『弁天娘女男白波 Episode.2』 | はじめての歌舞伎!byたむお

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人気の演目『弁天娘女男白波』。

『濱松屋見世先の場』が終わった後、

いきなり場面が変わって武士の玉島さんが日本駄右衛門に変わっていて
『稲瀬川勢揃の場』になってますよね。

その間に何が起こっているのか。
今回はそのあたりを紹介します。

キャラ紹介のページ コチラ
弁天娘女男白波 Episode.1の記事 コチラ
濱松屋見世先の場 あらすじ(&観劇レポ) 前編 後編


昨年2月の名古屋御園座の
通し狂言『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』
白波五人男を観た時の記憶とパンフレットをもとにお送りします。

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弁天小僧菊之助、南郷力丸という詐欺師のコンビに
20両の金は渡しましたが、100両失うことはなく、
刃傷沙汰やらにもならず、お店の看板を守ることができたのは、
居合わせたお侍さん、正義の味方、玉島逸当(たましま いっとう)さんのおかげです。

濱松屋の主人は玉島さんにお礼がしたい、
息子の宗之助といっしょに奥の座敷で接待します。

さっき100両の金をポンと用意できちゃったんだから、
奥には金目のものがたくさん、金庫の中にはお金がぎっしりあるんでしょうね。

主人は
「先ほどはありがとうございました、
お礼なんですが何を差し上げたらよろしいでしょうか?」
と聞きます。

貫禄十分の侍の玉島さん、
「では、店の金を全部もらおう。」

えっ。衝撃発言です。
そんなキャラでしたっけ。

「弁天小僧と南郷の小芝居を見破って店のピンチを救った」
武士の玉島さん、と思っていたのですが、ちがいました。

「『弁天小僧と南郷の小芝居を見破って店のピンチを救う』ような小芝居」をして、
店の奥まで入り込むことが目的、お侍の玉島さんの正体は、
日本中に評判になっている(音に聞く)大盗賊の、
日本駄右衛門(にっぽん だえもん)だったのです。

日本駄右衛門といえば、さっき帰っていった
弁天小僧菊之助(べんてんこぞう きくのすけ)南郷力丸(なんごう りきまる)
日本駄右衛門の手下だったはず。

ふすまが開くと、その弁天小僧菊之助と南郷力丸の二人、
今度は動きやすい格好に着替えて登場。

店のものを油断させておいて、泥棒モードで舞い戻って参りました。

「命がおしかったら有り金全部出しやがれ。」

ところが、
「実はお金がございません。」

仕入れの関係でお金を一気に立て替えているかなんかで、
時間がたてばもちろん金はあるんですが、
今は金庫がからっぽ。
さっき店先で弁天小僧菊之助と南郷力丸に渡した百両がほとんど全部です。

大盗賊の日本駄右衛門です、盗みに入ったのに、

「たった百両しか奪われなかったなんて言いふらされたりでもしたら、
こんな恥ずかしいことはない。悪いが死んでもらうぞ。」

と言って刀を抜きます。


しかし濱松屋の主人、

「私は斬られても構いません、しかし息子の命は助けてくださいませ。というのも…」

と語り始めます。

濱松屋主人は十七年前に参詣に行ったときに喧嘩沙汰にまきこまれ、
人混みのせいで抱えていた幼い自分の赤ん坊と思っていたら、
それは他人の赤ん坊、子供の取り違えというものをしてしまった。

実はそのときの他人の子供というのが、倅(せがれ)の宗之助です。
私の命でよかったら差し上げますが、
倅の宗之助にはまだ孝行できていない実の親もいるはず、
なにとぞご勘弁くださいませ。

そんなストーリーがあったんですね。

しかし、聞いているのは人を騙すことを生業にしているような
大悪党の日本駄右衛門ですからねぇ、そんなお涙頂戴の話に情がうつって…、
なんてことはないですよね~。作り話じゃないだろうな、と疑われるだけじゃないの?

と、思ったら、あれ?
なんか様子がヘンですよ。

「それは何年前、どのお寺だ。赤ん坊はそのときどんな服装だった?」

おや、駄右衛門さん、なんか不思議な質問をしますね。

他人様の子供を大事にお預かりしているんだ、という心構えなのか、
濱松屋の主人ははっきりと覚えています。
黒羽二重に亀甲の紋が入っていて…、と説明します。

それを聞いて「そうであったか」とうなずいているのは日本駄右衛門さんです。
実は盗賊に身をやつす前に貧乏していた日本駄右衛門さん、
幼い子を養うことも出来なくなり、我が子をお寺の境内に置き去りに。
そのときの着物は亀甲の紋が入った黒の羽二重

駄右衛門さん、盗みに入った
濱松屋の若旦那(宗之助)は、生き別れた自分の息子
だったのです。

そしてその息子を今日まで立派に育ててくれた恩人が
濱松屋の主人ですから、駄右衛門としては斬れるはずもありません。

一方、濱松屋の主人としては生き別れた我が子のことが気になります。
生きているのか、死んでいるのか、生きているならどこで何をしているのか?
気になります。自分の息子の特徴を話し出します。
取り違えの現場にもいたわけだし、全国を股にかける大盗賊の駄右衛門ですから、
ひょっとしたら何か知っているかもしれません。

うちの倅(せがれ)は、「へその緒」と「幸兵衛が倅、幸吉」と書いた紙を入れた
オシドリ柄の巾着を持たしていたんですけど…

「えっ。」

声を上げたのは駄右衛門さんではなく、弁天小僧菊之助です。
その巾着、もってます。
中にへその緒も「幸兵衛が倅、幸吉」と書いた紙も入ってます。

そう、
濱松屋の主人幸兵衛の実の息子の幸吉は、弁天小僧菊之助
だったのです。
弁天小僧菊之助は実の父親の家にゆすりに入っちゃいました。
そしてやっと会えた父親の前で女装して啖呵きって金巻き上げちゃいました。
面目ない。

実の親、実の子に出会った2組、駄右衛門と宗之助、濱松屋主人と弁天小僧、
無事でいて嬉しい気持ち、離れ離れになったいきさつを申し訳なく思う気持ち、
現在の境遇が恥ずかしい、申し訳ない気持ち、色々な感情が入り混じっています。

この沈黙を破った人がいます。

「するとあの時の…。」

声を上げたのは、なんと南郷力丸さんです。

親(濱松屋主人の幸兵衛)とはぐれてしまった幸吉(弁天小僧菊之助)を、
連れて帰って自分の息子と兄弟同様に育てたのが、南郷力丸の父親だったのです。

泥棒に入ったチーム3人と泥棒に入られたチーム2人が、
なんとも奇妙な縁でつながりました。

濱松屋主人は自分の有り金を全部渡すので、
どうか泥棒の世界から足を洗って欲しいと頼みます.

しかし、どっぷりと盗みの世界に足を踏み入れている日本駄右衛門、弁天小僧菊之助ですから、
じゃあ今から堅気に戻って仲良く家族をやり直しましょう、
なんてとても出来ません。

家族同様に養っている泥棒の手下もいるわけです。

そこへ入ってきたのは、狼の悪次郎。誰だか覚えてますか?
『濱松屋見世先の場』の最初に出てきた人です。
着物を5枚注文して、ついでに店の様子をジロジロ見て帰っていった人です。
この人も日本駄右衛門の手下でした。見張り役というところでしょうか。

報告の内容は、日本駄右衛門への追っ手が近づいてきているとのこと。
せっかく会えた親と子だが、長居をしては迷惑がかかる。
ということで、お別れでございます。

濱松屋の主人は、実の息子である弁天小僧菊之助には意外なことを告げます。
自分は今は呉服屋をやっているが、昔は実は武士だったとのこと。
再びお仕えするためには、主君のためにお役に立つようなことをしなければ。
「主君のお家の家宝である『胡蝶の香合』を探して欲しい。」

『胡蝶の香合』、覚えていますか?小山家の結納の品ですね。
(Episode.1 の記事をご覧ください。 コチラ
そう、濱松屋の主人が昔仕えていたのは小山家だったのです。
小山家というのは弁天小僧菊之助が自殺に追い込んじゃったお姫様のところですね。

つまり、弁天小僧菊之助としては自分の主筋にあたるお姫様を死に追いやってしまったのでした。
そして、その『胡蝶の香合』を奪ったのも菊之助でした。
なんという皮肉な因果でしょうか。

いよいよ、追っ手が迫って参ります。
せっかく出会えた2組の親子ですが、やはり別れる運命。

日本駄右衛門さん、実の息子である濱松屋若旦那の宗之助に
「主人の幸吉さんを実の親だと思って孝行しろよ。」
と言って別れます。

濱松屋の主人が餞別に渡したのは、その悪次郎さんが注文した5枚の友禅の着物。
紫色の着物は色も「ど派手」、白波やら方位磁石やら雷獣やら柄も「ど派手」。
この次の『稲瀬川勢揃の場(いなせがわせいぞろいのば)』でお披露目されます。

もう2度と会うことはないであろう親子の別れ、
そして駄右衛門一味の運命はいかに?

以上が『濱松屋蔵前の場』でございました。


ちなみに、歌舞伎座こけら落としでは日本駄右衛門が中村吉右衛門さん、
濱松屋の倅宗之助が尾上菊之助さんでした。
実の親子ではなく、義理の親子ですね。