これだけ真面目に何度も聴いたヒップホップのアルバムは初めてです。
Kanye West "My Beautiful Dark Twisted Fantasy" 。

ヒップホップって基本はファッションやライフスタイルを含めた文化なんだと思いますが、ここではその中の音楽をヒップホップと呼ばせてください。
ヒップホップは、聴くための音楽か、踊るための音楽か。
自分は好きな音楽を聴くのは、聴きたいから。その世界に浸りたいから。
聴くことが目的です。
自分にとって音楽は聴くものであり、聴いてその世界に浸るものであり、踊るために音楽を聴くことはありません。
聴いていて、結果的にカラダが反応して動いていることはあるにせよ。
ヒップホップ系の音楽が好きな人たちは、聴くために聴いてるのでしょうか。
自分から見ると、ヒップホップは聴くことが目的の音楽ではなさそう。
ヒップホップは、アフリカ系アメリカ人、カリブ系アメリカ人を中心に、ニューヨークのブルックリンから始まった音楽です。
つまり誤解を恐れずに単純化して言ってしまえば、天性のバネやリズム感を有した黒人が、自分たちが踊るために、そのリズムに乗るために創った音楽であり、それに反応できるのは、その天性のグルーブ感に共鳴できるリズム感を持ってる人か、踊るのが好きだったり、彼らが体現する文化的側面が好きな人たちなのではないでしょうか。
あの単調(としか思えない)なラップも、水準以上のリズム感から放たれるものだと思うし、音楽のベースを作る強烈なリズムは、やはり白人よりも黒人が体内リズムとして根源的に持っているもののように思えます。
聴くよりも、カラダのリズム感で反応する音楽。
そういった思いで(偏見で?)、今回のカニエのアルバムを聴き始めました。
それでも、このカニエのアルバムは、ヒップホップのアルバムでありながら、ヒップホップであることに満足せず、むしろヒップホップ色を抑えて創られたアルバムと見えます。
ロック好きリスナーにも、ヒップホップ特有のアクがそれほどなく、敷居が低くて聴きやすい印象。
コアなブラックミュージックファンは、カニエの音楽をさほど好まないというのがなんとなくわかりますね。
重量級の脅迫的なリズムに乗せて踊らせようという曲はむしろ少なめな印象です。
ヒップホップとは思えないサウンドスケープの曲や、メロディを主体とした歌の曲もあり、ここではラップがなければいったいこの音楽は何?と思えるほどのものもある。
サウンドスケープと後半のギターがいい。
この曲なんてロックとしても違和感のない、ヒップホップからはもっとも離れた曲でしょう。
このアルバムの中で一番気に入りました。
とはいえ、10点にふさわしいデキかといえば、自分の中では年間ベスト10に入るほどのものではありませんでした。
このアルバムを聴くための音楽と捉えると、ヒップホップを意識しなくてもいいサウンドスケープのアイデアで秀逸な曲があっても、曲のデキとしてはやはり散漫で、展開が単調な印象が強いです。
聴いていて、その冗長な展開に途中で飽きてきます。
やはり、ヒップホップの本質であるカラダのリズム感で反応することが求められ、単調な繰り返しがカラダの中で一種の陶酔感となってくれる必要がありそう。
メロディの質にこだわる。
音の存在感やサウンドスケープが音楽の魅力を左右する。
音楽においてそのふたつが重要な自分には、やや聴きやすく、ロック好きにも聴けるヒップホップの域をでませんでした。
むしろより謎が深まったのは、Pitchforkでこのアルバムに10点を付けた人や、リスナーでも大絶賛している人は、どこに強く魅かれたのだろうか、ということ。
ヒップホップとしての完成度が極限まで高まっているのか、別の次元に進化したと見たのか。
ヒップホップではない、新たな音楽が生まれつつあると見たのか。
謎です。