疲れた背骨はホタルの真似をしている。
少し遅めの6月にやっとの思いで芍薬は開けども、羽音の無さに悲嘆に暮れる。
彼女は俺の背骨を恨めしそうに睨む。
俺は振り返って仕方ないさと少しだけ笑う。
不忍池は蓮の葉が茂り始める。
あぁ、また夏が来るのだ。
規則正しい足音を池の水面に響かせながら、今年も夏は夏の顔してやって来る。
いつもと同じベンチにはいつもと同じ老婆が座り蓮の葉を睨みつけては何事かを呟いている。
俺にとっては見慣れた景色。
老婆と池と蓮の葉と。
老婆は愛を囁きながら見えない何かと今日も闘う。
時々叫ぶ。
歌うように叫ぶ。
通行人みな知らん顔。頭の後ろの目ん玉をギョロリさせて笑うだけ。
そんな事にはおかまいなしに、老婆は叫ぶ。
歌うように叫ぶ。
柳の上には孤独が座っている。
風に吹かれて座っている。
孤独は、やれやれと、ため息ひとつつきながら彼女の腰を抱き寄せる。
老婆の瞳は正気を宿し、夏は夏の顔をして、老婆は老婆の顔をする。
そんな話を俺はする。
拗ねたまんまの芍薬に。
お前には俺がいるじゃないか。
疲れた背骨はそのままだ。
背骨はホタルの真似をしてる。
芍薬は少しだけ機嫌を直したようだ。
俺を見て少しだけ笑った。