Kate Bush のニューリリース、 Director's Cut
$ノスタルジックなノイズたち

1989年リリースの The Sensual World と、1993年リリースの Red Shoes に収録された曲たちを解体・再生させたのが今回のアルバムです。

なので、厳密な意味での新譜ではありません。

解体と再生と言っても、そのレベルと内容は、曲によって千差万別です。

ほぼオリジナルトラックの素材を活かしながら、ボーカルだけ差し替えた雰囲気のある曲、ごく一部のフレーズだけ残して全面的に歌も演奏も差し替えた曲、曲名すら変えてまったく別物に生まれ変わった曲。

ケイトの声は変わりましたね。
過去のアルバム比較ではもちろん、Aerial からも変わった。

やはりピークは過ぎたんでしょうかね。
Aerialの時のような豊潤さは少し枯れたような気がします。

それでも、アレンジがまったく変わって静かでゆったりとした曲には、その声がフィットします。
今のケイトに合わせて創ったかのようで、今の彼女の声の魅力に浸ることができます。


この曲など、彼女らしく素晴らしい。


いや~、素晴らしい。
と言い切りたいところなんですが。。

気になるところがいくつかありました。

アップテンポの曲をオリジナルのベーシックトラックを活かしながら再収録した曲。
その曲でのケイトには違和感を感じてしまいます。

メロディラインも、曲調も、そのベーシックトラックも、その時点でのポテンシャルを活かすものだったはず。
いくら当時のデキが不満でも、今の彼女に同じ曲調では、その時のポテンシャルを出し切れるはずがない。
特に高中音部のテンションが落ちた分、にぎやかな曲でオリジナルトラックを使う場合にはボーカルが負けてしまうためか、ミキシングバランスでバックの演奏レベルを落としてますね。
そのこと自体が、音楽としてのエネルギー感に影響を与えてる気がします。
演奏にもメリハリがないし、アルバム全体の音量バランスもなんだかおかしい。

それともうひとつ気になるのが、彼女の音への感覚への変化です。
The Dreaming という歴史に残る傑作アルバムや、Aerialというその時点での彼女を活かしきったアルバムをリリースしてきた彼女の音への感覚は、人並み外れたものがあったはず。

しかし、音への感覚が鈍ってきたのではないかという危惧を感じるところがあります。
アレンジや、音の響きが、古いんじゃないかと。
人工的で、不自然なエコー。
ドタドタした音のドラムス。
90年代の音楽のリメイクに、60~70年代の音を持って来たような印象。

この曲なんか、かなり好きな曲だっただけにちょっとショック。


結論的には、今回の企画はその完成度にやや疑問符がつきます。
中途半端に古いトラックを残したこと、そこと無理やりの融合感を持たせようとしたこと。

やはり彼女のボーカルは、聴けば聴くほど味が出てきます。
だからこそ、もったいないんです。

この時期に健在な彼女に会うことができた意義は非常に大きいけれど、やはりケイトにはそれなりの期待をしてしまいます。
どうせだったら、すべての曲を完全再生する方向でやって欲しかったですね~

すでに、次のアルバムは完全なオリジナルとして、制作に取り掛かっているというケイト。

今度こそ、Aerialから年齢相応に発展したアルバムを見せて欲しい。
無理にアップテンポにした曲やエキセントリックな側面は求めてないので、ゆったりとした曲、しっとりとした曲が中心の、今の彼女ならではのアルバムを創って欲しい。

とはいえ、The Dreaming のような衝撃をどこかで求めている自分がいるのも、確かですが。