三谷文楽『其礼成心中(それなりしんじゅう)』
ここが良かった(ハード面)
ここが良かった(ハード面)
客席の構造、傾斜
文楽の劇場は1階席のみで、それほど傾斜はありません。しかし、PARCO劇場は傾斜があります。
文楽の男性の人形は足まで見えますが、女性の人形は足はありません、着物で隠れているので。
しかし、宙に浮いているようには見えません。
というのも、文楽では通常は舞台において地面の位置(手摺:てすり)が設定されています。
そこまで板があり、その下(舟底:ふなぞこ)は見えないようになっています。
その高さに人形の足があれば立っていることになるし、
人形の膝が折り曲げられていれば座っていることになります。
ここで、客席の高さ、観客の目線ががほぼそろっているため、
地面の高さ、人形の足の位置はそろっています。
PARCO劇場は傾斜がありますから、
席によって地面の高さが変わってしまうことになります。
そこで工夫したのは演出。
人形遣いの方が黒衣(くろご)を着て、さらに背景の絵(遠見:とおみ)も暗い色が多く、
地面のラインを意識させません。
おそらく前のほうの席でも、後ろのほうの席でも高さがずれていると
気になることはないのだと思います。
通常の文楽では地面の下(いわば舞台裏)が見えることはありません。
PARCO劇場では、「どうせ見えるんだったら堂々と見せてしまえ」な演出。
川に飛び込んで心中する場面では水面の位置をぐぐっとあげて、
人形も上を泳いだり、下にもぐったりとダイナミックでした。
舞台の広さ、構造
横に広い文楽の劇場では舞台の右側(床:ゆか)で義太夫さんが語り、三味線さんが演奏されます。また、別の大夫さんに交代されるときはくるっと回転して変わります(盆:ぼん)。
PARCO劇場ではそのスペースはありません。
そこで、舞台を2階建てのようにして、2階で演奏、1階で人形が動くという構造に。
いつもなら、正面の「人形の動きに集中せねば」と思いながらも、
上手の大夫さんを見てしまったりするのですが、正面を見ていれば大丈夫。
これは、すごくいい方法だと思います。
大夫さんの交代は上手と下手に別れて、横スライド方式です。
そして両側から出てきて、掛け合いというパターンもありました。
ことば、テンポ
太夫さんが語る、ナレーション&台詞集つまり床本(とこほん)ですが、通常の文楽の劇場の場合は舞台の上方に電光掲示板で流れ、
パンフレットに記載されています。
しかし、観客としては内容が気になり、上の字幕を見たり、
手元のパンフレットを見たりしてしまい、結果として舞台の人形に集中できないことも。
気づいたら違う登場人物が出てきていて、
「あれ、何があったの?」なんて失敗をやらかしてしまうこともあります。
これに対しては、床本の表現を平易で現代的なものにして、
字幕がなくても内容を把握できるようにしてあります。
ただ簡単にするのではなくて、ちょこちょこと現代語、外来語も混ぜつつ
(細かい笑いをとりつつ)リズムよく進んでいきます。
例えばこんな感じ。
冒頭部、心中しようとする男女を半兵衛が止めるシーン。
見つめ合う目と目 触れ合う手と手
これが見納め、互いの顔を、しかと焼付け、見届ければ、
「待て待て、待たんかい。自分らの世界に浸るな。ここで死なれては困るんや」
これには男も腹を立て、
「水を差すのもええかげんにしてくれませんか!」
「なんや、逆ギレかこの男。」
「しかと焼き付け」なんて、ちょっと昔の言葉ですが、その後に
「自分らの世界に浸るな。」とか現代的な感覚でツッコミを入れ、
「逆ギレ」となったらもう完全に現代の言葉ですよね。
こうして観客は元禄時代と平成の時代を行き来できるようになるわけです。
歌舞伎でも、例えば『髪結新三』で永代橋にかかったところで、
それまで江戸の雰囲気(世話物)でしゃべっていた新三が、急に七五調で
「コレ能く聞けよ。 普段は帳場の 廻りの髪結 いわば得意の ことだから
うぬのような 間抜け野郎にも ヤレ番頭さんだの 忠七さんだのと …」
というようにもっと昔の時代(時代物)の話し方に代わることがありますよね。
テンポもよく唸るような独特の節回しはここぞというときに絞っています。
(落語『寝床』のマクラでよく使われる義太夫の特徴 リンク )
初心者にはわかりづらいところは極力抑えるという効果と、
テンポよくストーリーを展開させる効果が。
床本の前書きで、三谷さんは「通常だったら四~五時間になる大作になる分量です。でもそれを、どこもカットせずに二時間の上演時間に納めた時、『其礼成心中』は初めて現代のお客さんに楽しんで貰える作品になります。」と述べています。
さてさて、『其礼成心中』ここがよかった(ソフト面)については、
またの機会にいたしまする。
床本

其礼成心中
これだけ読んでも面白いです。
DVD

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昨年の舞台です。
その他にも

PARCO歌舞伎 決闘! 高田馬場 (PARCO劇場DVD)
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