2013年1月 大阪松竹座昼の部 その3 | はじめての歌舞伎!byたむお

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義経千本櫻
『吉野山(よしのやま)』

浅葱幕がパッと下りると背景は一面の桜。
舞台中央にも一本の桜の木。

上手に並ぶのは清元の浄瑠璃。
三味線と唄は高音でなめらかな曲調です。
美しい風景にマッチしてます。

桜の木によりそうように、静御前(坂田藤十郎さん)が立っています。

静御前さん、源義経(みなもとのよしつね)の愛妾(あいしょう)です。
歌舞伎を観始めたころは、「妾(めかけ)」という文字を見ると、
どうしても、「ちゃんとした奥さんがいるのに、この浮気もの!」という
印象をもってしまいました。

でも、よくよく考えてみると、当時の武士の結婚ですから、
お家の繁栄が大事な目的、恋愛感情だけではないですね。

調べてみると、義経さんの奥さんは、兄の源頼朝(みなもとのよりとも)に
決められた政略結婚の相手だったらしいです。

ということで「愛妾」という言葉ですが、義経さんの「彼女」とか「恋人」とかに
脳内変換して、静御前の出てくる芝居をみることにしています。

お姫様ではありませんが静御前さん、「赤姫」と呼ばれる
綺麗なお姫様の衣装に身をつつんでいます。

さて桜の名所、現在では奈良県の吉野山が舞台です。

兄の命令により、瀬戸内海で平氏と戦い勝利したと思ったら、
今度は兄から追われる身分となってしまった、
可哀想な義経さん。東北のほうまで、弁慶さん、
四天王といっしょに逃亡劇が始まっています。

その義経さんと添い遂げようと静御前は義経さんの
ご一行と合流するために吉野の山までやってきました。

こんな山の奥まで、山ガール的な衣装にするわけでなく、
お姫様の綺麗な服ですそをズルズルとひきずって、
転んだらどうすんのとか、クリーニングどうすんのとか、
そういうことは考えずに(って書いてる時点で考えているんですが)、

「綺麗な音楽に綺麗な風景に綺麗なお姫様、ああ綺麗だなぁ」

と頭をからっぽにして、「歌舞伎の嘘」にだまされておきましょう。

未設定
移動する、旅にでるなどを「道行(みちゆき)」と表現しますが、
舞台にでてくる「道行」といえば、お軽と勘平のように恋人同士のシーンが多いのですが、
静御前のお相手はというと恋人の源義経さんではありません。

ドロドロと太鼓の音が響くと、通称スッポンと呼ばれる、
花道の七三(7対3に分けた位置、舞台に近いほう)から登場します。

ちなみに歌舞伎のお約束。スッポンから出てくるのは、
幽霊、妖怪、妖術使いなど普通の人間ではない存在です。

そのことがわかっている観客はスッポンをみて意表を突かれます。
なぜなら普通のお侍が登場してきます。あれ?

お相手はわりと現代人っぽい名前の佐藤忠信(さとうたたのぶ)さん。
探したらいそうな名前ですよね(あと福岡貢さんも、どこかにいそう)。
この人は、義経さんの家来です。
なので、静御前に仕えるという形の主従関係です。
主従関係の「道行」の途中でした。

イケメンかどうか定かではありませんが、
平氏との戦いでも活躍した武者である佐藤忠信さん。

二人の踊りでピタリときまると、
「ご両人!」
の掛け声が劇場に響きます。

雛人形は向かって右側に男性、左側に女性ですが、
この二人は並び方は逆。
女性の静御前に男性の佐藤忠信が仕えているので、
左右を反対にしています。




木製ジグソーパズル1000ピース義経千本桜


静御前が形見として義経さんの鎧を預かっています。

また、家宝として拝領した「初音(はつね)の鼓」というものをもっています。

静御前は木の切り株に鎧を置いて、義経さんに見立て、
無事でいるか、元気かと思いを馳せます。

そして、初音の鼓を鎧の上に置こうとします。

またドロドロと太鼓の音が響くと、佐藤忠信が不思議な歩き方で近寄ってきて
その鼓に頬ずりをするような仕草をします。

あれ? あんたどうしたの? 

と、変に思いながらも鼓を置きます。

一瞬変な様子を見せた佐藤忠信ですが、落ち着いた侍のたたずまいに戻ります。


そして、振り返るように平家との戦いの様子を静御前に語ります。
「語る」と言っても、台詞を述べるわけではないんです。
「物語(ものがたり)」という手法で、
実際に言葉を述べているのは、唄方の皆さんです。
音楽にあわせて忠信の市川猿之助さんが踊ります。

ミュージカルの演出でもこういうことがありますね。
歌舞伎の音楽は、BGMのときもあれば、ナレーションのときもありますが、
役者さんの台詞を代わりに伝えることもあります。

ここでは自分のお兄さんの戦いの様子を伝えます。
船での戦いで相手の武者の兜の後ろ、錣(しころ)という部分をつかまえて
なぎ倒します。
このシーン、「錣引(しころびき)」と呼ばれます。

未設定


その戦いのなか、義経さんに向かって飛んでくる弓矢。
義経さんの絶体絶命のピンチですが、
お兄さん、身を挺して矢の前に立ちはだかります。
義経さんのかわりに命を落としてしまいます。

男女間の愛ではなく、「主従の愛」、「兄弟の愛」がテーマなんですね。

未設定



さて、シリアスなシーンにちょっと休憩。
チャリ場と呼ばれる、観客にも楽しい場面がやってきます。
道化役の侍、逸見藤太(はやみとうた)さんが、
「花四天(はなよてん)」と呼ばれる家来をつれてやってきます。

仮面ライダーでいうところの、「怪人〇〇男」みたいなのが逸見藤太さん、
ショッカー的存在が「花四天」です。

花柄の衣装なので「花四天」です、ネズミの格好してたら「鼠四天」となりますね。


藤太さん、頼朝の命令で義経をひっとらえにやって来ております。
しかし、典型的な脇役。コミカルな演技、中村翫雀さんはうまいですよね。

手柄を立てようと頑張る家来と比べて、やる気なし。

「腹が減ってはなんとやら~」

茶屋があったら、メシ食おうぜ~、こんなこと考えてます。
戦の腕は全然なさそうで、敵がいると怖いから、

「義経とか、弁慶とか、四天王とか、俺さまよりちょっと強いから注意しろ」

と言って、家来に先に行けと命令してます。

先に行った家来が、「どうやら女がひとりいます」と報告すると、

「よし、俺が先頭に立っていくぞ~!」

突然はりきります。態度豹変っぷりがステキ。

そして行ってみると、女といっても静御前、しかも隣に控えているのは、
武芸の達者な佐藤忠信。

「ああ~、こんな奴に勝てるわけないや~ん。」

トホホ、がっかり。ここで語られるのは「役者づくし」。
音楽にのせての台詞に役者の名前を織り込んでしゃべります。

魚の名前なら「魚づくし」(@『大物浦』)、酒の名前なら「酒づくし」(@『石切梶原』)という具合。
きっちり笑いをとります。

はっきりは覚えていないですが、
「澤瀉屋の襲名で ここであったが縁のすけ(猿之助)
 初音の道行 中止(中車)せよ。
 俺はいうこと 聞かんじゃく(翫雀)
 ひでー(秀太郎)目に あわせるぞ」
その他、藤十郎さん、扇雀さんの名前も織り込んでいました。

いかにも、かませ犬的な存在、
これからやっつけられます。

しかし、この戦いの様子がなんか不思議。
力と力のぶつかりあい、ではないんですね。

忠信に襲い掛かる花四天たちですが、
ふらふらと戦って相打ちしたりします。
まるで何かにあやつられているような様子。

実は忠信さん、妖術を使っていました。
正体はなんと狐。
狸とかネコとかも人を化かしますが、
狐に化かされていたんです。
人間、佐藤忠信のふりをしていたのは
なんと狐だったんですね。
そういえば、スッポンから出てきたんでした。

花四天も藤太もやられちゃいます。
バタンと背中から倒れて、両足をVの字にあげたら、
やっつけられました、のサインです。

そして、戦うどころか、あやつられていますから、
笠と杖を静御前に渡して、出発の準備のお手伝いまでしちゃいます。

静御前は義経のもとに向かおうと花道を引っ込みます。


舞台に残る猿之助さんのまわりには、
二匹の黄色い蝶々が。
後見さんが長い棒の先に蝶々をつけて操ります。

ちなみにこの棒の名前は「差し金」。
現代語で「〇〇の差し金」というときの、
「〇〇」は影で操っている人のことですもんね。

亀から猿に替わった人の正体は狐。
「動物名づくし」なってしまった…。

「ぶっ返り」という手法。後見さんが糸を引き抜くと
忠信の上半身の衣装が反対向きになって下に降りて、
狐の格好に変身します。

花道の奥から、静御前が叩く鼓の音が響きます。
まるで愛しいものを求めるように、
狐の足運びで追いかけていきます。

そして、通称「四の切」(四幕目の最後)と呼ばれる、
「川連法眼館の場」へ続きます。
いよいよ、義経さんとご対面。

こちらで色々な謎が解けます。
「主従の愛」、「兄弟の愛」以外にもう一つのテーマ「親子の愛」もあったんですね。

未設定



【追記】これを紹介するの忘れてました。動画『Hatsune


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