これだから、本との出会いは、たまらない。
面白い本というのは自分の中で2種類あって、先を読みたくて展開を知りたくて、どんどん読み進んでいくものと、その世界にどっぷり浸かっていることが幸せで、ゆっくりと着実に読み進んでいくものとがあります。
比率としてはたぶん、前者が7~8割で、後者が2~3割といった感じかな。
先日ご紹介した ジェイムス・エルロイは確実に後者です。
まあ、あの世界に浸っているのが幸せかどうかは疑問の余地がありますけどね。
ところが、どちらとも言えないというか、どちらでもあるという本に出会いました。
素晴らしい物語です。
本に夢中になるとは、こういうことですね。
グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ作の「シャンタラム」。
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厚めの文庫本3巻からなる長大な物語ですが、これだけストーリーにワクワクしながら、細部のディテールに酔いしれながら、登場する人物の魅力に翻弄されながら、時を惜しんで読み進める本はなかなかありません。
ヘロイン中毒から家庭も崩壊し、銀行強盗を起こして収監されたニュージーランドの刑務所を脱獄した主人公。
国際刑事警察に追われてインドのボンベイに逃げ込み、その街とその人々との深い関わりの中で、否応なく巻き込まれていく時の津波。
さらにはボンベイ・マフィアの一員となり、果てにはアフガン・ゲリラとして凍てつく彼の地での戦い。
それらが軸となり、若干のミステリーの要素と冒険小説の要素が加わった物語。
作者の体験に基づく実話をベースにした物語だそうです。
これほどまでに、めくるめく波乱万丈の人生を過ごす人間がいるのか。
ここまで魅力的な人に出会い、濃密な人とのつながりを持てるものなのか。
この本の魅力をあげよといったらキリがありません。
おそらく最大の魅力は、登場するヤツらが素晴らしく人間的で魅力的なこと、その彼ら彼女らの「愛」が素晴らしく深いこと。
ボンベイという街を中心とした、激動かつ濃密な時の流れ。
そして、主人公を中心に、思索が深く、紡ぎだす言葉が印象的であること。
さらにこの本を一層魅力的にしているのが、作家である主人公が哲学をベースに豊穣な言葉を持ち、作家の筆力を持っていることと、その日本語訳が素晴らしいことでしょう。
読んでいる最中に何度も感動の波に呑み込まれ、読み終わると同時に大きな暖かい感動の大波が襲いかかる。
それが、シャンタラムという本である。
ちなみに、この本はジョニー・デップが主演となり映画化されるそうです。
映画化。
まあ、ムリだろ。
この世界観は、絶対に映画では描ききれないよ。
ボンベイという街と、物語のダイナミズムは描けるとしても。
なにしろ、魅力の半分は、登場人物たちの思索にあるんだから。
前篇、中編、後篇くらいに分けて制作すれば描けるのかもしれない。
でも、それが映画として魅力的なものに仕上がるかは、別問題だし。
ただのインドを巡る愛と冒険の日々、にならないことを祈る。