食事の後に
少し早い時間でしたが、6時ごろから食事を始めました。
ちょっと不安であった私の作った料理も結構いける味に仕上がって、皆美味しく食べてくれました。(もちろん子供達も。)
お姉さんや「ミムラ」さんが作ってくれた料理もとても美味しくて、お酒の方も勧められるままに飲んでしまいました。(わたしとお姉さんで殆ど1本飲んでしまいました…。)
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食事も終わってもお姉さんからワインのボトルを差し出され「もう少し付き合ってよ。」とのお誘いを受けたのですが、片付けを手伝おうとしていた私の様子を見た「ミムラ」さんから
「こっちは私と子供達とで片付けておきますから、お姉さんの相手をお願いします。」
と、言われてしまったので、申し訳ないとは思いながらも、リビングへと向かいました。
リビングはこの家に似つかわしくない完全なる洋風の作りで、突然別世界にでも来てしまったような雰囲気になっています。
なんでも、土間であった台所を改築する際に、お姉さんが半ば無理やりに台所と繋がるリビングルームを増築させてしまったのだそうです。(一人娘の強みよ、とは本人談)
私とお姉さんは暖炉の前に火を囲うように置かれたソファーへ向かい合って座り、私はちびちびと、お姉さんはぐいぐいとワインを飲みながら色んな事を話しをしました。
私が会社勤めをしていた頃の話や、その会社を辞めた理由。
今のお店を開くに当たっての話や、お店で働いてくれている「ハセガワ」くんとの出会いなど…。
それはそれは沢山の事を話してしまいました。
そんな他愛も無い話題に杞憂していると、片付けを終えた「ミムラ」さんがコーヒーカップを片手に持って部屋へとやってきました。(お酒は弱いといって食事中も飲まなかった。)
お姉さんが「子供達は?」と聞くと、娘さんが弟さんをお風呂に入れているとの答えに「相変わらず面倒見の良い子ね~。」
そう誉められていました。
確かに、テキパキした行動は、母親(ミムラさん)以上だと言えます。
カップをテーブルに置き、私とお姉さんの間にあるソファーに座り、背もたれに寄りかかりながら
「今日の料理、とっても美味しかったです。 ごちそうさまでした。」
そういってぺこりと頭を下げ、頭を上げると私に向かってにこりと笑顔をくれました。
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吹雪の夜、いい歳をした大人3人が頭を並べて話した事はと言えば、「初恋」の思い出話しでした。
更に質問のされ方も、主にお姉さんが私へ質問し、私が答えると言う一方的な内容で、まるで犯人が取調べ室で尋問でも受けているかのようなシチュエーションになっています。
まあ、当の私もアルコールが入っているせいもあってか、頭も口も緩みっぱなしで、聞かれた事以上の出来事までペラペラ話してしまいました。
今となっては恥ずかしい…(><)
しばらくすると、リビングと台所を仕切っているカウンターをテーブル代わりにして高校受験の勉強をしていたアイちゃんが、私の側へとやってきて(既に弟さんを寝かしつけていた)
「寝かせてくる…。」
と、お姉さんへ向かって話し掛けていたので、何の事なのだろうと思ってアイちゃんの目線をたどると、そこにはすっかり眠ってしまい、ソファーに頭をもたれかけている「ミムラ」さんの姿がありました。(カワイイ寝顔でした(^^)
私は話しに夢中で、横にいる「ミムラ」さんの様子に気付かなかったのです。
それにしても、まさかグラス1杯でこんな酔ってしまうなんて、本当に弱かったのですね~。(ちなみに、お酒はお姉さんが殆ど無理やりに飲ませました。)
アイちゃんは「ミムラ」さんの肩を何度も揺すりながらも、あどけない表情で眠っているその耳元で
「お母さん、ちゃんとお布団で寝よう。」
どちらが親なのかわからないような優しい声を掛けていました。
すると、少し寝ぼけた声を出し、ぼんやりとした目を開け、ゆっくりと体を起こしてから立ち上がり、アイちゃんに手を引かれ、おぼつかない足取りで部屋から出て行こうとしていたのですが、私はその光景から何故か目が離せませんでした。
「お母さんを寝かせたら、私もお風呂に入って眠ります。」
そう言って振り返ったその顔は、馴れ慕んだ姿とは違う、幼い頃の「ミムラ」さんを見ているような、複雑な心境になってしまい、そういった気持ちが起きている自分に対し、心が揺らいでしまいました。
親子関係
ワインを取りにお屋敷の裏に行くため、一度玄関へ出てから勝手側へ回って行くと、「ミムラ」さんのお子さん達が暖炉で燃やすマキを運んでいました。
男の子は5,6本程しか持てないようでしたが、女の子は直径30センチくらいにまとめられたマキの束を抱えるようにして運んでいました。
先程より更に強くなった風の中を体中真っ白にして一生懸命運んでいた様子を見て、私はすれ違う際に
「大丈夫?持とうか?」
そういって手を出そうとすると
「ありがとうございます。 でも、これくらい軽いですから平気です。」
鼻を真っ赤にしたその女の子は笑顔で答えてくれました。
その後ろに立つ男の子は、人見知りしているのでしょう、女の子の背中越しにこちらをのぞき込んでいます。
「そうか、カゼ引かないようにね。」
そう声を掛けても風にかき消されてしまうらしく、振り向いたのはおぼつかない足取りで歩く男の子だけでした。
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台所に戻ると、二人の作っていた料理もほとんど完成しているようでした。
私は頭に残った雪をタオルで拭きながら
「お子さん達、一生懸命マキを運んでいましたよ。」
先ほど見た力強い姿を思い浮かべながら言うと
「アイちゃん(仮名)沢山持っていたでしょう? あの子、スポーツやって鍛えているから結構力あるんですよ~。」
女の子なのにね~なんて言葉も漏らしながら話す「ミムラ」さんは、結構まんざらでもない様子です。
私はその力の源を知りたくて
「へ~、種目は何ですか?}
そう聞くと
「やり投げ。 あの子結構強いらしくって、この間の大会でも準優勝だったのよ。」
そう言って腰に手を当て誇らしげにしている姿を見て、お姉さんから「あなたの事じゃないわよ。」と、突っ込みを入れられていました。
そんな風にふざけあっていたお姉さんが、不意に何かを思い出したようで
「そういえばその大会の時、ミムちゃんアイちゃんとケンカしたでしょう?」
「確か今日みたいに寝坊して、お弁当作り忘れたなんて言ってたわよ。」
言われた「ミムラ」さんもその時の事を思い出したらしく、あわてて話を止めようとして、お姉さんに向けて両手を思いっきり振っていました。
「お昼前にお弁当を作って持って行ったまでは良かったんだけど、今度は「お箸」を忘れていって、完全に呆れられていたよね~。」
「ミムちゃんの寝坊癖と物忘れのヒドさは昔っからだったけど、今回はちょとタイミングが悪かったかな。」
そこまで聞いて私はその光景に、何か見覚えがある気がしました。
お姉さんの話は更に続き
「ミムちゃんあの時タバコ吸ったでしょ?」
そうです!思い出しました!!
私がジョギングを行なっている時に出会った、あの時の出来事だったのです!
「アイちゃん…言い過ぎたって、私に相談しに来たのよ。」
…なんでしょう。 「ミムラ」さんとタバコの間には、何か問題があるようですね。
「…もう、吸っていないわよ。」
そう言い放つ「ミムラ」さんの表情は、先程までとは違う、後悔に苦しんでいるかのような、寂しい顔をしていました。
一宿の義理
店番を頼んでいる「ハセガワ」くんへ電話を掛け「こちらは天気が酷く悪いので、今日は帰れそうにないから戸締りをして帰ってもいいよ。」と伝えると
「まだ4時過ぎだし、彼と食事に行く約束をしているので、もう少し居ますよ。」
なんて言ってくれました。
なかなか休日の合わない二人が一緒に居る訳ですから、ゆっくりとお互いの会話を楽しんでいるのでしょうね。
ホント、相思相愛で、お似合いの二人ですよ。
さて、私の方はと言いますと、ご好意にて今夜の宿を提供していただき、泊めていただく訳ですから、ただ何もせずダラダラとしているのも失礼かと思ったので、私も一つ夕食を作る事にしました。
何が作れるだろうと思い、冷蔵庫の中を覗くと、丸のまま凍らせたウサギの肉がありました。
お姉さん曰く
「知り合いのマタギの方からおすそ分けで頂いたのだけど、食べ方がわからなくてね…。」
「そのまま焼くのも味気無さそうだったから、ずっと置いてあったのよ。」
そう言いながら冷凍庫から塊を取り出して、テーブルの上へと置き
「何かいいメニューがあったら構わずに使ってちょうだいね。」
と言ってくれたので、遠慮なく使わせてもらう事にしました。
その塊をレンジで解凍していたら
「それで何を作るの?そのまま丸焼き?」
なんて、にやけた様子で尋ねて来たのですが、私は意に介さず
「アイントップ(Eintopf)というドイツの家庭料理を作ります。」
と、そういうと、鼻ですかしたような声で
「ふ~ん。」
と、お姉さんは答えました。
どうやらイマイチこの料理を信用していないようなので、仕方なく説明すると
「作り方は肉も野菜もぶつ切りにして、香辛料と一緒に煮込むだけなんですよ。」
そう言いながら、切り終った食材をレストランにあるような寸胴の鍋に放り込みます。
「毎年クリスマスになると、ドイツの友人の家族へ遊びに行って、奥さん自慢の料理を食べてくるんです。」
そう言うと、少しはこの料理がまともなものであると信用したようです。
鍋で煮込んでいる間、「ミムラ」さんとお姉さんは他の料理を作ってくれました。
「ジャガイモが沢山あるからそのスープと、『ミム』ちゃんが買ってきたカツオでマリネを作るけど、それで良いでしょ?ワインにも合うし」
なんて言いながら、私を見てニタリと笑いました。
「いけるくち…だよね?」
そう言うお姉さんの表情からは、決して断わることのできない視線が伝わってきます。
「もしかして、今夜泊まって行けと言ったのは、こういった「魂胆」があったからなのだろうかと考えてしまいそうですが、まさか、そんな訳はありませんよね…。」
などと考えていると
「裏の小屋にワインが保存してあるから、適当なのもって来てくれる?」
そう言いながら、小屋の鍵を渡してくれたのですが、鍵を手渡されるその時に
「1本だけじゃなくて、2、3本みつくろってきてね。」
なんていうその表情からは、大変な夜になろうであることが、容易に想像できました。
「…。」
箪笥に眠る
皆で(5人で)向かったその部屋は、元は曽祖父に当たる方の書斎だったということですが、いつの間にか増え続ける家具の物置になっているのだそうですが、その言葉は、部屋に入った瞬間、納得しました。
そこには、今にも溢れんばかりの古い家具がずらりと立ち並んでいたのです。
ざっと数えただけでも、水屋箪笥が四竿に帳箪笥が二竿、階段箪笥二竿と、船箪笥も三竿ありました。
他には薬棚や屏風、鎧兜なども幾つかありましたね。
これだけの品は当然ながら一部屋に入りきれる訳も無く、隣の部屋も占領して保管(?)されています。
どれもがとても綺麗な状態で保存されてあり、正直言ってため息がこぼれるくらい見事なコレクションでしたね。
その中から私に見てもらいたいと言うのは、帳箪笥と船箪笥、薬棚や幾つかの小物類でした。
あと「火鉢」も一つありましたね。
これは、以前私が作ったようなものではなくて、もっと小ぶりな物でした。(一辺が二尺くらい)
鎧兜もどうかと言われたのですが、さすがにそれは私も知識が無いので、遠慮させていただきました。(一応、知り合いには声を掛けてみると言っておきましたが…)
と・・・、一応全てを見終わり、ざっと見積もってみたのですが、どれもが手間をかけずに売れそうな程に良い状態だったので、金額も結構頑張れました。
しかしお姉さんは、出された見積もり書を見ても「ふうん…。」と言っただけで、金額に対しさして気にもしていない感じでした。(そんなものなのでしょうね。)
この部屋に置いてある物の他に、お屋敷の隣にある蔵の中にもまだかなりの数の家具が眠っているとの話でしたが、そちらはまだ整理もついていない状態ということなので、次の機会にでもと言う話になりました。
…それにしても想像していたよりも遥かに多いこの数には驚いてしましたが、一体どれだけの数を集めていたのでしょうね?
さて、引き取ってもらいたいという品も一通り見終わったので、今日持って帰れそうな物だけでもトラックへ積み込もうとして廊下への戸を開けて驚きました。
外の景色が先ほどまで穏やかだった雪模様から一変し、猛烈な吹雪となっていたのです!!
その光景を見た「ミムラ」さんのお姉さんは、慌てて地元の消防団へと電話をかけました。
すると、電話の向こうで話す消防団の団長さんは、今まさに、吹き溜まりに埋もれた車を救助している最中だと言うではありませんか!
その場所の積雪は、すでに30センチ以上あるそうで、このままの天気が続けば、更に積雪の量が増えるだろうとの話でした。
しかもこの風の影響で、除雪車が出動しても、除雪した側から直ぐに積もってしまうと言うどうしようもない状況らしく、この吹雪が収まるまでは、道路も通行止めとなってしまったのだそうです。
いやはや、どうしようかと困り果てていると、お姉さんが突然
「じゃあ、今夜はここに泊まって行けば?」
などと言い出しました。
とつぜんの申し出に驚きながら、私はいくらなんでも初対面の人に対し「そんな事はできない」と言いました。(私以外、女性と子供ばかりですからね。)
「まあ、普通そうだよね。」
「でも、こんな状況だし、帰れと言う訳にはいかないもの。」
「あとは『ミムちゃん』がいいって言えば、私は構わないわよ。」
そう言われると、私には何も言えず黙ってしまうしかありませんが、ここであることを思い出しました。
「近くに温泉があると聞いてますが、そこには泊まれないのでしょうか?」
と尋ねてみました。(ミムラさんが言ってましたよね。)
しかし…
「ムリムリ、その場所って、ここから車で30分以上も登った所だもん。遭難しちゃうわよ。」
「地元の人だってなかなか行かない場所なのよ。知らないの?」
なんて、苦笑交じりに言われてしまいました…。
暫しの沈黙…。
どれくらいの時間が過ぎたのでしょう。(多分30秒くらいでしょうが…。)
重くなっていたその場の空気を、まずは「ミムラ」さんのため息が打ち消しました。
「ハ~…。」
「まぁ、この状況で何を言っても無駄なことでしょう。」
「…。」
『お泊り』決定のようです。(…。)
おしゃべりが止まらない
「ミムラ」さんの義理のお姉さん(以後、お姉さんもしくは”今井美樹”に似ているのでイマイさん)に薦められるままに家の中へと入ると、そこはまるでお寺にでもいるような、古い歴史を感じさせる、趣のある素晴らしい「お屋敷」でした。
そんな中、私はまず仏壇へとお焼香を上げ、ご冥福を祈らせていただきました。
その後、客間にてお茶を頂いていると、右うでを女の子、左うでを男の子に引かれた「ミムラ」さんがやってきました。
男の子は満面の笑顔で一所懸命にその腕を引き進んできます。
皆が揃った所で改めてご挨拶をすると、「ミムラさんのお姉さん」と言う方は「ミムラ」さんのご主人のお兄さんの奥さんだと言うふうに紹介されました。(成るほど…。)
そしてこの度亡くなられたのは、そのお姉さんのお父様だと言う事です。
お父様はこの村で村長の職に就いていた方だったそうで、葬儀の際にはとても多くの人が参列されたらしく、それは大変な葬儀だったと話していました。
「ミムちゃんには感謝しているのよ。」
「葬儀中ずっと具合が悪くて動けなかった私の変わりに、大して睡眠も取らずてきぱきと働いてくれたしね。」
「ウチのダンナは仕事の事以外全く無関心な人で、こっちに来たのも葬儀の時だけで、通夜にさえ来なかったんだから…。」
等々…。
お姉さんは私と初対面と言う事も気にせずに、ここぞとばかりと「愚痴」を話しました。
よほど誰かに聞いて欲しかったのでしょうね~。
しかし、これから帰る時間を考えると、あまりのんびりとも出来ないので、ひとまず話を一休みしてもらい、件(くだん)の品を見せてもらうようにお願いしました。
(あのままだと、きっと朝まで話していそうだったね…。)
衝撃的な出会い
渡されていた地図の場所へ着いてみると、そこはとても大きな「お屋敷」でした。
お屋敷への入り口にはとても大きな門構えがあり、その両側に防風林である杉の木が遥か彼方まで続き囲んでいます。
その入り口である立派な門に取り付けられた、カメラ付きのインターホンからの言葉に沿ってトラックごと中に入って行けば、外からも見えていた竹林の中を分け入って綴れる小道の光景は、ただただ風情と言うしかありませんでした…。
そんな場所を暫く走ると、開けた場所に2台の車が止まっていました。
そのうちの1台は、先ほど私のトラックをもの凄い勢いで追い抜いて行った青いインプレッサです。
トラックを近付けて行くと、開いていたトランクの影から荷物を下ろしている「ミムラ」さんの姿が現れました。(半分ビックリ、半分納得…かな?)
車をインプレッサの横に止めて下り立ち、彼女へ挨拶の言葉をかけると、少しバツの悪そうな顔をしながらも、明るく答えてくれました。
「ミムラ」さんは両手に荷物を抱えていたので、「私も一つ持ちますよ。」
と声をかけると
「あ、すみません。」
そう言いながら、スーパーの袋を渡されました。
中にはお肉や果物などの食材が沢山入っていてかなりの重さがあります。
「ミムラ」さんは今夜こちらに泊まると言っていたので、夕飯用の食材なのでしょうね~。
…なんて考えながらも、素晴らしすぎる運転技術を称えつつ、お屋敷(この言葉がまさにピッタリ)の玄関の前まで来ると、その大きな扉が開き、中から「ミムラ」さんの義姉さんと思われる女性が出てこられました。
年の頃は40歳前後くらいに見えますが(ミムラさんより少し上くらい?)、とっても綺麗な方です。
お互いに何度も挨拶を交わしていると、家の奥からバタバタと人が駆けて来る音が聞こえてきたので、そちらを向くと、中学生くらいの女の子と、小学生(4年生くらいか?)の男の子が走っている姿が見えました。
私は、「義理のお姉さんのお子さんかな?」
なんて思っていたら、駆け寄ってきた女の子が「ミムラ」さんの右腕を掴み
「お母さん。荷物、部屋に運んだよ(^^」
と、「ミムラ」さんの顔を見上げて言ったのです。
…。
青い閃光
随分と山奥まで来てしまったらしく、せっかく楽しんでいたFMラジオの「クリスマスソング特集」が、途切れるようになってきました。
仕方がないので、AMのラジオに切り替えようとラジオに目線を移した時、バックミラーに映るライトの光に気が付きました。
その光は激しく降りしきる雪の中をぐんぐんとこちらへ迫って来ます。
「すいぶん飛ばしているな~。」
なんて思っている間に、その車は私のトラックへと追いついて…着いた瞬間「あっ」と言う間に抜いて行きました。(青いインプレッサでした。 多分STi)
追い抜いていった勢いに押され、私が驚いていると、その車の目の前に、結構急なコーナーが迫ってきました。
なのに、一向に減速する様子がなかったので
「おいおい、その勢いで曲がれるのか?」
なんて、思った瞬間
ブレーキランプが点滅とほぼ同時に、車が完全に真横を向き、4輪をスライドさせたまま完璧なドリフト姿勢を維持しつつ、コーナーを走り抜けて行ってしまいました…。
その…あまりの絶妙なコーナーワークに唖然としながらも、私がそこを通り抜けた頃には、その青い稲妻(インプレッサ)の姿は、遥か彼方の雪煙の中に消えていました…。
なんか、マンガみたい…。
期待と不安
は~っ…。
先日伺った場所での出来事を書こうと思うのですが、あまりにも色んな事があり過ぎて、ちょっと混乱しています…。
文章が荒れているかもしれませんが、ご了承ください。
では、始めます。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
店のトラックに乗り、走り始めてから既に2時間近い時間が過ぎました。
出発した時、市内の雪はまだちらつく程度だったのですが、山あいの道まで来るとさすがに降り積もっています。
高速を下りた所でトラックの後輪へチェーンを取り付けたのですが、4WDとも相まって、凍結している路面でも走行に不安はありません。
今日、何故このように田舎の山道を走っているのかと言いますと、先日の「ミムラ」さんの話から、事の次第は始まりました。
「ミムラ」さんの「義理のお姉さんのお父さん」…の葬儀を執り行い、疲れ果てた体を癒すため、再びお義姉さんの実家へとでかける旨の話は、以前にも書きました。
温泉でのんびりすると言う「ミムラ」さんに対し、相槌のつもりで放った「行ってみたいな~。」の一言が、私を「かの地」へと向かわせてしまったのです…。
そこには、相続された多くの古い家具があり、私にはその中から幾つか買い取ってもらいたいのだそうです。
中には郷土資料的価値の高い物もあるそうで、そういったものは地元の資料館や美術館などに買い取ってもらったり、寄贈されると言っていました。
そのお宅にはそういったた品が沢山あるため、相続税もかなりのものらしく、随分と思い切って処分されるとの話でした。(金額は聞きませんでしたが、かなり凄いらしいです。)
私も、そういった品を店に置きたかったのですが、市場を探してもなかなか良い状態の品が少なくて、お店の品揃えも控えていたのです。
なので、「ミムラ」さんからその話を聞いた時、せっかくですからこの期を生かして品揃えを増やしてみようと思うのです。
ただ、そんな価値のあるものばかりの中に、私が購入できる品があるのでしょうか?
恥ずかしながら書きますが、うちの店は少しの常連さんが居るものの、そんなに儲かっていると言えるほどではありあません…。(自分で言って寂しいが。)
話を聞く限りでも、私が購入でlきるのは、それほど多くないでしょうね。
でも、何が出てくるか、興味はありますよ(^^
休みの理由
数日ぶりに「ミムラ」さんがお店へとやってきました。
手には「ハセガワ」くんの彼氏が働くカフェのケーキ箱を持って…。
件の「火鉢」が無事に先方へと贈られたそうです。
「先方の社長さん、あの「火鉢」を見て、とっても喜んでいたそうですよ。」
それはまるで、自分に起こった出来事のように、うれしそうな顔で話されています。
その後も社長さんの集めているコレクションの話などをしていたのですが、「ミムラ」さんはふいに何かを思い出したらしく、私にある事を聞いてきました。
「こちらへ火鉢を取りに来た方…何か言っていませんでしたか?」
なにやら随分と気にしている様子だったのですが、私はあえて何も聞かなかったことにして、言葉を濁しました。
その答えに彼女は「そうですか…。」と一言呟き、黙り込んでしまったので、話題を変えようとして、今度は私から質問を投げかけました。
「暫く休んでいたそうですが、出張では無かったのですか?」
…2日ほど前、「火鉢」の代金を、何故か現金で支払いに来た男(先日尋ねてきた秘書だった。)に、随分と「ミムラ」さんの姿を見ていないと言ったら
「ミムラ部長は今、10日間のお休みを取られています。」
なんて返事が返ってきました。
「ミムラ」さんは普段からパワフルな方だったので長期に「お休み」していたと言うことがとても気になっていたのです。
そんな私の質問に答えるべく、皿に残っていたケーキを口の中へ一気にほおり込み、コーヒーで流し込んだ後、
「ふう。」
と、一息付いてから、ゆっくりと話し始めました。
「ずっと休んでいたのは、親戚…義姉の父親が亡くなったので、その葬儀に出席していたんです。」
「彼女の親戚筋はもう彼女しかいなくて、私が側で付き添いというか、葬儀の打ち合わせやら準備とか、その後の進行もやったりと…結局全部…つまり、葬儀を執り行ってきた。 と言う訳なんです。」
一息にそう言った後、コーヒーカップを口元へ持って行ったのだが、その手はカップが口を付ける手前で止まり、しばらく行き場を考えた後、再びカウンターの上へと置かれました。
その時を思い出したのでしょうか?目線はどこか遠くを見つめています。
私がお悔やみの言葉を伝えると
「ありがとうございます。」
「毎日沢山の人が来てとってもバタバタしていたし、私も、彼女と亡くなられたご両親からも良くしていただいていたので、葬儀の最中もずっと一緒に落ち込んじゃってて…ちょっと疲れが取れていない感じなんです。」
そんな風に話す彼女の顔をよく見れば、確かに以前より目の下とか、頬の辺りに疲れを感じます。
「それで今度の土日のお休みに、またその彼女の家へと行くのですけれど、そこにとっても素敵な温泉があって、入りに行こうと思っているんです。」
「そこは山あいの村の中にあるので、湯船から見える景色がとっても綺麗なんですよ~。」
なんて言うのを聞いて
「へ~、いいですね~。 私もそんな所行ってみたいな~。」
なんてことを相槌のつもりで言ったら…
「じゃあ、行きましょう!」
突然、そんな事を言い出したのです!
私が思いも寄らない言葉に
「へっ?えっ?」
なんて驚いていたら
「実は、向こうの家で見てもらいたい物があるんです…。」
そういうことですか…。
来賓者
夜になって2台の車がやってきました。
「火鉢」を受け取りに来たのです。
一台は大きなワンボックスのバンから若いスーツ姿の人が2人下り立ったのと、もう一台の真っ黒なベンツのSクラスからは長身のスーツ姿の男性と、小柄ながらもかっぷくの良い男性が出てきました。
若いスーツ姿の男性がまず挨拶にきたのですが、受け取った名刺から、彼らはこの町で一番大きなビルを建てた商事会社の営業マンということが判りました。
その2人は挨拶を終えるないなや「火鉢」を乗って来たバンにそそさと運び上げ、足早に去って行ってしまいました。
残った2人の男性が、どうやら彼等の上司らしいです。
この2人から差し出された名刺を見ると、「長身」の名前の横には「秘書」と書かれていました。
そして「かっぷく」から渡された名刺には「専務役員」と書かれています。
成るほど、「名は体を表す」ということですね。
私は2人を来客用のソファーへと招き、コーヒーを出しました。
一通りの商品説明を行い(既に現物は無いのですが)、問題があればいつでも修理に伺うと言ったのですが、「行き先はアメリカですが。」と、言われてしまいました…。
「かっぷく」さんへ封筒に入れた商品の請求書を差し出すと、直ぐに中身を取り出し金額を確認したので、私は
「だいぶ、べんきょうさせていただきました。」
と、いったのですが、先方からはこれと言った反応も無く、視線は請求書に向けられたままでした。
仕方がないので、「長身」の方を見たのですが、これまた何の表情の変化も無く、じっと「かっぷく」の様子を見ています。
無言の空間へ「間」を取ろうと、コーヒーを一口飲み、カップをテーブルへ置いた時、「かっぷく」は話し出しました。
「彼女…『ミムラ』くんが時々こちらへ来られているとの事ですが…それほど頻繁なのですか?」
それは、尋ねると言うよりも、むしろ聞き出しているといった風な口調で、言葉を投げつけてきました。
その後も、「何を買ってゆくのか。」 「幾らくらいするものなのか。」 「一人で来るのか。」 等々…。
まるで、「ミムラ」さんの素性でも探るような質問ばかりを聞いてくるのです。
こんな事ばかり言われると、さすがに私も困惑の表情をしていたらしく、それを察した「長身」が
「先ほどの『火鉢』ですが、とても綺麗でしたね。」
と、話題の先を変えてくれました。
その言葉にハッと我に返った私は、つまらないことを考えていたものだと心の中で反省しながら
「ええ、ウチにあった材料の中から厳選して使いましたから、特に良い品になりました。」
そう、一際丁寧な声で答えました。
すると「秘書」さんは
「あの『火鉢』は、アメリカの貿易会社の社長さんへと贈るのですが、その方はとても日本通な方で、これまで幾つか日本の美術品を送ったのですが、なかなかご満足していただけなかったのです。」
と、話しました。
その言葉を聞き、私は秘書さんに尋ねました。
「そんな方に私の品を贈ろうと、何故決まったのですか?」
私は街にあるありふれた、小さなアンティークショップの経営者に過ぎません。
そんな有名なコレクターさんの目にかなえようと言う品が、私の作品でよいのでしょうか?
この質問に「秘書」さんが答えようとした時、「かっぷく」がそれを手で制し、かわりに答えられ始めました。
「ご本人を目の前にして言うのも大変失礼なこととは存じていますが、私も得体の知れない店の品を贈るの事に最初は反対していました。」
「しかし、『ミムラ』くんの強い推薦により、役員会議で検討した結果、決定したことなのです。」
私はその言葉にとても驚きました。
「ミムラ」さんからは、そんなことを一言も聞いていなかったからなのです。
それほど大事な贈り物に私の作品を熱心に勧めてくれるなんて…。
「まあ、でも…それだけ強く勧めるくらいの物では、「多少は」ありましたかな。」
「満足とは言えませんが、これまでの趣向から目線を変えるには約に立つと思いますよ。」
「いや、ありがとうございました。」
「かっぷく」はそう言った後、請求書が入った封筒を取りながらソファーから立ち上がり、出口へと歩き出しました。
「長身」と私は少し慌てた感じで立ち上がり、後に続きます。
「かっぷく」が扉から出ようとする際、私の方へと振り返り
「これは決して不満とか言うことではありませんよ。」
「むしろ、満足しているくらいだと、ご理解いただきたい。」
そう言ってベンツの後部座席へと乗り込みました。
車の窓を僅かに開け
「それでは、失礼します。」
と、声だけ聞こえ、車はゆっくりと走り出し、去ってゆきました。
外はいつの間にか雨が降っています。
天気予報ではこの雨が今夜には雪になると伝えていました。
晩秋を終え、この街にも冬を迎えようとするその日の夜の出来事でした…。