
そのもとに現われたのは、熊谷次郎直実さん。
どうやら、源頼朝さんからの命令をもって駆けつけたようです。


今回の登場人物紹介

 熊谷次郎直実さん

熊谷(今の埼玉県)の武将。
義経軍として、一の谷の合戦では大活躍。
話しぶりからは熱血タイプ。
暑い地の熊谷に熱い血の熊谷直実あり。

 源義経さん
世の中の全てを見通す知将。
こちらはクールな若武者。
平家との戦いは現在休戦中。
京都でバカンスしてるの?

    平 時忠たいらのときただ さん
平氏ではあるが、源氏の味方をしているキャラ。
いったい何が狙いなのか?

 卿の君きょうのきみ さん
 平時忠さんの長女で、源義経さんの妻になった。
クールな義経さんにラブラブ。
でも「たまには情熱的に
」なんて考えてるかも。


弁慶さん
名前だけ登場。
歌舞伎では義経四天王は出番が有るのに
自分は出番がないのでひがんでいる。


 

それでは

たむお訳


と~ざい。と~ざい。

◆ 序幕 堀川御所の段(その2)


さらには別の使者がやってきました。

東国の武将である、岡部六弥太さんと熊谷直実さんの二人が
頼朝からの伝令をもってやって来ました。

「西国に攻め入らずに、なにをぐずぐずしてるんだ。一日も早く出陣せよ。」

という内容の手紙を岡部さんが差し出します。

熊谷さんは、
 「義経公はご存じないでしょうが、鎌倉にはあなたのことを
      頼朝公に悪くいいつける武将が多くいます。
      一日も早くご出陣なされたほうがよろしいでしょう。」

と告げ、そのまま戦いに加わる予定です。

すると大将の義経さんは、
  「それももっともだ。しかし、完全な勝利というのは
       遠くからこちらの作戦を
完全に相手の周りにめぐらせるような
       勝ち方なのに。

      この義経がゆっくりしているのは、急いで攻め入ってしまい、
      安徳天皇が所持している三種の神器を都に渡すものかと考えて、
      外国にもって逃げたり、海の底に沈めてしまったら、
      日本は真っ暗闇になるからなのだ。

      そうなってはまずいと、
ここにおられる、
      いくさを好まない平時忠さんと縁戚関係を結び、
      時忠さんに頼んだおかげで、勾玉と鏡は手に入れられた。
      三種の神器の残りの剣を手に入れるための地図までも
      手に入れたというのに。」



(目の前の手柄をあげるとかではなく)そこまで深いこと考えていたのかと、
恐れ入る周りの武将たち。

  「時忠殿、ひとたび縁戚を結んだからは、同じ志でいましょうぞ。」

時忠さんに釘を刺すような一言です。

  「・・・」

そうして、

 「誰かいるか。制札の用意をせよ。」

使いの二人に対して、

 「ご両人、この戦いは義経の考えの戦ではないぞ、
      兄の頼朝の意図する戦いだ。」

床の間の桜の枝を手に取り、例の和歌の短冊を添えます。

 「六弥太、平忠度さんのもとへ向かい、
     あなたの名前は載せられないが、立派な歌であるから
     あなたの歌を詠み人しらずとして千載集に載せると伝え、
     その印としてこの山桜の枝をもって行かれよ。」

さらに義経さんは続けます。

 「熊谷、そなたは平経盛つねもり敦盛あつもりがいる須磨の陣所に向かい、
     そなたの陣屋のる若木の桜のもとにある、弁慶に書かせた制札の
     『一枝を折らば一指を剪るべし』という心を理解せよ。
     若木の桜を守れるのは熊谷以外いないのだ。そのことを心得ておけ。」

と高札を渡します。

この戦乱の世で、和歌をも若木をもいたわる義経さんの情け深い様子に、
六弥太、熊谷の両人ともに

 「ははぁ~っ。」

と、受け取るのでした。

( 『堀川御所の段』幕 ) 


熊谷直実を含め、ほとんどの武士が、自分の身を守り、自分の家を守り、
あわよくば目の前の武功をあげ、勝利することに必死になっていたかもしれません。

それに比べて、義経さんの考えていることは、はるかに高い次元で、
勝ち方、勝った先のことまで見据えてのこと。
しかも、そのための作戦をしたたかに既に決行していたのでした。

熊谷直実としては、歴然とする差に
「この人が考えていること、やっていることは、
今の自分のレベルでは理解できないところもある。
ただ、この人を信じてついていったら大丈夫、
ということははっきりわかる。」
という印象をもったかもしれません。


そこで手渡された、一枚の制札、なんですよね。


「嫩(ふたば)」というキーワード

一つの茎から二つの葉が伸びていくように、義経さんから、

 ・六弥太さんに預けられた和歌の短冊
 ・熊谷さんに預けられた制札

をめぐるストーリーがここから始まっていくのでした。


たむおの推測ですが。

桜の木の枝を床の間に活けてあるので、義経さんも桜の木の枝を切っているわけですよね。
それを六弥太さんに渡しているのを見せてから、熊谷さんには「若木の桜」、「一枝を切れば」と言って、制札を渡した訳です。
熊谷さんとしては「若木」といっても「桜の若木そのものではないな」、何かその言葉の奥にあるのかな、と違和感を感じたくらいでしょうか。

それにしても、制札をすでに用意してあるとは。
(芝居をテンポ良く進めるためとか考えずに)
先の展開まで予想している、義経さんの洞察力、おそるべし。


次回は「北野天神の段」です。
謎のキャラ、平時忠さんの狙いはいかに。



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床本は、豊竹咲穂大夫さんのホームページにあるものを参考にしました。
ありがとうございます。

イラストは、クリップアートファクトリーさん http://www.printout.jp/clipart/index.html
のお世話になりました。
ありがとうございます。