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塗りあがりました

今日、塗装業者さんから「火鉢」の仕上げが終わったと連絡がありました。


早速、明日の午前中に引き取りに行って、夕方までに金具を取り付けなくてはいけません。

夜には完成品を受け取りに来るからです。


昨夜「ミムラ」さんから電話があって「明日は急用が出来たため、代わりの人が受け取りに伺います。」とのお話でした。


おそらく会社の同じ部署の方が行くだろうとの事だったので、私はその旨を了解し、完成品がそれなりの大きさなので、運ぶ車に気を付けて来られるようにとだけ言って、電話を切りました。



明日は忙しくなりそうです。


功労者に感謝

明日、塗装業者さんへと運ぶその日に、「ミムラ」さんはやってきました。


まあ、今日に限らず、時間がある時は殆ど毎日と言ってもいいくらい立ち寄ってくれていたのですが…。


「ミムラ」さんは完成した「火鉢」を眺めながら


「キレイ…ですね。」

と、言ってくれました。


やはり、天板に玉杢の突き板を使ったのは正解だったようです。

模様があまりウルサクならないように、手持ちの材料の中でも目の静かな部分を使ったので、象嵌とのアクセント…「清濁」の調和が上手く取れました。


自分で言うのもなんですが…かなりの自信作と言えます。


「ホント…何とお礼を言ったら良いか…。」


そう言いながら、私と「ハセガワ」くんへ、一つ大きく頭を下げられました。

「ハセガワ」くんは両手を体の前で振りながら恐縮した面持ちで


「いえいえ、そんな…ワタシ大した事してませんから。」


なんて謙遜していますが、こうしてどうにか完成にこぎつけられたのは、まさしく彼女の頑張りがあったからこそと言えるでしょう。


私は、

「ハセガワくんがあんなにがんばってくれたから、どうにか間に合ったんだよ。」

「無理をさせてしまったようで申し訳が無く、ほんとうに感謝しています。 ありがとう…。」


そう言いながら、私も「ミムラ」さんに習い、「ハセガワ」くんに感謝の気持ちを伝えました。


すると、「ハセガワ」くんは更に激しいテレ笑いを浮かべています。

「イヤイヤ、もう、そんなことありませんから!2人とも頭を上げてください!!」


なんて、更に恐縮そうな声を挙げていました。


しかし、実際に彼女の頑張りはとてもすごく、4日に一度病院へと行かなくてはならない体なので、あまり無理はしないようにと私が何度言っても

「大丈夫ですから。」

と答えるばかりで、手を休める事無く作業を行なってくれました。

そのおかげで、私の手間が随分と楽になったのです。


3人でそんな会話をしていたら、店の扉が開き、ハセガワくんの彼氏がやってきました。

そう、言うなれば彼こそが、今回一番の影の功労者と言えるでしょう。


ハセガワくんの隣に立つ彼氏を見つめ、「ミムラ」さんは尊敬の声をかけました。

「でも、一番の功労者は、やっぱり有井くんかな?」

「なんたって毎日、彼女の送り迎えと、病院通いのために車で送ってくれたんだもんね。」


「こんなにやさしい彼氏がいて羨ましいな~(^^」


そんな声をかけられ、照れている姿からは、2人がとっても中むつまじく、かけがえの無い者同士だと言うことが、とても強く感じられました。


「ミムラ」さんは座っていた椅子をくるりと2人に向けて、組んでいた足をきちんと揃えてから

「これが無事に納まったら、2人には改めてお礼をさせていただくわ。」

「今回はほんとうに、ありがとうございます。」


そう言いながら、彼女は小さく頭を下げた後、ニコリと笑顔を捧げました。


…ここまで言われたら、もう、私から話すべき事も全て言われてしまったので、そんな光景をただ、笑顔で見つめるしかありませんでした。



塗装から上がってくるのが4日後、その次の日には彼女が受け取りにやってきます。

私の手から離れるその瞬間まで、まだまだ気が抜けません。



完成間近

今日で殆どの作業が終わりました。


皆さんの協力のおかげで、予定より一日早く仕上げることが出来ました。


今回製作した「火鉢」は、前回作った物と形は同じなのですが、天板の仕様を変えてみました。

天板の外枠は同形状(5センチ×5センチ)としながらも、枠の内側に「欅」(ケヤキ)の玉目の突き板を貼ったのです。(突き板とは木材をスライスしたもので、厚さが0,5ミリのシート状になっています。)


前回製作したものは、木肌そのままの仕上げだったので、より印象的にと言う先方からの注文に、この突き板を使いました。
ただ、この突き板は木目の「抜け」があり、塗装しても弾いてしまう「目ハジキ」が多くなってしまうので、塗料を塗る回数を増やして対処してもらうことにしました。

しかしそのおかげで、色合いに深みのある仕上がりになるはずです。



さて、ラストスパートです。


製作開始

作業を始めた日から、開店中の店番を「ハセガワ」くんに任せて、私は一日中「火鉢」の製作に取り掛かっています。

手伝ってくれている「ハセガワ」くんは、お店の開店時間が終わってから、残業という形で手伝ってもらっています。


作業の工程としては、部品の製作や各部の加工を私が行ない、表面の仕上げ加工を「ハセガワ」くんにお願いするという流れになっているのですが、元有名美術館の学芸員を勤めていただけあって、作業はとても丁寧で、仕上がり具合もとても綺麗です。


そんな「ハセガワ」くんのおかげで作業は順調に進み、今日で殆どの加工が終わりました。

明日からは少しずつ組み立てながら各部の調整を行ないます。


作業の進行は、予定より少し速いかも知れません。

もちろん、普段よりも早い時間にお店へとやってきて、開店までの数時間も無駄にしないで作業を行なっているからなのですが、望むなら、もうちょっとスピードアップしたい所ですね。





決断の時

話を聞けば、どうやら「ミムラ」さんは、作りかけになっている「火鉢」を先方に贈りたいとのことでした。


「初めて見た時の、あの杢目と象嵌の景色がとっても素晴らしくて、ずっと印象に残っていたんです。」

「これまでも色んな物を検討し、探してきたのですが、先方が納得できる物となるとなかなか見つかりませんでした…。」

「でも、あの『火鉢』には、先方が喜んでいただけるに十分な価値があると、私は感じたんです!」

「ぜひ、贈らせてください!!」


絶え間なく熱弁を振るう「ミムラ」さんに、私は仕事に対するひたむきさを感じましたし、私の仕事に対しても、これだけの賞賛の言葉を並べてもらえるということは、私自身も本当に嬉しい事です。


しかし、いかんせん期日が短すぎます…。


「先方が日本を発たれるのはいつですか?」

と、尋ねると

「10日後です…。」


ぼそりと話したその言葉を受けて、私は小さくため息をついてから、かかるであろう作業の手順を考えてみました。

「塗装に4日、その後の金具取り付けに1日かかるとすると、実質の作業日数は、4日間くらいか…。」

「確かに、各部品はある程度の形にはなっているものの、すり合わせなどの手間を考えると、かなり厳しいですね…。」


そう呟きながら考えてていると、先程まで目を見開いていた「ミムラ」さんの目が、みるみろシュンとなっていきます。

そんな表情の変化に最初に見かねたのは、私では無く、驚くべきことに「ハセガワ」くんでした。


「社長! 私も手伝いますから、何とか完成させましょう!!」

彼女はそう切り出してくれたのです。


どうやら、私と「ミムラ」さんの話が仕事の事だったので、遠慮してカウンターの端で雑誌を読んでいたのですが、この事態にたまりかねたらしく、つい叫んでしまったのだそうです。(後日談)


「え、でも君、体は…。」


「確かに、あまり無理は出来ませんが、少しくらいはお役に立って見せます。」

「ですから社長!なんとかしてあげましょう!!」


2人の熱い眼差しに、私の体の中で、ふつふつと湧き上がる気持ちが生まれてきました。

そうこれは、「ミムラ」さんのためにも「やらなくてはいけない仕事なのです。

それを今、目の前の2人から求められているのです!


そして生まれた答えは一つ!


「わかりました…引き受けましょう。」


2人の顔を見つめ、私はそう決めました。

今、何をするべきかを考えて…。


再びの依頼

お昼を食べ終わった後のお茶を飲んでいる時に、「ミムラ」さんから頼み事があると言われました。


「何度もお願い事ばかりして申し訳ない」と前置きをしながら、事の次第を話し始めました。


その内容は…。


「ミムラ」さんの会社が新たな海外の会社と取引を始めた事を記念して、相手の企業の社長さんへ、何か記念の品を贈る事になったのだそうです。

しかし、会議を行なっても何を贈ったら良いのか全く判らないまま延々と時間だけが過ぎていました。

その後、相手企業の社長さんを調査した結果、日本のアンティーク製品を収集していることが判明したそうです。


その熱中ぶりはかなりのもので、長期で日本に滞在する予定の時は、滞在地近くで行われる蚤の市などの開催日を事前に調べておいて、必ず訪ねているそうなのです。


「そこで…。」


「そういった物に詳しいミムラさんに、白羽の矢が立ったという訳ですか。」

と、私が彼女の言いかけた言葉じりを掴んで答えると、全てを承諾したような表情をしながら「ミムラ」さんはコーヒーを一口すすり言いました。


「もっと詳しい方に依頼しようかとも検討されたのですが、何せ時間が無いもので、身近な詳しい人物へと依頼することに、役員会が決定してしまったのです。」

そんな事を言いながら、上目使いで私を見つめるその表情は、以前に見た覚えのある顔でした。


私はその表情を見て全てを察し、言いにくそうにしている彼女へ渡し舟を出しました。


「それで、何を作るのですか?」


マイカー…ぐずる

最近、愛車の調子が良くない。


私が会社を辞めてこのお店を開き、ようやく収入も安定してきた頃に、念願であった車を購入したのです。


それがこの車『ヴィッツ』なのです。


まあ、わが愛車も既に6年目を迎え、バッテリーも変えたりハブベアリングも交換したりと、マメに手間をかけてはいたのですが、この車は仕事でも使っているので、走行距離が17万キロ近くなっているのが、不調の原因となっているのかもしれません…。


ちなみに、この車、グレードが「ユーロエディション」なのですが、最初はネット購入限定だったのに、その後普通にディーラーで売られてました。

ちょっとショックです…(TT)

でも、乗り心地などはとてもしっかりしているので、気に入っていたんですよ。(初めてこの車に乗ったのは、ドイツで、向こうではYARISという名前でした。)


今日、馴染みの車サン屋さんから

「今年のヴィッツカップに出ていたのが何台か売りに出ているよ。」

と、言われたのですが(来年から新型に移行のため)、どれも1.0Lのベーシックグレードだったので、遠慮させていただきました。


そういえば以前、けたたましい音を奏でる「ミムラ」さんのNEWミニが気になったので、詳しい事を聞いたのですが、これがもう大変でした…。(以降、専門用語乱立です。ご了承ください。)


「最初は、初期型のクーパーS(S/C付き)に、ジョンクーパーキットを付けて無理やり18インチのタイヤを履かせて走っていたんだけれど、カブリオレのSが出たから即刻買い換えて、外してあった前の車のパーツを付けて…あ、付ける前に部品のOHを兼ねてエンジンも開けてヘッド周りの修整と面研もやって、ついでに特注の薄いメタルガスケットに交換して圧縮比のUPもやって、カムシャフトとマニフォールド、あ~んどエキマニも一品物で作って、燃料をHKSのF-CON VPROで制御させて、マフラーもあえてステンレスで特注もして、1,000kmの慣らし後にボッシュのシャシダイでエンジンのパワーを計ったらなんと!235馬力も出ていてビックリしましたよ!」

「おまけに、オープンボディだから、サイドシルに補強のためウレタン注入も行なって、ロアアームバーやストラット部周辺のスポット増しもやりましたね~。」


「あとは…。」


いや、もういいです…。


コレを聴いて言える事は、どうやら「とんでもない」車になっているようですね。

見た目は変わらないのに…。


「この車で会社にも通っているから、あんまり派手にはできないんですよ~(^^」


じゅうぶんです…。


私も車は好きなので、暫くは車種選択であれこれと楽しめそうです。


…あ、でも、「あの方」みたいにはしませんから(^^;

製作途中

「今、何をつくっているんですか?」


不意に、「ミムラ」さんは尋ねてきました。

既に「碗」は箱に仕舞われ、持参した風呂敷に包まれています。


覗き込むような表情で、私の手元の金具を見ながら、その形を確認していました。


「火鉢ですよ。」

私はそう答えながら、店内の奥へと指を指し

「あそこに置いてある物と同じ物を作って欲しいと頼まれたんですよ。」


店の奥に、表面が荒れて、色落ちしてしまった火鉢が置かれています。

これはお店の常連さんが、東北の実家へ帰られた際、「蔵」の中で埃まみれになっていたのを見つけてこられたのだそうです。

最初は修理して使おうかと考えて持ち込まれたのですが、状態を考察した結果、新規に制作しましょうと言うことになりました。(手間対費用ですね。)


今回製作に使った材料は「欅」(ケヤキ)としました。

杢(モク)目を生かした表面の周囲を、ぐるりと象嵌を埋め込んで飾ってあります。

5×5ミリの象嵌は、「黒檀」(コクタン)を使ったのですが、良いアクセントになったようです。

「火鉢」全体の大きさは三尺×三尺(約90×90センチ)と、それほど大きくはありません。

現在は白木の状態ですが、明日は塗装業者さんに搬入して、あめ色に着色して仕上げてもらいます。


「ミムラ」さんは店の奥の作業場へ行き、出来上がった「火鉢」を見渡して

「なんか、こういうのっていいですね。」

と言ってくれました。


そんな言葉に私は少し嬉しくなってしまいました。

腕前を誉められるのは、職人として一番の賞賛の言葉ですからね。


「実は、この火鉢の持ち主の承諾を得て、同じ物を幾つか作って店でも売らせてもらおうと考えているんですよ。」

「えっ、そうなんですか?」

「とりあえず今うちにある材料だけで2つ程作っています。」


そう言って視線を向けた先には、部材として一部完成している材料を置いてあります。

「まずはこっちにある分を完成させて、向こうのは来年辺りからボチボチと作って行く予定です。」

「こういったものは、手間をかけてナンボですからね、じっくりと取り組んで行きますよ。」


なんて、調子に乗って色々話してしまいました…。



その後、コーヒーを飲みながら和家具について色々話をしてから、閉店の少し前くらいの時間に「ミムラ」さんは帰って行かれたのですが、結局、「碗」については語られず終まいでしたね。


届きました

オークションで落札した「碗」が届きました。


一応、本人に渡す前に、私が中身を確認したのですが、割れや欠けも無く、無事に届いたようです。

まあ、本人の希望で美術品専門の運送屋さんに頼んだ訳ですから、そんな心配は無用だったのですが…。


しかし、改めて現物を見ても、やはりどうということの無いありふれた感のある品ですね。

いったいこの「碗」のどこが、「ミムラ」さんの目にかなったのか、不思議でなりません。


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夜になり、「ミムラ」さんが商品の受け取りにやってきました。

カウンターの椅子に座った彼女の前へ件の「碗」を差し出すと、まずは全体の状態を確認してからそっと手に取り、細部をしげしげと眺めていました。

その目は以前、修理したテーブルを見るような、喜びの表情ではなくて、じっと何かを思い浮かべているかのような目に見えます。


そんな「ミムラ」さんへ、私は

「どうでしょうか? 思った通りの品でしたか?」

と、尋ねると、彼女はゆっくりとその「碗」をカウンターの上へと置き、一呼吸置いてから

「はい、これに間違いありません。」

そう言って顔を上げ

「いろいろお手間をお掛けしました。 ありがとうございます。」

と言いながら、カウンターに両手を着いて、深々と頭を下げられました。


瞬間、私はその姿に恐縮してしまい、くぐもった声で

「あ、いえ…それほど大したことしていませんから! そんな・・・頭を上げてください…。」

調子のはずした言葉しか出ず、あたふたしていると、「ミムラ」さんはゆっくりと顔を上げ


「ありがとうございます。 でも、この「碗」はどうしても欲しかったので…、無理を言ってしまいました・・。」


そう言いながら再び「碗」に目をやる姿が、とても物思いに耽っているように見えたので、あえてこの品について詳しい話をするのは止めて、その品と同じ日に届いた、今作っている家具の金物の確認をし始めました。


落札

先日のオークションへの入札は、結局それほど苦労することもなく、落札することが出来ました。


PCの画面を睨みつつ、入札を委託したドイツの友人へ電話で指示し、終了30分前になった時、それまで提示されていた金額の倍額を入れたら、周りはあっさりと退いてしまったようで、そのまま終了の時間を迎えました。

そう書くと、凄い値段を付けたのかと思われそうですが、決してそんな事は無く、日本円にしても二桁万円までは行きませんでした。

まあ、風変わりな備前焼でも買ったと思えば、納得もできる値段かな?(正直言えば、割高感はあります。)



とりあえず落札した品は、一旦ドイツの友人の下へ届けられ、そこから私の手元へと届くことになるので、依頼者である「ミムラ」さんの手へ渡るまでは少し時間がかかることになるとの連絡メールを送ったら、程なく彼女から丁寧な感謝のお返事を頂きました。


返事が返ってくるまでの時間を考えると、きっと一日中携帯を睨んでいたのでしょうね(^^


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次の日の夜、「ミムラ」さんが店にやってきました。


昨日自宅に帰って眠ったのは、午前2時近かったそうで、仕事中はとっても眠くて仕方がなかったと話していました。

「お昼を食べたらもの凄い睡魔に襲われて、会議中いつの間にか眠ちゃってて、めちゃくちゃ怒られました。」

なんて、全く反省の色の無い屈託のない笑顔で話していたので

「私もハセガワくんに店番を頼んで裏で寝ってたんですが、誰にも怒られないので、気が付いたら3時間も眠っていました…。」

と、正直に告白したら

「ずっる~い!」

なんて、唇をとんがらせて怒ってました。


自分だって寝てたんでしょ…。