『夏祭浪花鑑』大詰第一場 団七内の場 大阪松竹座 2013年10月 | はじめての歌舞伎!byたむお

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いよいよ大詰第一場「団七内の場」

義平次の死体が田んぼから発見されて一週間が過ぎました。
団七九郎兵衛の家では息子の市松が近所の子供と遊んでいます。
団七は奥の部屋で寝込んでおり、女房のお梶

「あんな人でも死んだとなったら寂しいもんだ。」

と嘆いています。

そこへ訪ねてきたのは一寸徳兵衛さん。
団七とは互いの袖をちぎって交換した義兄弟です。

ここで確認しておきます。
義平次の葬式があったということは、義平次の死体が見つかったということ。
そうすると、殺しの犯行現場もわかったということ。
そうなれば、その現場で団七の雪駄を拾った徳兵衛さんは、
もう誰が犯人かわかっているということですね。

備中玉島へ帰るので別れの挨拶に来たという徳兵衛、
お梶さんは市松に奥の部屋の団七を起こしに行かせます。

徳兵衛は旅姿、小銭を紐に通したものを首から掛けています。
出てきた団七に向かって、
お前も一緒にいかねえかと、突然旅に誘う徳兵衛さん
ですが、団七さんは別に行きたくないとか、船は恐いとか言ってゴネます。

挑発するように

「船が恐いとは、お前さん命が惜しいのか」

と徳兵衛に言われても、

「ああ、命が惜しいね。俺は、磯之丞様を守って行かなきゃいけねえ。」

と答えます。

それを聞いた徳兵衛さん、お梶にお茶をくれと言って奥へ下がらせます。
ここからは二人だけの話になります。

「守るものがあるんだったらこそ、俺と備中へ下れと言ってるんだ。」

と迫る徳兵衛さん。

「味なものを味なところで拾ったんだ。」
(直訳:妙なものを妙なところで拾ったんだ。)
(意訳:お前の雪駄の片方を義平次の殺人現場で拾ったんだ)

と、言葉を続けます。しかし、

「ああ、それは野良犬が片方だけ雪駄をくわえていったんだ。」

と苦しい言い訳。

徳兵衛の心のうちは義兄弟の契りをかわしたこの俺に、
なんで本当のことを打ち明けないんだと怒りに震えます。

しかし、義兄弟だからこそ迷惑はかけられない。
舅殺しの大罪は自分一人の胸の内にしまっておかなければという団七九郎兵衛です。

徳兵衛は自分が履いてきた雪駄を見せます。
裏地には山に丸の模様。

わざわざ同じ模様の雪駄をしつらえて、いざという時は団七の罪をかぶる覚悟まで
あるのだという気持ちをみせます。

しかし、そんな心のありようの一寸徳兵衛だからこそ巻き添えにするわけにいかない、
団七は余計に心を閉ざしてしまうのでした。奥の部屋に戻ろうとします。

「九郎兵衛、捕ったぁ。」

突然の大声は徳兵衛さん。
「九郎兵衛をお縄にかけた」とも取れるセリフですが、
「九郎兵衛、」と呼びかけて「(何かを)捕った。」とも取れますね。

団七九郎兵衛はとっさに煙草盆を手に構えます(灰を投げつけると目くらましになります)
しかし、徳兵衛は脅しておいて、「蚤を捕ったんだ。」と言います。

徳兵衛がじっと見つめる足元の畳、畳の眼の間には蚤がいます。
雪駄でパンと叩き付けると蚤がピョンと跳ね上がります。

「せっかく高飛びする能力があるのに飛ばない蚤だから、天下の息のかかった指に捕まるんだ。」

暗にお上の捕り手につかまらないように逃げろ、

「ちょっと高飛びするべえ」

と勧める一寸徳兵衛ですが、

「畳の目の間でじいーっとしてるのも賢いぞ」

と、この場に居残ることをほのめかす団七さん。

「一寸の虫にも五分の魂だ、一寸徳兵衛よ。」

と俺にも意地がある。そう簡単に捕まるつもりはない、
と返して奥の部屋へひっこむ団七です。

そこに、お梶さんがお茶をもって戻ってきました。

「お梶さん、お前さまにもお世話になりました。」
一寸徳兵衛が出発するといいますが、それを引き止めるようにお梶さんは言います。

梶「おや、徳兵衛さん、裾がほつれているよ。」
徳「そりゃ気づかなかった。ちょっと直してくださいますか。」
梶「お安い御用。それではちょっと着物を脱いで。」
徳「えっ。全部脱ぐんですか。」
梶「そりゃそうだよ。脱がなきゃ直せないから。」
徳「そうですか。でも脱いだらほとんど裸みたいなもんで。」
梶「なんだい、私の前で脱ぐのが恥ずかしいのかい。」
徳「いや、そういうわけじゃ。ちょっと待ってください。」
梶「ほほほほほ。」

そう言ってこっそり証拠の雪駄を隠す徳兵衛さん、裁縫道具をもってくるお梶さん。
隣の部屋では寝た振りをしてますが、気になっている団七さん。
一寸徳兵衛さん「ちょっと帯も解くべえ」ということで、褌一丁になります。

徳「お梶さん、あんたいい女だな。団七が大阪を離れたくないのも道理だ。」
梶「よしとくれ。国へ帰ってお辰さんにそう言って喜ばせてあげなよ。」
徳「いや、もとは人並みだが、いまはもうあの火傷で。」

だんだん色っぽい話になっていきますよ~。

梶「でも久しぶりだったらしっぽりと面白いでしょ。」
徳「面白けりゃどうだってんだ。」
と言って、お梶の腕をつねります。

梶「あれ、まあ痛いわいなあ」
徳「なに、痛いとは昔のこと。お前がわしのほころびを繕うなら、わしもお前のほころびを縫ってやろう。」

いちゃいちゃ話してます。
下ネタ、わかります?

さらに続きます。

徳「団七の奴を玉島に下した後でと思っていたが、お鯛茶屋での約束忘れてないだろうな。」
梶「そりゃ、忘れちゃいないけど。」

横で聞いていた団七さん、我慢できなくなって登場。

「おいてめえ、旦那の横で女房を口説くとはどういうことだ、いい加減にしやがれ。」

啖呵をきって出てきます。

「お前も、何いちゃついてやがんだ。しかも、その約束ってなんだ、おい。」

徳兵衛は、

「なんだ、(服の)綻びを直してもらおうと思ったら、(義兄弟の友情の)綻びが出ちまった。仕方ない、そろそろ出発するか。」

と旅支度を始めますが、団七九郎兵衛は気が済みません。

一寸徳兵衛には誓いの片袖を投げつけます。
これには徳兵衛も団七の着物の片袖を投げ返します。

片袖の契りを破ったからには、「五分と五分の一寸徳兵衛だ」
兄弟同然の二人の絆も引き裂かれ、大げんかが始まります。

徳「もう兄弟じゃないから遠慮はしない。お前の女房は俺が貰うぞ。」
団「どうやって貰うつもりだ。」
徳「こうやってじゃ。」

といって刀を抜きます。
当然、同時に団七も抜いて、刀と刀が打ち合う音

突然現われた(というより一寸前から話を玄関で聞いてたんですけど)
釣船三婦(中村翫雀)さん。
「待て、待て、待て。斬るなら俺を斬りやがれ。」

さすがに二人とも三婦さんを斬るわけにはいきません。
「じゃあこの一件は俺に預けてくれるか。」
喧嘩もいったんは中断です。

揉め事の内容を把握すると、三婦さんは
「間男と言っても実際に不義があったわけではないのだから、団七は徳兵衛と斬り合いなんかするのは下の考え方だ。極上の考え方は黙って、お梶に離縁状を書くことだ。」
と一方的な裁定です(ちなみに当時は、女性の方から離縁はできません)

団七も気が立っているのが
「おう別れてやるわい。」
離縁状を書き、三婦さんに渡します。

団七は奥の間に入り、離縁されたお梶と息子の市松は涙で出て行きます。

「徳兵衛、お前も何しとんねん。」
と言われ、三婦さんに家の外へ押し出されて行きます。

ここでヒソヒソ話。
お梶「離縁したら本当に。」
三婦「ああ、団七と義平次は赤の他人。舅殺しではない。鋸引きの極刑にならずにすむ。」
徳兵衛「離縁状を書かせるためとはいえ、心にもない不義の真似事。済まなかった。」

三人とも、団七の罪を軽くするための芝居だったんですね。

安心してはいられません。
そこへお上の捕り手がやってきました。
三婦さんはお梶と市松をかくまって逃げることに。
捕り手役の左膳(市川猿三郎さんのお写真はご本人のブログで コチラ

ここは引き受けたとばかりに捕り手に向かうのは一寸徳兵衛。
お役人達の足を留めます。
この間に屋根裏へと逃げ込む団七九郎兵衛です。

「九郎兵衛はおらぬか。この雪駄が何よりの証拠だ。」
というお役人ですが、徳兵衛は
「そんな雪駄ならほら、俺だって同じの履いてますけど、証拠になるんですか?」
と機転を利かせて自分の雪駄をみせます。しかし、
「それだけではない。義平次に頼まれたという駕篭屋の証言がある。」
と言われると、さすがにもう言い逃れはできません。

「そうですか。お役人、あの九郎兵衛とはなかなかの強者です。お怪我なされないように一つ私に任せちゃあくれませんか?」
徳兵衛はそういって、役人から縄を預かります。

「ならば、やってみよ。我々は建物の周りを包囲しよう。」
と下がっていきます。

「一寸徳兵衛、一世一代の大博打だ!」

こうして、徳兵衛は団七九郎兵衛を追って屋根の上へと登っていきます。

(幕)