一日の楽しみは本を読むこと。
新宿から延々と小田急に乗り、立ちながら片手で頁を捲る。
その一時だけライン河を見、管弦楽を聴き、六歳の少年となって彼の世界に入り込む。
自分がクリストフと同化している時、電車が揺れ隣人の手によって本が叩き落とされる。
憤慨しながら隣人を見、両手でスマホを弄るならバランス感覚を身に付けろと心の中で悪態をつき、世界を壊されたことに腹を立てる。
本を読むと止めどない思考の奔流に飲まれて自分を見失う。
ちょっと呟くつもりが次から次へと言葉が溢れ、文字数制限を越えてしまう。
そして電車を降りて夜風に頭を冷やされてくると、途端に世界から熱は消え失せ、溢れ出す思考も無くなり、
「ああ、都会とはなんて人の多く息苦しいところなんだろう!」
なんて思うのである。
一日に三十分しか読み進められない『ジャン・クリストフ』を読み終わる頃には、きっと桜が咲くような暖かい季節になっているだろう。