【ある黒猫の目】

10日ほど前から職場に黒猫が居着きました。
飼い猫なのか、野良なのか、はわかりませんが酷く痩せています。
体自体は決して小さくはないのですが、ガリガリで尻尾も切られているのかイビツな形。
目つきも悪い。
愛らしい猫、とはとても言えないやさぐれた顔をしている黒猫です。

毎日の暑さをしのぐためなのか、居場所がないからなのか、一日中職場周辺でウロウロしながら寝そべっています。

“猫になりたい”

なんて、よく聞くセリフですがこの猫からはとてもそんな自由気ままな雰囲気は漂っておらず。
生きていることが苦しい、そんな風にさえ映ります。
悪さをする訳でもありませんが、簡単に餌付けをして居着かれてしまうのも考えもの…

ですが、目付きの悪さと虚弱な体を見かねてたまに少しだけ食べ物をこっそりと出すようになりました。

“お前、行く場所無いのか?”
“メシ、食えてんのか?”
“なんでここから離れないんだ?”

気になって声をかけてはみるものの、当然返事はなく。
決まって、なんとも言えない怯えたような疑ったような、不安と警戒が入り混じった目でこちらをジッ…と見ています。

“いいから食え”

と、対峙したまま鰹節を少し、目の前に置いてやると、こちらへの目線は一切離さず、相変わらず疑い切った目で少しずつ食べて、それに安心してその場を離れて様子を見るとそれからは一心不乱に鰹節に貪りついていて。

あぁ、やっぱ食えてないんだ。
野良なのかな。
なんでそんな体になっちゃったんだ。
なんでそんな目をしてるんだ。
胸が締め付けられるような、とても哀しい目をしているのです。

最近、ある猫好きの方とその黒猫の話になった時、

『そいつ、なんとも言えない哀しい目で、不安いっぱいの疑いきった目でこっち見てるんですよ。餌与えてもちっとも表情が変わらない。一層目付き悪くじっとりと怯えた目でこっち見てるんですよ。』

と話したら

『その子に餌をあげたり、話しかけたりする時のあなたの目はどんな目をしてるの?』
『猫はあなたを映すんだよ。』

と。





人は鏡、とはよく言ったものですが、猫もそうなのかもしれません。
同じ目を、自分自身もしていたのかもしれない。
その黒猫がそういう目に見えたのはもしかしたら私だけなのかもしれません。
事実がどうかは分かりません。
その人の言葉の真意もわかりません。



最近はさらにやせ細って、元気が無くなっています。
でも、水や餌をあげたり、声をかけた時の黒猫の目は少し優しくなったように感じます。
私が変わったのかどうか、それは分かりません。
ただ単に慣れたのか。
暑さで食欲が落ちて痩せたのか。
もしかして死期が近いのか。

飼うことも大手を振って餌付けをすることも出来ませんが、この場所に来てくれるのは人も猫も関係なく大切なお客様だと思いたい。
なにか一つでも自分に出来ることをしたいなぁ。
小さな命との関わりに学ばせていただこうと思います。



夕方、ちょっとだけ黒猫と遊びました。
相変わらず懐いてはくれませんが少しだけ私を受け入れてくれたような、そんな表情をしてくれたように見えました。




では、また。